男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた!   作:ネコ文屋

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08_チャリオッツvsウッドランドブル

 さらに東へと進んでいくと、幹も枝も太くなって木と木の間隔が大きく、青々と色濃い葉を持った背の高い木々が頭上の光を遮り始めた。

 

 

 広葉樹も針葉樹も入り混じり、地面には様々な落ち葉が積もり始める。

 

 

 

「だいぶ東に来たっすね。」

 

 

 トマ君がそんなことを言う。確かにだいぶ歩いた。どのぐらい東にきたかは分からないが、だいぶ来たことは感覚として分かる。あー...

 

 

「今何時ごろだ...9時24分...ロッコさん、最初の予定だと午後10時解散だけど...延長って無理?思ったよりもサクサクいけるものだから、このままグラッセ村まで行ってしまって解散でもいいんじゃないかなと思うんだけれども。」

 

 

 ロッコに解散時間を遅くするお願いをする。

 

 

「また集まって、途中から始めるのはだるそうな気がしてきたんだ...ねっ!無理なお願いとは分かっているんだけれども。」

 

 

「うーん...まー...あー...うーん...いいよ。」

 

 

 しばらく悩んでから...ロッコはそう頷いた。

 

 

「...明日学校なんだけどなぁ...いいけどそれなら、早く終わらせてよ!」

 

 

「まーいいじゃないっすか!学校なんて寝てなんぼっすよ!」

 

 

「こっちも仕事あるけど...大丈夫大丈夫。」

 

 

「やかましい!行くよ!」

 

 

 若干機嫌を悪くしたロッコがスタスタ歩いて行く。若干無理があるお願いだったか...?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何戦か交えつつ、東に進む。

 

 

 

 そして、やっと...やっと...お目当ての敵に逢うことができた...

 

 

 角笛...いや、ウッドランドブル...

 

 

 あの日から俺はこいつを片時も忘れたことはない。乳白色の角に突き上げられて宙を舞い、初めての死に戻りを経験したその日から。

 

 

 魔術師ギルドの書庫やハローワークの書庫で、ウッドランドブルの項目を読み対策を練り、森に突撃し死ぬ。そんなことを数回繰り返した後、俺は気づいた。

 

 

 俺はこいつらの機動力に勝てない。独りでは勝てない。その時...俺は初めてパーティーを組むことを考えた。

 

 

 しかし、俺にはシャンフロ内での知り合いなどいない。いるにはいるが頼ったら農家だ。

 

 

 それで...野良パを組むことを思いついた。しかし、わざわざウッドランドブルの角を狩りに行くというのでは組んでくれる人はいないだろう。そこで、レベル上げを装ってウッドランドブルと戦わせる方法を思いつき、とうとう今日決行したのだ。戦力に不足はない。

 

 

 奴らは呑気にも...地面に生えている草をムシャムシャと食べている。

 

 

 

 黄土色の体に乳白色の角。あの角は体内のマナを集める機能がある。奴らの最大の武器であり、生命線。角が折れた個体は群れから追い出され"はぐれ"となる。武器を持たぬ者はこの厳しい生存競争の中では役に立たないため切り捨てられるのだ。

 

 

 

 

「すまんちょっと足を止めてもらっていいか。あそこで呑気に草を食っているあいつらを狩ろう。」

 

 

 俺はみんなにそう提案する。

 

 

 

「基本、非アクティブモンスターは相手にしないって方針じゃなかったすか?早く着かないとロッコさんに迷惑かかっちゃうっすよ。」

 

 

 うぐ...ぐう正。こちらから言い出したことだから違うことも言いづらい。しかし、ロッコは先にそれを破る前例を作った...それにな、説得材料は前から考えていた。

 

 

 

「まあ、確かにその通りだ。だがな、あの牛たち機動力がえげつない上に、集団で突進してくる厄介な奴らでな。実はあの牛と何回か戦ったことがあってなあ。死ぬまで集団の牛に追いかけられるのさ...おっそろしいぞ。一度補足されたら、もう逃れられない。」

 

 

 

 牛たちの方向を睨みつけ、そこはかとなく訳知り顔で、ベテラン風を吹かす。会社で新人が来たときや慕ってくる後輩や久しぶりに会う同期にこれをやらないと俺の威厳が保てないからな...同じ職場の同僚は?うん...まあな。

 

 

 

「それからここら一帯には、モンスターをおびき寄せる厄介な鳥が生息していてな。大きな音を出して、周りのモンスターを集めて逃げていく。そう、あのベルのようにな。そいつらの巣の溜まり場に立ち入った場合は目も当てられない。四方八方からモンスターたちがこちらを目指して襲いかかってくる。まぁ、ターゲットは別にプレイヤーに固定されているようではないようだが。」

 

 

 

 じゃあ、そっとして逃げましょうと言われる前に議論の逃げ道をふさぐ。ぐふふ...この状況に持ってきた時点で勝利条件は確保しているのだよ。こんな奇襲のチャンスを逃してなるものか...

