特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
皆様はどんなビールが好きですか?
ちなみに自分はサッポロクラシックと黒ラベルでございます。
「おぅ、起きたかボンゴレ坊主」
目を開けた瞬間、映り込んだのはシャマルの髭面だった。
どうやら意識を失った後、保健室にでも運び込まれたらしい。現状を把握しながら状態を起こし、片手で頭を抑える。
「どれくらい、オレは寝てた?」
「ざっと丸一日は眠ってたな」
「一日、一日…………かぁ…………」
寝過ぎって事は無いが丸一日も使ってしまったのか。
肉体の方は特に問題無い。復讐者達との戦闘でかなりの疲労が溜まっているし、再生速度も笑える程遅くなっているが、それでも破格だ。
鬼というのはただそれだけで強いのだから。
まぁ油断や慢心は決して出来ないが。
「まぁ何だ。大したものはねぇが少しでも腹に入れとけ」
そう言ってシャマルは携帯食糧を此方に差し出してくる。
やっぱりというか何と言うべきか、全く食欲が湧いてこない。それどころか忌避感が湧いてくる。
「すみません。それは食べられないです」
口元を抑えて要らないと告げる。
「じゃあ何だったら食える?」
「人間由来のものなら食べれるから、輸血パックとかがあればそれで」
「…………マジか」
シャマルは此方を化け物でも見るような瞳で見てきているが気にしない。
だって今のオレ身体だけは本当の化け物なのだから。
+++
「ご馳走様」
シャマルから渡された輸血パックの血液を飲み干し人心地つく。
これである程度の飢えは防げる。身体の改造と並行して人間に戻れるよう死ぬ気の炎を使う。身体の中にある抗体の量を増やせば人間に戻りやすくなる。ただ急激に増やせば肉体の不調が出る可能性もあるからゆっくり時間をかけなくちゃいけない。
本当なら今すぐにでも戻りたいんだけどなぁ。
「本当に人間じゃねぇんだなお前」
「そうだね」
少なくとも人間由来のものしか食べられないっていう時点で人間を名乗るのはやめた方が良いと思っている。
「まるで
「強ち間違っていないかも。日光を浴びれば身体は焼け焦げて崩れていくし、でも血じゃなく人肉だから人食い鬼の方が正しいかも」
「…………お前、日光浴びても平気だったじゃねぇか」
「そういった弱点は克服してるから」
以前この状態になった時に日光を浴びてダメージを受けていたがすぐに克服した。
その影響なのかは知らないが、こうして再び鬼になっても日光は克服している状態のままらしい。
それはそれでありがたいが、出来る事なら鬼にならない方が良かった。
「まぁ、一週間以内には人間に戻るつもりだから問題は無いんだけど」
「…………ユニの嬢ちゃんから色々と聞いたぞ。お前さん、すげぇ無茶してるってな」
「無茶しなくちゃいけないから無茶してるんだよ」
そうじゃなきゃ誰が無茶なんかするものか。
予定通り上手くいけば時ノ庭園を発動する事はおろか、鬼にすらなる事は無かった。それどころかこんな場所で復讐者と戦うなんてアホな真似をする事なんて無かったのだから。
「で、だ。ユニの嬢ちゃんからの頼みもあって非常に不本意だがお前の身体を調べさせてもらった」
「おい、ちょっと待て」
シャマルの口から出た言葉に思わず口調を荒げる。
「あんた男は見ないんじゃなかったのか?」
「不本意だって言ったろ。が、ユニの嬢ちゃん、次期ジッリョネロのドンナに頼まれちゃ断れねぇからな。まぁ、そのついでにお前の目的とやらも聞いているんだけどよ」
「そ、そんなぁ…………」
まさかユニがばらすなんて、いや、ばらさないとは一言も言っていなかったけどさ。
それでもリボーン側の人間にはオレの目的を話すなんてあまりにもあんまりだよ。
