特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
沢田綱吉から語られたのはボンゴレ、そしてシモンの創成期から別れまでの話だった。
初代ボンゴレと初代シモンの初めての出会い。シモン=コザァートの提案で創立された自警団としてのボンゴレファミリー。
ジョットが創り出したボンゴレファミリーとシモンが創立したシモンファミリーは強い絆で結ばれていた。
しかし、
謀反を察知した初代はシモンを助け出す為にDを除いた五人の守護者を派遣し救出する事に成功し、シモン達は現在の聖地と呼ばれている島にファミリーと共に身を隠したのである。
その時に
「ちなみにこの事はDも知らないよ。多分今も知らないんじゃないかな? あいつの事だから全てを闇に葬ったって思ってるかもしれないけど」
「…………そういう事だったんだね。でも、きみの言い方ってD・スペードが今も生きているように聞こえるんだけど」
「今も生きているからね。自分の身体を捨てて、魂だけで活動してるんだよ。多分、歴代の霧の守護者も何人かは間違いなくDだろうね。憑依してボンゴレの勢力を維持する為に今も暗躍してんじゃないかな」
ボンゴレの暗部をさらりと口にする綱吉の発言に炎真を含めたクラスメイト達はドン引きする。
いくら裏社会で生きていても肉体を捨てて別の人間の肉体を乗っ取る等、裏社会の面々からしても普通じゃなかった。
「肉体を捨て、他者に憑依する…………それって、術師にとっては外法と呼ばれている術じゃありませんか?」
「そうだよ。憑依弾とかが禁弾になっている理由の一つでもあるからね。オレも似たような事は出来ないわけじゃないし」
「沢田さんって術師ではなかった筈では?」
「あくまで似たような事が出来るってだけ。魂の物質化っていうんだけど…………まぁ、するつもりは無いけど」
するつもりが無くてもやろうと思えば出来る。
その事実にクラスメイト達の
ただでさえ不死身の怪物だというのに他人の肉体も乗っ取れるとか、人間の姿形をしてるだけの化け物だ。
「正直、あいつの企んでる事はある程度分かる。陰謀策謀巡らせてるくせに自分が手のひらの上で踊らされているって自覚の無い間抜けだから」
「へ、へぇ…………そうなんですね」
綱吉の発言に生徒の一人が口元をひくひくさせながらそう呟く。
ユニは一瞬だけその生徒に違和感を抱くも、綱吉が話している内容があまりにも濃い為、あまり気にならなかった。
「まぁ、シモンには悪いと思うけどあいつの気持ちも分からないわけじゃないし、馬鹿には出来ないけどね。ああなった過程を知ってるとね…………」
初代の記憶を思い返しているのか、綱吉は何とも言えない表情を浮かべる。
「そもそもとしてあいつは貴族で、ジョットは下町の出身だった。同じ思想、同じ願いを持ってても立場が違えば見えて来るものは違ってくる。ちゃんと腹を割って話し合っていれば、また話は違ったかもしれないけど」
「あなた…………やはり初代なのでは?」
「違うって」
生徒の発言を綱吉は真面目な顔をして否定する。
するとスカルが綱吉に対し声を上げた。
「ならオレも聞きたい事がある!」
「何?」
「お前が復讐者達との戦いで言ったチェッカーフェイスについて色々と聞きたい事が――――」
スカルが綱吉に質問をしようと話している時、教室の扉を開く音が聞こえた。
「おいお前ら。校庭に集まれ、先日出来なかった授業をやるぞ」
「そういうわけだからこの話はまた今度ね」
教室にシャマルが入ってきてそう言ったところで会話を打ち切り、綱吉はユニを抱えてその場を去る。
シャマルの頬はまだ腫れ上がっており、スカルは哀愁を漂わせていた。
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「裏社会で生きていく以上、戦闘技術は必要不可欠だ」
校庭に出たシャマルは生徒達全員にそう言い放つ。
