特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
次で一旦終わらせて、留学生活編が始まる予定です。
もうしばらくお付き合いください。
「別に死ぬのが怖くないってわけじゃないんだよ」
氷の中に閉じ込めたお兄さんを近くの木に降ろして、両目から涙を流すユニにそう言った。
好き好んで死にたいわけではない。それ以外に方法が無いから死ぬことを選んだだけで、もしあったならばきっとその方法を選んでいた事だろう。
だけど――――。
「でも、うん。俺はそういった感覚が薄いんだろうね。いざその時が来たら多分、普通に受け入れると思う」
人はいつか死ぬ――――形あるものは必ずいつか滅びる運命。
どれだけ強大な力を持つ命であったとしてもその時限りのものでしかない。
そして、自分は転生者だ。自分の前世というやつは殆ど思い出せないが、どんな形であれ既に死を経験している。
だからなのか死に対する忌避感が自分でも分かる程に薄い。
それこそ、俺の目的が全て達成されれば何の後悔も無いくらい――――死ぬ気でいる理由が無くなるくらいに。
「その時が来るまで死ぬつもりはないんだけど」
そう呟いた後、ユニの顔に視線を向ける。
彼女が考えている事、そして彼女が見たものを超直感が教えてくれた。
「そう上手くはいかないってことかな」
自分の死、自分に訪れる最後の結末。それは自分の望み通りにはいかないらしい。
と、いうかどうして未来の俺は復讐者やチェッカーフェイスと戦っているんだろうか。
勝っているから良いものの――――いや、良くない、全然良くない。
ユニの見た未来は結果しかないから勝利に至るまでの過程が全くと言っても良い程分からない。
俺が死ぬまでの間に目的を達成出来たかどうかすらも分からない。
「…………まぁ、何とかするしかないかな」
この未来が訪れるのは確定しているとしても、過程までは決まっていない。
ならばそれまでに俺の目的を全て達成させるしかない。
本当ならもうちょっとゆっくり世界を旅しながら余裕をもって完成させたかったが仕方が無い。
多めに見ても1年以内に死ぬのだからそれよりも早く完成させなくちゃいけない。
運命を乗り越える事が出来るのであるならば話は別だし、一応手がないわけではないのだがそれを実践するのは本番一回っきりしかない。
心の中で一人頭を悩ませているとユニが俺の服の袖を引っ張った。
「沢田さんは、どうしてそこまで頑張れるんですか?」
「どうして、か…………」
――――きみが命を賭けたのと似たような理由だよ。
そう口に出してしまいそうになるのを必死に我慢して口を噤む。
ありえたかもしれないIFの未来で彼女がした行動を今の彼女が知る由も無い。
とはいえ、このままいったら目の前のユニも同じ事をしそうだけれど。
「俺はさ。他の人より恵まれて産まれて来たんだ」
問題はあるけれど平和な日本で生を受け、更には前世の記憶付きだ。
友達にも恵まれて毎日毎日平穏な生活を送る事が出来る。
そのことに関して文句は無い。マフィアのボスになる事に関しては文句はあるが。
とはいえ、少なくとも産まれた時から病魔に蝕まれていたり、妹一人残して家族全員が殺されたりするよりは確実に恵まれてると言えるだろう。
本当にマフィアのボス候補ということと白いのさえ居なければどれだけ良かっただろうか。
「能力だけじゃない。記憶も、知識も…………自分のじゃない記憶があったりだとか、色々困惑する事もあったけど」
「…………ボンゴレリングは縦の時間軸、だからじゃないでしょうか? 沢田さんはボンゴレリングの真の後継者で、選ばれた適応者ですし」
「そうなのかな――――いや、多分そうなんだろうね」
ユニが言うなら間違いはないだろう。
と、いうかやっぱり自分はリングに選ばれていたわけか。
もしかしなくても俺のこの前世の記憶とかもボンゴレリングの仕業ということになるのだろうか?
