男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた!   作:ネコ文屋

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エイメン


13_祈りを捧げよう

 いや~壮絶な闘いだったなぁ...まさか、あれがこうしてああなるとは...

 

 

 

 スキルを使ったサムライバニー男の強さは半端じゃなかった。しかし、それ以上に筋肉ゴスロリおじさんの強さはそれを上回っていた。いや、堅さというべきか。受け流しの技術や盾を用いた防御も素晴らしいものだったが、さらに驚くべきことに真剣の刀が首や胴体に直撃しても全く傷もないということが驚きだった。いやいやいやいや、可笑しいでしょっといいたくなるような光景だった。

 

 

 しまいには、斧と盾を投げ出して素手で闘い始めたのには呆れ果ててしまった。いや、刀に素手って。

 

 

 

 

 ま、そんなことはどうでもよくて、次こそが大事なんだ。

 

 

 

 サムライバニー男が光の粒子へと変わっていった後、筋肉ゴスロリおじさんは何をしたと思う...?

 

 

 

 いや、これは誰も想像で答えることができないだろう。床に残されたバニーガール一式を着たのだ...

 

 

 

 えぇ...?

 

 

 

 

 今、我々の目の前には、名状しがたき恐怖を感じる...筋肉バニーおじさんがいる。

 

 

 

 誰も言葉を発さない。この奇妙なおじさんは一体何なのだろうか...?敵を倒して、服を着る。それが性癖なのか信条なのかというものはどうでもいいことだ。

 

 

 

 だが、この言い知れない怒りというものを私は、いや、我々観衆は感じていた。バニー...それは漢の夢。唯一無二の到達点であり見果てぬ頂。それを...この筋肉バニーおじさんは踏みにじっっっった!あ”あ?戦争しかねえだろ。バニーのために剣を掲げよ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 というようなことはもちろん誰も考えていなくて、ただただ目の前で繰り広げられた激戦と目の毒としか思えない二人の姿に興奮と罪悪感と気持ち悪さを感じて、グロッキーになっていたのだった。

 

 

 

 筋肉バニーおじさんの足元に魔法陣が描かれ、光の柱が空へと昇った。

 

 

 

 空は青く爽やかな風が広場を優しく撫でた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうだ、教会へ行こう...

 

 

 

 このよく分からないものでごちゃ混ぜになった心をどこかで落ち着かせたかった。休憩したいというのではない。どこかに置いときたかったのだ。いや、私は恐怖に怯えていた...目を閉じれば...ああっ!今も瞼の裏にあの筋肉バニーおじさんの姿が...!現実で味わったことのない怯えというものに私はさらされていた。

 

 

 

 手足が震え...目眩がする...そして、脳裏にあの激戦とサムライバニー男と筋肉ゴスロリおじさんと筋肉バニーおじさんがマイムマイムを踊り迫ってくる。あぁ!

 

 

 

 ふらふらとふらつきながら...かつて降り立った教会の方へと歩いていく。人にぶつかりそうになるがさっと避けられて道ができていく。

 

 

 

 

 

 よろめきながら建物の壁に手をついて息も絶え絶えに這う。視界が明滅し、視界が揺れる。

 

 

 

 教会だ...

 

 

 

 中へと転がり込む。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああぁぁ...筋肉...バニー...」

 

 

 

 長椅子の間を箒で掃いていた少年がぽかんと口を開いていた。

 

 

 

「あわわわ...呪いの急患?大変だぁ...司祭様っ...!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん、恐怖による症状ですね。ギター熊さん最近お亡くなりになりました?死に近づくと瘴気や毒などの耐性が低下し、状態異常にかかりやすくなるんですよね。

 

 

 

 深呼吸してください。吸ってー吐いてー。吸ってー吐いてー。落ち着いてきましたか?

 

 

 

 デミオ、温かい飲み物をギター熊さんのために用意してきてください。」

 

 

 

「ああ...ありがとう...ミ.........シェルさん。」

 

 

 

 

 

 名前を思い出すのにぼんやりとした思考なのでちょっとかかったのはいたしかたなし。長椅子に横になっているとしばらくして、デミオくんがお盆の上にマグカップを持ってやってきた。

 

 

 

「司祭さま!セラリクスティーを持って参りました。セラの実とドリクスの葉をブレンドしてあるので、ちょうど良いかと思うのですが...」

 

 

 

「うん。いいと思います。さぁ、ギター熊さん一度体を起こして、お飲みください。体が温まり休まりますよ。」

 

 

 

 震える手でマグカップを受け取る。ルビー色をしている。フルーティーな香りだ...

 

 

 

ズズズ

 

 

 

 ほっとする香り。ちょっと苦味があるが、ほんのり甘酸っぱさがある。

 

 

 

ズズズ

 

 

 

 体がポカポカしてきた。震えもおさまってきたか...

 

 

 

 さっきの幻覚は、一体何だったんだ...?ミシェル司祭が【恐怖】...の状態異常と言っていたな...

