特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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学園生活その2

イタリアにあるとある建物――――そこはマフィアの関係者が通う学校である。

マフィアのボスとなり次の世代を担う者、立場上表社会の学校に通えない者、腕を磨いて成り上がろうとする者等がこの学園に通っていた。

そして、イタリアンマフィア・シモンファミリーの次期ボス、古里炎真もまたこの学校に通う事となった。

 

「…………はぁ、憂鬱だ」

 

良く言えば歴史を感じさせる、悪く言えば古臭い校門を潜り抜けながら、炎真は溜め息をつく。

普段は家族として、ファミリーのボスとして慕ってくれている皆は居ない。

その事実に不安を感じながらも目的地である教室を目指す。

 

「本当ならこんな所に通いたくは無かったんだけど」

 

炎真は元々シモンファミリーが経営している至門中学校に在籍しており、本来ならばそのまま卒業するまで過ごすつもりだった。

だがそれは叶わぬ望みとなった。ボンゴレファミリー10代目候補、沢田綱吉のせいで。正確には沢田綱吉本人にそこまで非がある訳では無い。が、その切欠となったのは紛れもなく彼である。

生まれ故郷を飛び出し、世界を股に掛けての逃亡劇。

そして行く先々で引き起こす大騒動。

これが炎真がこのマフィア関係者の学校、アカデミアに通うこととなった理由だった。

炎真自身は自らの責務から逃げ出すつもりは皆無だが、大人になったら裏社会から抜け出したい、マフィアのボスになりたくないと思う者は決して少なくない。

だが実際に行動を起こす者が居るかと聞かれればそうではない。

どんなに反発したところで所詮は子どもなのだから。

 

――――しかし、沢田綱吉は違った。

 

あれは入念に策を練り、準備を重ね、家出を決行した。

しかも世界最強の赤ん坊・アルコバレーノを撃退出来る程の強さを身に付けて。

そして、彼は未だに見つかっていない。

ボンゴレの同盟ファミリーしか知り得ていない情報だが、この情報を知り裏社会の者は考えを改めたのだ。

子どもだからと油断してはいけない、油断したら痛い目を見る、と。

結果、ボンゴレ傘下のファミリーや関係者は子ども達をアカデミアに通わせる事になったのである。

ちなみに沢田綱吉が捕まればここに通う事となっているらしい。

 

「そこまで強いなら素直にボンゴレファミリーを継げば良いんじゃないの?」

 

自分がアカデミアに通う羽目になった元凶に対し、炎真は素直な疑問を口にする。

公開されているマフィアランドでの映像を見る限り、彼は裏社会でも十分にやっていける。と、いうかあそこまで強ければ表社会では生き辛い筈だ。

裏社会に異能を使える人間や人間離れした超人が多いのは単純に基準が違い過ぎるからだ。人と熊が同じ場所で生きられないように、どれだけ取り繕ってもいずれ必ず破綻する。

 

「何か他にやりたい事があるんじゃないのか?」

 

一人考え込んでいると、右肩から甲高いソプラノボイスが響いた。

炎真は声がした方向に顔を向ける。そこには自身の右肩に座るヘルメットを被った紫色のおしゃぶりをつけた赤ん坊が居た。

 

「どう言う事――――スカル?」

「オレも詳しくは分からんが、ボンゴレは何かしらの目的があって行動していると思うぞ。何を考えてるかは全く分からないけどな!」

 

スカルの言葉に炎真は耳を傾ける。

 

「普通はリボーン先輩達相手に戦いは挑まないんだよ。なのにボンゴレは文字通り命懸けで挑んだ。死んでもボスの座を継ぎたく無いってなら分からんでもないが、それでもリボーン先輩達相手に戦いを挑むよりは自殺した方が確実だからな」

「…………そこまでして捕まりたく無い理由が他にあるってこと?」

「さっきも言ったがオレは本当に分からんぞ。けど、なぁ…………多分ろくでもない事だと思うぞ。悪巧みしている時のり、リボーン先輩の目にそっくりだったからな」

「は、はは…………」

 

全身をガタガタと震わせているスカルの姿に炎真は苦笑を零す。

この愉快な友人と出会ったのは今から三週間程前。炎真が家族と共に暮らす聖地に漂流してきたのが始まりだった。

当初はカルカッサファミリーに戻ろうとしていたようだが、何故か本部が壊滅。結果、スカルはシモンファミリーに所属することとなったのである。

ちなみに壊滅させたのは巨大な軍艦に乗った子ども達だったという。

 

「それより教室に着いたぞ炎真」

「えっ、あっ、うん」

 

スカルに急かされて、炎真は扉を開ける。

その瞬間、教室の中から炎真の顔面目掛けて椅子が飛んで来た。

 

「ぶべっ!?」

「びぎぁ!!?」

 