「安全な場所でふんぞり返っていれば良い、そう考えているお前等からしたらこの授業は護身術を学ぶ事だと思ってそうだから先に言っておく。ボスになれば最前線で戦う事もある」
その言葉に生徒達の大半が騒めいた。
「無論、全員が全員そういうわけじゃねぇ。後方で指示を出す奴だって居るからな。だが、ボスかそれに準ずる立場になる以上、いざという時には戦わなくちゃいけねぇ。仲間がピンチの時に逃げ出す奴にボスになる資格はねぇ」
冷たく突き放すような口調で話すシャマルに、生徒達は言葉を失う。
「おいロリコン」
そんな中、今まで見せていた軽薄な雰囲気が消え失せながらも、頬を腫らしたシャマルに質問をする生徒が居た。
惚れ薬を服用されてトチ狂った沢田綱吉である。
「何だ、ボンゴレ坊主。言っておくけどお前にも言ってんだぞ」
「大丈夫。オレが逃げているのはボスになりたくないからであって、仲間がピンチになったら絶対に逃げないから。仮に絶体絶命のピンチで逃げなくちゃいけない時が来たとしたら、敵が居る方向に逃げる事はあると思うけど」
「それは逃げじゃねぇ。神風じゃねぇか。っていうかロリコンって何だよ。仮にも教師だぞオレ」
「そんな事はどうでも良い。質問は体操着についてなんだけど」
綱吉は女子生徒、というよりもユニの方に視線を向ける。
ユニが身に纏っていたものは、所詮体操服と呼ばれているもので日本のブルマと呼ばれるものだった。
よく見れば他の女子生徒もブルマを履いており、何処となく恥ずかしそうな素振りを見せている。
「なんでブルマなんだよ」
「趣味だ」
シャマルがそう言うのと同時に綱吉は腕を振るい、攻撃を飛ばす。
「危ねっ!?」
自らに向かって放たれた攻撃をシャマルは紙一重で回避し、背後にあった木に深々と引っ掻き傷が刻まれた。
まるで獣が自らの縄張りであることを示すかのような鋭い傷跡にシャマルは冷や汗を流す。
もし回避していなかったら間違いなく大怪我、当たりどころが悪ければ死んでいただろう。
「殺す気かてめぇ!!」
「殺す気だ!!」
急に攻撃された事に怒るシャマルに対し、綱吉は酷く激怒した様子でシャマルに殺意を向ける。
自らに向けられる殺意にシャマルは少し後ずさりそうになるも、何とか堪えて前に出る。
「あんだおめぇ。ブルマが嫌いなのか?」
「別に好きでも嫌いでも無い。と、いうか心底どうでも良い」
「なら別に構わねぇじゃねぇか」
「良くない。あんな格好じゃあユニが転んだりして膝を擦りむくかもしれないじゃないか」
「何処まで過保護なんだよおめぇは」
綱吉の言い分を聞いてシャマルは思わず溜め息をつく。
これがモンスターペアレントという奴なのだろうか。いや、沢田綱吉はユニの親じゃない。それに今は人間じゃない、単なるモンスターだ。
本当に惚れ薬なんか使わず、とっととリボーンに引き取ってもらうべきだった。
「あのなぁ。これは戦闘技術の授業だ。それなら動きやすい服装の方が良いだろ」
「ユニには要らないよ。オレが守るから」
「授業だっつってんだろっ!! 人の話を聞かない奴だなてめぇ!!」
「それを…………お前が言うのか?」
シャマルの発言に綱吉は酷く驚いた表情を浮かべる。
「兎も角、これは授業だから黙って聞け!! 裏社会じゃ自らの身を守る術は必要なんだからな!!」
そう言ってシャマルは会話を打ち切った。
だが綱吉は納得していないのか、強引に会話を続けようとシャマルに詰め寄ろうとする。
「沢田さん。私は大丈夫ですから」
ユニはそんなバーサーカーと化した綱吉の袖を掴む。
すると今までの猛獣のような姿からは信じられない程に大人しくなる。
「…………分かった。ユニがそう言うのなら」
その姿はまるで首輪に繋がれた犬のようだった。
「…………ユニの嬢ちゃんが言えば、ボンゴレのボスになるんじゃねぇか?」
不満ながらも大人しくなった綱吉の姿を見て、シャマルは思わずそう呟いた。