特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
上手くいけば今月中に免許を取れそうなので、もう暫くゆっくり更新になります。
「いやー、オレもこの業界に居てなげーけどよ」
校庭の中央にてシャマルは自身が受け持つ教室の生徒達を集めて、一人の生徒を見つめていた。
本当にどうしてこうなったのかは分からない。
ただ一つ言える事があるとするならば、国際指名手配の解除という条件を飲み込んでこの依頼を受けた事は間違いなく失敗だったと言う事だけだろう。
こんな事になるのなら安請け合いなんかせずに、とっととこの国から脱出していれば良かった。
後は素性を隠し、偽りの経歴で誤魔化して安全な日本に行けば暫くの間は問題なかっただろう。
シャマルは思わず天を仰ぎ、自らの不幸を嘆く。
そして今自分がこのような思いをする羽目になった元凶に視線を戻す。
「流石に自分の性別を自由に変えられる奴は初めて見るぜ」
眼前に居る少女――――の姿をした何かを見て、改めて思う。
本当にこいつは人間の姿をしただけの化け物なのだと。
そんな視線を向けられているのに気付いているのか気付いていないのか、件の元凶であるチヨヒメ・ディケイド、本名沢田綱吉は女の姿から元の姿に平然とした様子だった。
服装もメイド服から男物の服に戻っている。
「世界中を探せば何人か居ると思うけど…………」
「お前みたいな奴がそう何人も居てたまるか」
「裏社会なんだし居てもおかしくないじゃん」
「お前は裏社会を何だと思ってるんだ」
確かに裏社会には化け物染みた人間が沢山居る。
しかし、人間の領域から外れた怪物は存在しないのだ。
男から女に、女から男に自由自在に変えられるこいつは間違いなく怪物だ。
「お前のような奴が男か女かも定かじゃねぇ奴が居たら、オレは常に相手が男か女かを考えながら生きていかなくちゃいけなくなるぜ」
「それはそれで失礼だと思うけど」
「オレはフェミニストなんだよ。男なんかどうでも良いわ。それよりも、だ」
正確には女であろうともCGみたいな女は嫌いだがこの際どうでも良いだろう。
問題はこの男にも女にもなれる怪物が現在ボンゴレファミリーに追われているという事だ。
「ボンゴレ10代目沢田綱吉。お前、何でこの学校に居るんだよ」
シャマルがそう問いかけると、綱吉は顔を顰める。
「その肩書は止めて。オレはボンゴレファミリーを継ぐつもりは皆無だから。ここに居る理由はユニの護衛」
溜め息交じりに頭を掻きながら、綱吉はこの学校に居る理由を口にする。
「マフィアにならねぇってのに裏社会には関わるんだな」
「表社会で生きられるとは思っても無いからね」
その言葉を聞いてシャマルは何とも言えない表情を浮かべる。
沢田綱吉の父親、沢田家光とは知人でもある。彼がどのような思いをしてイタリアに居るのか、そういった事情も理解している。
そういった事情を知らないのだから無理も無いが、親の心子知らずと言わざるをえないだろう。
「兎に角、お前の事はボンゴレに伝えるぞ」
「待って、待ってください」
電話を取り出したシャマルの腕を綱吉は掴んで止める。
「こっちはなお前の我儘に構ってる暇はねぇんだよ。大人しく捕まっとけ」
「確かにごもっともなんですけどボンゴレに通報するのだけは勘弁して!」
「なら家族には自分が今何処に居るのかぐらい伝えとけよ」
「大丈夫! 母さんには暫く旅に出るって伝えてるから!!」
ボンゴレファミリーに綱吉の事を伝えようとするシャマルから電話を奪い取る。
そしてシャマルから距離を取り、木の上から威嚇する。
まるで猫のような奴だ。フシャーと威嚇する綱吉に呆れながら、シャマルは視線をユニに向ける。
「なぁ、ユニちゃんよ。お前からも何か言ってくれないか?」
「それは出来ません。沢田さんには色々とお世話になってますので」
現在の沢田綱吉の立場はジッリョネロファミリーのボスの娘であるユニの護衛だ。
立場上は上司であるユニが言えば、綱吉も言うことを聞くのではないかと思っていたが、どうやら無駄だったらしい。