そう自分に問い掛けると超直感が「YES」と告げた。
本当に笑いたくなる。俺がここまで苦労したのは全てあの悪霊憑きリングの仕業だったということか。
もっと早くそれを知りたかった。尤も、ユニと出会ってある程度確信を得てからだから、昔の俺ではどう頑張ってもこの解答を導き出すことは出来なかっただろうが。
「まぁ、その悪霊憑きリングのせいで色々と特別になったんだよ。だから頑張るしかなかったんだよ」
「…………特別なんて、そんな事は」
「特別で無いとは言わせない。どれだけ言葉を並べようとも、普通というには余計なものが多過ぎる。傑物というには普通過ぎるとは思うけどね」
俺だって人並みの欲はある。
美味しいご飯が食べたい、美しい景色を見たい、マフィアのボスになりたくない、時間なんか進まなければ良い。
崇高な目的なんか欠片も無いし、そんなものの為に命を賭ける事なんか絶対に出来ない。高潔な精神を持っているユニとは違って、未来の為だとか世界の為だとかの為に命を捨てる真似なんて不可能だ。
「だからこそ、俺は居ちゃいけないんだ。俺が居るから皆が酷い目にあう。泣きたくなるような辛い目にあう」
俺一人なら別にどうでも良かった。
だけどそういうわけじゃない。俺という存在は台風の目のようなもので、その周囲を問答無用に巻き込む。
「とはいえ、やるべき事をせずにそのまま放棄するというのは無責任だ」
「だからやるべき事を全てやり終えて死ぬと?」
「その通りだよ」
そうすれば皆が争いに巻き込まれず、悲劇を知らず、平穏な世界で生きていける筈だ。
例えそこに俺が居なかったとしてもそれで良い。皆が平凡で愛おしい日々を過ごす事が出来るなら、そのついでに世界だって救える。命だって賭けられる。
特別な人間が世界を救ったり滅ぼしたりとか、世界の命運をかけるのは神話や御伽噺の世界の話。時は既に流れて人の世はそんなものを必要とせずにくるくると廻る。
だからこそこれは当然の帰結。
世界に危機が訪れようとしているのなら先に対処して、問題が起きたのならそれを対処する。
そして現行のシステムよりも良いものがあるのならそっちを採用する。
より良い
「俺は皆の平和な世界を見ているだけで十分だよ」
色々と長々と余計なことを並べたが、結局この一言に尽きるだろう。
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「俺は皆の平和な世界を見ているだけで十分だよ」
満面の笑みを浮かべてそう言い切った綱吉。
ユニはそんな彼の姿を見て、驚愕に目を見開き口を噤んだ。
今すぐにでも何かを言いたかった。何かを言おうとした。だけど口が開く事は無く、彼の意志に対し何も言う事は出来なかった。
揺ぎ無き決意、絶対の意志とでも言えば良いのだろうか。
――――自分が持つ力は簡単に変えられる未来を視る力と絶対に変えられない未来を視る力の二つがある。
そして何故彼の未来が変えられないのか。
当然だ。彼は自分の末路を受け入れた上で変えるつもりが無く、むしろ最短距離で駆け抜けていく。例え自らの辿り着く先にあるものが約束された悲劇だったとしても、彼は笑ってその道を突っ走る。
夢とすら言えない、強欲とすら言えないちっぽけなものを、心の底から渇望する宝石を自分以外の誰かに与える為に。
「…………沢田、さん」
ようやく絞り出せた言葉は酷く力が無いものだった。
これは止める事が出来ない――――否、止められない。
今の自分に彼を止めさせるだけの言葉を紡ぎだす事が出来ない。
だけど、何かを言わずにはいられなかった。
「もし、全てが終わって、それで死ななかった時はどうするつもりですか?」
「そうならないようにしっかり死ぬつもりなんだけど、まぁ…………死ななかった時も皆の前から消えるかな。色々と申し訳ないし…………」
「なら! ならその時は、私達の所に来ませんか!?」
口から出た言葉はあまりよく考えずに咄嗟に出たものだった。
「居場所が無くなっても沢田さんの――――
叫ぶようにして言い放った言葉に綱吉は呆気に取られる。
が、すぐに笑みを浮かべた。
「ありがとう。その気持ちだけで十分だよ」
思いは届かなかった。
分かっていないわけではないのだろう。理解していないわけではないのだろう。
彼は分かった上で、全てを理解した上で拒否した。
嘘を付かなかったのは正直でいたかったからなのだろうか。
どちらにしろ、今の自分では彼を変える事は出来ない。
「私は、絶対に諦めませんから」
だからこそ、これは宣戦布告。
優しかった少女が初めて抱いた戦う意思だった。
綱吉はそんなユニを見て困ったように頬を掻きながら笑う。
「っと、話してて忘れかけたけどそのノート返してくれないかな」
「はい。分かりました――――けど、これはどうするんですか」
「しっかりと焼却処分するよ。今となっては不要なものだし」
そう言いながら綱吉はユニからノートを受け取ろうとする。
その瞬間だった――――一羽の鴉が突如として現れ、そのノートを奪い取ったのは。
そして、その鴉の右眼は赤く六という文字が刻まれていた。
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――――反吐が出そうだった。
ボンゴレファミリー10代目候補の幼稚で愚かな妄言を聞いているのも。
ジッリョネロファミリーのボスの娘にして大空のアルコバレーノ、ユニの説得も。
聞いていて虫唾が走るしその笑顔を踏みにじりたかった。
だが今の自分では絶対に勝てない。笹川了平を相手に油断してダメージこそ食らっていたものの、結局終始有利だったのは綱吉の方だった。
実際に戦いをこの瞳を通して見たから分かる。
もし、今戦う事になったら一蹴される。
鴉の肉体に憑依し、観戦していた者――――六道骸は飛翔する。
今の自分達に必要な物は実力を上げる為の時間と手段、方法だった。
そして、その為の方法が記されているものがそこにあった。
だからこそ骸はその選択を選んだ。自分達の事を気付かれてでも、それが必要だったのだから。
黒歴史、世界を巡る!