特別だからって世界を救う義務は存在しない。 作:霧ケ峰リョク
突如として海が凍り付いた。
マフィアランドという名前の移動する島に攻め込もうとしていた戦艦は海ごと凍り付いて身動き一つ取れなくなる。
一体何が起こったのか、船を指揮する者は急いで状況を確認しようとして――――、
「やぁ、諸君。ごきげんよう」
唐突に現れたソレに戦艦に乗っていたカルカッサファミリーの船員達は誰一人例外なく視線を奪われた。
海面を凍らせた氷。その中でも不自然なまでに上に伸び、船の甲板よりも高い位置に居る一人の少年に。
「いきなりで悪いけどきみ達の移動手段である船はこっちの都合で止めさせてもらった。ちなみに無理矢理動かそうとしたら爆発するようにした。動力炉ごと凍らせたわけだからね」
髪の長い少年の姿をしたソレは氷で作った椅子に腰を掛けており、顎に手を当てて語り掛ける。
「さて、と…………諸君、戦争を始める前に一つ言っておこうか――――貴様等は今ここで降伏する事こそが最も賢く正しい選択である」
断言、有無を言わさないその発言にカルカッサファミリーの面々は怒りで沸騰しそうになる。
銃をこの少年に向けて発砲しなかったのは、周囲一帯が凍り付いていて、その冷気によって頭が物理的に冷やされていたからだろう。
「最も、こんな事を言ったところでそれを止める者は居ないだろう。だからもう降伏しなくて良い。そもそもとして、俺もするわけが無いと思っていたからな。だから今の発言は忘れろ」
そのかわり――――そう呟きながら一本の刀を手に持つ。
「これから始まるのは戦争なんかじゃない」
少年はその手に持った刃を振るった。
瞬間、複数ある戦艦の内の一つが縦に両断された。
「――――ヤンチャなペットに対して行う、ただの躾だ」
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真正面から両断し、二つになった戦艦を見下ろす。
零地点突破・
それを応用して死ぬ気の炎のように刀身に冷気を纏わせ、応用して放った斬撃。
その効果は中々悪くない成果を見せており、斬られた断面は冷気によって凍てついていた。
中々に上等な結果だろう。船が爆発して味方が巻き添えになったらたまったものじゃないのだから。
まぁこれが刀を使う彼ならばもっと船を切断する事が出来ただろうが。
「さて、と…………そろそろ味方が合流する頃か」
視線を下に向けるとマフィアランド連合、もとい味方が凍った海面に殺到し、船やカルカッサファミリーの連中に対して攻撃を開始していた。
その中には獄寺君は当然、凪も居る。
「くらえ、ロケット・テンペストボム!」
獄寺君はついこの前完成させたロケットのように飛ぶダイナマイト、ロケットボムを使ってカルカッサファミリーの連中を吹き飛ばしていた。
しかも俺が与えたリングを使って嵐属性の死ぬ気の炎で火を付けている。
あれなら破壊力はかなり増すだろう。と、いうか嵐の属性とダイナマイトの相性が良過ぎる。
「邪魔」
一方、凪の方は竹刀から変化した刀を使ってカルカッサファミリーを倒していた。
額には藍色の霧属性の死ぬ気の炎が灯っており、同じように霧の炎を纏った刃を振るって華麗に舞う。
どうやら修行の成果は出ているようであるらしい。
凪、もとい術師の弱点は主に近接戦闘だ。六道骸や幻騎士といった例外はあれど、基本的には接近戦が苦手である。そもそもとして術師は幻覚を見せて惑わせるのが仕事なのだから鍛える必要が無いのだろう。
とはいえ、俺が凪を鍛えない理由にはならない。接近戦も出来る術師と出来ない術師、どっちが強いかと聞かれたら間違いなく前者だ。
だからこそ、このマフィアランド滞在中の間、俺は凪を鍛える事に専念したのだ。
崖登りで基礎体力を作り、死ぬ気状態での戦闘、そして
その全てを体得した今の凪は、このマフィアランドに来る前と比べたら天と地程の差がある事だろう。
「二人とも問題無さそうだね」
