特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
なお、まだ三部は始まらない模様。
ピッピッと等速になる機械音が鳴る部屋に緑色のおしゃぶりを付けた赤ん坊が居た。
彼の名前はヴェルデ。ダ・ヴィンチの再来とも称された天才科学者であり、雷のアルコバレーノの一人でもある。
――――そして自身の協力者でもある。
南国果実頭のオッドアイの少年、六道骸は笑みを浮かべながらも不快気に、何枚かのページの切れ端を差し出す。
「ヴェルデ博士。これが、沢田綱吉のノートですよ」
「ほぅ。感謝するよ骸君」
骸から手渡された紙を受け取り、白衣を身に纏った緑のおしゃぶりを付けた赤ん坊、ヴェルデが感謝の意を示す。
尤も、感謝とは言っても口だけで心は込められてはいなかったが。
それでもこの手の人間が曲がりなりにも謝意を示した事には変わりない。
「素直に受け取っておきますよ。それで、お気に召す情報はありましたか?」
「ああ。正直な話、まさか素人がここまで調べ上げているとは思っていなかったよ」
一通りノートに目を通したヴェルデはそう呟く。
その表情は少しながら興奮しているようにも見える。いや、実際に興奮していた。
「死ぬ気の炎の属性と特徴、そしてリングの炎の灯し方。いやはや…………流石はボンゴレ10代目と言うべきか」
「それで、約束の物は作ってくれるんでしょうか?」
「嗚呼、当然作るとも。此方の出した要求を飲み、それに加えて沢田綱吉のノートを持って来たんだ。私は取引を守る人間だとも。ただ、完成には時間がかかる」
「構いませんよ。急かして中途半端なものを渡されるよりは、どれだけ時間がかかっても完成品を渡される方が遥かにマシですからね。クフフ…………」
ヴェルデの言葉に骸は笑みを浮かべる。
互いに互いを牽制し合い、腹の奥底を探ろうとする。
本当に不愉快な
出来る事ならば脳みそだけあれば良いものを。
「しかし、中々面白い仮説だな」
内心ヴェルデに対してそう思っていると、沢田綱吉のノートを見て呟く。
「何か面白い物でもあったんですか?」
「ああ。素人が考えた幼稚なものも多いが、案外的を得ているものもあると思ってな。いやはや、意外とバカには出来ないものだな。ただやはり妄想もあるがな。大空の特性を利用し、空想と現実の境界を無くし、精神世界と現実世界を入れ替える、なんて事が書かれていたりな」
感心している素振りを見せるヴェルデの姿に骸は首を傾げる。
「ほぅ、あのヴェルデ博士がそこまで言うとは…………少し見せてもらっても?」
「ああ。構わないさ。私はこれから研究の続きに入らせてもらおう。なぁに、三ヶ月以内にはきみの望む物は完成するさ」
そう言って去っていくヴェルデの後ろ姿を尻目に、骸はヴェルデが目を通し終わったノートを手に取る。
ノートに書かれている内容は死ぬ気の炎についての特徴や、彼個人の考察等だ。
「リングが死ぬ気の炎を灯すには流れる波動と属性が一致すること、そして覚悟や怒りといった強く偽りの無い感情が必要、というわけですか」
自分が今一番知りたかった情報に目を通し、骸は自らの右手中指に視線を向ける。
そこにはめているのは藍色の宝石が着いた禍々しい形状の霧属性のリング。
マフィア界に存在するとされている6つの呪われたリングの内の一つ、
「――――はぁ!」
骸は覚悟を、決して燃え尽きる事の無い憎悪を燃え上がらせる。
その瞬間、着けていたヘルリングから濃く、禍々しい藍色の死ぬ気の炎が溢れた。
「成程、これは中々良いですね」
現在、マフィア界でリングに炎を灯せる者は決して多くない。
だがそれは死ぬ気の炎を灯す事が出来る者が少ないという意味ではない。単純に言葉通りの意味で死ぬ気の炎を灯す方法を知らないだけなのだ。
だが沢田綱吉はそれを突き止める事に成功し、友人達にその方法を伝授した。
「…………本当、化け物ですねぇ」
骸は忌々しそうに吐き捨てる。
――――沢田綱吉、あれは人間の姿をした化け物だ。
あのアルコバレーノ四人を相手に勝利した時点でまともな人間とは思っていなかったが、笹川了平との戦いを見ればそれはよく理解できる。死ぬ気の炎を使った戦い方は勿論、超人としか思えない身体能力。そしてそれと対峙する笹川了平の実力。
今の自分では逆立ちしたって勝つことが出来ない、そう思うしかない戦闘力だった。
「ですが、沢田綱吉はまだ力を隠している」
決して全力ではなかったわけではないのだろう。
だが、力の全てを出し切ったというわけでもないのだろう。
アルコバレーノとの戦いは話でしか聞いていないし、直接この瞳を通して見たわけではない。