尤も、世界中を飛び回って逃亡生活を続けているコレはそう言われたとしても、恐らく身を隠すだろうが。
本当にたちが悪い。よくあの父親からこんな息子が産まれるものだ。
内心溜め息をつきたくなる中、ユニは言葉を続ける。
「例えボンゴレ10代目であったとしても今は私の付き人ですから。私は仲間を、大切な人を私は売りません」
「…………ん? ま、まじかー」
さらりといったユニの発言、その言葉の裏に秘められた真意に気付いたシャマルはなんとも言えない表情を浮かべる。
生徒達は当然だが話の中心人物である綱吉はおろか、発言したユニ自身も気付いていない。この場で気付いているのは自分だけだった。
恐らくではあるが、今の発言から察するにユニは沢田綱吉を好いている。それもライクではなく、ラブの方で。
「ボンゴレぇ…………」
「えっ、何? 何でそんな目でオレを見るの?」
意図したものではない、恐らく無意識なのだろう。
だがこの無自覚な好意は間違いなく厄介ごとになる。長年女を口説き続けて来たシャマルの勘が警鐘を鳴らす。
と、いうかこの少年は朴念仁なのだろうか。
「こんなナヨナヨとした見た目の癖に、意外とモテるのか?」
「結構失礼な事を言うなこの人」
じとっとした視線を此方に向けて来る綱吉を尻目に、シャマルはこれからの事を考えて、少しだけ憂鬱になった。
+++
「ま、まさかボンゴレ10代目がここに居たなんて…………」
「てか映像でやってたのと性格が違わね?」
居ると思ってもいなかった。と、いうか考えすらしていなかった、現在マフィア界を混乱の渦に叩き込んでいる存在の姿を見て、生徒達は騒めく。
そんな中、炎真は自身の腕の中で暴れるスカルを収めていた。
「スカル、落ち着いて」
「離せ! 離すんだ炎真! アイツには文句の一つでも言わなきゃいけないんだ!!」
そう言ってスカルはジタバタと暴れる。
当時、カルカッサファミリーに所属する軍師だったスカルはコロネロが不在の時を狙い、マフィアランドに襲撃を仕掛けた。
だが偶然にもその場に居た沢田綱吉の手によって大ダメージを受け、勢い良くぶっ飛ぶ羽目になったのである。
幸いなことにシモンファミリーの聖地という場所に生きて流れ着いたものの、気が付けばカルカッサファミリーは壊滅していた。
自分の作戦を台無しにされ、生死の境を彷徨う羽目になり、何とか助かったと思ったら帰る場所を失った。あまりにも散々な目にあったスカルとしては事の元凶である張本人に文句の一つや二つ言わないと気が済まなかった。
「スカルの話は何度も聞いたけどさ、それスカルが悪くない?」
「だとしてもだ! 八つ当たりでも良いから文句を言わないとオレの気が済まないんだー!!」
カルカッサファミリーが壊滅した事に沢田綱吉は全く、これっぽっちも関わっていない。
その事を理解していたとしても納得は出来なかった。
――――余談ではあるが、カルカッサファミリーが壊滅した理由に綱吉が全くの無関係だというわけでは無い。
カルカッサファミリーが壊滅したのは、船から逃亡した沢田綱吉に対して苛立った風紀委員長が八つ当たりで襲撃したのが原因だからである。
この事をスカルが知るのはまだ先の話。
「でも、何でこんな場所に居るんだろ?」
腕の中で暴れるスカルを宥めながら炎真は何やら教師であるシャマルに文句を言っている綱吉の姿を眺める。
話を聞いている限り、彼はボンゴレ10代目になりたくないようだ。
それなのにイタリアというボンゴレファミリーのお膝元、それも裏社会の関係者が通うこのアカデミアに居るなんていうのはあまりにもおかしい話だ。
灯台下暗しという言葉があるが、あまりにもリスクが大き過ぎる。
尤も、性別を変えられるのだから普通は気付かれないだろうが。と、いうかどうやって性別を変えているのだろうかあれは。
炎真が一人そう考えていると隣に立っていたアルビートとリゾーナの二人の会話を耳にする。
「あれがボンゴレ10代目。でも、何か…………少し変?」
