男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた! 作:ネコ文屋
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中に入るとそこかしこの壁や柱の一面に掲示板が打ち付けられており、奥にはバーカウンターがある。天井かなり高く作ってあるな。外から見たときは二階建てかと思ったが、壁際にちょこっと二階部分がある作りのようだ。体育館や教会の2階部分みたいな感じで真ん中は吹き抜けになっている。
真ん中の空間には丸テーブルと椅子が乱雑に置かれ、おしゃべりに興じているグループや頬杖をついてボーッとしてたり、立ち上がって話し込んでいる人たちがそれなりにいて賑わいを見せている。
どういう流儀なのだろうかとキョロキョロ辺りを見渡す。すると、入り口あたりの壁打ち付けられた大きな木の板に何やら彫られているのを見つけた。
【集会所の利用法】
・パーティーの待ち合わせや解散に使ってください!
・その場限りのパーティーに参加したい場合は集会所内だけで利用できるパーティー募集のタグを使いましょう!
・パーティーの結成は戦闘時を除き基本的にどこでも行うことが可能です。
・パーティー内でのトラブルは基本的に自己責任です。アイテム配分や金銭貸与によるトラブルなどは運営から直接対処することはありません。
・違法行為、ハラスメント行為などが悪質なプレイヤーに出会った場合は運営にご一報をお願いします。
木の板から隣に目を移すと、小さめの黒板が3つくらい並んでいた。萌え系の女の子の絵、名前を言ってはいけないネズミの絵、よく分からない文言が所狭しと描かれている。
これ、そういう用途では絶対ないよなぁ。そういえば昔は駅にこんな黒板あった気がする。待ち合わせしてたのだろうか、先行っとるわ、とか伝言が書かれてたな。
それでタグ?メニューを開いてみると...【タグ管理:パーティー募集】という項目が追加されている。
押してみると設定画面がポップアップしてきた。「希望人数:メンバー3~5人くらい、魔術師、10レベル帯」の情報が頭上のネームタグの近くに表示されるように設定する。
知らない人に仕事じゃないのに話しかけるのか...少し緊張してきた...
辺りをゆっくりと歩いて見渡しながら誰に声をかけるべきか品定めをする。
お、あそこの机とかいいんじゃないんだろうか?剣を持った男が二人いる。おそらく前衛だけなのだろう。魔術師ならばパーティーが組めるかもしれない。
「こんにちは。魔術師なんですが、パーティー組みませんか?」
「あー...魔術師は特に募集していないですね!」
声を掛けるとすぐに断られてしまった。前衛だけのパーティーを組む予定なのだろうか?
軽くそうですかと残念ぶっといてから、他のテーブルを歩いて良さそうなところを探す。
いや、待てよ。さっきの奴ら出会い厨というやつではなかろうか...女の子でないと断るというのは、ありえないことではない。ふむ...違和感がないように現実と馴染む年齢、体でキャラを作ったが早まったかもしれんな...女の子のキャラを作っておいた方が色々と楽だったか...?
うん...?何だアレ?
入り口近くからは柱や観葉植物で見えなかったが、テーブルの上で椅子を三段重ねにし、その上で逆立ちをしている人がいた。髪はない。つるっパゲだ。うっすらと青いからどちらかというと丸坊主か?
なぜ逆立ちをしているんだ...
気になって近づいてみると、そばに背の低い金髪巻き毛の少年がいて、何やら甲高い声で逆立ちの人に話しかけている。
「ちょっとぉ...まだやるの?!もー危ないから止めた方がいーよ!」
「ぬぬぬ...まだ高さと不安定感が不足しておる!椅子をもう二つほど重ねたいので手渡しして頂けると大変助かるぞ。」
「いーけどさぁ...投げないと届かない高さなんですけど?」
少年は身長が140cmくらいで、確かに椅子の上で逆立ちしている男に渡すのは少々無理がありそうだ。なぜ、少年が嫌そうにしながら手伝っているのかは疑問ではあるが、どれ...こんな所で逆立ちをしている事情は全く分からないが、少年の困った姿を見ていると手伝ってあげようかな、そういう気分になった。
「こんにちは。先ほどから見ていましたがお困りのようですな...私が代わりに椅子を手渡ししましょうか?」
「こんにちはー。えー?!いーんですか!助かります!」
「ご老公、大変助かるぞ。ご協力感謝!」
「いや...まだそこまで年ではないのだが...」
年寄り呼ばわりされて内心非常に腹が立ったが、少年から椅子を受け取り、逆立ちの態勢を止めた男に一つずつ手渡す。
「ぬうっん...フハァ...」
ゆっくりと下半身を持ち上げ...
「ふっっほあ”あ”...ぬぬぬ...」
野太い声を上げながら椅子のタワーが反動でガタガタ揺れたが、バランスをとり抑えこんだ。見事な逆立ちだ...
