特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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第三章プロローグです。
次回から色々キャラが増えていきます。


第三部
学園生活その1


ボンゴレの奥義――――零地点突破。

死ぬ気の極致である到達点とは真逆の位置に存在する極致。

この極致に至る事で会得できる技は個人によって違い、オレの場合は中和とそれを発展させた炎の吸収だった。だがボンゴレファミリーが真の意味で奥義と定めているのは、死ぬ気の炎と同じ生体エネルギーでありながら真逆の性質を有する氷、初代が編み出した初代(ファースト)エディションの方だ。

零地点突破で生み出される氷は死ぬ気の炎以外では溶かす事が出来ず、決して消える事は無い。

そう、消える事なくこの世に残り続けるのだ。

対である死ぬ気の炎は垂れ流しにしていれば消え去るというのにも関わらずにだ。

形を持たない炎に対し、氷は固体だから当然なのかもしれない。

だが死ぬ気の炎は生体エネルギー。対である零地点突破の氷もマイナスエネルギーであるとはいえ生体エネルギーだ。

 

――――同じ生体エネルギーならば、死ぬ気の炎も零地点突破の氷のように固体化させる事も出来るのではないだろうか?

 

「そう考えて作り出したのが死ぬ気の炎の結晶だよ」

 

この技にあえて名を付けるとしたら死ぬ気の臨界点といったところだろう。

零地点突破の氷と同様に残り続ける炎を作るのはかなり苦労した。

 

「何をやってるんですか? もう一度言います、本当に何をやっているんですか?」

 

つい先ほど、苦労の末に作り上げた死ぬ気の炎の結晶を見せびらかしていると、ユニは酷く冷めた目でオレを見ていた。

不味い、かなり怒っている。

ユニが怒る理由も分からないわけではない。

だけれど、今回は無茶してないから正直に言えば許してくれる筈――――いや、ダメだ。

この結晶を作る際に一回失敗して右腕と右足が吹っ飛んだけど修復したから大丈夫、等と戯言をほざいたら間違いなく説教される。

 

「いや、ちょっと暇だったからさ。作れるかなって思って作ってみただけなんだよ。ほら、怪我とかもしてないよ」

 

身に纏っているメイド服を見せながらそう挽回する。

こうなったら誤魔化してこの場をやり過ごそう。

今回の練習で台無しになった服は既に焼却処分している。証拠が無ければユニもオレが無茶をしていないと信じる筈だ。

そう考えながらメイド服をヒラヒラと棚引かせていると、ユニはジトっとした目をして呟く。

 

「手、怪我してるみたいですが」

「えっ、嘘。ちゃんと傷は治した筈――――はっ!?」

 

ユニの言葉に自らの手を確かめようとして、自分が鎌をかけられた事に気が付く。

だが既に時遅く、ユニは怒りのオーラを背に纏い椅子から立ち上がった。

 

「やっぱり怪我してたんですね」

「だ、大丈夫だよ。怪我をしたって言ってもちょっと焼けたぐらいだから」

「大丈夫の範囲を決めるのは沢田さんではありません。私です、私が決めるんです」

 

ニコニコと笑みを浮かべながらも明らかに怒っているユニに対し、オレは顔を引くつかせて思わず後退る。

一歩、ユニはオレに近付こうと歩みを進める。

そんな彼女に対し、距離を取ろうと一歩後退る。

一歩近付く、距離を取る、近付く、距離を取る――――。

 

「沢田さん。其処から動かないで下さい」

「あはははは…………ごめんユニ!!」

 

静止の呼び掛けを無視し、オレはユニに背を向けて逃げ出した。

欠損した部位は補って修復しているが、まだ完全に馴染んでいない。

とはいえ、非戦闘員の少女から逃げる事等容易く、ユニとの距離を突き離していく。

その事実に安堵しながら、遥か後方に居るユニの方に視線を向ける。

 

「ごめんねユニ! でもちゃんと動けるし大丈夫だからッ!!?」

 

後で誤魔化してこの件を有耶無耶にしようと考えたその瞬間だった。

地面が突如として消えたような感覚に襲われたのは。

 

「へ――――ぅうわぁあああ!!?」

 

踏み締める筈だった大地が消え、オレの身体は穴の中に落下する。

 

「いつつ、まさか…………落とし穴?」

「こんな事もあろうかと用意してて良かったです」

 

穴の中でぶつけた箇所を摩っていると、穴を覗き込むようにしてユニがそう呟く。

もしかして、僕が逃げ出すという事を最初から知ってたのか?