鎌ではなく刀を使っている事が少し疑問だが、一応どのような武器であったとしても戦えるように教えてはいる。
特に刀は友達の中にメインウェポンで使っているのが居たから、彼のお父さんに頼み込んで一緒に鍛えて貰ったから他のマフィアよりは強いだろう。
それにいざとなれば助ければ良い。最も、助ける必要は無さそうだけど。
「――――っと、少し油断した」
自分に向けて放たれた弾丸が身体に当たり、カァンと甲高い音を立てて弾く音を聞いてそう呟く。
今は戦闘中だ。だというのに呑気に考え事をしているなんて、本当に油断し過ぎだ。
まぁ、死ぬ気の炎を鎧のように纏っていたから防御力は問題無かったが、それはそれだ。
取り敢えず今はこの戦闘を終わらせることを優先するとしよう。
「オラァ!!」
「ぶげらぁ!!?」
拳を振るって近くに居たカルカッサファミリーの一人を殴り飛ばす。
顔面を殴られた事で宙を舞った男は殴り飛ばされた先に居た人達を巻き込んで気絶した。
現在、超死ぬ気モードにはなっていない。それでも死ぬ気モードにはなっているが。
「それにしても、この技は中々良いかもな」
鎧のように全身に纏っている死ぬ気の炎の中で感触を確かめる。
元々は知識の中にあった技だ。確か身体を鎧のように覆うイメージだったか、問題なく出来ている。
多少死ぬ気の炎の消耗が増すが、基礎能力自体があがるし防御力や攻撃力の上昇にもなる。
もう少し練習し、実戦を重ねれば無駄の方も無くなるだろう。
死ぬ気の炎で再現できるかどうか不安だったけど、これなら問題は無い。
「そりゃ!!」
「ぬぼらばっ!?」
「ぶべぁらあああああああああああ!!」
更に数人ほど蹴り飛ばして近くの戦艦に叩き付ける。
直接殴った方が良いと思っていたけど、この弾く力というのも中々悪く無い。
防御としても使用できるし、直接触れるわけじゃないからこっちのダメージも少ないし手加減するのにも使える。もう一段階上の技が使えるが、流石にこっちは手加減が出来るようなやつじゃないし下手したら殺しかねない。
まぁ今回の戦いでならこの弾く力だけで十分だろう。
「や、やべぇ…………あの化け物マジでやべぇ…………!」
「なんで…………なんでマシンガンが当たっているのにビクともしてねぇんだよっ!! 普通は死ぬだろ!!」
「こ、こっちに来るんじゃ――――うぼぉあああああああああ!?」
なにやら失礼な発言をしているカルカッサファミリーの集団の所に突っ込む。
集団は俺が突っ込んだ事によって全員がミルククラウンの如く宙を舞う。その数は恐らく十数人。
「…………警戒のし過ぎだったかな?」
カルカッサファミリーと言えばアルコバレーノの一人が所属している。
正直な話、そのアルコバレーノは特に強いというわけではない。が、戦って絶対に勝てるという保証も無い。だから居るならば速攻で倒したかったのだけれど、この調子ならば問題は無さそうだ。
そう考えながら戦っていると何処からか爆発音が聞こえ、味方が悲鳴を上げながら宙を舞う姿が視界内に映り込んだ。
「…………まさか、獄寺君が間違って味方にぶっ放したとかそういうわけじゃないよね?」
脳裏に過ったある可能性に俺は思わず顔を青褪めて、爆発音が鳴った方に視線を向ける。
煙が晴れるとそこには鎧のような物を装備した巨大なタコの足のような物が凍った海面から生えており、マフィアランド連合の皆に攻撃を加えていた。
ドシンドシンと音を立て、味方が宙を舞う。
「やっぱりそううまくはいかないか」
まぁ、居なければ居ないで良かったというだけだし、居たら居たで対処すれば問題無い。
正直な話、色々と酷評されているとはいえ最強の七人の一人。
俺が戦って勝てるか不安ではあるが、やらないわけにはいかない。
「でもその前に…………」
自分の周囲を取り囲んでいるカルカッサファミリーの連中に視線を向ける。
「こいつらを片付けなくちゃな!!」
カルカッサ「おい馬鹿来るんじゃねぇ!!」