「確かに…………少しおかしいな。ボンゴレの魂が鎖で縛られている。自分で自分を抑え込んでいるみたいだ」
「それに霊魂達の様子もおかしい。皆、ボンゴレの事とっても恐れてる」
「…………少し様子を見たい。ボンゴレファミリーに彼の事を伝えるのは少し待った方が良いだろう」
二人の会話を聞いた炎真は今の話を聞かなかったことにした。
そして炎真は自らの頭をわしゃわしゃと掻いて困っている様子のシャマルに話しかける。
「あの、シャマル先生。何で校庭に集めたんですか?」
「…………ああ、すまねぇ。授業の事、すっかり忘れていたぜ」
「いえ、仕方がないですよ。だってアレなんですから…………」
哀愁を漂わせるシャマルと共に綱吉の方に視線を向ける。
視線を向けられた張本人、ここの空気をぐだぐだにした元凶は小首を傾げながら隣に居る少女、ユニに話しかける。
「ねぇユニ。何であの二人はこっちを見てるんだろう?」
「すみません。私にも分かりません」
――――こいつ張り倒してやろうか。
胸の奥から込み上げてくる怒りに思わずそう思ってしまうシャマルと炎真だった。
「まぁ、お前等を校庭に集めた理由はな。お前等の実力を確かめたかったからだ」
「実力を、ですか?」
「ああそうだ。ここアカデミアに通う連中は全員が裏社会の関係者なのは知っているよな」
「はい。一応は…………」
「裏社会で生きる以上、争いに巻き込まれずに生きるってのは不可能だからな。アカデミアは裏社会で生きる術を、戦う術を教える場所なんだよ」
+++
どうしよう、今すぐ帰りたい。
シャマルの口から語られた説明を聞いてそう考えてしまう。
アカデミア、どんな碌でもない場所なのかと思ったら想像よりは悪くない。
裏社会で生きる以上、争い事はつきものだ。自分の身を守る為の技術は必須だ。
とはいえ、オレからしたら必要の無い物だ。
今更表社会でただの人間として生きられるなんて欠片も思っていない。だけど裏社会の人間として生きるつもりも毛頭無い。
だって、オレの命は1年も無いのだから。
下手したら1ヶ月後、いや、1秒先の未来で死んでいてもおかしくない。
なのに今更生きる術を身に着けるなんて、出来るわけが無い。
「――――沢田さん」
そう考えているとユニがオレの手を握り締めた。
「何、ユニ?」
「私、こういった事を教えて貰った事が無いので…………手伝ってもらっても大丈夫でしょうか?」
ユニのその言葉を聞いて思わず笑みを溢す。
正直な話、このアカデミアでオレが学ぶことは一つも無い。
でもユニは違う。彼女にはここで学ぶべき事があるし、未来がある。
ならその手伝いぐらいしても、誰も文句を言わないだろう。
「分かったよ。と、いっても軽い手解きぐらいだけどね」
裏社会で生きるとはいえ、ユニは戦いに向いている心をしていない。
だから教えるのは護身術で良いだろう。
「と、いうわけで戦えない奴は見学で、戦える奴はこっちに来てもらう。てめぇは当然戦う側だからな」
「分かってるって」
念を押すようにこっちに行って来るシャマルを尻目に前に出る。
クラスの中で前に出たのは10人程度で、その中に古里炎真の姿は無かった。
この中でオレを除けば一番強いのだけれど、やっぱり何か企んでいるのだろうか。
古里炎真はシモンファミリーのボスだ。
シモンファミリーは今でこそ勢力としては弱小なのかもしれないが、元々はボンゴレファミリーと縁のある歴史あるマフィアだ。その実力はかなり高く、ある存在に貶められた事もあり、ボンゴレに良い感情を持っていない。
本当に面倒事が多過ぎる。おのれボンゴレファミリーめ、どこまでオレの邪魔をするというのか。
「んじゃ、授業を始めるぞ――――」
シャマルがそう言った瞬間だった。
黒い死ぬ気の炎が彼の背後に出現し、その炎から二人の包帯塗れの人間が姿を現したのは。
「は――――!?」
突如として出現したその存在に驚愕の声を上げる間も無く、そいつらはオレ達に攻撃を仕掛けた。
第三部は学園ものになる、それは嘘じゃありません。
ただ約一名除いて主要な敵キャラは全員出すつもりです。