外見に見合わぬ恐るべしバランス能力...心配そうに見守っていた少年もほっと一息をついている。
パチパチパチパチパチパチ
「おー!なんかすごいっすね!」
手を叩きながら近づいて来たのは、2mはあるんじゃないだろうかという長身の女性だった。皮鎧を着ている。確かにバランスと度胸はすごいだろうな。
「サーカス団員かなんかかっすか?!すげー!」
長身の女性は目を輝かせて興奮気味に話しかけている。たぶん声からして男だ。
「賞賛かたじけない。某はサーカス団員ではない。しかし、逆立ちは日課であり趣味である!」
クワッと目を見開きそう断言する逆立ち坊主。逆立ちが日課なのか...健康法か?
「すごいっすね!まだまだ椅子積むんですか?!もっと高いところで逆立ちするの見てみたいなーっ。いや、あんまりすごいんでどこまでいけるのか気になっちゃって!」
「ぬっはっはっは。では、頑張ってみよう。あと2つ重ねるぞ!」
そう言うと5脚の椅子に器用に立ち片手を差し出してきた。まだやるのかと若干呆れつつ、まだまだやって欲しいという自分がいる。どうせなら限界までやって欲しいものだ。
「手渡しではもう届かない距離なんだがどうするんだ...?椅子かなんかで台を作るか?」
「いや、大丈夫っすよ!これに引っ掛けて渡しますんで!」
そう言って長身の女性が取り出したのは長い柄の斧、これは...ハルバード...か。
「先端にちょうどよいくぼみができててちょうど椅子の背の部分に引っ掛けやすいっすよ!あら、よいしょっー!」
そう言うとハルバードの先端に椅子を引っ掛けて逆立ち坊主の元へと近づける。
「これは名案なり!よし椅子を積んでいきますぞ!」
そうして出来上がったテーブル1脚、椅子7脚のタワーはなかなかの高さだ。7mくらいはありそうだ。この建物結構天井高いな...突如作られた椅子タワーを見て、建物内がどよめいている。
「ぬぅ...この高さは某も未経験の領域。それゆえ成功するか失敗するかは分からぬ!それでもよろしいか?」
「いいっすよーーーーーー!頑張ってください!」
拳を掲げて叫ぶ長身の女性。巻き毛の少年と俺は黙って頷き返した。
「ではいくぞ!フハー、フハー。ヌウウウウウッッッッッン!」
「うっすらと光が差す建物内にそびえ立った椅子の塔。おそらく前人未踏の偉業。ここファステイアの集会所でこんなことをやった男はいるのだろうか、いやいない(反語)。その椅子の塔の頂上に今ゆっくりとゆっくりと栄光のピラミッドが打ち立てられようとしています...!さぁ成功なるかァーッ!」
「わっ急になんなの?実況始めたんだけどこのおじさん...」
おっと...思わず心の実況が漏れてしまったな。少年がちょっと引いてしまった。だが盛り上がってくれた人もいたようだ。
「ガンバれーーーー!」
長身の女性はハルバードを振り上げながら応援の言葉を叫ぶ。
椅子のタワーがグラグラと目に見えるほどに揺れ動きながら、その揺れに抗い乗りこなそうとしているのだろうか。じれったいくらいの速度で脚が上へと運ばれる。雄叫びもあげることなく静かに、壊れ物を運ぶときのように繊細に。
そして、先端が孤を描き、天頂に...到達した。
ドッッッ
固唾を飲んで見守っていたあちらこちらから、安堵と賞賛の言葉、万雷の拍手が飛び交い空間に充満した。
天頂に向かってまっすぐに伸びた人体ピラミッドは椅子の塔と一体となって、神々しさすらも思わせる。賞味期限はまさに今この時。あと数秒後にはその絶妙な均衡の中でもたらされた妖しくも美しい秩序は、再び混沌に呑まれ、無味乾燥なものになってしまうのだろう...
そして、その終わりの時は唐突にやってきた。
椅子の塔がゆっくりと斜めに傾き、中断あたりの椅子の脚が外れ、折れた塔の上の部分がこちらに向かって迫ってくる。って...
「ヒエーーーーーッ」
巻き込まれちゃ敵わん。横に飛び込んで、崩壊し、容赦なく雨のごとく降りかかってくる椅子から、男からみっともなく逃げる。
ドンガラガッシャンとけたたましい音がしたあと、振り返ってみると、幸せそうな顔をした男が椅子の山に紛れていた。
「大丈夫っすか?!」
そう言いながら長身の女性が駆け寄って、椅子の山から逆立ち坊主を引きずり出す。
「うむ...ぬんっ!大丈夫である。いやぁ、至福であった!」
満足されたようでぼーっとした様子で頷いていらっしゃる。
「ほらー、やっぱり、くずれたじゃん。無理しちゃだめだよ...」
巻き毛の少年はそう言って椅子の山を元の場所に戻し始める。
「いや、あれは成功っすよ!ちょっと頑張ってみて新しい境地に達することが出来たから、挑戦して良かったんすよ!」
「うむ!某の逆立ち道に新たな1ページが刻まれた。現実ではさすがに怖くてできぬからな!」
なかなか良い雰囲気ではないか...これは、ひょっとすると、上手くことを運べばパーティー結成できそうな予感。
「お見事、お見事!私もハラハラしながら見守っていましたが、いやぁ~...良いもん見れましたね~。今度逆立ちをご教授いただきたいくらいです!あっ...そうだ、皆さんはパーティーはお決まりで?お恥ずかしながら一人寂しくやっているもので、ここにこれば仲間が見つかると聞いたものですから。はっはっは。ここで会ったのも何かの縁。もし、良かったらフレンド登録して野良パ結成しませんかね~。」
「あっ私もそのために来てたんだった。」
「それは大歓迎であるぞ!」
「いいっすよ!」
...しゃあっ!好感触...逃がさんぞ...
