特別だからって世界を救う義務は存在しない。   作:霧ケ峰リョク

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今話はちょっと難産でした。
演説とか難しすぎる。


逃亡生活その7

「このマフィアランドで過ごして早一ヶ月か…………本当に長く過ごせたなぁ」

 

これから乗り込もうとする船に背を向けて、今まで過ごして来たマフィアランドを瞳に収める。

本当、本当に楽しい一ヶ月間だった。ここまでリフレッシュ出来たのはいつ以来だろうか。

本当に家出をして良かった。

もし家出をしていなかったら今頃どうなっていたのやら。リボーンにボンゴレ10代目になる為にしごかれていた事だろう。

 

「出来ればここでもう少し過ごしたかったんだけどなぁ」

 

本当にあの晴のアルコバレーノには困ったものだ。

どうして俺一人を探す為に他のアルコバレーノにも声をかけるのか。

だが俺は諦めない、諦めなければいつかきっと夢は叶うのだと信じているのだから。

 

「じゃあ、二人とも。行こうか」

 

もうここに戻って来ることは二度と無いだろう。

一度使った手が通用する程、アルコバレーノは甘くない。

だからこの楽園という名のリゾート地は逃げ場としてはもう使えない。

その事実に名残惜しい気持ちになるが、後ろを振り向いてはいられない。今はただ真っ直ぐ前だけを向いて歩いて行こう。

そんな事を考えながらマフィアランドを後にし、船に乗り込もうとする。

凄まじい音を上げて船が爆発したのはその瞬間だった。

 

「…………はっ?」

 

これから乗る筈だった船が突如として大爆発を引き起こし、そのまま海中に沈んで行く様を見て思わず呆気に取られてしまう。

一体何が起こったのか、そう思いながら周囲を見渡すと軍艦が何隻か姿を現した。

その内の一隻が煙が出ている砲身を船に向けており、今乗る筈だった船を沈めたのがこの軍艦の群れである事をりかいする。

 

「カルカッサファミリーの連中が攻めて来たぞー!!」

 

周囲に居た旅行者、もといマフィアの叫びを聞いて俺は乾いた笑みを浮かべずにはいられなかった。

 

   +++

 

唐突だがマフィアランドというものは薬に手を出さない、所謂善良なマフィア達が金を出しあって建設した移動島である。

マフィアに良いも悪いも無いとは思うが、悪いマフィアがそれを面白く思う事は無く、逆にマフィアランドを奪おうとしているのである。

それで良いのかマフィア社会。そう思わずにはいられないが、人間振り切れたら何処までもバカな行動をするものだ。

まぁこれに関しては自分も例外では無いので何とも微妙な話になるのだが。

 

「今回の戦い、伝統のある俺達ジオーラファミリーが仕切らせてもらう」

「いえいえ、勢力を拡大している我等ベルナファミリーが仕切らせてもらいます」

「いや、ここは精鋭揃いのオルトファミリーが仕切る!」

 

会話を終えた瞬間、自分が仕切ると叫びながら内乱が始まった。

本当にバカだ。俺も結構バカだけどこいつらもバカだ。

 

「乗る船は潰されちゃったからなぁ。流石にこのまま出航は無理か」

 

本当に何て最悪なタイミングで襲撃をして来るのか。

これは後でカルカッサファミリーをぶっ飛ばさないとダメだろう。

そんな事を考えながら視線を凪に向ける。

 

「凪――――――――」

「…………折角のチャンス、だったのに…………船の中なら逃げ場が無くなるから…………」

「やっぱりちょっとショックだったか」

 

まぁ当然と言えば当然か、いきなり乗る筈だった船が爆発したのだから。

もしもう少しだけ乗るのが早かったならば今頃自分達は海の藻屑となっていただろう。

最もそれは何もしなかった時の話で、海の藻屑になるその前に二人を連れて脱出するのだが。

だけどやっぱりというか凪にはショックが大きかったのかもしれない。

何故かそれは違うと超直感が告げているが、細かい事は気にしないでおこう。

 

「獄寺君の方は――――」

「どいつもこいつも自分が仕切るって言いやがって! この場を仕切るのは10代目に決まってるだろうが!!」

「うん、知ってた」

 

獄寺君はそっちに混ざるって分かってた。

ただ少しは相談してほしかった。まぁ俺も自分が仕切った方が良いとは思ってたけど。

 

