特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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お待たせしました。
最近自動車学校に行ってたものでして、それで結構期間が空いたから話が纏まらず遅くなりました。
本当はあるところまで書きたかったんですが、それは次回にします。


学園生活その4

「――――あー、ここの数式はこうなってだな」

 

 教科書を片手にシャマルは数式を黒板に書いていく。

 マフィアの学校とはいえ、こういったところは普通の学校と同じだった。

 いや、それも当然と言えば当然の話だろう。

 表社会、裏社会という所属する立場こそ違うもののあくまで子ども。大人である教師がどのように考えているかは分からないが、子どもなら勉学に励むのが当然だ。

 

「でよー、相変わらずウザくてさぁ……………」

「ああ、それはこっちも同じだぜ」

 

 そして勉強に不真面目な子どもがいるのはこっちでも同じだった。

 最初に思いっきり威嚇してあんなに萎縮していたというのに、裏社会の住人だからなのか慣れるのが早い。

 いや、違うか。単純な話、オレが脅かしたから萎縮していただけで、教師とオレは全くの無関係だ。だから授業も不真面目に受けている。

 教師であるシャマルからしたら困った話かもしれないが、別にオレだってそこまで真面目な生徒というわけでもない。ユニが彼等の態度に何かしらの文句があるのなら兎も角、オレ個人はそこまで気にしない。

 勉強が大事なのは事実だが、本人の意思でやらなきゃ意味が無いのだから。

 そう考えていると授業終了の鐘が鳴る。

 

「と――――これで終わりだ。次の授業は校庭でやるから準備しとけよー」

 

 気怠そうに教室から出て行くシャマルの後ろ姿を眺めつつ、授業が終わったことに背を伸ばす。

 

「ふぅ」

 

 一息つき、久しぶりに味わったこの開放感に身を預ける。

 まさかイタリアの地で学業に励む事になるとは思ってもみなかった。

 外国語の勉強は計画に必要だったから滅茶苦茶頑張って覚えていたのだけれど、まさかこんな方法で使う事になるとは思わなかった。

 本当、世の中何が起こるか分からないものだ。

 そう考えれば、あの武装色擬きも見切るにはまだ早かったかもしれない。もう少し使い方を考えれば別の使い道があるかもしれない。

 

「チヨヒメさん」

 

 座席に座り、一人考え込んでいるとユニが目の前に現れる。

 

「どうかなさいましたかお嬢様」

「そういうのやめて下さい。あなたと私の仲じゃないですか」

「親しき者にも礼儀あり。対外的には貴女の従者なのですからこれくらいは受け入れて下さい」

「…………率直に言ってあまり似合いません。その口調でもいつもの態度ぐらいは取れるじゃないですか」

「そういうわけにもいきません。私はあくまでお嬢様のメイド。ユニ様より目立つわけにはいきませぬ」

「もう既に手遅れですよ。入室早々に教室に居る全員に恐怖を植え付けているじゃないですか」

 

 裏社会という曲者しか居ない奴等に上下関係を覚えさせるにはそれが一番手っ取り早かった。

 とはいえ、予想とは裏腹にオレに対して興味を覚えた連中も居るようだが。

 此方に向かって歩いて来る複数の男女の姿を見て、内心溜め息をつく。

 

「それで、貴方達は私に何か用事があるのでしょうか?」

 

 オレ達の方に近付いて来た人達の方に視線を向け、問いを投げる。

 確か、名前はアルビートだっただろうか。その後ろにはリゾーナ、他には古里炎真とアルコバレーノのスカルが居る。

 本当、何でスカルが居るんだよ。

 

「別に用事あるというわけではない。自己紹介だ」

「自己紹介なら先程した筈ですが」

「簡単にはな。オレ達が知りたいのはそう言ったことでは無い」

 

 アルビートは少し間を置いて、他人には聞こえない程度の声量で言う。

 

「何でこんなところに居るんだ。ボンゴレ10代目、沢田綱吉」

 

 その言葉を聞いた瞬間、空気が張り詰めたものに変わる。

 ユニは一瞬驚いた表情を浮かべ、炎真は間の抜けた表情をする。スカルに至っては「な、何だとー!?」と大声を上げて驚く。

 それに対し、今の言葉を言ったアルビートとその後ろには居るリゾーナは一切表情が変わっていなかった。

 

――――何でオレが沢田綱吉だと分かったんだ?

