特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
笹川了平は自他共に認める程の熱血馬鹿である。
つい最近友人となった銀髪のタコヘッドからは芝生やら単細胞やら言われたりしているが、了平自身決して頭は良くないと自覚していた。だが分かっているからといって、その欠点を直すつもりはなく、了平は常に全力だった。
とはいえ、直すつもりがあっても直すことが出来たかと言われると微妙なところだがそれは今は関係無い為省く事としよう。
兎に角、了平は家出をした自身の後輩でもあり親友でもある少年をずっと探し続けていた。
西に東に北に南。文字通り全力で世界中を駆け巡っていた。
「うぉおおおおおおおお!! ついに見つけたぞ沢田ぁー!!」
だからこそ、彼が一番最初に辿り着いたのは必然だった。
「…………お、お兄さん」
了平の眼前にてメイド服を身に纏い一見女にしか見えない格好をした少年、沢田綱吉は了平の姿を見て酷く困惑した様子だった。
何でここに居るの、恐らくそう言いたいのだろう。
「すまん沢田。雲雀から『話し合いに応じるな。話がしたいのなら身動きを取れなくしてからすれば良い』と言われてるからな。極限に我慢して欲しい」
「ちょ、まっ!!」
「問答無用!!」
何とか静止させようと身振り手振りで了平に訴えようとする綱吉だったが、その努力も虚しく空振りに終わる事になった。
勢い良く綱吉に接近した了平は彼の腹部に自らの拳を叩き込む。
「
「っ、ぐ、ぐはっ!!?」
腹部を貫いた強烈な一撃に綱吉の身体は宙を舞い、住宅街から森までぶっ飛ばされた。
+++
「――――と、いう未来を見たんです」
「…………そうかぁ」
ユニの口から語られた言葉に俺は頭を抱える。
正直なところありえない話ではない。あの恐るべき風紀委員長雲雀恭弥を筆頭に皆が世界中を探し回っているのだ。
僅かな情報から俺が何処に居るのかを見つけ出すことぐらい風紀委員会の総力を以てすれば出来ないわけではない。我が学校の風紀委員会は一体どうなっているんだと心の中でツッコミを入れたくなるが今は無視するとしよう。
正直なところ、雲雀さんに対して文句とか言いたいことが山ほどあるし、お兄さんにも雲雀さんの言う事を聞いちゃいけないとか言いたい。
だがそんな事は今はどうでも良いのだ。
それよりも今は何とかしてその未来を回避しなければならない。
お兄さんと会うのは恐らく外での出来事。ならば大人しく引き篭もり、過ぎ去るのを待っていれば良いだけの話である。
そう、本来ならば――――。
「出来ればそれは外出する前に話して欲しかったよ」
「すみません。忙しかったので忘れてました」
ユニの言葉に溜め息をつきつつ、俺の両手に下げている袋に視線を向ける。
手提げ袋の中には、ついでに背中に背負っている鞄には沢山の食料がパンパンに詰まっていた。
「まぁ、一応家政婦でもあるわけだしやらないわけにはいかないんだけどさ」
「そういえば沢田さ――――ディケイドさんって料理出来るんですか?」
「出来るよ。まぁ俺の母さん程美味くは作れないけど」
最初は焦げた卵くらいしか作れなかったが、母さんに教えて貰うことで人並みには作れるようにはなっている。
だけどやっぱりというべきか、母さんのやつに比べたら劣ってしまう。
と、いうか母さんの手料理が美味すぎる。しかも量も多く作れるなんて、流石は母さんと言うべきか。
「あんまり得意ってわけじゃないから期待はしないでね」
「はい。ディケイドさんなら美味しい料理を作ってくれると信じています」
「だからそんな風に期待を重くしないで――――って、この前作ったの知ってるじゃん」
「まぁそうなんですが…………あれは簡単な料理でしたし、どうせならもっと本格的なものが食べたいです」
「っく、無茶ぶりをするなぁ」
ユニから寄せられる重い期待に思わず顔を下に向ける。
料理は作るより食べる事の方が好きだし、態々好んで作る気も無いからそこまで自信が無い。
いや、そもそも作る時間というものが無かったの方が適切だろう。
料理だけに集中して練習すればきっと母さんみたいに料理が上手になっていた。だけど俺にはそんな時間は無かったし、やらないといけないことがあまりにも多過ぎた。
逃亡生活を始めてからも基本買い食いだったし、こうして買い物をすること自体、本当に久しぶりだった。