「何処の10代目が仕切るって?」

「ボンゴレファミリーだよ、っけ!」

 

睨みを聞かせながら問い詰めて来るマフィア連中に対し、獄寺君は感じ悪そうに言い放つ。

もう少し愛想を良くした方が良いとは思うのだが、マフィア社会で育ってきた分、舐められちゃいけなかったのだろう。

とは言え、感じが悪いのは駄目だと思うから後でそこを直した方が良いだろう。

そんな場違いな事を考えていると周囲のマフィア達が戦慄した様子で俺を見ていた。

 

「あ、あれがあのボンゴレの最終兵器…………!」

「あのサーレファミリーをたった一発の拳で皆殺しにしたという…………!」

「こんな少年がファミリーのアジトを更地に変えただと…………!?」

 

彼等の評価を耳にして思わず頭を抱えたくなった。

まさか世間でそんな評価をされているとは思わなかった。いや、まぁそれなりに強いから噂にはなるかなって思ってはいたけど、なんでそんなリーサルウェポンみたいな噂を流されているんだ。

そもそも俺は誰も殺していない。サーレファミリーの奴等だって此方から攻撃したわけではない。まぁファミリーがあった建物は俺がぶっ壊したけど、あくまで戦いを挑んで来る奴等の攻撃を全て防いで一撃で気絶させただけだ。

ただ途中から相手側が攻撃を止めて意気消沈してしまった為、サーレファミリーの建物を壊すのは本当に簡単に済んだのだが。

とはいえ、そんな事は今はどうでも良い。

重要なのはカルカッサファミリー襲撃についてだ。

 

「はぁ…………」

 

溜め息をついて頭を掻きながら軽くマフィア達を見渡す。

ここで弱気や丁寧、臆病に振舞うのは駄目だろう。下手すれば神輿として担がれて最前線に送られるか、舐められて終わりだ。

俺一人なら別にそれでも良いけど、獄寺君の面子もあるからなぁ。

よし、ここは気合入れて真面目にやろう。舐められない様に、彼等を支配下に置ける様に。

そう考えた俺は頭の中でスイッチを切り替えた。

 

   +++

 

「――――貴様等、頭が高い。跪くがいい」

 

ボンゴレ10代目候補、沢田綱吉はその言葉を呟くと同時に威圧を放った。

空間を支配するような言葉に周囲に居たマフィア達は誰もが例外なくその場に跪く。

意図して跪いたわけでは無い、思考するよりも先に身体の方が動いたのだ。

そして、それは獄寺隼人と沢田凪も例外ではなかった。

 

「そうだ、それで良い。血の気が多いのは許そう、喧嘩っ早いのも許そう。だが、最低限の礼儀すら無い奴は許さん。幸運なことにそんな輩は存在しなかったみたいだがな」

 

周囲を一瞥した綱吉がそう言った瞬間、安堵の息を漏らす。

もしそんな輩が居たならば死より悍しい最後を迎えることになるだろう。

 

「別に仲良くしろとは言わない。明日明後日には殺し合う仲なのかもしれないからな。だが今日は違う。皆等しく俺の仲間だ。仲間同士で争うなんて真似はやめて、その気力を敵に向けろ。勿体無いし、時間の無駄だし、何より無意味だ」

 

その言葉とともに全身を押さえ付けていた威圧感が消失する。

そして、誰も彼もが綱吉の顔に視線を向ける。

 

「と、まぁ前口上は苦手だからこれぐらいにして…………それじゃあ、戦争の時間だ。手柄が欲しいならしっかり俺について来い!!」

 

笑みを浮かべた綱吉が言い放つと同時にその場から姿を消した。

突如として姿が消えた綱吉の姿を探そうと皆が周囲を見渡し、カルカッサファミリーの軍艦がある方向に特攻している綱吉の姿を目視した。

 

「お、俺達も続くぞ!!」

 

この場に集まった個性豊かなマフィア達は急いで綱吉の姿を追い掛ける。

若きボンゴレ10代目、その片鱗に畏怖を抱きながら。

 

「…………銀色のタコの人! 急いで! ボスを追うよ!!」

「ちょっ、誰が銀色のタコだ!! それより作戦は立てねぇのか?」

「作戦なんか立ててたら間に合わない。それに…………」

「それに?」

「下手したらまたボス一人だけで大暴れしそう。そうならないようにしないと」

 

凪と隼人もそう会話しながら、消え去った綱吉の姿を追い掛けた。

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