特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
「取り敢えずさ、少し出で立ちを変えようと思うんだよ」
マフィアランドに向かう船に乗船するついでにサーレファミリーだった建物があった場所を更地に変えた後、自分達の姿を軽く確認してからそう言った。
「ボス、いきなりどうしたの?」
「俺達ってボンゴレに追われてるじゃん。いや、追われてるのは俺だけなんだけどさ…………凪の幻術があるとはいえ、何が起こるか分からないから変装をしようと思うんだよ」
「それは私の幻覚が頼りないってこと?」
「そうじゃない、そうじゃないからそんな悲しそうな顔をしないで。凪の幻覚は凄いって分かってるから。でも追ってきてるのがアルコバレーノ、しかも四人も居るわけだし念には念を入れようと思うんだよ」
特に
実際前例があるわけだし、警戒に警戒を重ねても問題は無いだろう。
そう呟きながら懐から精製度Eの晴れのリングを取り出す。
「と、言っても変装初心者の俺達が出来る事なんてすぐにばれるだろうしそもそも技術が無い。こればっかりは死ぬ気で頑張ってもどうしようもない。だから髪の毛を伸ばそうと思うんだよ」
指に晴れのリングを装着し、晴属性の黄色の死ぬ気の炎を灯す。
晴属性の死ぬ気の炎の特性は活性、その名の通り活性化させる力を持つ炎だ。そしてその炎を頭に浴びせる。
髪の毛が急に伸びる事なんて無いし、無理な変装でも無いから違和感を持たれにくい筈だ。
「…………ああもう、俺晴属性の波動弱いから遅いんだよなぁ」
じわじわと伸びる髪の毛を眺めながらそう呟く。
人間は大なり小なりいくつもの属性の波動が流れている。当然ながら持っていない属性もあるし、全ての属性の波動が流れている場合もある。
逆に言えばそれはあくまで流れているだけなのだ。
リングを通す事で死ぬ気の炎としてメイン属性以外の炎も使えるようになるが、それらはメインの属性に比べるとどうしても弱くなる。
その強弱も個人差があるが、俺の場合は全属性の波動こそ流れているものの大空が10であるなら他は1にも満たない。正直に言って実戦では使えない代物だ。
まぁ他の属性も使って戦うのはかなり難しい、その事をこの世界に転生してようやく分かった。
霧属性の波動も持っているあの人がそれを戦いに使わない理由はそれだろう。
「…………やっぱり、取りに行くべきか?」
正直に言って現状じゃ素のスペックを鍛えること以外に強くはなれない。
他の属性を使用した戦いも出来ない、出来たとしても誤差の範囲内だ。
で、あるならば自分でも使う事が出来る属性を持つあのリングを――――、
「ボス? どうしたの?」
「え、ああ…………なんでもないよ」
脳裏に過ったある考えを脳の片隅に追いやり、長くなった自分の髪を見つめる。
改めて鏡で自分の姿を確認する。その姿は母譲りの顔立ちもあって女の子に見えなくもなかった。
「じゃあ凪も髪の毛を伸ばそうか」
「ボス。私よりも先に銀髪の人をお願い。私は服の方を選ぶから」
「分かったよ。さて、っと」
視線を凪から眠っている獄寺君の方に向け、晴れの炎を浴びせる。
「獄寺君も髪を伸ばそうね」
この後、起きた獄寺君が「何じゃこりゃぁああああああ!!?」って叫ぶことになるのは分かり切った話である。
+++
雲一つ無い晴天下の下にあるマフィア達の楽園、マフィアランド。
普段から裏社会のどす黒い闇に身を浸している彼等が一時でも忘れたいが為に作ったここは正しく世界有数のリゾート地と言っても過言では無いだろう。
実際、堅気ではない人々が真っ新な気持ちになって楽しんでいる姿を見ると楽園の名に相応しいだろう。
「いやー、本当に良い場所だね。こんな格好でなきゃ素直に喜べたんだけどなぁ…………」
そう呟いて自分達の姿を見やる。
獄寺君は何処かの由緒正しいコンサート等で音楽家が纏うようなスーツを身に纏っている。かなり似合っている。
凪は黒いビキニの上に上着を羽織っており、下はホットパンツだ。
そして俺は何故か巫女服だった。
「凪、何で巫女服なの?」
「ごめんボス。それしか無かったから」
嘘だ、こいつ絶対嘘をついている。超直感が嘘を言っていると告げている。
だからといってもうどうしようもないわけだが。
「何で南国の島に居るのにこんな格好をしなくちゃいけないんだよ。獄寺君は似合ってるから良いとして」
「すみません10代目。俺もちょっとこの格好は…………」