いや、この様子から察するに僕が逃げ出すところを事前に予知してたのだろう。つまりオレは最初からユニの手のひらの上で踊らされていた、無様な演者だったというわけだ。

 

「さて、沢田さん。覚悟、出来てますよね?」

「あははは…………どうかお手柔らかに」

「してもしなくても沢田さん懲りないじゃないですか」

 

まぁ、確かにその通りなんだけれども、でもどうせ怒られるのなら優しい方が良いじゃないか。

 

「別に修行をするなとは言わないです。怪我するのも仕方が無い事ですし」

「ならそんなに怒らなくても…………」

「物事には限度というものがあります。沢田さんの場合、明らかに度を越し過ぎてるんですよ。片腕が無い状態で戻って来た時は心臓が止まったかと思いましたよ」

「その時の事は猛省しています」

 

つい一週間くらい前、炎の結晶を作り始めた時に盛大に失敗して両手両足を吹っ飛ばしてしまった。

右手と両足は何とか復元できたもののそこで炎が尽きてしまい、左腕を修復せずにアジトに戻った。その結果、片腕を失ったオレを見てジッリョネロファミリーの面々は顔色を真っ青にした。

ついさっきまで五体満足だったのが五体不満足になっていればそういった反応になるだろう。

 

「そもそもどうして腕を失う程の無茶な特訓をしているんですか? 沢田さんがそこまでする理由は無い筈ですけど」

「まぁ、ちょっと色々あってね。それよりもこの落とし穴から出て良い?」

「構いませんが、絶対に逃げないで下さいね」

「分かった。今度は逃げないからこんな罠はもう止めて」

 

そう言いながら這い上がり、落とし穴から脱出する。

どうして無茶な特訓をしているのか、その理由はとてもではないがユニには言えない。言ったらあまり良い顔はしないだろうから。言わなくても良い顔はしてないが。

とはいえ、炎の結晶を作り出す事は出来る様になった。

まだ小さいものしか作れないが、これを上手く使えばアルコバレーノのおしゃぶりに人柱は必要無くなる。

残された時間が少ないと分かった以上、自分で出来る限りの事をやらなければ。

ユニと違ってオレは未来なんて分からない。だから、オレが生きている内にやらなくちゃいけない。

例え自分の末路が確定していたとしても、其処に至るまでの過程は誰にも分からないのだから。なら、その過程で出来る限りの事をやろう。

内心そう考えていると、ユニは何かを思い出したかのような表情を浮かべた。

 

「追いかけてて忘れてましたけど、沢田さんは準備は出来てるんですか?」

「へっ? 準備って…………何の?」

「以前言ってたじゃないですか。マフィアの学校に通うって」

「…………ああ、そう言えばそんな事を言ってたな」

 

元々ジッリョネロファミリーから離れるつもりだったから、話半分にしか聞いてなかった。

しかし、マフィアの学校か。あまり良い印象は感じないな。

ただ並中より魔境ってことはないだろうと信じたい。雲雀さんのような暴虐無人が居るわけでも無いし、まずありえないが。

 

「ごめん、準備してなかったよ」

「そんな事だろうと思って私が準備しておきました」

「ありがとう…………」

 

ユニに感謝しつつ、これからの事を考えて少しだけ憂鬱になった。

並中よりはマシかもしれないとは思うけど、だからといって普通というわけじゃない。それどころか最初からマフィアになる為に育てられてきた者達が居るんだ。

マフィア関係者だからといって悪人であるというわけではないのは理解している。

だが悪人が居ないわけでも無い。むしろそっちの方が多いかもしれない。正確には悪人ではなくチンピラ、笠に着ているような奴の方が正しいかもしれないが。

そんな連中がひしめく所で上手くやってけるかどうか。

 

「はぁ…………不安だなぁ」

 

肩を落とし、溜め息混じりにそう呟いた。


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