そう考えているとシャマルが何とも言えないような表情で此方を見ていた。
「なぁ、沢田綱吉よ。お前、そんな生き方して辛くねぇのか?」
「…………質問の意図が分からないんだけど」
「惚けんじゃねぇ。ユニの嬢ちゃんから全部聞いているんだ。全部分かった上でやってるってのはな」
シャマルはそう言うと椅子に座り、オレと視線を合わせる。
「最初はお前の事をよ。隼人のような奴だと思ってた。自分の命を度外視にしている奴だとな」
「獄寺君の先生やってたんならちゃんと教えろよ。先生なんだろ」
「言わなくても分かる事を分かってない奴に教える事なんざねぇよ。ま、分かっている癖に自分からそっちの道に全速力で足を踏み入れるバカをこうして見て、ちゃんと教えとけば良かったって後悔しているところだけどな」
本当に笑えない、そう言ってシャマルは盛大に溜め息をつく。
「さっきの質問だけど、辛いとか辛くないってどうでも良いんだよ。それよりも早く全部終わらせなくちゃって焦燥感の方が強いし」
「…………意地はってねぇで本当の事を言えよ」
「本当の事だよ。本当に辛いって思っているのなら最初からやらなかっただろうし、今も辛いって思ってるのなら途中でやめれば良いんだから」
正直な話、全く辛くないと言ったら噓になる。
でも強がりと聞かれればそうではないと答えるだろう。
「オレが決めた、オレが選んだ、自分の意志でこうすると決めた以上、最後までやらなくちゃ」
「それを望んでいない奴が居たとしてもか?」
「知った事かよ」
他人からの指摘で止めるくらいなら最初からこんなバカな真似をしてなんかいない。
それに――――、
「もしオレを止めたいなら、オレが諦めるような答えが無きゃダメ」
結局のところ、これに尽きるのだろう。
オレは皆が裏社会に巻き込まれるのが嫌だったからこの選択を選んだ。
だからこそ、これ以上の選択を提示されない限り、オレの望みも叶った上で納得できるような選択肢を提示されない限りオレは諦めない。
「…………我が儘な奴だな」
「それを、裏社会の人間が言う? まぁ、シャマルはボンゴレの人間じゃないからどうとでも言えるだろうけどさ」
「初代ボンゴレの記憶を持っているんなら別に継いだって構わねぇだろ」
「持ってるからこそ継げないんだよ」
ジョットは結果として仲間を殺され、それが原因で仲間が裏切って組織を乗っ取られた。
沢田綱吉は争いの火種になるといってボンゴレリングを破棄し、その結果10年前の自分達に地獄を味あわせた。
確かに必要な事だったのだろう。犯しちゃいけない間違いだったのだろう。
悪いのはその日攻めて来た相手だし、未来の世界を無茶苦茶にした白蘭だ。
でも、どちらも何とか出来たかもしれないんだ。
「オレは性根が甘ったれだから」
「そうかぁ? 見てたところそう甘くは見えないが」
「気を付けていないと甘い考えをするから、意図して冷徹な考えをしてんだよ。それでも十分に甘過ぎるけどさ…………さっきの復讐者戦だって手加減しなければ勝っていたし。他の人に被害が出るからしなかったけど」
時ノ庭園の炎の吸収を強めていれば勝負はもっと早くついていたし、鬼化して誰かを食べていれば間に合ったかもしれない。
全ては終わった後の話だ。こうなる前にああしていればなんて考えるのは愚かだ。でも、やろうと思えばやれたのだ。
甘さで救えるものもあるのかもしれないけど、甘さで失うものも多い。
「甘い王様は出来が悪い。容赦なく苛烈な人の方が上手くいく」
誰だって今を生きていて、望みを果たす為に生きている。
そして人と人が生きている以上、望みを叶える為に相手の存在が邪魔になるということもある。
「本当の事を言うとさ、こんな事したくはないんだけどさ」