「…………はぁ、本当に人生って予定通りに行かないなぁ」
溜め息をついて項垂れる。
「そもそもイタリアには最後に来る予定だったのに、何でこんなに早く来てるんだろう」
「ちなみに予定通りだったらどうなってたんですか?」
「俺が裏社会に関わらなくても良い、平穏な生活を手に入れていた」
「多分無理だったと思いますよ。ディケイドさんってトラブルメーカーなところがありますし」
「酷い」
でもまぁ、予定が狂ったなら修正すれば良いか。
幸いなことにジッリョネロファミリーに身を潜める事が出来たのだから。
むしろこれは幸運と考えた方が良いだろう。大空のアルコバレーノのおしゃぶりと七つのマーレリング、この二つに手が届く状況だ。まだ足りないものが多いけど、この状況を上手く活用すれば最終目標である平穏な生活を手に入れる事だって出来る。
やっぱり人間、諦めなければいつかきっと夢は叶うのだ。
「ふふふ…………」
「どうしたんですかディケイドさん。そんな悪い笑みを浮かべて」
「いや、俺って不運だけどなんだかんだで悪運だけはあるなって思ってさ。これで学校に通うことさえなければな…………」
アリアさんに関しては感謝しかないが、これだけははっきりと文句を言いたい。
理由だって分かるし必要な事だって分かる。
が、納得出来るかは話が別だ。
「私と一緒に学校に通うの、嫌ですか?」
「いや、嫌ってわけじゃないんだけど…………」
俺の服の袖を引っ張るユニに困ったように笑う。
「マフィアの学校に通ったら俺もマフィアになりそうだし」
「大丈夫ですよディケイド。貴方は充分マフィアのボスです」
「全然大丈夫じゃないよ!」
ニコニコと微笑みながらも恐ろしい事を言ってくれるユニにツッコミを入れながら町中を歩いていた。
そんな時だった。会話に夢中になっていて前から人が来ている事に気が付かず、人とぶつかってしまったのは。
「うわっ、っと…………すみません。此方の不注意でした」
幸いなのは買った物をぶちまけなかった事だろうか。
これで転んでいたら目も当てられないことになっていただろう。
ぶつかった相手に謝罪をし、頭を下げる。
「いや、俺の方こそすまなかった。人を探していてよく周りを見ていなかったからな」
「そうですか…………ん?」
相手側の謝罪を聞いた瞬間、その声が自分のよく知る人物のものである事に気が付いた。
頭を上げて相手が誰なのかを確かめる。
白髪に額に傷があるガタイの良い男子――――並盛中学二年にしてボクシング部主将の笹川了平の姿がそこにはあった。
「―――――――――」
突然の再会に俺は言葉を失った。
ユニから事前に予知を聞いていたとはいえ、まさかこんなに早く再会する事になるとは思わなかった。
と、いうかこの状況自体がそもそも不味い。
このままだったら俺の正体がバレてしまってお腹にきつい一撃を受けてしまう。
何とか回避――――距離的に不可能。防御は――――同じく間に合わない。死ぬ気になれば耐えることは出来るが確実に重たい一撃をこの身に受けることになる。
どうしようもない程、今の状況は詰んでいた。
今の自分に出来るのは次の瞬間に訪れるであろう臓腑をネギトロのようにする一撃を受け入れる事ぐらいしかなかった。
「それでは失礼する。ウォオオオオオオオ!! 沢田ァー!! 何処だァー!!」
だがその一撃が自身に襲い掛かることはなく、お兄さんは大声を上げながら去っていった。
「は、はは…………」
全身から力が抜けてその場にへたり込みそうになる。
「しっかりしてください。ディケイドさん」
いつの間にか隣に移動していたユニに身体を支えられる。
「ごめん、ありがとう」
自分でもらしくない失敗をした。
ユニから事前に聞いていたのにも関わらず、まさかこんなに早く出会うなんて思ってもなかったからだ。
だから唐突に出会って何も出来なかった。
今回はそれが上手く働いたから気付かれなかったけど、これが雲雀さんだったならすぐに気付かれていただろう。
「平静に平静に…………俺は沢田綱吉じゃない、私はチヨヒメ・ディケイド。沢田綱吉とは何も関係がない」
「でもディケイドって10って意味ですから実質ボンゴレ10代目ですけどね」
「それは言わないでよ…………」
何とか平静に戻った俺はユニを連れてなるべく早くジッリョネロファミリーのアジトに戻る事にした。