男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた! 作:ネコ文屋
ガツガツ
しばらくして、森の端へとたどり着いた。車が2台は通れるほどの道が先へと続いている。
「ほう!これが跳梁跋扈の森であるか!楽しみである!」
「ふーん、変な鳴き声も聞こえてくるし、夜の森はちょっと不気味だね。」
今まで平原と街メインで動いてきたマサカとロッコがそのように初見らしい感想を言う。まあ...俺もそこまで森に詳しくないのだけれども...一番知っているのは多分、トマトサイダー君だろう。
「しかし...これは...なかなか重いな...ステータス分、現実より力がある感覚があるが...地味にきつい。」
そのトマトサイダー君がご飯の呼び出しを受けてログアウトしてしまったので、誰かが背負子で背負うことになったのだがうっかり失念していたことがあった。
それは、背負える人材が俺とトマトサイダー君しかいないことだ。マサカは逆立ち道とか言ってきやがるし、ロッコはサイズが小さいので背負っても引きずる羽目になる。それゆえどちらかが休んだ場合は強制的に背負うことになるのだ!なんてこった...
というわけで、俺の背中には意識を失ったトマトサイダー君があった...
ふと気づいたのだが...前衛は動き回るから後衛の俺が誰かが休憩入る度に背負う羽目になるんじゃないだろうか...?
「さー森に入ってこー!時は金なりだよ!」
「うむ!そのとおり!我々ならきっと大丈夫である!ヌッハッハ!」
困った...今さら休憩しようと言っても格好がつかないし...うーん...まあ......いっか。ダメージ受けてる訳じゃなく、重さによる圧迫感が地味に辛いのと、足取りが重いだけだ。魔法メインでやれば問題ないだろう。
「そうだね...北上していこうか。」
踏み固められた道から外れ、森の中へ歩きだした。
索敵のスキルを取得しているロッコに先頭を歩いてもらって、敵の接近に注意しつつ足を進めていく。
夜の森は一層暗い雰囲気だ。風による葉のざわめきも昼間とは違い不気味なものに感じる。カンテラの灯りが揺らめく光のドームを作り、木や地面、草、そして我々を浮かび上がらせる。暗闇の中でほかの物はなくなってしまったかのような感覚。絶海に浮かんだ孤島でもし遭難するとしたら、このような感情と同類のものを味わうのだろうか...?
しばらく無言で歩いていると、ロッコが手で制止をかけてきた。
「この先...何かいる...」
その言葉を聞いて我々は戦闘の準備をした。マサカは地面に足を下ろし、俺はバールを左手で腰から抜いて構えた。
「どーする?戦っちゃう?」
俺とマサカはサムズアップして、答える。答えはゴーだ。戦うために来たのだ。恐れていては始まらない。
カンテラの灯りを一度消し、音を立てないように、ゆっくりゆっくりと近づいていく。
しばらく行くとロッコが木の陰に隠れつつ、ハンドサインをした。視界の奥の方ををうかがうのを黙って待つ。そして、ロッコはいぶかしげにじっくりと確認したあとつぶやいた。
「えっ...なにこれ。かわいい...」
かわいいとは...?どうゆう状況?気になった我々も木の陰に隠れて覗いてみる。
木が生えていない開けた空間。月明かりに照らされて周りの場所より少し明るい。
草が地面に生えており、土が剥き出しというわけではないようだ。その開けた空間に何か小動物がたくさんいる。あれは、ウサギだな...
一匹(一羽だっけ?)の耳の欠けたウサギが切り株の上で大きな槌を掲げてキーキー鳴いている。それを囲むように短剣や鉈、斧、槍、剣を持ったウサギ達が無言で佇み、時折、飛び跳ねている。
ウサギの集会...?
そう言えば今日は満月だったなぁ。少し雲が多めだったけど。ウサギさんたちも飛び跳ねたい気分なのかもしれない。
槌をかかげていたウサギが柄の先で地面を突いた。
ピョンとウサギたちが跳ねる。
切り株の上に乗っていたウサギもピョンピョンと跳ねる。
ウサギたちは切り株の周りで好き勝手に何度もピョンピョンと飛び跳ねる。
飛び跳ねながら武器を振り回し、刃物で月明かりが反射し、キラキラと輝きを散乱させる。
ホップステップジャンプ!スピン、宙返り!小さな体躯であらんかぎりに飛び跳ねる。刃をきらめかせ夜の闇を切り、突き、裂く。
こりゃぁ随分と物騒なウサギさんだなぁと思いつつも、殺伐としながらも幻想的な景色に目を奪われた。
十五夜に月で餅をついているウサギさんとどちらが幻想的なんだろうか?ウサギが作った餅も食べてみたい気がするが...
