特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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お待たせしました。
復讐者戦は書くのが難しかったです…………書いていて楽しくはあったんですが夜の炎が強すぎるんじゃ…………。


学園生活その9

 復讐者(ヴィンディチェ)の戦闘スタイルは基本的に一対一に特化している。

 正確には多対一も出来ないわけじゃないのだろうが、一番得意なのが一対一(タイマン)なのだろう。夜の炎の特性であるショートワープの消耗とバミューダ以外の復讐者の体質も加味すれば余計に顕著だ。

 ただ相手を倒すのがあまりにも速過ぎてそう認識出来ない。

 特性である転移(ショートワープ)のおかげだろう。後は長く生き、復讐の為にその年月を費やし努力し続けた事もだろうか。

 どちらにしろ対人において全快の復讐者相手に戦える人間はそうは居ないだろう。

 とはいえ、連中も生きているとはいえないような外見をしているが一応は生き物で、思考する存在だ。無敵と言うわけではない。

 大気中に毒をばら撒けばあいつ等だって無事じゃ済まないし、認識できない速度で超高火力かつ超広範囲の攻撃を連続で叩き込めば絶対死ぬ。

 そう言う意味ではこの時ノ庭園は連中に対し有効的な攻撃だったんだろう。

 なのに――――、

 

「そこまで動き回れると本当に効いてるのかって思うよ」

 

 死ぬ気の炎を纏わせた刀との剣戟を交わしているイェーガーに対しそう呟く。

 時ノ庭園が発動してから1分経過。イェーガーとバミューダとの戦闘はまだ続いていた。

 腕などの一部の部位の転移を不可能にし、自ら炎を生産出来ない身である復讐者達の呪われた肉体ではただ居るだけでダメージを負うような空間だ。全く効いていないわけじゃないのだろう。

 だけどバミューダが常に死ぬ気の炎を補填し続けるせいでイェーガーの戦闘力は落ちていない。

 本当に厄介だ。いや、厄介と言うより無理ゲーだ。

 部位の転移が出来ないというだけで全身の転移自体は可能なんだ。

 本来のオレのスペックだと天地がひっくり返っても勝てないくらいの実力差がある。それをオーバーフローモードで強引にスペックを引き上げて何とか食らいつけているようなものだ。

 

「っ、くそ――――」

 

 日暈の龍・頭舞いでイェーガーの攻撃を捌き、それでもなおイェーガーの攻撃を受け切れず、そのままぶっ飛ばされる。

 そして背後に転移してきたイェーガーの貫き手が襲い掛かる。

 碧羅の天で迎撃し、衝撃を和らげる。が、和らげただけで相殺し切る事は出来ず、そのままぶっ飛ばされる。

 今度もまた同じように背後に現れ、攻撃しようと刀を振りぬいた瞬間には背後に転移している。

 

「さっきから後ろばっかり狙って…………!」

 

 火車に繋げて転移したイェーガーに攻撃を加えようとするも、手応えは皆無だった。

 

「…………ああもう、フラストレーションが溜まる! 早く倒さなくちゃいけないのに!!」

 

 あるいはそれが向こうの狙いなのだろうか。

 五分以内に倒すということを五分しかこの空間を維持できないと判断しているのか。いや、してても無理は無いか。こんな大規模な技、死ぬ気の炎を消費するのは展開だけで維持するのには必要無いだなんて普通は信じられない。

 いや、それは無いか。向こうに余力があるのならそれもするんだろうけど、相手側も時間をかけていられない。仲間が死に瀕しているんだ。時間切れなんか狙う余裕は向こうには無い。

 本当に転移が厄介過ぎる。

 

「日の呼吸の技とは相性が悪いか…………」

 

 と、いうよりは呼吸の技自体が復讐者相手には届き辛いのだろう。

 そもそもとして呼吸は鬼の首を斬る為の技で、日の呼吸の深奥は鬼の始祖を朝まで殺し続ける為の技。

 呼吸による剣技だけでは奴等を仕留めきれない。かといって新たな技という名の付け焼き刃は通じない。流派を越えなくちゃならない時雨蒼燕流なら話は違ったのかもしれないけど。

