男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた! 作:ネコ文屋
さてさて...
味しない...
あれから、現実の午後二時半くらいにログインしたら、まだ夜だったので藁のベッドから起きてから、ぼんやりと歩いていたら灯りのついたさびれた小さい酒場があった。
それで、安いので、ちょっと早いオートミールっぽい麦粥な朝食を食べている。前払いだ。しかし、味がしないのでげんなりとする。舌で感じる触感もぼそぼそしてて気持ち悪い。これは、くそまずいオートミールだからなのか。システム的な問題なのか。
村の建造物は基本的に木でできているようだった。この酒場も当然の如く木製でコップも木、机も木、椅子も木だ。燃えたら危なそうだ。
鉄製の簡易な燭台の上の蝋燭で灯りが付けられただけの薄暗い店内には人が2、3人いる。どうやら全員プレイヤーだな。頭上にネームタグが浮かんでいる。
プレイヤーもいるんだな...
もそもそと食べていると、外がぼんやりと明るくなってきた。
食い終わってからしばらくぼーっとしていると、入り口に人影が来た。夜に村に入れてくれた小太りの男だ。辺りを見渡してこちらを見ると、近づいてきて話しかけてくる。
「さっきはぐっすり眠れたかぁ?藁で悪かったがね。そーだ、薬持ってきてくれてありがとなぁ。受領書持ってきたから薬、渡してくれよぅ。」
「夜警お疲れ様です。わかりました...では、魔術師ギルドから、30本ライフポーション納入します。」
ライフポーション30本が入った箱をインベントリから出す。容器は栄養ドリンク的なやつだ。
「ほい~。確かにいただいただぁ。」
受領書を受け取る。気になっていることを聞こう。
「そういえば、腰の横に角笛を持ってらっしゃるがそれ、どうやって吹くんだい。」
「あぁ、これかぁい。これはウッドランドブルの角だよ。夜警や狩り、豊穣の祭りの時に使うんだぁ。大きな音が出せるだよ。ただ息を吹き込めばいいべさ。」
そう言って、腰の帯から外して、こちらに手渡してきた。
ほぉほぉ...牛の角でできている角笛だと!ファンタジー感あっていいではないか...だが、穴がないところを見ると音階を変えるのは難しそうだ。だが、欲しい。とりあえず、楽器ならなんでもいい。
「これってそのウッドランドブルというのを狩ってこれば、作ってもらえたりするのか。」
「角笛を作って貰いたいのかい。多分大丈夫だよぉ。村のヘンダーソン爺さんにお願いすれば作って貰えると思う...でんも最近、具合が悪いようだからなぁ。」
ちょっと困ったように頭を掻いている。
「そうですか...えぇと、そういえば、名前を伺ってなかったな。私の名前はギター熊だ。ヘンダーソンさんに貴方から紹介があったと言いたいので名前を教えてもらってもよろしいでしょうか。」
「大丈夫でさ、ヨーゾフだよぉ。村では小さな畑の他に狩人をやっているだ。」
「ヨーゾフさん、ありがとう。昨日は夜起きていただろうから、もう寝た方がよいでしょう。わざわざ探しにきてくれてすみませんね。」
もう寝たいだろうから、あんまり束縛してもよくはないだろう。
「あんがとぉ。まぁ、まんだ3時間しか経っていないから眠くないけどなぁ。」
「夜なのに眠くないのか...」
「あぁ、まだこっちに来たばっかでっか?開拓者さんの世界とは違って、こちらでは1日に4回、日が沈むんでよ。だから、見張りは4回交代するからそんなに辛くねえだ。」
へー、1日に4回ということは3時間ごとに昼と夜が入れ替わる感じか。じゃあ...
「普段はどこにいるんだい。何か困ったことがあったら聞きたいのだけれども。」
「森か畑か、家にいるべさ。ちょっと表に来てくんれよ。」
そう言って、トコトコ歩いて店から出ていくので慌ててついていく。
「ほら、あそこの家だよ!2階にこだわりの丸窓があるから簡単に覚えられるでよぉ。」
集会所からちょっと離れた森側にある、家を指さす。同じような家が立ち並んでいる中、2階建てで丸窓がついている家はちょっとだけ目立っている。
「ほぉ...確かにおしゃれな丸窓だ。」
「やっぱり、そう思うだ?やっぱりたけぇ金出してつけてもらったのは間違いでなかっただ。」
ヨーゾフは満足気に頷いている。
「じゃぁ、おらは薬を置きに行った後、一回家に戻ってから狩りにいくだ。またなぁ。」
ヨーゾフは足取り軽やかにスキップして家の方へ向かっていった。なんというか...強烈なキャラだ......あっ...ヘンダーソンさんの家を聞くのを忘れていた...まぁ、のんびり聞いて回るとするか...
