特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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随分と長い間お待たせしました。
取り敢えずゆっくりとですが復帰していきます。


逃亡生活その4

「ば、馬鹿な…………モスカが、全滅だとっ!?」

 

サーレファミリーの幹部である男は目の前で起こった現実を受け入れられないでいた。

最も、あれだけの数が居たモスカをたった一人の人間の手によって破壊されたら誰だって同じように思うだろう。

その上、件の少年はまだまだ余裕そうに振る舞っている。

 

「いや、それは良い。本当は良くないがそれよりも奴は、沢田綱吉と名乗ったか!?」

 

モスカを文字通りスクラップの山に変えた少年が言った名前。

それは現在行方不明になっているボンゴレファミリーの10代目候補の名前だった。

ボンゴレには本来の、後を継ぐ筈の四人の候補者が居た。

だがその四人の内三人が死亡。次期後継者として目されていた筈の最後の一人である9代目の実子は何をトチ狂ったのか7年前にクーデターを引き起こして失脚という有り様。

結果、全ての後継者が居なくなったボンゴレは日本に隠居した初代の子孫を次期ボス候補に仕立て上げたのだ。

初代の血統とは言え、つい最近まで一般人だった人間をボスにするという、大マフィアとは思えないあまりにも愚かな所業に敵対していたファミリーは失笑した程だ。

その上、ボスにしようとした子どもに逃げられるという散々たる有り様。

最早世界最大最強のマフィアの地位も失墜したのだと嘯かれていた。

 

「ふざけるな…………何だあの化け物は!!?」

 

男は目の前で行われている蹂躙劇を視界に収めてしまい、脇目も振らずに逃げ出す。

モスカを全て破壊したら今度は自分達の番だ。その事実を脳が理解する前に、あの沢田綱吉はそう言わんばかりに男の仲間達を血祭りに上げていた。

しかも全ての反撃をその身で受け止めた上、反撃の一発で仕留めているのである。

銃を撃てば噛んで受け止め、刃物で切り付けても肉体に刃が触れた瞬間溶けてしまう。

こんな怪物にどうやって勝てば良いのか、こんな化け物とどうやって戦えば良いのか。

 

「ボンゴレは、あんな化け物を後継者にしようとしているのか…………!?」

 

何が耄碌しただ、何が地位が失墜しただ。

あれだけの強さを有しているならばボンゴレから逃げられて当然だ。

急いで逃げなくてはいけない。あれに捕まれば死ぬ事よりも酷い目にあう。

遠くへ、もっと遠くへ―――――。

 

「何処に行くつもりだ?」

「がっ!!?」

 

男が逃げ出そうとした瞬間だった。

沢田綱吉が目の前に現れ、その首を掴んだのは。

 

「と、いってもお前が逃げようとしているのは分かってたんだけどな」

 

逃げ出そうとした男の首を掴みながら、沢田綱吉は鬱陶しい羽虫でも見るような瞳で睨み付ける。

 

「暫く眠ってろ!!」

 

怒りという感情に身を任せたまま繰り出された拳は男の顔面に深々と突き刺さり、意識を奪い取った。

 

   +++

 

「ふぅ、あーもう、疲れた…………」

 

モスカとマフィア連中を一人残らず叩き潰した後、瓦礫の山に腰を掛けて溜め息をつく。

超死ぬ気モードはかなり強いけどかなり疲れる。まぁ口ではそうは言うものの実際はまだ余裕なのだが。

それでも疲れるには疲れる。この程度の相手ならば死ぬ気モードで十分だっただろうか。

戦いが終了して余裕が出来た為、今回の戦いの反省点を思い返していると一人の少年が自分の前に立った。

 

「貴方が、沢田綱吉さんですか?」

「ん? そうだけど――――」

 

ふと目線を上げ、声を掛けて来た人物の方に向ける。

さっきは殆ど見ていなかった為、分からなかったがよくよく観察してみればかなりのイケメンだ。

恐らく地毛であろう銀髪に整った顔立ち、不良的な顔立ちの良さもある。

そして煙草と火薬の臭い――――、

 

「ん!?」

 

既視感のあるその臭いと顔に思わず言葉を失う。

俺の前に立っている少年、それは間違いなく獄寺隼人だった。

どうして、何でここに居るんだ――――そうつっこみを入れるよりも先に、獄寺隼人は嬉しそうな顔をして土下座をした。

 

「お見事でした!!」

 

誰もが見惚れる程に綺麗な、見事な土下座だった。

思わずその土下座に見惚れてしまう中で、獄寺隼人は勢いよく捲したてる。

 

「貴方の事を一度でも疑い、失望した俺が間違っていました! 見ず知らずの俺なんかを守ってたった一人で戦った貴方こそ、ボンゴレ10代目に相応しい!!」

 

あかん、これマジであかん。何とか話を中断してこの場から逃げないと。

そう考えていると何者かに左肩を叩かれた。

背後から感じる恐ろしい気配に恐怖を覚えながらゆっくりと振り向く。

 

「――――ボス?」

 

そこには良い笑みを浮かべた、しかし怒っていると確信する程の威圧感を発揮している凪の姿があった。

 

「な、凪…………どうしたの?」

 

彼女が怒っている理由が分からない、そんな意図を込めた質問を投げかけると凪は鎌を取り出した。

 

「ボス。私、怒ってる」

「え、えっと…………なにか不愉快なことでもあったの?」

 

俺の足下に鎌が振り下ろされた。

 

「ひ、ひぃっ!?」

「ボス。何で一人で戦ったの? 私は止めようとしたのに、何で危ない事に首を突っ込んでるの?」

 