「おっ!ノリがいいね。プレイヤーネームはギター熊で、魔術師をやってるよ。目標は楽器を手に入れて演奏をすることかな。今日はよろしく。」
「自己紹介ね!私はロッコ。盗賊かな。目標は特にないかな。でも...いや、何でもないよ。」
「某はマサカという名前である。修行僧である。目標は逆立ち道を極めること、それのみ!」
「なかなか濃い面子っすね!俺はトマトサイダーって言います。オフラインのゲームは結構やってきたんですが、オンラインは初めてで。騎士(斧)っす。まー皮鎧なもんで騎士っぽさ皆無っすけどね。目標は強いモンスターを刈りまくることっすよ!」
「自己紹介も終わったし、とりあえずフレンド登録しよっか。」
すかさず、フレンド登録申請を3人に送る。すぐさま了承のメッセージが送られてくる。
「それぞれの目標を聞くと一番達成しやすそうなのはトマトサイダーさんのモンスター狩りかな?そうだねぇ...今回の野良パの目標はフィールドでのモンスター狩りでもいいかな。」
「まあ、それでいーかと。」
特に反対意見もなく賛同の声が得られたので、目標物の相談を始めよう。
「トマトサイダーさんはどんなモンスターを狩りたいんだい?」
そう訪ねると彼女(いや、彼か?)は顎に手を当ててちょっと悩んでから言う。
「そうっすねぇ...噛みごたえがあるやつがいいすね。こう、なんというか、捕ったどー!っていう感覚があるような奴です。ゴブリンはもう胸焼け気味なんで。」
「ふむふむ...難しい敵と闘いたいと...時にみんな、跳梁跋扈の森には行ったことあるかい?」
「最近はそちらメインで戦っているっすよ。」
「某はまだ行ったことがないな。もっぱら始まりの平原とファステイアを探索しておった。」
「私もまだ行ってないかな。」
「ふむふむ...これはゲーム内で知り合った人から聞いた話なんだけどね。跳梁跋扈の森は西側ほど森が薄く東側ほど森が分厚くなっていて、そのためなのか知らないけど、出てくるモンスターの強さも西側の方が弱く東側の方が強くなっているそうなんだ。
そこで、こういうルートはどうだろうか?」
ファステイア周辺の地図を開いて指で跳梁跋扈のセカンディル方面を指差す。
「まずここ、ファステイアから西に進んだ所を出発点とする。
それから北側の森をぐるりと回ると、この場所にグラッセ村という村がある。ここをゴールとする。
このルートで行くとすると敵も徐々に強くなるし、平原からそこまで遠くない場所で戦えば途中で逃げることもしやすいよ。」
「レベル帯はどのくらいであるか?」
「スタート地点で10レベル、ゴールで20レベルだ。レベル的に厳しそうなら先にスタート地点あたりでレベリングを行ってもいいと思うよ。」
「ドロップ品の配分は?均等配分?」
「均等配分がいいだろうね。」
「ポーションが足りなくてもらった場合はどうします?」
「それは、個人間でやりとりすればよくないっすか。」
「撤退する条件を決めといたほーがいーかと。」
「では、一つは相談して撤退すると決めた時。他は誰かが死に戻りした時でどうでしょうか?」
「時間も決めといた方がいいのではないか?」
「そうですね...今日何時までやれそうですか?」
「2時頃まで大丈夫っす。」
「某は11時ごろで上がりたい。」
「私は10時ごろかな。明日も学校あるから。」
「私も11時ごろまで大丈夫ですが、ここはロッコさんに合わせて10時ごろとしましょう。そうですね...もし気が合えばゴール地点まで着くまでパーティーを継続するというのはどうでしょう?1日で着く可能性もありますが。」
「それでよいだろうな。」
「さんせーい。」
「それでいっすよ。」
「今6時なので、装備の準備を15分程度でして出発しましょう。ご飯休憩は移動中に呼ばれたりしたら一人ずつ運ぶということで。私はもう済ませてある。」
「えっ運ばれるんすか?!」
「市場を見て回ってたら背負い子が売っててね。これなら一人で一人を運べる。つまり同時に二人までご飯休憩やトイレ休憩にいける。」
「くれいじーだわ...」
ふっ...とんとん拍子で話が決まって何よりだ...
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