元司令と艦娘が登山するだけの話   作:zenjima7

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幕間、護衛艦ゆきくら士長のリスニング

「国防海軍あさひ型護衛艦3番艦ゆきくら士長」

「はっ」

「これは詰問ではない、そう堅くならずに答えてほしい」

「……はい」

「ゆきくら乗員230名の内、帰還したのは貴官以下24名、内火艇一艘だけだ。艦長以下206名が、戻らなかった」

「……」

「すまない、ゆきくらには同期も乗っていてな。では聞かせてくれないか、何があったのか」

「はい」

 

 

……………

 

 

「成る程、OYQ-13他、OPY-1、OQQ-24など殆ど全ての電子機器がバグを起こしとたのと、隊員たちが頭痛を起こして倒れてしまったのは同時だったんだな」

「ハイ、頭痛を訴える者、嘔吐する者、気絶してしまう者と症状はまちまちではありましたが、殆どの者は戦闘継続が出来ない有様でした」

「貴官、頭痛は?」

「不思議なことに、自分にはありませんでした。自分以外にも少人数ながら無事な者がいました」

「ふむ、その少人数で僅かな反撃と、艦内消火活動、脱出の先導を実施したのか、大したものだな我が軍の兵たちは。内火艇は出たのか?」

「ゆきくらの内火艇は3艘全て脱出しました」

「しかし帰還を果たしたのは1艘のみだが、追い討ちがあったということか?」

「はい……実は、自分が搭乗した内火艇も敵に拿捕されてしまい、沈む寸前でした」

「ほう、どういうことだ?」

「どう解釈すべきか自分には解りかねますので、見たままを述べます……」

 

 

……………

 

 

 海上を橙色に染める炎の中で、乙女たちは踊り狂う。彼女たちは逃げ惑う獲物を一匹残らず始末する為に母艦から放たれた猟犬、後に深海軍海上突撃歩兵、class-REと呼ばれる深海の乙女。

 彼女らは海面をスケーティングし、海上でジェットスキー並の縦横無尽の機動力を発揮し、逃げる内火艇を追い両手に装備した黒光りする火器で容赦無く粉砕する。

 未だ健在だった護衛艦に対しては舷を這い上がり、直接乗り込んで艦内から蹂躙。もう殆ど一方的な虐殺に近く、深海人たちから喜声が上がっている。

 

 フルスロットル、内火艇のエンジンが甲高い悲鳴をあげて限界を訴えているが、労わってやる暇はない。

 赤い瞳を輝かせた深海軍歩兵の群れが、すぐ後ろまで迫ってきていた。俺たちはアレを追い払う為の一丁の銃すら持っていない、ただひたすら尻尾を巻いて逃げるしかない。

 

「徐々に引き剥がしてきている、助かるぞ!」

「い、一曹、ダメだ、前!」

「あああっ!」

 

 後ろの歩兵たちとの距離が開けてきた、と一瞬だけ湧いた希望は前から迫ってくる赤い瞳の一群によってあっさり打ち砕かれた。

 

「止マレ、止まらぬナラ、撃ツ!」

 

 何と日本語だった。隊長らしい深海人が日本語で停船を促し、歩兵たちが武装をこちらに構えて包囲する。

 内火艇は停船し、俺を含む隊員は両手を上げて立ちあがった。

 

「ホウ、ソレは陸人たちの降参の姿勢カ?」

 

 深海軍隊長が値踏みするようにジロリとこちらを見つめていた。今俺たちの命は、彼女の手の平の上に乗せられている。殆どの隊員たちは頭痛でうずくまって動けない、俺たちは覚悟を決めて前に出て、後は彼女の判断に身を任せた。

 

「フム、貴様たち、誰モ命乞いをシナイカ? 見たところマトモに動けるのは4人だけ、4人でこれだけの人数を先導し守りながら逃げていたのか。敵ながら見上げた兵たちではナイカ、棲姫様に報告すべき事柄だな」

『何をしているっ、それは私の獲物だぞっ!』

 

 さっきまで俺たちを追っていた歩兵群が追いついて包囲群と合流したが、なにやら様子がおかしい?