そして笹川了平との戦いでは相手を傷付けないよう手加減して戦っていた。もし、手加減しなければ、殺す気でやっていればすぐに勝敗はついただろう。
「クフフ…………本当に憑依するのに苦労する相手だ」
だが付け入る隙が無いわけではない。
マフィアのボスにしてはかなり甘く、決して殺しはしていない。
今は憑依するのは不可能なのは事実だ。だが、それならば力を付ければ良いだけのこと。
死ぬ気の炎の使い方を理解し、戦い方を理解し、自らの糧にする。
それでも足りないというのなら武器を使えば良い。
「骸様」
ヘルリングに炎を灯し、一人思案している骸の下にニット帽を被った少年が姿を表す。
「どうしましたか千種」
「…………あのアルコバレーノ。信頼に値するとは思いません」
ニット帽を被った少年、千種の言を聞いて骸は「ほぅ」と喉を鳴らす。
自分達、正確には六道骸と柿本千種、そしてここには居ない城島犬元々はエストラーネオファミリーの実験体だった。
その経験があるからか、マフィアに対しては今も反吐が出る程に嫌いだし、科学者という人種は更に嫌悪感がある。
「ええ、僕もヴェルデ博士に信頼はしていません」
「ならば何故、あんな奴の言う事を」
「信頼は出来なくても信用することは出来る、ということですよ」
ヴェルデは確かにろくでなしのマッドサイエンティストだ。
しかし、取引に背くような人間では無い。
「あの手の人間には興味を引くようなものを提示していれば良い。だから貴方が気にする必要はありませんよ」
「…………分かりました。骸さまが言うのなら」
「クフフ。利用出来るのであるならば利用するまでのこと」
そう言って骸は千種から離れる。
「三ヶ月後に沢田綱吉の身体を奪いに行きます」
それまでは、あのアルコバレーノの下で力を付けた方が良いだろう。
例え、相手の事がどれだけ不快であったとしても。
+++
炎で出来た花弁を、氷で出来た花弁を有する花々が咲き乱れる草原。
その上に立つ氷の城の中にある玉座にて、オレの意識は覚醒した。
「…………夢の中、か」
玉座に背中を預けて溜め息を漏らす。
この世界は夢の中だ。炎や氷で出来た花弁等現実には存在しないし、そもそもオレはジッリョネロファミリーの本部にある一室で眠りについた筈だ。
だからこれは夢だ。尤も、ただの夢というわけではないが。
「あーもう、久々に見たな…………」
出来ることなら二度と見たくない類の夢だ。
悪夢というわけではないが、吉夢というわけでもない。
ただ正夢にはなるかもしれないというだけだが。
「出来る事なら二度と見たくなかったなぁ」
この夢の世界はオレの技の一つ、より正確には技を手に入れた際に知覚してしまったモノだ。
はっきり言おう。この力はオレが持っている中で最強の力だ。
これを使えばバミューダはおろか、あのチェッカーフェイスでさえ倒す事が出来るだろう。
だがこれを使えば最後、取り返しがつかない事態を引き起こす事になる。
興味本位で完成させるべき技じゃなかった。少なくともその場のノリで作って良い技じゃなかった。
もし昔に戻る事が出来るならば、オレはきっと当時の自分を殴り倒している事だろう。
「でも、あと少しでこんな悩みからもおさらばだ」
玉座から立ち上がり、両手を広げる。
「紆余曲折はあったけど後もう少しでオレの家出旅行の目的も完了する」
思い返してみればここに至るまで色々あった。
リボーンから逃げる為に凪を連れてアメリカに行き、そこで獄寺君と出会った。
マフィアランドで心を癒して、そこでリボーン達と戦った。
皆に捕まって、一人で脱獄した。
漂流して大怪我をして、ユニに出会った。
――――本当に運命ってのは面白く、不愉快だ。
当初の目的ではもっとゆっくり旅をして、凪に言い訳をして一人で旅をして、そして最後にイタリアに赴く筈だったのに。
だけど、この逃走劇もそろそろ終幕の時だ。
物語はいつか必ず終わりを迎える。それは当然の事で、無くてはならないものなのだから。
「大丈夫…………ちゃんと死ねる。まだ死ねないけど」
自分が居るから不幸になる。自分が居るから悲劇が産まれる。自分が居るから惨劇が発生する。
例えそれが自分の手の届かない範囲で起こったものだとしても、結局は自分が遠因となって発生しているのだ。
オレは、それが耐えられない。
だから少しでも世界を良くして、皆が幸せな生活を送れるように頑張らなくちゃいけないんだ。
「早く死ぬのはダメだし、死ぬのが遅過ぎたら今度は死ぬことすら出来なくなる。本当に大変だなぁ…………」
そう言った後、オレはこの城を後にし、夢から目覚める事にした。
固有結界、領域展開、創造。
流出――――あるいは覇道太極。
全く関係ないですけど羅列しました。
ええ、全く関係ないですとも。