特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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労働生活その13

どれだけ姿形を変えようとも癖というものはそう簡単には変える事が出来ない。

だからこそ、チヨヒメ・ディケイドと称する怪しいメイドみたいな存在の正体が沢田綱吉であると気が付くことが出来た。

とはいえ、気付くことが出来たのは自身が幻覚を使う術師だったからだろう。

そうでなければ幻覚で誤魔化すのではなく物理的に身体の構造を変えた沢田綱吉という名前の化け物の擬態に気が付くことは不可能だった。

 

「まさかジッリョネロに身を隠していたとは思いませんでしたがね」

 

漢字の六という数字が刻まれた赤い右目を持つ鴉は眼下に映る光景を視界に収める。

このまま何もしなければ沢田綱吉とその友人である笹川了平が出会う事は無いだろう。

だが――――、

 

「それでは面白くない」

 

何よりあのボンゴレ10代目の思い通りに事が運ぶのが気に入らない。

そう考えた鴉は笑い声を漏らす。

そうだ。このまま何事も無く無事に終わる等というのはありえない。

こうして出会ったのだから、互いに激突して然るべきだ。

 

「クフフ…………」

 

鴉の瞳の数字が六から一に変わる。

 

「さぁ、見せて貰いますよ。アルコバレーノと戦い打ち勝った沢田綱吉、その力を」

 

   +++

 

お兄さんにバレないようユニと共にジッリョネロファミリーのアジトに戻ろうとしたその瞬間だった。

一台のトラックが歩道を乗り上げ、ユニ目掛けて突っ込んできたのは。

 

「えっ?」

「っ、ユニ! 下がって!!」

 

突然のことに反応が遅れたユニを抱き抱えてトラックから逃れようとする。

が、時既に遅くトラックは目前まで迫っていた。

 

「くっ、幻日虹!」

 

今にもぶつかりそうなトラックを幻日虹を使って回避する。

トラックは俺達を轢かなかったが、壁に激突して見るも無残な事になっていた。

 

「あ、危なかった…………」

 

もし避けるのが一瞬でも遅れていたら自分達は間違いなく轢かれていた。

そうなったら無駄に頑丈な俺は兎も角、脆弱なユニの身体はトラックと壁に挟まれてミンチになっていた事だろう。

 

「さ、沢田さん。すみません、ありがとうございます」

「いや、気にしなくて良いよ。それよりも怪我は無い?」

「はい。沢田さんが守ってくれましたから」

 

ユニが無事だったことに安堵の息を漏らす。

にしても、あのトラック。いきなりこっちに突っ込んで来たようにも見える。俺の考えすぎな気がしないでもないが、超直感が違和感があると告げているから気のせいではない筈だ。

視線をトラックの方に向けて一人考察していると、背後から唐突に肩を叩かれた。

一体誰だろうか、そう思いながら後ろに視線を向ける。

 

「久しぶりだな沢田」

 

そこにはお兄さんこと笹川了平が立っていた。

 

「ようやく見つけたぞ。しかし、まさか女装をしているとは思わなかったぞ」

 

お兄さんは若干戸惑いながらも俺が沢田綱吉である事を見抜いている。

何故、どうして。疑問を抱かずにはいられないがそんな暇は無い。

今は何としてでも誤魔化さなきゃいけない。

 

「あ、あの…………人違いではないでしょうか。私はチヨヒメ・ディケイド。沢田という人ではありませんが」

「幻日虹を使えるのは沢田一人しか居ない」

「いや、山本も使えるんですけど―――――あっ」

 

しまった。ついいつものノリでツッコミを入れてしまった。

その事に一瞬後悔するものの時既に遅し。

 

「やっぱり沢田ではないかー!!」

 

俺が沢田綱吉だと確信したお兄さんは雄叫びを上げる。

不味い。このままだとユニの予知通りに極限太陽(マキシマムキャノン)の餌食になってしまう。

しかもここまで近かったら回避するのも難しい。

 

「すまん沢田。雲雀から『話し合いに応じるな。話がしたいのなら身動きを取れなくしてからすれば良い』と言われてるからな。極限に我慢して欲しい」

 

拳を構えて強烈な一撃を放とうとするお兄さんに対し、何とかダメージを最小限に抑えようと後方に威力を僅かにでも減らそうとする。

これで何処までパンチの威力を流す事が出来るかは分からないが、やらないよりやった方が良い。

そう考えながら自らに拳が自らに迫り、

 

「待ってください」

 

俺に叩き込まれる寸前に、ユニが声を掛けて静止させた。

 