 それでも何とか打ち合えてるのは呼吸と技のお陰でもある。

 だけどこのままだと詰む。炎の吸収を強めるのは出来ない。そもそもとしてあまり使ってこなかった技なのだ。強めたら何が起こるか分からないし制御も出来ない。

 本当にどうしようもない。

 超直感で敵の攻撃を察知し、呼吸とオーバーフローモードの併用で防御をし続ける。

 でもそれは何時迄も続かない。このままだと先に殺されるか、時間が来てしまう。

 調和斬りならば必ず当たるが、向こうは絶え間なく攻撃を続けている為、発動すら不可能。

 

「なら、こうするか!!」

 

 刀に大量の炎を纏わせて放出する。

 

「イクスブレイザー! からの、灼骨炎陽!!」

 

 刀身を伸ばして、推進力も利用して全方位に何度も刃を振るう。

 

「――――っ!!」

 

 イェーガーは転移で回避しようとするも、広範囲の攻撃を避ける事は難しかったようで、一度目は回避に成功したものの二度目は回避する事が出来ずに直撃する。

 やっぱり夜の炎は範囲、あるいはマップ攻撃に弱い。

 此方の攻撃を転移で回避しようとしても、転移した先も攻撃範囲内なら意味が無い。壁の中に転移する事が出来ないように、転移不可能な程埋めてしまえば奴の攻撃は意味を無くす。

 本当に面倒臭い。コイツら相手に近接戦闘なんてバカのやる事だ。

 そしてその馬鹿な事をしなくちゃならないってのが本当に辛い。

 

「…………仕方ない、か」

 

 バミューダよりもイェーガーの方が厄介だ。単純な技量ならこっちの方が強いし、何より動きが超直感があっても読み辛い。

 

――――だから、コイツはここで仕留める。

 

 これから先生きていたら間違いなくオレの目的の邪魔をしてくる。

 他の復讐者は別に良い。呪解していないバミューダも同様だ。だけど、イェーガーはダメだ。コイツだけは見逃せない。

 どんな手段を使ってもイェーガーはこの場で確実に殺す。

 

「悪いけど、ここからは殺す気でいく」

 

 刀を地面に突き刺し、冷気を纏わせる。

 

「氷焔世界イクスノヴァ」

 

 刃から放たれた冷気がこの世界の大地を凍結させ、イェーガー達に襲い掛かる。

 

「かわすんだ、イェーガー君」

 

 バミューダの指示通り足下から迫る攻撃を回避しようと跳躍する。

 当然、逃がすつもりは無い。上に跳躍して回避したイェーガーを追撃する。

 

「ギアッチョーロ・ランチャ!」

 

 凍り付いた大地から氷の槍を出現させ、イェーガー達を貫こうとする。

 だが次の瞬間にはイェーガー達の姿は消失していた。

 

「また転移…………いい加減しつこいっての!!」

 

 当然、避けられるのは知っていた。

 知っていてワザと放ったんだ。でもその事を顔に出してはいけない。

 まだか、まだか、まだか。まだ奴は罠にかからないか。

 こっちにはもう時間が無いってのに――――!

 

「――――焦りを見せたな。明確な隙だぞ」

 

 その言葉が背後から聞こえたと共に自身の左腕が宙を舞う。

 遅れてやってきた激痛と喪失感に襲われ、ボスリという音と共に自分の左腕だった物が地面に転がった。

 

「ぐっ…………!」

 

 くそっ、しくじった。攻撃を受けるつもりは無かったんだけれど、やっぱり防ぐのは無理だったか。でも、これはこれで良い。最善の軽いダメージぐらいが本当は良かったけれど、こっちは致命傷も覚悟していたんだ。

 それを考えればまだ左腕を失ったぐらいだ。

 そう自分に言い聞かせながら傷口を凍らせて止血し、反撃に転ずる。

 

「遅い」

 

 だがイェーガーは此方の攻撃を防御する事無く、腕の一振りで刀身を砕く。

 

「終わりだ」

 

 そしてイェーガーがオレを仕留めようと腕を振り下ろそうとする。

 防御は不可能、奴はその防御すら貫くしそんな暇は無い。同じように回避も間に合わない。

 

「――――掛かった」

 

 でも攻撃だけは、カウンターだけは間に合う。

 奴に付着したオレの血液を媒介にギアッチョーロ・ランチャを発動する。

 氷の槍がイェーガーの腕を、胴体を貫いた。

 