 

 

 

 しかし意外にも、気合いを入れて土下座まで視野に入れて、どうやって説得しようか頭を捻ってきたのにもかかわらず、みんなあっさり納得してウッドランドブルを狩ろうという話になった。これは...ベルによるモンスターパニックがきいてるのかな。多方面から襲いかかられるのは俺ももうこりごりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、今回思いついたことがあったので、またも頼み込んで実行する流れに持って行った。

 

 

「よっこらっせ、おっとっと...動けるかいトマ君?さあ、ロッコ君固定してくれよ、落ちないようにしっかり脚をお願いな。」

 

 

「はいはい。よしっ。こーれで!いいかな?トマ君立ってみて?」

 

 

 しゃがんだトマ君が担いでいる背負子の上に立った後、ロッコに脚全体と背負子をぐるぐる巻きに縄で縛りつけてもらった。

 

 

 トマ君がゆっくりと立ち上がる。それにつれて、視線が高くなっていく...おっ...おお!足元が揺れて慣れない感覚だ。

 

 

「結構重いっすね...まあ、しんどくはないっすけど。ターさん、ちょっと動くっすよ。」

 

 

 トマ君がステップを踏み、ハルバードを素振りする。G(加速度)がかかるので体が引っ張られる感覚がある。

 

 

「ステップがあまり伸びないっす。でも、腕は普通に振れるっすね。まあ戦えなくはないって感じっす。」

 

 

「う...ん...こっちも結構揺れるが大丈夫そうだ。魔法撃てると思う。完全に思いつきだったが、これは案外いいかもしれんな。うん、行ける気がしてきた。名付けて、人間戦車(チャリオッツ)スタイルと言ったところか。ふっふっふ...さあ、いざ行かん。ハイホウ!ハイホウ!」

 

 

「ターさん、テンション高いっすね。」

 

 

 ちなみに、さすがに近くで声を上げていては、気づかれてしまうので全てひそひそと小声で話している。先に見つかったら先制攻撃できないからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 30m近くまで近づいた。トマ君と私は釣り餌を兼ねた遠近両用火力として正面から戦う作戦だ。ロッコとマサカには木々を盾にして身を隠してもらいながら、ゲリラ的に臨機応変に戦ってもらうことにした。

 

 

 

 ここなら射程範囲だ...よーっし、牛ども地獄へ送ってやろう...開戦じゃ!

 

 

 

「いくぞっファイアーボール!」

 

 

 

 放たれた火球が群の真ん中に真っ直ぐ飛んでいった。のんびりと草を食べていた一頭は気づいて避けようとするが、寝そべった状態から身体を起こしきる前にそのまま直撃した。

 

 

 

 BUmooOo?!!

 

 

 

 牛の全身を炎がなめる。周りの牛たちは慌ててその牛から飛び退く。

 

 

 

 初手ホワイトフォッグ(視界をふさぐやつ)じゃないのは、霧を牛が持ち前の機動力で振り切ってしまうので意味がないからだ。そして、ファイアーボールの熟練度(熟練度があるか良く分からないが)が上がっているおかげかDEXやTECを上げたおかげかも分からないが、最近ファイアーボールのリキャスト時間が10秒から7秒に短くなった。だから...いまだ混乱から抜け出ていない牛に対して、もう一度素早く攻撃する。

 

 

 

「ファイアーボール!」

 

 

 

 じたばたと暴れて状況が掴めていない牛に容赦のない追撃が襲いかかった。熱さに耐えきれず、地面を転げ回り、草や積もった落ち葉が火で焼かれていく。

 

 

 

 それを見た周りの牛たちは仲間を守るためか、それとも、単純に脅威を取り除こうと考えたのかこちらに向かって走り始めた。

 

 

 

「来た来た来た!テンション上げていくっすよ!」

 

 

「ふはは!チャリオッツの力見せてやるわ!」

 

 

 気合い十分。もう戦闘欲高まりすぎて、待ちきれんぞ!

 

 

 

 向かってくる牛に向かってファイアーボールを放ち牽制するが、何頭かはすり抜けて角を光らせながら突進してくる。

 

 

 

「サンドウォール!」

 

 

 

 そういうやつには、砂の壁を進行先に設置する。そしたらどうだ!減速して回避するやつもいるが中には足を取られて、そのままの勢いで前方に崩れるように転倒するやつがいる。そんなやつは飛んで火にいる夏の虫。

 

 

 

 どこからともなくやってきたロッコが牛の背後から刺突剣(ステイレット)で攻撃する。そして、牛が起きあがる前に、また木々の中へ消えていく。

 

 

 

 牛が起き上がり、辺りを見渡すが近くに襲撃者の姿は見えない。

 

 

 

「ファイアーボール!」

 

 