「その人、チヨヒメ・ディケイドは今は私の使用人です。ですので手荒な真似をされても困ります」

「むっ、しかしそいつは沢田」

「事情はある程度察していますので色々と言いたい事があるとは思います。ですがここだと人目につきますので」

 

そう言ってユニは視線を周囲に向ける。

トラックが事故を起こした事で野次馬が集まっていた。

幸いな事に俺がユニを抱えてある程度距離を取ったから俺達に視線を向けているのは一人もいないが、お兄さんの極限太陽が炸裂していたら間違いなく人目を集めていただろう。

 

「別の場所に移して話しませんか?」

 

ユニは俺と同じ事を考えていたようで、人差し指を自らの口に当てながらお兄さんにそう言った。

 

    +++

 

「すみません。粗茶ですが」

 

場所をジッリョネロファミリーの敷地内にある庭園に変え、俺はお兄さんに紅茶を振舞った。

テーブルの上に出された紅茶に口をつける。

 

「ふむ…………成程な。要するに沢田は死にかけていたところを助けられてここに滞在しているというわけか。すまん、名前は――――」

「ユニと言います」

「ユニか。うちの沢田が色々と迷惑をかけてすまんな」

「いえ、私の方も沢田さんには色々と助けられていますから」

「あ、あははは…………」

 

口から乾いた笑い声が零れる。

ユニとお兄さんの会話を聞いていた俺は今すぐこの場から逃げ出したい気持ちに駆られていた。

だがもしここで逃げ出してしまえばその時はお兄さんに問答無用で強烈な一撃をぶち込まれる。

そうなったら間違いなく日本に連れ戻されることになる。

 

「はぁ…………」

 

予想できる未来に溜め息しかなかった。

本当に最悪だ。回避できた筈の未来だったのに、こんなことになってしまったなんて。

 

「一度お祓いにでも行ってみた方が良いんだろうか?」

 

いや、ボンゴレリングの怨念の事を考えたらそれも無理か。

一度だけ見た事があるけど、あれは人間には祓えない代物だ。

まぁ歴代ボンゴレの魂を保存するという縦の時空軸の特性上それも仕方がないことなのかもしれないが。

 

「沢田ー!!」

 

そう考えているとお兄さんが大きな声を上げて俺の名を叫んでいた。

 

「事情はユニから聞いた。しかし、だからといって貴様の家出をこのまま黙って見過ごすわけにはいかーん!!」

「まぁ、ごもっともです。そういえば、母さんは心配してたりするんですか?」

「いや、沢田の母は『家光さんに似てやんちゃねぇ』と言っていたぞ」

 

お兄さんの言葉を少しだけ落ち込む。

もしかして俺、だんだんと父さんに似てきているんだろうか。

そうなのだとしたら、それは少し、いや、かなり嫌だなぁ。

 

「沢田、貴様は何を企んでいる」

 

内心複雑な顔をしているとお兄さんは真面目な顔をして質問してきた。

 

「えっ、いや、何も企んではないんですが」

「恍けるな。貴様は何も考えず、行き当たりばったりで行動するところはある」

「ちょっと!?」

「だが決して無意味な事は絶対にしない男だ」

 

そう言うとお兄さんは懐から一枚のノートを取り出してページを開く。

ノートには乱雑で大雑把ながらもいくつかの絵と説明が記されてた。

中でも特に目を惹くのが7つのおしゃぶり、7つの貝、7つの羽の絵に黒い炎の絵や回転を連想させる渦巻が書かれている。

夜の炎や黄金長方形の回転といった説明付きだ。

 

「こ、これは…………!」

「沢田の部屋にあったノートだ。もう一度聞こう。沢田、お前は一体何を考えている?」

 

驚くユニと詰め寄るお兄さんを見て、溜息を漏らす。

 

「それを知ってるのは、俺がここに居るのを知っているのはお兄さんだけですよね」

「ああ、そうだが」

「今から勝負しましょう。お兄さんが勝てばそれの説明と、不服ではありますが大人しく連れて行かれましょう。でも俺が勝ったらそのノートは此方に返してもらいます。そして、俺の事は黙ってて貰います」

 

有無を言わせない、そう言わんばかりにお兄さんに言い放つ。

お兄さんは少しだけ悩んだ様子を見せたが、首を縦に振る。

 

「…………分かった」

「じゃあ場所を変えましょっか」

「ま、待ってください!」

 

お兄さんと一緒に場所を変えようとすると、ユニが大きな声を出す。

 

「沢田さん、貴方は一体」

 

何を考えているんですか、そう言葉を口に出す前に答える。

 

「勿論、平穏な生活を送る為だよ」

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