「ぐっ!?」

「お返しだ…………よぉく味わえ!」

「イェーガー君! 避けるんだ!!」

 

 想定外のダメージを受けたことで動きが止まったイェーガーの顔面に拳を叩き込む。

 バミューダが動くように促すも時既に遅く、オレの拳は奴の鼻っ柱を捉えていた。

 

「がっ…………」

 

 渾身の炎を一点に集中し、全集中の呼吸で強化した拳で殴ったんだ。

 それなりに効いているとは思う。今のは確実に決まった筈だ。

 夜の炎の硬度はそこまで強くない。霧の炎よりは上なのかもしれないが、鋼鉄を貫けない程度の威力しか発揮できない。思い返せば復讐者達の中でも高威力の技を使う事が出来るのはビッグピノのバズーカだけだった。

 

「成る程、少しずつ理解出来て来たぞ。その炎の弱点が」

 

 こうして実際に戦ってみないと分からないものだ。

 そう思いながら氷で武器を造り、イェーガーに襲い掛かる。

 

「っ、その動き…………! スモールギアの!!」

「見て覚えた!!」

 

 氷の武器を剣、槍、土、斧に変形させながら戦いを続ける。

 本当にスモールギアの動きをよく観察して良かった。あいつの動きはオレの目指す理想の動きだった。だから見て盗んだ、見稽古っていうやつだ。

 尤も、超直感と全集中を組み合わせて何とか再現出来るだけだし、オリジナルとはかなり違った動きをしているから厳密に言えば全く同じでは無いのだろう。

 だけど、奴の武器を選ばない戦い方は本当に参考になったよ。

 

「そして、これで終わりだ」

 

 此方から距離をとろうとするイェーガーの両手両足を、バミューダを凍らせて動きを止める。

 バミューダに関しては寸前で気付かれたのか、イェーガーから距離を取った為失敗してしまったが。

 

「なっ、これは…………!?」

「実を言うとさ。最初からやろうと思えばこれやれたんだよ」

 

 この世界は大地から大気の一欠けらに至るまでオレそのものである。

 なのでその気になれば何処からでも好きな場所に死ぬ気の炎を発生させることが出来るし、何処からでも好きに凍結させることも出来る。領域展開のように必中必殺というわけにはいかないが、やろうと思えばそれに似た事は出来るのだ。

 

「やらなかった理由は最初からこれを出来ると判断して戦ってくるだろうからね。出来る限りダメージを与えてから使いたかったんだよ」

「貴様、最初から手を抜いていたというのか!!?」

「手加減した覚えは無いけど、まぁうん。使っていない手があるっていうのを手を抜いていたっていうのなら、手は抜いていたな」

 

 時ノ庭園の中でしか使えない奥の手もまだあるわけだし、その表現は間違いじゃない。

 ただ使いたいかどうかと聞かれれば死んでも使いたくないと答えるだろう。奥の手に関しては使ってしまえば制限時間が短くなってしまうのだから。

 

「それじゃあ、そろそろ終わりにしようか」

 

 氷の槍を複数宙に作成する。

 もうイェーガーには近づかない。残された力で転移してきても対応できるようにここで仕留める。

 

「止めろ!!」

 

 バミューダがそう叫ぶのと同時に背後に転移する。

 

「悪いけど、そう来るのは読めていた」

 

 超直感と透き通る世界、そして周囲に炎を張り巡らせている。

 そんな状態で身体に力を入れれば何かしてくるなんて簡単に予測できる。

 死ぬ気の炎を拳に集めて、背後に居るバミューダに拳を叩き込む。

 かつて覇気、あるいは流桜とも呼ばれている技術の再現。要は外側と内側両方から破壊する技だ。

 なら無駄にしていた力を対象に送り込めば燃費が良くなった上で再現は可能だ。

 

「ぐぁああああああ!!?」

 

 バキリと何かに亀裂が入るような嫌な音と共にバミューダは叫び声を上げる。

 これで邪魔者は居なくなった。そう思いイェーガーの方に向き直る。

 

「それじゃあイェーガー。夜の炎はオレが貰うよ」

 

 そして宙に待機させていた氷の槍を動けないイェーガーに放とうとして――――ドクンという音が胸から鳴った。

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