 

『彼らはもう降参した、無抵抗の兵を殺す必要は無い』

『バカか貴様は、コイツラは害虫だ。虫ケラは一匹残らず殺さなきゃ、またすぐ湧いてくるぞ!』

『棲姫様は抵抗する者とは徹底的に戦い我らの戦力を示せと命令したが、無抵抗の者を殺せとは言っていない』

『ふざけるな、殺すなとも言ってないだろう、退け! 私はコイツらをぶっ殺したい、チョロチョロと虫ケラみたいに逃げ回りやがってイライラする、殺らせろっ!』

『ちっ、野蛮な奴め、貴様よりこの陸人らの方がよほど価値ある見事な兵だぞ、さっさと失せろ』

『何をっ、貴様ぁあっ!』

 

 バンッ、と、乾いた発砲音が響き、一人の深海人の胸元に風穴が開く。大量の血が流れ、彼女は倒れてバシャと水飛沫を立てて海中に沈んでいった。

 二人の深海人が口論、そして一人が激昂して発砲、一人が撃たれて死んだ?

 一瞬、俺たちも深海人たちも呆然と立ち竦み、空気が凍りついたが、

 

『よくも、我々の隊長をおおおぉっ!』

 

 一人が叫び、周辺が一気に殺気立ち、炸裂した。

 

 

……………

 

 

「深海人の同士討ちだと!?」

「ハイ、彼女らの固有言語だったので口論の内容までは解りませんでしたが、比較的冷静だった方、我々に日本語で話しかけてきた方ですが、彼女が撃たれて死にました」

「な、何と……」

「撃たれた深海人は、部隊を率いる隊長だったらしく、部下の兵たちが激昂して攻撃を開始し、そこからは深海人同士の殺し合いになっていきました。我々は混乱に乗じてその場を脱出し、その後の追跡はありませんでした」

「うおぉ、そ、そうか、ふむぅ、そんなことが……」

「あの1尉、大丈夫ですか?」

「あ、ああ、大丈夫だ。あまりに衝撃的だったからな、ありがとう、非常に参考になったよ士長」

「はい」

「それから士長、貴官の治療と検査は本日をもって終了とする」

「はっ!」

「実はな士長、あの戦闘から帰還した殆どの隊員は退役することになった。理由は精神的な疾患により今後の活動が不可能だからだ」

「え、な……」

「あの頭痛だ、あの頭痛を感じた者はもうダメになってしまった。酷い者は廃人同様になり、いまだに療養を余儀なくしている」

「そんな」

「貴官に選択権を与える、退院と同時に除隊するか? それとも、軍に残って戦うか?」

「自分は……、残ります。まだ深海軍に対して何も出来ていません。納得していません!」

「よし、良く言ってくれた! 貴官は復帰後、3曹に昇進、その後も優先して昇級がなされていくと約束する」

「へっ……は、はっ、しかし何ゆえの優先でしょうか?」

「国防軍はこれより深海軍へ反撃する為の戦力の立て直しを図る。その中核となるのが、貴官らのような耐性のある人間だ」

「耐性、ですか?」

「地獄の初戦を経験し、混乱を最小限に抑えて生き残り、まだ戦う意思を持ち、そして深海軍の謎の攻撃に対する耐性のある人間。この戦争は、貴官らにかかっていると言って過言ではない」

「はっ!」

「困難な道だが、私は期待している」

 

 

…………

 

 

 

 それから深海軍の大規模な陸上侵攻が始まり、太平洋側の沿岸部の大都市はかなりの被害を受けた。

 俺の家族もその時の攻撃で……。

 

 しかし、海上では無類の精強さを見せつけた深海軍も陸上戦闘は不慣れだったのか精彩を欠き、水際の攻防で侵攻を何とか防ぐことができた。

 国防陸軍の粘り強い堅牢作戦で時間を稼ぐこと5年……。

 

 戦術の見直し、新型艦の建造、FG海上突撃歩兵隊の新設。戦力の完全立て直し、新鋭国防海軍が反撃に転じるべく、出撃していく。

 

「はりきっていきましょーっ!」

「やっちゃうわよ」

「いくよ……まかせて」

「がんばるぴょん!」

「まっかせてよ!」

「あはっ、いいねいいねー!」

「本領発揮するよー」

「侮るなよ」

「そろそろですか」

「そろそろ本気だーす!」

「緊張してきましたぁ!」

「司令官、この菊月が共にある」

「司令官じゃなくて俺はまだ3佐だから司令な。そんなことより、君たちは充分訓練を積んできた。敵深海軍の戦術、戦法、兵器の研究も進んでいる。我々の海を取り返しに行くぞ、ではFG運用艦じんつう出撃だ、神通、頼む!」

「はい司令、じんつう出撃いたします!」

 




fleetgirlの役割は突撃歩兵だけではありません。
FG運用艦じんつうとfleetgirl神通の話はまた別の機会に。
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