ゴゴゴゴ、と効果音が鳴りそうな程に怒っている凪。

彼女は視線を一切逸らす事は無く、俺を見据えている。

助けを求める視線を獄寺隼人に投げかけて見る。残念な事に顔を青くして顔を逸らしていた。

 

「え、えっと…………何となく、かな?」

 

視線を戻し、俺が語った答えを聞いて凪は更に笑みを深める。

それと同時に藍色の死ぬ気の炎が漂い始め、実体のある幻覚、有幻覚で出来た鎖が出現し始める。

 

「少し反省して」

「ちょっ、まっ――――ギャァアアアアア!!?」

 

自らに迫り来る鎖の群れに俺は情けない悲鳴をあげた。

 

   +++

 

「と、取り敢えず今は次の潜伏先を決めようか」

 

全身に鎖が絡み付いたままの状態で俺は凪と新たにこの逃避行に加わる事になった獄寺君にそう告げた。

凪の折檻を受けた後、獄寺君は俺の右腕になると宣言して色々一悶着あったものの幸いなことにボンゴレには伝えないでくれるらしい。

曰く「俺が忠誠を誓ったのは貴方です」との事だ。

ポンコツに見えるが獄寺君はかなり優秀で頭が良い。そんな人間が身内に加わってくれるのはありがたいところがある。

正直な話、ボケることはあれど数少ないツッコミキャラ。その上裏切らないのであれば味方としては心強い。

悪い点があるとしたら俺の胃が犠牲になることぐらいだろうか。

鎖で全身を拘束された状態のまま芋虫のように這いずる。

 

「10代目、少しよろしいでしょうか」

「ん。何かな獄寺君」

「現在ボンゴレファミリーに所属する人間は10代目を探す為に世界中に飛び回っています。それに――――」

 

獄寺君は少しだけ言い淀むが続ける。

 

「10代目の捜索にはリボーンさんや彼と同じアルコバレーノが参加しています」

「…………そっかぁ」

 

その言葉を聞いた瞬間、脳が理解する事を拒んだ。

 

「ちなみに参加しているアルコバレーノはコロネロ、バイパー、(フォン)っていう奴等らしいです」

「…………そっかぁ」

 

多分今の俺の眼は死んでいる事だろう。

リボーンが俺を探すのは分かる。だって家庭教師なんだもの、授業を受ける前に逃げ出した生徒を捕まえて連れ戻すのだって仕事の一つだ。表社会の人間ならかなりの大問題だが裏社会の人間ならば問題は皆無だ。

でも何でアルコバレーノの中でも武闘派の二人も参加してるんだろうか。

バイパー、もといマーモンが参加している理由は分かる。あの性別不詳で永劫回帰信者の霧のアルコバレーノはかなりの守銭奴だから、大金を積まれれば探すのは予測出来ていた。

そもそもマーモンには念写という鼻水を使った探知能力がある。ぶっちゃけこいつの対策のせいで凪を連れていかなくちゃいけなくなったのだから。

 

だけど他の二人までが参加するとは思わなかった。

 

コロネロ、風――――両名ともリボーンに匹敵する実力者だ。

だけどコロネロはリボーンと仲が悪い筈。いや、コロネロの場合は奥さんのラル・ミルチが言えば参加するか。リボーンが挑発したら乗って来そうだし。

でも何で風までもが参加するのだろうか。

 

「大丈夫ですって10代目! 貴方が既に教育を受けなくてもボスとして君臨できることをリボーンさん達に証明しましょう!!」

「獄寺君、お願いだからちょっと黙っててね」

 

駄目だ、本当に頭が痛くなってくる。

と、いうか獄寺君よ。もしやきみが俺の家出に同行する理由ってまさか既に10代目になるって決意しているからって思ってるの?

ならんぞ、マフィアなんかに絶対にならないからな。

 

「なんで風も俺を探す事になっているんだろうか…………」

 

理由として考えられるのはいくつかあるが、恐らくボンゴレファミリー、もしくはリボーンが依頼したんだろう。

前者なら逃走難易度が爆発的に上がるがそれはそれで良い。だけど後者なら話は別だ。

リボーンが他のアルコバレーノに頼んでいた場合、それは俺を一切なめていないという事なのだから。

その場合アルコバレーノ達は油断や慢心なく襲い掛かって来ることだろう。

 

「はぁ、そうだったらマジで最悪だよ」

 

まぁリボーンはプライドが高いから後者はありえないだろう。

 

「それでボス。銀髪の人の言う事が本当だとして、それを加味して何処に潜伏するの?」

「うーん。ちょっと考え中――――いや、一つだけ良い場所があるか」

 

多少の危険性はあるが、リスクを負ってでもその分だけのリターンがあるなら試しても良いだろう。

 

「獄寺君ありがとう。きみのおかげで良い場所が思い浮かんだよ」

 

本当に獄寺君様々である。

木を隠すなら森の中、人を隠すなら街の中、そして逃走中のボス候補を隠すなら裏社会にだ。

 

「次の潜伏先はマフィア達が作ったマフィアによるマフィアの為のリゾート地、マフィアランドだ」

 

今、コロネロは俺を探す為にマフィアランドには居ない。

ならば潜伏するにはもってこいの場所だろう。まさかボンゴレファミリーも裏社会に潜伏するとは思ってないだろうし。

とは言え、油断は禁物だ。全盛期に比べれば弱いかもしれないが人類最強の七人の赤ん坊に命を狙われているのだから。

俺達自身のレベルアップもやらないといけないよなぁ。

 

「それじゃあ行くとしようか」




次回、マフィアランド編!
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