男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた!   作:ネコ文屋

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ミンミンミンミン
4856文字


07_コンテナ in the forest

「最後らへん、へばってしまってすまんな...」

 

 

 

 ローブについた土を払い、立ち上がる。

 

 

 嵐は過ぎ去ったようで、あれだけ騒々しかった森林は再び夜の落ち着きを取り戻した。

 

 

 

「ははっ...!気にしないでいっすよ。」

「何やら苦戦していたようであるな...」

 

 

 

 優しい...ささくれた心が癒える。

 

 

「ちょっと手強くてね...思ったよりあのイカ。」

 

 

「うーん、油断するのが悪いと思うなー。しっかりトドメをささないと、危なくないかな?」

 

 

 あー...誤魔化そう...

 

 

「そ、そういえばイカはトドメをさし忘れたな。ま、まぁ、なんとかなったじゃないか。あっはっはっは!見たかい。投擲と魔術を組み合わせたロマン砲を!ギュイーンって行って貫通して向こう側まで行ったぞ!すごかったろう!なぁ!トマ君。」

 

 

「ああ!あれは、すごかったすね。炎の槍なんて最高にクールじゃないっすか。もう一回みたいっす!」

 

 

「ははは!そうだろう!そうだろう...はは...は......その...すまんかったな...」

 

 

 段々顔が険しくなってくるロッコの顔を見て、マズいと察して素直に謝る方針に切り替えた。

 

 

「はぁ...後で爆殺符の代金請求するからね!イカから救出するために使ったんだから!」

 

 

「ああ...分かった...分かったよ...」

 

 

 忌々しげに首を振って前をむくと、ロッコはにっこりと笑顔になっていた。くそ...完全にイニシアチブを取られた...前例を作りやがったな!これで...ポーションだけでなく、その他の道具類についても代金の請求が通りやすくなったか...まぁ...実際危なかったからいっか...

 

 

 

 Ring*

 

 

 

「ぬぅ...あやつ、離れていくぞ。」

 

 

 

 マサカが足で指差して、そう指摘する頃にはふわふわと木々の奥へとベルは消えようとしていた。

 

 

 

「追いかけるっすよ!」

 

 

 そう意気込むトマ君だったが...

 

 

「待って!ダガーの回収をしないと。」

「私もダガーや硬貨の回収をしたい...」

 

 

「まじっすか?!えー...あー...分かったっす...」

 

 

 俺とロッコの一言で、意気消沈した様子。

 

 

 地面に散らばってたり木に刺さっているダガーや硬貨をみんなで回収していく。

 

 

「てか、なんで、硬貨を投げたんすか?」

 

 

「火にくぐらせると高熱になっていい感じなんだよ。残弾も多くていい感じだしな...」

 

 

 

 あらかた片付け終えて一息つく。

 

 

「もう、あんなヘンテコなモンスターが来ても無視していかないか...」

 

 

「ぬぅ。確かにこの調子だと、途中で力尽きそうであるな。」

 

 

 

 

 

 

 

 気を取り直して再び出発する。

 

 

 

 それから、夜が明けるまで、何度も何度も襲撃があった。イノシシ、ゴブリン、クマ、フクロウ、オオカミ、コウモリ、キノコ、ゴブリン...

 

 

 

 しかし、あの金色のベルに眠らされた時ほどの集団戦も危機もなく、ポーションをがぶ飲みする羽目にもならずに、順調に進むことができた。チームでの戦い方もずいぶん、形になってきたんじゃないだろうか?

 

 

 

 

 

 葉の間から日が射してくる。木漏れ日が森の豊かさをふんわりと照らし出す。

 

 

 

 木の根元には色とりどりのキノコが生え、茂みには小さなブルーベリーやクラムベリーのような木の実がつき、小さな昆虫が舞い、鳥が木々の間で飛び交っている。

 

 

 

「こんなに色があったんだねぇ...暗くてよく分からなかったけれども。あ...このキノコ?」

 

 

 

 採集依頼にあったやつだ。念のため、NPCの店で買った手袋をはめてもぎ取る。

 

 

 

 ついでに、ずだ袋にその辺のキノコをいれていく。

 

 

 

 

「キノコとってないで先にいくよー。」

 

 

 

 採取していたら、置いてかれてしまった。後ろから慌てて追いかける。

 

 

 

 

 

 

 

 

「豊かな森であるな。植物の種類がまた最初と違って可愛らしい。」

 

 

 追いついてマサカの横を歩いていると、そんな声が聞こえた。横で逆立ちで歩いている彼の方を見るとやはり奇妙な世界に迷い込んだ気分になる。逆立ちで歩く男など現実ではまず見れない。ちなみに逆立ちで歩いている時どのように前を見ているかというと、どうやら向きを使い分けているようだ。前方が予測しやすい開けた場所だったり、仲間がいるときは後頭部が前方になるようにして、音や気配を感じて歩く。逆に森の中など予想が困難な場合は顔が前方になるように歩いていた。果たしてこのよく分からない逆立ちの縛りに何の意味があるんだろうか...?いや...多分ないな。俺も人のことは言えないが何故そうしたし...