牧歌的な感じだなぁ。中世ヨーロッパの村ってこんな感じだったのだろうか?白い壁に赤茶色の瓦。骨組みは木、とってもヨーロッパです...
お、お?!井戸だ!暗い時には見逃していたが村の中心から正門側寄りにあった。石のブロックで積み上げられていて、釣瓶落とし式だ。少々苔むしている。
確かあのゲームでは井戸の水を飲めば願いが叶うことがあったな。井戸...飲まずにはいられない!
さっそく、釣瓶落としの綱をたぐって、カラカラと下から水をくみ上げる。
「ゴブゴブごぶごぶ、ぐびっぐびっぐびっ、ふいぃぃーーーー。」
桶を両手で持って喉へ流し込む。まあ、このくらいは余裕で飲める。現実でも水2Lくらいの一気飲みは軽くできるからな。
両手を天に掲げ、渾身の思いを込めて叫ぶ!!!
「神様、仏様、女神様、願わくばギャルのパンティーをおくれえええええ!!!」
........。......。......さて、冗談はこれくらいにしとくか。
トントン
「あんた、なかなかのシャウトだったぜ!」
肩を後ろから叩かれたので、びっくりして振り返ると...
テンガロンハットを被ったウエスタン風の少年が、サムズアップで歯をみせている。
「ギター熊って言うのか!ウハハッ、ギャルのパンティが欲しくても井戸には神○はいねえ。7つボールを集めなきゃなぁ!それか自分で作るんだな!
見たところニュービーだな!オレはチコだ!グラッセ村に何の用できたんだ?ここには農民か変わり者しかいねえぞ!」
「いや、ここにはライフポーションの配達で...」
「農業はいいぜぇ!オッサン見たところ魔術師だな!破壊より創造に、生命を育むことに興味はないか!壊すよりも作る!殺すよりも育てる!大地と生き天災に抗い病苦を退け手間をかけ丹念に育て獲られた豊穣の恵みに感謝する!
そうか!興味がありそうな顔をしているな!
今ならレベル83の農民道を爆走中のチコ様が!懇切丁寧に農業たるや何かについて教えてやろう!
ふははっっ!ふははっっははは!」
「あー...申し訳ないが、あまり興味はないのだが...」
「いや!待ったあああああ!よく考えてほしい!めったにない。こんなチャンスめったにないぞ!
新人のころは誰もが苦労をする!そんな時、仲間がいれば!支えあえる!そうまるで大樹のように!辛さを共にした仲間と収穫する野菜や果物はうめぇ!
農業クランの中では三本指に入る『輝ける種』!今なら新人特別支援中!土地タダ、肥料タダ、レベリングタダ、もう何でもタダね!
あ~入らないと損だなぁ!おめえら来いや!」
スススススス
いつの間にかプレイヤーがぞろぞろと出てきてまわりでぐるぐる手を繋ながら回り始めた...
「その通り!入らないと損よ!あなた見たところ魔術に興味があるようだけど、農業も魔術に通じるところがあるのよ!
この世界で野菜や果物、薬草がどこから来るか分かるかしら!ふふ、分かったようね!そう!この広大なフィールドよ!
まず!シードシーカーと呼ばれる探索隊が遍く大地を駆け巡り、未知の野生種を探すのよ!冒険心や知的好奇心が疼かないかしら!未知のジャングルや平原、火山、氷雪地帯、果てには海中をくまなく探して株や種を持ち帰ってくるの!腕っ節もインテリジェンスも高いエリート部隊よ!生育状況も丹念にメモをとる必要があるわ!
未知を探しにいきたいならこれ以上ないかしら!」
Theジャングル探検隊風の服で帽子を被りリュックを背負った胸の大きな女性が楽しげに笑う。
「次は、グロウンリサーチャー...トライアンドエラー。理論構築。最適解の模索。
シーカー達が持ってきた苗をあの手この手で育てる環境を整える。
ああああっっと髪をかきむしりたくなることも度々ある。
なんでだよ!分かるか!サボテンじゃなくて実質菌類とか、特定の果実が腐った泥の中でしか育たないとか!ばかやろおおおおおおおおお!