 

 

 

ズズズ

 

 

 

「大分落ち着いて良くなってきました。ミシェルさん、デミオくんありがとうございます。何かお礼でも...」

 

 

 

「いえいえ。大したことではありませんから。結構です。」

 

 

 

「そうはいいますが...突然駆け込んできたのにお茶まで頂いてしまって...悪いような...」

 

 

 

「感謝の気持ちだけで十分ですよ。」

 

 

 

 そこまで言われてしまっては...お賽銭のちょっとやそっとくらい払ってもいいかと思ったのだが...

 

 

 

「じゃあ、感謝の意を込めて神様にお祈りだけでもしていっていいかい?」

 

 

 

「もちろん、よいですよ。」

 

 

 

 よし、祈るか...そういえばどうやって祈ればいいのかな?今朝は実に適当に祈ってしまったが、大体宗教って独自の祈り方あるしなぁ。どうするのが正解なんだろうか?ここは、素直に尋ねてみますか。

 

 

 

「ミシェルさん、誠に申し訳ないのだけれども。神様に祈るときの作法みたいなものを教えていただけないだろうか?なにぶん、きちんとお祈りするのは初めてなもので。」

 

 

 

 そう質問するとミシェルさんはニコーっと満面の笑みで語り始めた。

 

 

 

 

「そうですか、そうですか。ええ喜んで!お教えいたします。まず、私たち三神教では、三柱の神様、運命神、創造神、調律神を祀っています。そうですね…お祈りの仕方の前にこの世の中がどのように三柱の神々から作られたか、創世神話をお話ししなければなりません。信仰なき祈りはただ暗闇に石を投げるのと同じですから。

 

 

 創世神話について話してもよろしいでしょうか?」

 

 

 

 創世神話か...神が大地を作ったとかいうやつだよな...正直興味が湧かないが聞いてみるとしよう。

 

 

 

「ええ。お願いします。」

 

 

「それでは...ごほんっ!

 

 

神々の世界から天使たちと共に来られた三柱の神々は、暗闇すら広がっていない虚無の空間に世界を作られ始めました。

 

 

 1日目。創造神は灼熱の大地と雷が降る極寒の海を作られました。しかし、何もないところに作られたため、確認することができません。そこで、運命神は神々の世界から光を持ってくることにしました。地上を見ることができた調律神は大地と海をかき混ぜ大地の熱を冷まし、海を温めていきました。

 

 

 2日目。創造神は自らの血から生命の源を作られました。また、運命神は光から闇を分かち、昼と夜を作られました。調律神は大地を削ったり寄せたりして山や谷、川などの地形を作られました。

 

 

 3日目。運命神が光を神々の世界から持ち込む時にできた僅かな隙間から小狡い悪魔が忍び込み、創造神の目を盗んで生命の源を食べてしまいました。悪魔は瞬く間に増殖し、大地と海を埋め尽くしました。ようやく気づいた神々は悪魔たちを取り除こうとされますが、生命の源と一体になった悪魔は取り除いても取り除いてもどこかに体を隠し復活してしまいます。

 

 

 4日目。怒り狂った創造神は青ざめる運命神に詰め寄りますが、調律神のとりなしにより落ち着きを取り戻します。三柱で相談した結果、天使たちに力を分け与え、地上に遣わして悪魔たちを倒させることにしました。

 運命神は、悪しき物を浄化する光を。

 創造神は、生命を断つ破壊の武器を。

 調律神は、自由を奪う時空の鎖を。

 それぞれの天使たちに持たせました。天使と悪魔たちの戦いは3日3晩続き、ついに最後の悪魔を倒しましたが、その頃には連れてきた天使たちもいなくなってしまいました。神々は大層嘆き悲しみました。

 

 

 7日目。生命の源は大気と海に溶け込み、荒れ果てた地上に植物と動物が生まれました。神々は連れてきた天使たちの代わりに土くれと動物をこね合わせて、人間を作られ、大地を管理する役目をお与えになりました。悪魔を倒すために力を失った神々はお休みになられ、私たち人間が正しく役目を果たしているか天から見守られております。

 

 

 というのが創世神話でありまして。」

 

 

 

「神様たちもそんなに完璧な存在ではないのですねぇ...。」

 

 

 

「ええ。神々も間違えることはあります。しかし、神々は常に物事の正しい在り方を私たちに指し示してくださります。神々が間違えた時は、正しさの天秤が極端に傾いてしまったという、ある意味どうしようもないことなのです。

 

 

 

 さて、お祈りをする時は、まず、手で三角形を作り、それを地に向け、お辞儀をします。これは、三神に対して感謝と尊敬を表すと共に役目を忘れていないということをお伝えしています。

 

 

 

 次に少しだけ天を仰いで三回ゆっくりと手を打ち合わせます。一回目は運命神に、心身を健やかに人生を導いてくださいという祈り。二回目は創造神に世の中に生み出してくれてありがとうという感謝。三回目は調律神に、商売繁盛や良好な人間関係など自分の周りの人々との良い関係を望む願いを表しています。