ひとしきり飛び跳ねた後、少しずつ静まりを取り返していく。
切り株の上の耳の欠けたウサギが槌を天へと掲げた。
ウサギたちはそれに続いて自分の持っている武器を天へと掲げていく。
武器たちが月の光を受けて青白く輝く。
しばらくして耳の欠けたウサギは槌を下げた。
ウサギたちもそれに続いて各々の武器を下げる。
もう一度槌の柄の先が地面に突かれた。ウサギたちが一斉に飛び跳ねる。
それを見た耳の欠けたウサギはニヤっと破顔して大きく飛び跳ねた。
次の瞬間、耳の欠けたウサギは宙へと消えてしまった。
なんだったんだ...?
首をひねって呆然としていると、切り株の下にいたウサギたちは一匹、また一匹とどこかへと消えていく。
そしてあれだけたくさんいたウサギたちが5匹だけになり...
「うーーーーっす!ただいま戻りました!」
俺の背中で伸びをして大きい声をあげたやつがいた。
「いやぁ!超特急でご飯食べてきたっす!あれ?ここどこですか?」
ヒェッ...
つぶらな、殺気立った目でこちらを一斉に見て、ウサギたちは武器を向けてきた。
「ホワイトフォッグ!」
大慌てでバールを向けて呪文を唱えつつ、ダガーで彼をくくりつけた紐をちぎっていく。
ホワイトフォッグがウサギの方へ向かうのと同時に丸い玉が投げ込まれる。
「目を閉じてー!」
ロッコが叫ぶ。
言われるがままに目を閉じると、まぶたの裏が真っ白に何度も光る。
恐る恐る目を開けると、ロッコが短剣でウサギへと襲い掛かっていた。おお...行動が速い。
「ファイアーボール!」
クラクラしているウサギたちへとバールを横へ振りかぶりながら唱える。
「危ないっす!」
トマトサイダー君の声が聞こえたと思ったら、わき腹にハルバードの柄が突き刺さる。
「ぐえっ...」
さっき頭が通る予定立った場所をウサギが剣で凪いでいた。こりゃぁ、厳しい。ファイヤーボールも直撃せず間接的に焼いたのみだったのでイマイチだ。大人しく後ろに下がろう...
「サンドウォール!」
少し前線から離れて呪文を唱える。地面から砂の防塁が足の付け根ぐらいの高さまでせり上がる。
飛び上がりながら刃をきらめかせ肉を裂くウサギども。攻撃を避けながら、ダガーで応戦するロッコ。相手と踊りながらカウンターを決めるマサカ。相手の攻撃をはじきつつ強引に攻撃をあてにいくトマトサイダー。
何だか仲間外れな気分を味わいつつも、防塁から頭とバールを覗かせて、飛び上がる瞬間に合わせてウサギどもの頭上に...
「下降せよ、ダウンバースト!」
強烈な下降気流を吹かせる!
飛んでいるウサギが地面へと猛スピードで落下する。そこに加わる追撃の手。たまりかねてキーキーと鳴き声を上げる。
脅威に感じたのか、1匹が前線を離脱してこちらへと向かってくる。
「アクアウィップ!」
水の鞭でウサギの進路を横に薙ぎ払う。すかさずダガーを空いている右手に出し待ち構える。
案の定、飛び跳ねて避けたウサギに向かって2回、時間差でダガーを投げる。
一度は鉈で弾いたが、次のダガーははじけずに体へと突き刺さる。
よし!
後ろへと衝撃で落ちたウサギがダガーを体から引き抜き、左右に飛び跳ねながら向かってくる。
一度ダガーを投げるが当たる気配はない。
防塁の横からウサギが回り込もうとする。これはまずいかも...近接だと分が悪い。しょうがない...保険が上手くいってくれることを祈ろう。
「ロックニードル!」
ウサギが防塁の横を最短距離で通り抜けようとした時、防塁の横から突然鋭利な石の棘が生え、宙へと飛び出した。
そして、横を通ろうとしたウサギの体はその石の棘の山に深々と突き刺さった。
よし、このままにしておけば継続ダメージ入るな...接近されそうになったからヒヤッとしたがなんとかなった。接近戦は課題だなぁ...
