特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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逃亡生活その3

「10代目候補、沢田綱吉が家出をしたらしいぞ!」

 

銀髪の少年――――獄寺隼人がその言葉を耳にしたのはこれから日本に向かおうと準備していた時だった。

10代目候補の失踪。言葉にすればあまりにも簡単かつ軽いものだったが、隼人からしてみればかなり重たいものだった。正確にはボンゴレファミリーに所属する者達にとっても重いものだが、隼人のそれは他のものとはかなり違う意味合いを持っていた。

 

――――失望。

 

隼人は幼い頃、とある理由から家出をしている。

その理由とは隼人が正妻との子ではなく、愛人との間に産まれた子どもだからだった。

マフィア界において愛人の間に産まれた子どもは禁忌(タブー)とされており、隼人は正妻との子であるとされて育てられてきた。

自身が愛人との間の子である事を知ったのは家を飛び出す前の事だった。正確にはその事実を知ったからなのだが大差は無いだろう。

それから数年の時が経ち、隼人は裏社会で“悪童”や“スモーキングボム”と言った二つ名を付けられるようになっていた。だが日本人の血が混じっているという事に加えてまだ十四歳の子どもと軽視されてしまい、マフィアになる事すら出来ないでいた。

紆余曲折を経て裏社会で最大勢力を有するボンゴレファミリーの一員となり、次期ボスとなる10代目を試そうと思っていた。

だがその前に10代目候補は失踪し行方不明となった。

産まれた時から裏社会で育ってきた隼人からしたら失望という二文字以外表現する言葉が無かった。愛人との間に産まれた自分とは違って、創立者の直系の子孫という輝かしい立場だったのだから失望してもおかしくはないだろう。

そしてそのまま10代目候補を捜索する任務につくことになり、アメリカに来た際に敵に襲撃されたのだ。

敵はボンゴレファミリーとは敵対関係にあたるサーレファミリーで、非道な人体実験を行なっている所謂悪いマフィアだった。

そのようなファミリーがイタリアの軍事兵器として開発されたモスカを使い、大勢の一般人を巻き添えにしたのだ。

今の攻撃で隼人と共に活動をしていたボンゴレファミリーの者も恐らく死んでいるだろう。

 

「…………クソっ!」

 

隼人は自らが置かれた状況に思わず舌打ちをする。

絶体絶命の危機とはまさにこの事だろう。

自分が待っている武器、ダイナマイトではこの敵達を倒す事は出来ない。

自滅覚悟で挑めば一体は倒せるのかもしれない。だがモスカは一体だけではない。それこそ群勢と言っても過言ではない程に居る。

 

「素晴らしい、流石はイタリア軍が開発した軍事兵器だ」

 

サーレファミリーの幹部である男はモスカ達が作り出した光景に惚れ惚れとする。

この兵器があればボンゴレファミリーを打倒する事も夢ではない。

そう考えた男は唯一の生き残りである隼人を打倒しようと命令を下そうとして、

 

―――――額に炎を灯した一人の少年の手によって一体のモスカが破壊されたのを見た。

 

   +++

 

死ぬ気の炎を刃に灯した刀を一閃振るい、モスカを一体、縦に真っ二つにする。

 

「…………良し、行ける!!」

 

崩れ落ちるモスカの姿を視界に収めつつ、俺は自分の強さを実感する。

自分が沢田綱吉に転生してからというものの毎日のように努力をしてきた。

(ハイパー)死ぬ気モードに自力でなれるよう崖登りを熟せる様にしたし、基礎体力をつける為毎日重りを付けて走ってきた。リングだってボンゴレリング程では無いものの原石を見つけては加工したり、良いリングを集めたりしたものだ。

 

だが、肝心の戦いに関しては自信が無かった。

 

着実に強くなっているという事実は自分でも理解できる。毎日毎日慢心せず、誇張表現かもしれないし本当に一度だって慢心しなかったのかと聞かれれば胸を張って答えられるわけではないが、確かに努力し、着実に強くなってきた。

とは言え、それを実戦で活かせるかどうかについてはまた話が別だ。

そもそもとして命を賭けた本当の実戦なんて一度もやった事が無かったからだ。

一応は並盛に居た時に風紀委員長や親友、ボクシング部の部長と模擬戦のような事を繰り広げはしたものの実戦でも通じるか不安だった。どれだけ模擬戦を繰り広げようが、どれだけ痛い目にあおうが命を奪い合う戦いじゃないのだ。

不安を抱いてもしょうがないし、不安を感じて当たり前だ。

だが、この結果を見るに大丈夫だろう。

その事実を噛み締めながら俺は次のモスカに拳を叩き込む。

 

「次」

 