「やっと本音を言ったか。なら仲間に頼るとかすりゃ良いだろ」
シャマルのその言葉に対し、オレは笑みを浮かべる。
「言えるわけないだろ。オレの為に死ねなんて、オレの為に人殺しになれだなんて…………大切な人達にそんな事を、十字架を背負わせるようなことを死んでも言えるわけないだろ。復讐者みたいな連中と戦って死ぬかもしれないって事がどれだけ怖いか、殺し屋のお前にはそんな事も分からないのか?」
+++
アカデミアの保健室の外側にて集って聞いていたユニを含めた生徒達が顔を俯かせて聞いていた。
ボンゴレ10代目、沢田綱吉の本音にクラスメイト達は何も言えなかった。
ついさっきまでなら彼の発言を笑って流した者も居るだろう。裏社会で生きている以上、そういったことは良くある事なのだから。ましてや、ここに居るのは裏社会の中でもそれなりの地位に居る者だ。
綱吉の言っている事は甘い、甘過ぎる。思わず馬鹿にしてしまう程には甘ったれだった。
だがさっきの戦いを見て、その考えは違うと理解する。
彼は全て分かった上でそう言っているのだ。
「…………どうして、今更」
そんな中、一人の生徒が壁に背を預けながらそう呟いた。
その呟きを聞いていた者は誰も居なかった。
+++
「そういうわけだからオレはボンゴレを継ぐ気は無い。そして当初の予定通り目的を達成したら死ぬつもりだから」
「…………別に死ぬ必要はねぇんじゃねぇのか?」
「死ななきゃダメだから死ぬよ。あ、そうだ。シャマルって一応は医者だしオレの血液でも居る? いつかはどんな傷でもすぐに治せる特効薬が出来るかもしれないけど」
そう断言する綱吉の姿を見てシャマルは天を仰ぐ。
ダメだこりゃ。もうどうしようもならない。
最初から結論が出ている、決まっているから変わらないし曲がらない。
こういった奴をシャマルは何度も見ている。自分の命で何もかもが解決できると勘違いしている馬鹿だ。
「しかたねぇか…………」
本当は使いたくなかったが仕方がない。
そう思ったシャマルは懐に隠し持っていた注射器を綱吉の首に突き刺す。
「え、何を…………?」
「使いたくは無かったがな。お前があまりにも勘違いしたバカだからな。少し荒療治する事にした」
シャマルは注射器の中に入っていた液体を綱吉の肉体に注入する。
「残念だけど、今のオレは毒とかそんなもの効かない」
「悪いがな。毒じゃねぇんだわ」
「へ――――」
ガクン、と綱吉の頭は力無く下がる。
それを見届けてシャマルは綱吉から注射を引き抜き、距離を取る。
「どうやら吸血鬼になっても効くみたいだな」
「――――何やってるんですか!?」
シャマルの突然の蛮行に驚愕したのか、ユニが保健室の扉を開けて中に入る。
「荒療治だ。こいつを改心させるにはこれぐらいの事をしなきゃダメだからな」
「だからって、何も薬を使う必要は――――」
「…………大丈夫、ユニ」
声を荒げるユニに意識を取り戻した綱吉はそう告げる。
「でも、いきなりは酷くない?」
「うっせぇ。馬鹿に付ける薬なんて本来は無いからな。持っていただけ感謝しやがれ」
「一体どんな薬なんだよ。今打ち込んだのって」
「本当に大丈夫なんですか、沢田さん」
綱吉は首を摩りながらも自身を心配するユニの方に視線を向け、目を開ける。
それを見届けた後、シャマルは綱吉の問いに答える。
「惚れ薬だ」
「――――はっ?」
「正確には薬を打たれてから一番最初に見た人間に強烈な恋愛感情を抱くように仕向ける薬だな」
シャマルがそう説明すると同時に、ユニの顔を見ていた綱吉の顔が真っ赤に染まった。
「貴重なものなんだぞ、感謝しやがれ――――」
それがシャマルが殴り飛ばされる前の最後の台詞となった。
これにて復讐者関連はいったん終了。
次はラブコメ展開になります。