獄寺君はかなり微妙そうな表情を浮かべていた。
どうやらお気に召さなかったらしい。いや、彼の過去の事を考えるとあまり良いものじゃなかっただろう。
凪から渡された服からアロハ等の南国で着る服に変える。
その際に凪が少し不満そうにしていたが、気にしない事にする。
「まぁ、それはそれとして俺達も楽しもうか。折角のリゾート地に来たわけなんだしさ」
コロネロが居ない今ならば自分も楽しむことが出来る。
うん、リボーンと関わらないだけでこんなに優雅に過ごすことが出来るなんて夢にも思わなかった。
本当、こんな日々がいつまでも続けば良いのに。
+++
「そういえば10代目。あの女は一体何者なんですか?」
ホテルでの夕食を楽しむ中、凪が席を立っている時に獄寺君が聞いてきた。
「あの女って…………凪のこと?」
「はい。10代目とはかなり親しいのは分かるんですが」
獄寺君は訝しげに顔を顰めながらそう呟く。
そういえば獄寺君に説明とかしてなかったな。殆ど流れ作業のように同行してたし。
「強いて言うなら幼馴染、あるいは義妹かな?」
「い、義妹っすか? その、10代目には兄弟が居ないと聞いていましたが」
「凪は養子だからね。まぁ、色々あったんだよ。色々とね」
半ば育児放棄されていた幼少期の凪に接触し、父さんと母さんに頼んで養子という形で引き取ってもらったのだ。
その結果、幼少期に過ごした時間の違いで、【クローム髑髏】よりも明るくなっている。
少なくともあのままあの家に居させるよりはマシだったとは思いたい。
いくら幻覚で補えるとは言え、内臓の喪失と眼球を失った上に実の家族からすら要らないって言われるのはあまりにも酷すぎるから。
六道骸に救われた【クローム髑髏】と俺が助けた【沢田凪】。
どっちが幸せか、不幸せかは分からないけど…………あの時の自分はいつか救われると分かっていても放置する事なんて出来なかった。
「大丈夫、獄寺君が心配しているようなことは起こらないから」
恐らく獄寺君は凪の事を警戒しているのだろう。
まぁ凪からしたら急に俺の仲間になりたいと言った獄寺君も同じように警戒対象なのだけど。
さっき席を立った凪が幻術で身を隠しながら獄寺君を遠くから観察しているんだし。
「凪が俺を裏切ることはありえないよ。まぁ、それでももし凪が俺に刃を向けるような事があるとするならばその時は俺が間違っているってことだから」
「そんな、10代目が間違うようなこと」
「人は間違えて失敗するよ。どれだけ完璧に振舞っていてもね」
本当に完璧に振舞う事が出来るならば俺がボンゴレの後継者にならないように、死んだ他の三人の後継者を死なせなければ良いだけの話なのだから。
だがそんな事は出来なかった。如何に力を鍛えても、どれだけ知恵を身に着けても出来ない事は沢山ある。
そもそもとして遠く離れた異国の地で、何時死ぬのか分からない相手を死なせない様にするということ自体が無理無謀な話だ。
本当に世の中上手くいかないことだらけである。
「ま、そういうわけだから獄寺君も俺が間違っていると思ったら容赦なく言ってくれて良いから。言葉で言っても分からないようならぶっ飛ばしても構わないからね」
テーブルの上に置いてある何か妙な風味のりんごジュースに口をつけながら、俺の言葉に戸惑いを見せる獄寺君の姿を視界に納めた。
+++
「失敗した、まさかあのりんごジュースがお酒だったなんて…………」
美味しかったからつい飲み過ぎてしまった。
そのせいでべろんべろんに酔っている。それでも一緒に飲んでいた獄寺君のように酔い潰れてはいないが結構きつい。
父さんの血筋なのかは知らないが酒には結構強いが、ピッチが早過ぎた。
何だよ二時間で10杯って、酔っ払うに決まってる。
「み、水…………」
「はい、ボス」
ロビーの壁に凭れながら凪が持ってきた水を飲み干す。
少しは楽になっただろう。だがまだ安静にしてないときつい。
「ボス。ちょっと浮かれ過ぎだと思う」
「ごめん。本当に浮かれ過ぎていた」
いや、本当に楽しかった。
こうして遊び回るのは本当に何年振りだろうか。
家出をする前は友人達と修行したり、修行したり、戦ったりしたけど遊ぶのは本当に久しぶりだ。
別に遊んでなかったわけじゃなかったが、それでも何も考えずに遊んだのはここ最近無かった。
これで皆が居れば文句は無いんだけど、そう上手くはいかないみたいである。
「こんな日常が何時迄も続けば良いのになぁ…………」
そう呟かずにはいられなかった。