 

 内心焦りに焦って思わずボロを出しそうになるのを何とか堪える。

 スカルのせいで全員の視線がこっちに向いている中、絶対にボロをだすわけにはいかない。

 慌てふためく心を何とか抑え、ニッコリと微笑む。

 

「何のことでしょうか? 私は沢田綱吉という名前ではありませんし、そもそも彼は男の筈ですが」

「オレ達が属するエヴォカトーレファミリーは降霊術を扱う。貴方の魂が見た目と一致していないことは見れば分かる」

 

 アルビートのその言葉を聞いて、絶望に打ちひしがれたくなる。

 まさかマーモンと同じ異能で相手が分かるタイプの人間がここに居るとは思わなかった。

 しかも向こうは確信を持って話している。これではどれだけ自分が違うと言っても無理だろう。

 が、それはあくまでアルビートとリゾーナの二人だけの話。

 ここで話を逸らせば、何とか挽回する機会を得られる筈。

 

「どうして女になっているかは分からないが、噂通りの怪物であるのなら不思議でも何でも無い」

「出会ったばかりなのに失礼な――――あっ」

 

 あまりにも失礼なアルビートの発言に思わず抗議して、自らの失言に気が付く。

 が、既に時遅く、教室の中に居た全員が此方を驚いたような目で見ていた。

 

「えっ、沢田綱吉って…………えっ?」

「沢田綱吉って、あの沢田綱吉か?」

「で、でもあいつ女だよな…………?」

「や、やっぱり噂通りの化け物なんだぁ…………!」

 

 周囲から向けられる恐怖が入り混じったものに変わる。

 元々恐怖の感情が無いわけではなかったのだが、オレが沢田綱吉だと知ったせいかむしろ悪化している気がする。

 と、いうか何でここまで恐れられなければいかんのだ。

 いや、それ以前にオレが沢田綱吉だという事を何とか否定しなければ――――。

 

「沢田さん」

 

 いかつい見た目をしている割にまるで子ウサギのように怯えるクラスメイト達を何とか誤魔化そうと考えていると、ユニがオレの服の裾を引っ張っている事に気が付く。

 

「ユニ。ちょっと待ってて、今この場を誤魔化す方法を考えているから。後ここでその名で呼ばないでって」

「もう、手遅れですよ」

 

 ニッコリと微笑むユニを見て言葉を失い、膝から崩れ落ちてしまう。

 何で、どうしてこうなってしまったのだろうか。絶対にバレないわけではないがそれでも男が女になってるのだから、普通は気付かないだろう。例え普通じゃなかったとしても男が女に変わっているのなんてあまりにも予想外過ぎる。

 

「てか何でユニはそんな笑顔なの!?」

「いやー、何でですかね?」

 

 想定外の事が起きて慌てふためくオレに対し、ユニは楽しそうに笑みを浮かべる。

 何かオレが困っている時によく笑っているような気がするけど、間違いなく気のせいだろう。

 ユニは良い子なんだから、そんな事を思うはずが無い。

 いや、それよりも今はこの状況をどうにかしなければいけない。

 このままだとボンゴレファミリーに報告されて捕まってしまいかねない。

 それだけは不味い。ここはボンゴレファミリーの本拠地であるイタリアだ。全力疾走で逃げても逃げられない。最悪ボンゴレファミリーとその傘下のファミリーVSオレの命を狙う敵対マフィアVSオレなんてことにもなりかねない。

 ジッリョネロファミリーにこれ以上の迷惑はかけられないし、オレが何とかするしかない。

 そう考えた瞬間だった。

 

「何だお前ら、まだ外に出てなかったのか――――って、何があったんだ?」

 

 シャマルが教室に戻って来たのは。

 終わった。今度こそ確実に終わった。

 スカルを除いてここに居る全員の記憶を刈り取ればまだ何とかなったのかもしれないが、シャマルを相手にするのは難しい。

 戦えば勝つことは出来る。けど向こうは絶対に真正面から戦ってはくれないだろう。

 今度こそ終わりを告げる逃亡生活を前に、オレは床に手を付いて絶望する。

 

「…………何なんだこの状況?」

 

 そしてこの状況を全く理解出来ていないシャマルの声が教室内に響いた。




超直感は本人が意図してなければ発動しないと思う。
何故なら呪解したリボーンをリボーンと別人だと判断したから。

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