飛来する椅子を回避する事が出来ず、炎真とスカルの顔面に直撃した。

その場で尻餅をつき、二人は痛みに悶え苦しむ。

一体何が起きて、椅子が飛んで来たのか。酷く痛む顔面を抑えながら二人は視線を教室の中に向ける。

そこは最早戦場としか言いようが無かった。

 

「うわぁ…………」

「ま、まるで動物園みたいだな」

 

教室の中の光景を見たスカルの言葉に炎真は同調する。

互いに胸ぐらを掴み睨み合っている者、我関せずを貫いている者、他者の返り血で血塗れになっている者、マイペースな者。

全員が全員我が強く、見ているだけで将来に不安を抱かせるような連中だった。

そして、教室に居る全員の視線が炎真の方に向けられた。

 

「…………」

 

だが炎真のオドオドとした態度を見て興味を失ったのか、殆どの者が視線を逸らす。

そして、未だに視線を向けている者の視線が下卑たものに変わる。

 

――――ああ、またか。

 

席を立ちニヤニヤと下品な笑みを浮かべながら此方に近付いて来るのを見て、炎真は既視感を覚える。

シモンファミリーは対外的に見れば古参の弱小マフィアに過ぎない。

ボンゴレ創成期には兄弟のような関係ではあったものの、あくまで最初期だけの話なのだから。

そして弱小勢力であるシモンファミリーを見下し、迫害する者は決して少なくない。

 

「…………帰って真美に会いたい」

 

これから起こるであろう事に辟易しながら、炎真は自分達の故郷である聖地に居る妹の顔を脳裏に思い浮べる。

別に撃退できないわけでは無いが、ここで暴れて目を付けられるのはあまり好ましくない。

何せ、自分達の最終目標は――――。

 

「すみません。中に入りたいので避けていただけませんか?」

 

自身に近付いてくる見るからにチンピラっぽい外見をした少年達を死んだ魚のような目で眺めていると、後ろから声を掛けられる。

声が聞こえた方向に視線を向けると、そこには腰まで伸びた琥珀色の髪のメイド服を着た少女が立っていた。

 

「あ、すみません」

「いえいえ。こちらこそすみませんね」

 

炎真が身体を逸らすとメイド服の少女は軽く会釈をし、教室の中に入っていく。

教室の中に居る全員の視線がメイド服の少女に集中する。

 

「ふむふむ、成程…………」

 

自身に視線が集中されている事にメイド服の少女は少しだけ考え込む素振りを見せる。

そして少女が笑みを浮かべた瞬間だった――――炎真を含めた、スカルを除いた教室内の全ての生徒がその場に崩れ落ちたのは。

 

「――――かはっ」

「え、炎真っ!!?」

 

突然崩れ落ちた炎真を心配する声をスカルは上げる。

だが、今の炎真にはそれに応える余裕はおろか、スカルが何と言ったのかすらも聞こえていなかった。

身体が震える。それが恐怖によるものなのか、それよりももっと遥かに悍ましいものによるものかは分からない。

だがだけ分かることがある。それはこの少女が教室内に居る全員を威圧して黙らせたということだ。

恐らく、この少女はその気になればここに居る全員を簡単に殺す事が出来るのだろう。

 

「教室の中では静かにしましょうね」

 

少女がそう言うと全身を襲っていた圧力が消失する。

そんなもの、最初から存在しなかったと言わんばかりに。

 

    +++

 

治安は並盛の方が上だ。

それが教室の中に入って思った感想だった。

当然と言えば当然の話だ。並盛にはあの風紀委員長の雲雀恭弥が居るのだから。不良ばっかりとはいえ、無秩序というわけではなくしっかりとした秩序が存在する。

対するマフィア関係者専用の学校――――アカデミアにはそう言った秩序は存在しない。居るにしてもあまり期待は出来ないだろう。

それに並中はあくまで表社会の一般人、アカデミアは将来の裏社会を牽引する者達が通う場所だ。荒れないわけがない。

オレ一人ならば別に構いやしない。だけど、ここにはユニも通うのだ。

正直な話、このままユニがここで過ごすとなるとかなり教育に悪い。

だから大人しくしてもらう事にした。

 

「教室の中では静かにしましょうね」

 

全員に威圧をかけながら強制的に黙らせる。

何人かは少し抵抗しているみたいだが、問題は無いだろう。

何せ教育に悪そうな奴は黙り込んだのだから。

 

「あの、つ…………チヨヒメ」

「どうかなさいましたか? ユニお嬢様」

「何で教室の中の皆さんが倒れているんですか? 何かしたんですか?」

「はしゃぎ過ぎてたので注意をしたらこうなったのです。どうやら自分の至らなさを反省しているかもしれません」

 

訝しげに此方を見てくるユニから視線を晒しつつ、改めて教室の中の人を見渡す。

オレが放った威圧に抵抗出来たのが、恐らく三人くらい。そして何故かここに居るアルコバレーノ・スカル。

この四人は十分に注意した方が良い。

 

「前途多難とはこの事を言うんでしょうね」

 

これからの学生生活を想像して、少しだけ憂鬱な気分になった。

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