砂の防塁から顔をのぞかせると、ウサギが2匹に減っていた。どうやら順調に倒しているようだ...
状況が落ち着いたので冷静になってみると、ソロだったら間違いなく死んでるな...多数の敵に囲まれた時に、死角から1撃を食らうと避けられそうにない。
もっと設置型や妨害型の魔術を覚えた方がいいかもしれないな...攻撃魔術よりも戦略を練りやすそうだ。パーティーの時のフレンドリファイヤが怖いし...それもなんとかしないと。
刺さっていたウサギが継続ダメージで散った。
落とし穴とか沼とか足を阻害する魔術はないだろうか?後でギルドに行って訊いてみようか...
おっと、終わったようだ。近づいて行くとトマトサイダー君が声を掛けてくる。
「ターさん、大丈夫っすか?1体そちら行ったすけど。」
「ターさん?私のことかい?」
「そうっす!ギとかグとか言いにくいんでターさんって呼ばせていただきたいっす!」
「あー...確かに...呼びにくいよな...別にいいよ。しかし、それを言うならトマトサイダーもなかなか長いよね...そうだな...トマ君はどうだろう?サイ君だと奥さんになっちゃうからね。」
「トマっすか!まあまあありっすね。」
「うん、アリだろう。こっちに来た敵だけどね。まあ、問題なく対処できたよ。でも、接近されると厳しいというのはなんとなく分かった...さっきは助かったよ、ありがとう。」
「いやいや、たいしたことないっすよ!」
「いやいや...あれはウサギに首を刈られるところだった。まったく気づいていなくて、危なかったよ...」
「ヴォーバルバニーは油断してるとすぐ隙をついてくるからしょうがないっすよ。」
お互い謙遜合戦をしていると、ロッコが割って入ってきてトマ君に指を突きつけて言う。
「ちょっとちょっと、トマ君でいいのかな!君、忘れてない?ログインする時、大きな声を上げながら入ってきたでしょ!アレであのウサギ達に気づかれたんだけど!パーティーを危険にさらしたいの?」
トマ君が思い出したようにハッと表情を変えたあと、ポリポリと後頭部を掻きながら反論する。
「あー、なんとかなったからいいじゃないっすか...?それにあんなタイムリーな状況になっているとは思わないっすよ...大げさに言い過ぎじゃないっすか!」
それを聞いてロッコは目を逆立てた。
「君ねえ!あとちょっと早かったらあんなものじゃなかったよ!もっといっぱいウサギいたんだから!ねぇ、マサカさん。」
いきなり話を振られてたじろぐマサカ。
「う、うむ...なにやら30匹ほどウサギがおったな!あと、一匹強そうな耳の欠けたウサギがおった!」
「30匹のヴォーバルバニーっすか!それに耳の欠けた強そうなヤツまで!くそ!あぁ...戦いたかったなぁ...なんでこんなタイミングで...母ちゃん...グスッ...」
「そんなん戦ったら、生き残れないわよ!無鉄砲にもほどがあるわー!」
ロッコが呆れながら怒るという器用なまねをし、地団駄を踏んだ。
むしろグッドタイミングだったのか(戦慄)...こいつはヤベー戦闘ジャンキーなのでは...という可能性が頭をよぎる。
まともなやつが俺とロッコさんしかいないじゃないか...どうにも先行きが不安だな...
やれやれ、とこっそり肩をすくめた。
Tips.急所と防御
あらゆる生物には物理的急所が存在あるいは設定されており、その場所を攻撃するとダメージが増加する。急所判定にはタイミングや攻撃方向も関わっており、ステータスやスキル補正なしでは成功が困難である。
急所とは逆に防御判定も行われる。素ではDEFの値が参照されるが、それとは他に攻撃を軽減する方法が存在する。代表的なものだとジャストガードとパリィ。ジャストガードは相手の攻撃に対して、タイミングを合わせて剣や盾で弾くことで攻撃の威力を軽減する技術。パリィは攻撃の方向を少し変えて命中を避ける技術。それらは盾職系統の他にそれぞれの武器における防御寄りの流派で習得することができる。自前でもできる(そんな奴は...格ゲー中毒者かクソゲー中毒者だけ)。