特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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今回は短め、本当は前回で書き上げたかったんですが…………。


学園生活その10

「…………何処からどう見ても化け物同士の戦いだな」

 

 沢田綱吉が作り出した異界、その草原の丘の上でシャマルは目の前で繰り広げられる戦闘を座りながら見下ろしていた。

 とてもではないが介入する事は出来ない。一流の殺し屋であると自負している自分でさえ、復讐者(ヴィンディチェ)との戦いにはついていけなかった。

 尤も、あくまで自分の本領は暗殺。トライデントモスキートと呼ばれている蚊を使い、自らの身体に宿る666の不治の病を感染させるというやり方だ。この業界で生きている以上それのみでしか戦えないわけじゃないが、それでも直接戦闘は苦手と言える。

 だが、それでもこれだけは言える。あの化け物同士の戦いの中に入り込める奴は世界に数人しか居ないだろう。

 

「腕を斬り落とされても、胴体に穴が開いても関係無いか」

 

 互いに相手の存在を否定した戦い、とでも言えば良いのだろうか。

 見ていてあまり気持ちの良いものじゃない。殺し合いにそんなものを求める気は欠片も無いが、それでもあの戦いは見てられない。

 どちらも相手の事を見ていない、何か別の物を見て戦っているみたいだ。

 だからあんな戦いが出来るのだろうか。

 あんな戦い、やっている方もやられている方も辛くなるだけだというのに。

 

「お前等、よぉく見てろよ。あれは絶対に真似しちゃいけない戦い方だ」

 

 そう言ってシャマルは自分の背後に居る、この戦いを観戦している自分の生徒達に視線を向ける。

 誰も彼もが静まり返り、眼前の戦闘を見ていた。

 その姿には朝の時に見せていた余裕のある、というよりも何処か世界を舐めていたような態度は欠片も無かった。

 

「あんな戦い方をしていたら後がねぇ。名誉の負傷なんて言葉を使ってかっこつけてる奴も居るが、ダメージなんて負わない方が良いんだ。ダメージを受けるのは仕方ねぇ。だがあいつのように自分が傷つくことを前提に動く事は間違っている」

「しゃ、シャマル先生は分かってたんですか?」

「ああ? そんなものたりめーだろ。何年この業界に居ると思ってるんだよ――――まぁ、何百年生きてても分からない奴には分からないけどな」

 

 憎しみは目を曇らせるというが、正しく復讐者達はその言葉に当て嵌まる。

 何を憎んでいるのかは分からないが、裏社会の掟の番人がその使命を放り出してまで沢田綱吉と戦ったのだ。

 相当憎い相手だったのだろう。しかし、その憎悪を利用された時点で勝負に負けていたも同然だった。

 あるいは、最初から沢田綱吉の作戦通りだったのかもしれない。

 

「そこまで頭が回るんならもっと良い方法があったんじゃねぇのか?」

 

 こんな大規模な力を行使できるのなら他にももっと良い方法があっただろうに。

 そう思いながらシャマルは立ち上がる。勝敗は沢田綱吉の勝利で終わった。

 本当にあの復讐者達に勝ったのか、とは言わない。この勝負は復讐者達が慢心し、それに溺れて敗北したのだ。

 

「本当に憎しみってのは恐ろしいねぇ。足下も見えなくなるんだからよ」

 

 復讐者達は悪手ばかりを選び、沢田綱吉は良い手だけを打った。

 それに加えて復讐者達は良い手を打てないように誘導されていた。

 まだ齢13のガキがここまでやってのけたのだ。本当に末恐ろしい。

 

「おめぇはもう、十二分に立派な悪人だよ。ボンゴレ坊主」

 

 もしこいつをボンゴレ10代目にしたらどうなるのだろうか。

 今のままではかなりの問題がでるだろう。だがリボーンならばあの坊主の悪いところを矯正出来るだろう。

 そう結論づけたシャマルはリボーンに連絡を取って引き取ってもらう事にした。どう考えても自分には手に負えない。こんな劇物はそれに相応しい奴が対処すべきだ。

 そう考えるシャマルに対し、ユニは顔を真っ青にしていた。

 

「ダメです…………沢田さん」

 

 綱吉が居る方向に向けて手を伸ばす。

 届かないと分かっていても、間に合わないと分かっていてもそうせざるを得なかった。

 たった今予知した未来があまりにも最悪なものだったから。

 

「今すぐこの空間を解除して下さい! 沢田さん!!」

 

 ユニが大きな声で叫ぶ。

 それと同時に綱吉が口から血を吐き出した。

 

   +++

 

「がふっ…………!?」

 

 イェーガーの瞳に映ったのはたった今自分にとどめを刺そうとした少年が血を吐き出した姿だった。

 今の今まで優位にたっていた筈の者が血反吐を吐き苦しんでいる。

 宙に浮いていた氷の槍も砕け散っている。

 