だが!努力し続ければいつか必ず答えは見つかる!闇の中に手を伸ばせ!輝ける種はそこにある!!!」
モノクルを掛けた燕尾服のすらっとしたオールバックの男が頭を振りながら叫ぶ。
「開拓者。その字面について考えたことはねえか?開拓とは何だ?
おめぇさん、墾田永年私財法って知っているか?歴史かじったら知っとるかもしれんが奈良時代の法律でな。土地を開墾したらその土地をもらうことができる。
そうさ...この世界では未開の土地であれば開墾し一定の税を納めれば土地の権利を主張できる。分かるか...良く聞きなさい...
お前さんはまだ若い。未開の土地に新しい畑をこしらえる。これこそ、開拓ではないかね...
切り開くもの...カルティベイター。」
白髪を簪でまとめたムキムキのおばあさんが鈍色の巨大な鍬を背中に担いで囁く。
「うちは!メインは、種苗と品種改良がモットーのクランだからね!そうして生育環境を整えたら生粋の農家メンバーが派遣されて、出荷まで十分になるまで様々な種苗を育てるのさ!俺らはズバリ、ファーマーだ!!!
農業クランにも種苗は納めてるし、各街の農業ギルドや王国のお偉いさん、学者さんにも納めてるぜ!B to Bだから安定だぜええええ!
もちろん、自分でも作って食べたりするがな!」
チコがドヤ顔で言い放つ。
ピタッと回転が止まり、正面に来た恰幅がよく、ゆったりとした縦縞の服を着ている男が正面にきた。
「商売には営業がつきものです!と言うわけで、ワタクシ、ファステイアからサードレマまでのエリアマネージャーをやらせていただいてる野龍馬と申します!
こちら、名刺です!」
「あ、どうも...ご丁寧に...」
思わずローブのポケットを探るがこちらにはなかったな...
「どうですかな?農業クランと一口に言ってもその形態はバラバラです。
魔法植物ばかりを育て薬品精製に情熱を注ぐクランもあれば、理想の果実を求めて果樹園を運営しているクランもあります。
ワタクシたちはその全てに新たな選択肢を提供することに情熱を捧げているのです。
そして、このシャングリラ・フロンティアという世界に眠る、輝ける種を白日の下に晒し、栄光の果実を人々に行き渡らせる!!」
「おおおおおおおおおお!さすがマネージャー!」
熱気がすごい...この雰囲気に飲まれそうになっている自分がいる。あかん、農業やっちゃう...だが、負けないぞ!困ったら、とりあえず拍手だな!ほめ殺してやる...
ぱちぱちぱち
ぱちぱちぱちぱちぱち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
ぱちぱちぱちぱちぱちぱちぱち
ぱちぱちぱちぱちぱち
ぱちぱちぱち
ぱち
笑顔フルスロットルで手を高速で叩ききめ細かいスタッカートを両の手の平で刻む。
「スウゥィィ...ブラヴォオオオオオオー!熱意伝わりましたよ!農業にかける熱い想い伝わりましたよ!
まさしく、あなたたちはこの世界の開拓者だ!
未知を探索し、道筋を作り上げ、原野を切り開き、可能性を育て、価値を人々へと還元する。
その苦労、頑張り、努力、こころざし、どれをとっても素晴らしい!ビューティーフォォ!プライスレス!グレーーーーーート!」
その場で3回転しながら褒める。相手に意味の分からないことをされたらやり返すのだ!空気はもう渡さんんんん!
「ではっっっっっっっ!入っていただけっ」
「だがああああっっっっっっっ、私にもやりたいことがある!!!」
全力のシャウトで発言をキャンセルする!そして、黙る。
.......数瞬の静寂。鶏の鳴き声が風に乗って聞こえてくる。
「おっちゃん...それは、なんなんだよ?!」
チコが疑問を投げかけてくる。
「それは...」
チコが、胸の大きなお姉ちゃんが、モノクル野郎が、ムキムキ婆さんが、野龍馬が、意志の強い目で見つめてくる。
ええい…ままよ!
「くち...ぶえ...?」
訝しげな顔で囁く面々。いい掴みだ...
初めて口笛を知り必死に練習して吹けるようになった小1の頃から道で、家で、公園で、学校で、旅行先で、駅のホームで、アパートで、会社で人目のない隙に暇を見つけて吹いていた長年の研鑽を聴くがよい!
Tips.村と第一次産業
村は農業、牧畜、林業、漁業など第一次産業に関わる生産拠点の周辺に構えられている場合が多い。租税や統治方法は街の行政機関に従属していたり自治権があったり様々である。