 

 

 

 次に前を向き手を組み合わせ、祝詞を唱えます。」

 

 

 

「祝詞というと...?」

 

 

 

 するとミシェルさんは、先ほど説明してくれた通りに、地面に向けて三角形を形作った両手を向けお辞儀をしてから、少しだけ上を向いて三回ゆっくりと手を打ち、手を組んだ。

 

 

 

「われわれの主たる三神よ。ただあなたがたのみを神として崇めます。

 

 

 今日、地には光が満ち生きとし生けるものが神々の比護のもと楽園を謳歌しております。われら、地の民はこの地を安らかにする務めを忘れません。

 

 

 神々の元に勇気、愛、節制、知恵、正義を知る魂が集まりますように。どうか、われら地の民を遍くまた限りなくお見守りください。

 

 

 慈悲深き三神に栄光あれ!」

 

 

 

 そう言うとミシェル司祭は目をつぶり顔をうつむいた。

 

 

 

 しばらくして、目を開きおもむろに口を開いた。

 

 

 

「私たちは、神々により、生を受け、世界の中で生き抜く力を与えられ、常に見守られながら生きております。まず、そのことに感謝を忘れずにすること。それが一番大切なことです。

 

 

 私たちが感謝を忘れずにしづつければこそ、神々は私たちの救いを求める祈りに答えてくださるのです。

 

 

 ......。

 

 

 開拓者の方々の世界では私たちの世界ほど神はそれほど身近な存在ではないと聞き及んでおります。神々の加護は明確に示されず、その存在すら証明することができないと...。

 

 

 されども。神が例え存在しなかったとしても、感謝というものは忘れてはいけません。心の豊かさというものはそこから生じるのですから。」

 

 

 

 ミシェルはそう言うと手を思い出したように叩いた。

 

 

 

「おっといけません。ついつい講釈を垂れてしまいました。開拓者の方が教えについて尋ねてくださるのは滅多にないことなので、思わず舞い上がってしまいまして。

 

 

 開拓者の方々は三神教の信徒ではありませんから、先ほどのお祈りの言葉、祝詞は唱える必要はありません。実際にやっていただくお祈りとしては最初の礼と三つの拍手だけでよろしいです。ただ、教会ではこのように神々に対して祈りをささげているということを知っていただければ嬉しく思います。

 

 

 さあ、ギター熊さんも実際にやってみましょう。」

 

 

 

 

 

 

 なるほど。

 

 

 

 NPCも宗教というものを持っているのか...。日本人の感覚からして、敗戦を経て古来からはぐくまれてきた宗教観というものが断絶しているために、神というものの存在自体馬鹿らしいと考えてしまうが、神というものがここでは実在しているのか?無論、ゲーム会社が用意した神であり、作られた神であることは変わりないわけなのだが...興味深い。

 

 

 

 そして...何より驚いたのは思ったよりミシェルが、NPCが人間であるということだ。AIもついにここまで来たというのか?

 

 

 

 しばし思いを馳せ、逡巡しながら、内心を悟られぬようににこやかに笑みを作った。

 

 

 

「そうですね。ええ。」

 

 

 

 ぎごちなく三角を作りお辞儀をしてから、先ほどの話を思い出しながら三回手をたたく。そして手を組んで黙とうする。

 

 

 

 神かぁ...いるわけないよなぁ...しかし、ミシェルさんとデミオくんが介抱してくれたそのことを感謝するつもりで祈ろう。これも非日常というものだ。例え、信じていなったとしても祈りを捧げるという行為は本当なのだからきっと神もちょっとは喜んでくれるだろう。本当にいるわけはないのだが。十中八九、このゲームの運営とほぼイコールなんだろうけど...しかし、信じている人に対して泥を投げることは誰も得をしない意味のないことだ。祈るだけならタダであるからして...

 

 

 

「われわれの主たる...三神よ。ただあなたがた...のみを神として崇めます。

 

 

 今日...地には光が満ち生きとし生けるものが楽園を謳歌しております。われら、地の民はこの地を安らかにする務めを忘れません...

 

 

 神々の元に勇気、愛、知恵、正義を知る魂が集まりますように。どうか、われら地の民を限りなくお見守りください。

 

 

 慈悲深き三神に栄光あれ!」

 

 

 

 眼を見開いて祝詞を言った。When in Rome, do as the Romans do. 郷に入れば郷に従えだ。これもまた一興かな。

 

 

 

 

「祈りを捧げていただきありがとうございます。」

 

 

 

「あ、ありがとうございます...」

 

 

 

 ミシェルさんが本当にうれしそうに微笑んだ。それにつづいてデミオくんも言葉をつづけた。

 

 

 

 よしよし...着実にオルガンへの道を歩んでいるぞ...

 

 

 

 俺は2階にあるパイプオルガンをちらりと見てほくそ笑んだ。




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