「そ、んな…………もう、時間切れ?」

 

 そう呟くと同時に綱吉はその場に膝をつく。

 

「くそ、今すぐ解かないと…………ダメだ、もう…………」

 

 言葉の意図は詳しく分からない。だが、この異様な空間を作成した以上、何かしらのデメリットがある筈だ。そのデメリットがこれなのだろう。そう判断したイェーガーは身体を凍て付かせている氷を溶かし脱出する。

 残された炎はもうそんなに残っていない。だから、これで終わらせる。

 イェーガーは綱吉の命を奪わない程度に破壊しようと攻撃を加えようとし、綱吉の失った筈の左腕で攻撃を防がれた。

 

「何――――」

 

 失った筈の腕で自身の右腕を掴んで攻撃を止めた、その事に驚愕するよりも先にイェーガーは綱吉の変化に気が付く。

 口から見える歯は肉食獣の牙のようなものに変化しており、表情からはさっきまでの焦りが消えていた。

 だがそれよりも目立つのは(ハイパー)死ぬ気モードが解けていた事だ。

 全身のリミッターを外す超死ぬ気モードが解除されているにも関わらず、感じる力はさっきよりも強かった。

 

「…………っ」

 

 グシャリという音と共にイェーガーの右腕が綱吉の左手によって圧し折られる。

 

「っ、何という力だ…………!」

 

 とてもではないが人間のものとは思えない力だった。

 死ぬ気の炎や身体のリミッターを外したり、肉体を強化する方法は裏社会には沢山ある。だが目の前の沢田綱吉から感じる力はそれらとは根本的に違う。肉体の性能そのものが引き上げられている。

 まるで人間とは違う生物を死ぬ気の炎無しで相手にしているみたいだ。

 いや、そもそも人間かどうかすら疑わしい。奪い取った筈の左腕が生えているなんてありえない。

 そして幻覚でも無い。

 

「ジョット、いや、沢田綱吉…………貴様は何だ?」

 

 イェーガーの問い掛けに綱吉が答える事は無く、代わりに頭部に向かって腕を振るう。

 速度と感じる力こそさっきより上がっているが先程までの攻撃に比べればあまりにも稚拙。

 炎が尽きかけている今の自分でも避けるのは容易い。そう判断したイェーガーは攻撃を回避しようと後方に下がり――――強い衝撃をその身に受けて吹っ飛んだ。

 

「がふっ!?」

 

 決して馬鹿に出来ない威力の衝撃は一瞬でイェーガーをボロ雑巾に変える。

 

「な、がぁ…………」

 

 一体何が起こったと言うのか。

 死ぬ気の炎は纏っていなかった、技術も何にも無い単純な力任せの攻撃だった。

 完全に回避した筈だ。いや、回避した。なのに自分は今無様に転がっている。

 どうして、自分の胸に深い切り傷が付いているのか。

 

「グルル…………」

 

 獣の唸り声のようなものをあげながら綱吉は手を地面に付ける。

 まるで四足獣のように走り出し、イェーガーに追撃を加えようとする。

 

「させるかってんだ!!」

 

 だがイェーガーが攻撃される事はなく、綱吉は大砲の一撃をくらい吹っ飛んだ。

 大砲の砲撃が放たれた方向に視線を向ける。

 そこにはスモールギアがビッグピノの大砲を携えて構えていた。

 死ぬ気の炎が取られている為かただでさえ悪かった顔色はより青く、ビッグピノのような巨体が使うことを前提に作られた大砲の反動もあって息を切らしている。

 

「無事かイェーガー!」

「すまないスモールギア。何とか無事だ」

 

 心配そうに窺うスモールギアの言葉にイェーガーはそう返す。

 彼の背後にはここに来た全ての復讐者がおり、その内の一人の腕には気絶したバミューダが抱えられている。

 

「その姿で無事とはとても言えないぜ」

「気にするな。我等はバミューダの炎があればいくらでも生存出来る――――奴とは違ってな」

 

 そう言ってイェーガーは視線を綱吉が吹っ飛んだ方向に向ける。

 死ぬ気の炎で防いでいなかった以上、生身で大砲を受けたも同然。人間であるならば即死だろう。

 事実、綱吉の身体は見るも無惨な肉塊に成り果てていた。

 しかし、その肉塊は僅かな時間で元の人間の姿に戻っていく。

 溢れた臓腑も、砕けた骨も、完全に木っ端微塵になった筈の脳でさえも元通りになっていく。

 

「もう一度聞く、沢田綱吉…………貴様は何だ?」

 

 戦慄するイェーガーのその言葉に綱吉は背中から触手のような管と巨大化した背骨のようなものを生やし、攻撃を再開した。

 この世界に居る者は知り得ないその能力は、かつて鬼の王と呼ばれた存在のものと同一だった。

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