 

 

 

「どうやらギター殿はキノコをとっていたそうだが、やはり売るのであるか?」

 

 

「ええ、売ります。魔術師ギルドに森での採集依頼がありましてね。背伸びしがちな魔女っ娘に渡して売りつけるんですよ。」

 

 

「ほお、魔術師ギルドはそのような依頼があるのだな。」

 

 

 ああ...そういえば俺もソロで活動してたから他のギルドがどんな感じか知らないな。多分、マサカも同じように知らないということか。まあ、間違いなく一人で楽しんでそうだしな。やはり、人のことは言えないが...

 

 

 

「マサカ殿のギルドではどうですか?そも、何ギルドに所属しているんで?格闘家ギルド?」

 

 

 

 そう、見た目と戦闘スタイルは格闘家なんだが、格闘家ギルドなんてあったっけなぁ...

 

 

「うむ。某は修道会の一派、武僧院というところに所属しておる。元々無手で闘いたいという希望があったのでな。」

 

 

「ほお、ギルドではないんですなぁ。そこは格闘家が多いんで?」

 

 

「いや...ギルドではあるらしいのだが、モンクと言うべき修行僧を選ぶと最初はそこに所属させられましてな。その後、諸流派の達人を見つけて細分化していくようでありますが、破門になることも可能であるようですぞ。」

 

 

「へー、破門っていうのは師匠から?武僧院から?」

 

 

「両方ともできるようであるな。」

 

 

 ふーん...何やら職業関係はいろいろ複雑そうだ。魔術師ギルドも破門とかあるんかな?ありそうな気がしてきた...カルマ値とかあるし...

 

 

「某...実はリアルの方でカポエイラの講師をやってましてな。まあ、もう年で思ったよりも機敏な動きができなくなってきて...ヌハハ!それで体が思った通りに動くこの世界でもう一度あの動きを自分の体で経験してみたく思いましてなぁ...」

 

 

「ほぉ!カポエイラ講師をやられているんですか。通りで、動きにキレがあるわけだ...逆立ちはやはり、修行の一環で?」

 

 

「ご名答と言いたいところであるが、これは正直、趣味ですな。昔から逆立ちが好きでしてな。逆立ちで一日中生活するとかやってみたかったのであるが、現実でやると頭のおかしな人に見られてしまうのを、ゲームだったらちょっと頭のおかしな人くらいの認識でやれるんじゃないかと踏みましてな...ヌハハ!意外にもやってるうちにスキルも生えてきまして。行けるんじゃないかと自信がついてきたこの頃であるな。」

 

 

 

 確信犯か...まあ、分かってはいたが。

 

 

「そのスタイル悪くないと思いますよ...ゲームの楽しみ方なんて人それぞれだ。人にどうとでも言われようと、これからも貫いて欲しい。私も楽器を追い求めて頑張るので、マサカ殿も頑張って、な!」

 

 

 肩を叩こうとしたのだが、肩がいい位置にはないので膝を叩いて鼓舞する。

 

 

 

 

 おっさん二人でイチャイチャしつつ敵来ないなぁとぼやきながら歩いていると...

 

 

「ちょっと!ちょっと!何か変なのある!」

 

 

 ふと、何かを感じとって先を行っていたロッコが驚いた顔で戻ってきた。あれ...変なのは避けると決めていたでしょ...

 

 

 

「ロッコさん、何があったんすか?でかいキノコでもあったんすか?それとも、可愛いチワワでもいましたか?」

 

 

 トマくんが冗談めかして尋ねる。怒らせたら知らんぞ...

 

 

「コ、コンテナだよ!苔むしたコンテナ!!!」

 

 

「コンテナァ?コンテナってあの四角い箱っすか?」

 

 

 ふむ...コンテナか...舞台背景がSFであることはムービーと取説から予想できていたことだが...ファンタジーの文脈で現代にも通ずるコンテナという単語を聞くことになるとは...すごい違和感あるな...エッチなビデオに出てくる人が母ちゃん似だったくらいのむずがゆさがある...いや、言い過ぎたな。

 

 

「うん、とりあえず気になるので見に行こう。」

 

 

 好奇心に従ってそう提案した。

 

 

 

 

 

 ロッコの案内に従って歩いていくと、少し植物が生い茂った中にそれはあった。なるほどこれはコンテナだ。青色の金属でできた四角い大きな箱。人間も普通に入れそうなほどのいわゆるコンテナ。

 

 

 

 近づいて観察してみると塗装が禿げていないことに気がつく。いや...そもそも塗装されていないのか?