殴り抜いたモスカが大爆発を引き起こし、爆炎に包まれる。

その爆発を自身を守る為に展開した死ぬ気の炎で防ぐ。

死ぬ気の炎ならばただ放出するだけでミサイル程度ならば簡単に防ぐ事が出来る。

最も、死ぬ気の炎は精神状態に左右される力だ。

使い手が油断や慢心をしていたらその力を発揮する事は無い。原作の沢田綱吉が見くびっていたせいで父親である沢田家光にワンパンで打ちのめされてしまったり、その沢田家光が驚愕によって9代目の影武者に撃たれて重傷を負ったりした。

文字通り死ぬ気で戦って初めて力を発揮するのだ。

 

「次」

 

モスカを三体、続け様に両断する。

親友の技である篠突く雨、それの模倣だ。刀を使う際に教えて貰ったから一応は出来る。

その精度、技のキレ、威力。全てにおいて劣っている無様な技しか使えないが、(ハイパー)死ぬ気モードの今ならば見れるレベルには使いこなせる。

とはいえ、さっきの死ぬ気の炎の話に戻るが、常に死ぬ気だと何処かで集中が途切れてしまう。だから本当に死ぬ気になるのは一瞬で良い。攻撃の瞬間と防御の瞬間のみ力を発揮すれば良い。

原作でのハーブの名前がコードネームになっていた少年が同じ事を言っていた。

だが本当に難しいのだ。油断せず慢心せず、だけど本当に死ぬ気になるのは一瞬というのは。

 

「はい、連続で三体っと。じゃあ次は10体相手にしてやる」

 

まぁ出来ないわけではないのだが。

そんな事を考えながら刀をモスカに向かって投擲する。

銃弾の如く勢いよく投げられた刃はモスカの頭部を貫き、行動を強制停止させる。

爆発させないような攻撃をしている為、刀も無事である。

 

「次は槍だ」

 

今度は武器を槍に持ち替えてモスカの動力炉のみを正確に突いて破壊していく。

刀と違って刃が短い槍では機械で出来た兵器であるモスカを破壊するのは容易ではない。

これが対人戦であるならば槍の方が有利だと弁明してみるが、超人揃いのこの世界では間合いの有無はそこまで有利にはならない。

とは言え、槍には槍の強みがある。得物そのものの長さに先端に集中するパワー、その威力は剣での突きよりも威力があるだろう。

その射程(リーチ)と威力を活かしながら次々とモスカを破壊していく。

 

「ほっ、はっ!! これで終わりだ!!」

 

槍全体に死ぬ気の炎を纏わせてそのまま勢いよく回す。

炎の竜巻が発生し、残ったモスカ達は飲み込まれてそのまま宙を舞った。

そして先程モスカに突き刺した刀を引き抜いて、そのまま振るう。

 

「イクスブレイザー!!」

 

死ぬ気の炎を纏わせた刀の一閃が、同じく自分の死ぬ気の炎によって発生した竜巻で宙を舞っていたモスカごと斬り裂く。

両断されたことで完膚なきまでに破壊されたモスカが爆発を引き起こし、その残骸が雨の如く降り注いだ。

 

   +++

 

「す、すげぇ…………!」

 

隼人は自分の目の前で行われた蹂躙劇を見た感想を口にする。

自分では勝てないであろうあの群勢を羽虫でも蹴散らすかのように力を振るい一方的に勝利した。

なんていう実力だ。自分が知りうる限りの実力者の中で、戦いになるとしたらトライデント・シャマルぐらいだろう。モスカが機械で出来た兵器である事も考えたら、単純な実力ならばシャマルよりも上だ。

だからこそ疑問を抱いた。あれ程の実力を有しているというのに、何故家出なんかをしたのか。

 

「…………もう終わってる」

 

考える隼人の隣に槍を手に持った凪が出現する。

一人先走り、早速大暴れしまくった綱吉を見て溜め息を漏らす。

あの人はいつもこうだ。関係無いのに真っ先に渦中に飛び込んで、その結果痛い目にあう。だというのに学習しないで同じ事を何度も何度も繰り返す。

逃げる為にここまで来たというのに何故、自分から巻き込まれに行くのか。

凪は右手の中指に着けている瞳のような形状をしたリングを外す。

 

「そこがボスの良いところだと思うけど」

 

この国に来る前、綱吉はある集団もといグループのリーダーだった。

と、言っても殺伐とした雰囲気が少しだけあったただのお友達グループだ。

どうしてグループになったのかについては綱吉が全ての切っ掛け、もといやらかしが原因である。

不良に襲われていたところを助けたこと、補習になった時に仲良くなったこと、暴れた際に校舎の一部を破壊して殺し合いになったりしたこと。

その全てが彼のお節介ややらかしが原因である。

瞳のリングを弄びながらモスカをスクラップにし、下手人であろう男に刀と槍を突き付ける綱吉に視線を向ける。

 

――――私の出番は無さそう。

 

既に決着がついたこの状況の感想を、凪は心の中で呟いた。


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