 

 

 触ってみると苔むした部分をのぞいて、表面がすべすべしている。酸化している様子がない。そもそも金属なのか疑問がわいてきた。ゲーム的表現だからというのも一つの解答ではあるんだろうが...

 

 

「これ...なんでこんなところにあるんだろうね...?」

 

 

 ふと、そんな疑問が口から出た。

 

 

「オブジェクトじゃないっすかね?ほら、SFもこのゲームの背景としてあるらしいっすから、それ関係でとりあえずフィールドに撒いているんじゃないっすかね?」

 

 

「まぁ、そうかもしれんな...あまりにも唐突に出てきたから面食らったけれども、そういうものと思えばそういうものかもしれないなぁ...」

 

 

「なぜここにあるかより、何が入ってるかだよー!開けてみよう!」

 

 

「ぬぅ、開けるのか?また、変なモンスターでも出てくるかもしれぬぞ。気をつけて開けた方がいいのではないだろうか。」

 

 

「大丈夫!変な気配や音は感じないよー!罠はあるかもしれないけど。いやーワクワクしてきたなぁ!こういうのやりたかったんだよね!」

 

 

 ロッコはそう言うとニッコニッコの笑顔でコンテナの扉を調べ始める。なるほど、ロッコが集会所でこのゲームでの目標について口ごもったのはこのことか。ちょっと恥ずかしかったから言わなかったんだろうか?別に恥ずかしがらなくてもいいと思うが微笑ましいな。

 

 

 

「うん、ロック外れたー!ほら、扉開けるよー!」

 

 

 

 しばらくカチャカチャやっていたロッコがそう声を上げた。扉が軋音を立てながら開いていく。

 

 

 

 中を覗くと暗くなっている。みんなで扉をさらに開くと光が奥まで届き、うっすらと中の様子が分かった。

 

 

 

 まず目に付くのは壁から床に垂れ下がる幾つものベルトである。何を固定していたのかと思い、薄暗い箱の中をキョロキョロと見るが...

 

 

 

 何もない。いや...何かがあった形跡のみがある。よく壁を見れば引っ掻き傷があちらこちらに走っている。また、金属のを削った粉のようなものが床に散らばっている。

 

 

 

「お宝!お宝はどこー!ここか!ここか!」

 

 

 ロッコが血眼で探し回る。一緒になって探してやるがアイテムと認識されるほどのものはないようだ。

 

 

「どうやら何もないようだな...」

「肩すかしっすね...」

 

 ベルトをカチャカチャやったり鉄粉をかき集めたりするが特に何も得られるアイテムも情報もない。

 

 

 

「あー!良いもの見つけたと思ったのにちっきしょー!こんな意味ありげに置いてあるのに何もないとか!」

 

 

 

 ロッコが悔しそうに叫んだ。

 

 

 

「まあまあ...誰かに先に開けられただけかもしれないし、開けたとしても何か危険な感じだよ。ほら...壁のベルトとか何か拘束してた感じだ。猛獣でも入っていたのかもしれない。」

 

 

「それは見れば分かるけれども!この虚しさ!分かる?!意気揚々とご馳走を食べようとしたら絵に描いた餅でしたって感覚!」

 

 

「お、おう。分かる。」

 

 

「絶対、分からないでしょ!」

 

 

 ロッコが指を指してくる。あかん、これは面倒くさい絡みだ。えー...この場合の対処法は...うーむ...ない...な。理不尽な二択には耐えて待つのみ。

 

 

「...でしょ!...る?!...さ!」

 

 

 無心で頷きながら、時々合いの手を入れる。

 

 

「はー!次いこ次!」

 

 

 ロッコは盛大なため息を吐いて歩き出す。終わったようだ。修行の末身につけたオートパイロットモードから切り替え、やれやれと肩をすくめてトマ君と呆れ合いながら箱を出た。

 

 

 

「ぬぅ...何がおったのだろうか?」

 

 

 

 マサカが不思議そうに呟くのが後ろから聞こえた。




Tips.遺物(アーティファクト)
長い歴史の流れに消えずに今に残る器物の総称。文明や時代区分によって大きく性質が異なる。最も人類が偉大であった時代である神代においても単一ではなく、設計思想が異なるものが発見される。古代では自然崇拝、祖霊信仰など独自の宗教観が各地で生まれそれらを中心とした生活が形成された。そのため遺物も多種多様である。中世では宗教と国家の統一により平和がもたらされたため、各地の文化や技術の交流が盛んになった。名工や名匠が多く生まれ、数々の作品や業物が後世にも残されている。

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