 近づく火の玉に気づき避けるが、反応が遅れたために少し掠めて身体が焼ける。

 

 

 

 牛たちは最初の反撃が失敗に終わったことを悟り冷静になったのか、後ろへと駆けていき結集し始める。

 

 

 

 いいね、いいね!悪くない。最高の滑り出しだ。

 

 

 

 集まった牛たちは大きく弧を描くように走り始め、速度を上げてこちらへと勢いをつけて向かってこようとしている。もちろんファイアーボールやエアーカッターを撃って妨害しようとするのだが、やつらは全く止まらない。痛みなど知らないかのように走り続ける。

 

 

 

「これからが本番だ...手はず通りにやろうな。」

 

 

「あはは!ワクワクしてきたっすよ!」

 

 

 

 正面からこちらへ向かって一直線に走る牛たちの暴走列車...さあ、闘牛士(マタドール)気取り暴れ牛をいなしていこうか!

 

 

 

ドドドドドドッッッ

 

 

 

 森の地面の土をえぐり出す蹄がけたたましく音を鳴らす。それは今までに経験した死を想い出させる。

 

 

 

 

 来る...牛がすぐそこまで迫っている。怒り狂った表情がもう目に見える距離だ。

 

 

 

 

 

 

BBMOMMOMOOO!!!

 

 

 先頭の牛に続いて牛たちが次々に咆哮をあげる数多くの獣が立てる威嚇の声により心がかき乱される。

 

 

 

 

 対して、気合いを入れて迎え撃つのは長身のハルバード使い。俺と同じくこの突進に怯えているのか?いや...確信を持っていえる。楽しんでいる。俺と同じく。

 

 

 

「サンドウォール!」

 

 

 

 地面から砂壁が牛の進行方向に対して斜めにせり上がる。

 

 

 

 それを気にすることもなくそんな壁など蹴散らして突き飛ばしてしまえばいい、と言わんばかりそのままの勢いで牛たちは角を突き出しながらこちらへと真っ直ぐ突っ込んだ。

 

 

 

 

 先頭とそれに続く牛たちが脚をとられ倒れこみながらも砂壁を壊す。しかし、前には誰もいない。

 

 

 

 当然だ。誰がまともに待ち構えるのか。

 

 

 

 砂壁に沿うように前へと脚を踏んだハルバード使いは後ろに引いた得物を腰を使い、大きく振るう。

 

 

 

ザシュッ

 

 

 

 砂壁側の数頭に切り傷が走り、そのままの勢いでなぎ倒される。

 

 

 

 突進がせき止められ数頭が続いて先頭集団に衝突していくが、そのさらに後続の牛たちが左右に割れ砂壁を回避しようとする。

 

 

 

 牛たちの悲鳴と足音、怒号、再び武器が振るわれる瞬間の空気が切り裂かれる音。そして、力が見せる強引な解決。なるほど...これが前衛の、戦士の見る景色か...これは、確かに...うん、あまりよろしくないかもしれないけれども...楽しい!

 

 

 

 

 さて、状況を整理しよう。回り込もうとしている牛が2集団、前には倒れた集団...つまるところ鉄火場ってやつだ。迅速に行動しなければ死ぬ。

 

 

 

「サンドウォール!右だ、右から叩こう!左は二人に任せよう。ロックニードル!」

 

 

 右手から回り込もうとする一団に対して、砂壁をくの字に延長し、回り込みを防止。そして、左手の集団の進行方向に棘を生やす。横目でロッコとマサカの二人が横合いから襲撃をかけようとしているのが見えた。

 

 

「だらっしゃああああっ!」

 

 

 ぐいっと体が引っ張られる。ぐるぐる目が回る。目の前には肩越しにハルバードが見えており、砂壁から突き出して通り過ぎていく牛たちの体を次々と傷つけていく。あっ...これ!最初にトマ君が使っていた技か。

 

 

「これは...酔うんだが...」

 

 

 小声でぼそりとつぶやくも...恐らく聞こえていないだろうし、聞こえても止まれない。三半規管が揺れてしんどい...

 

 

 そして急激に止まる。頭がぐわんぐわんと揺れる...魔術師は揺れに対する逆補正でもあるんか...さっさとスキル生やして...

 

 

 高々と勢いよく掲げられたハルバードがそのままの勢いで孤を描いて落下する。

 

 

 正面の牛の1体が光の粒子となって消え去った。

 

 

 

 反動で足をつくトマ君。しかし、息をつく暇はない。

 

 

 

「トマト殿、ギター殿、すまぬ!一頭逃がしてしまった!背後に注意なされよ!」

 

 

 マサカからの声で振り向くと、左手から後方に回り込んできた一頭の牛が迫ってくるのが見えた。

 

 

 

 ほぉ、飛んで火にいる夏の牛...火炙りにしてやらぁ!

 

 

 ぐ...ぐぬぬ...これはっっっ!

 

 

 身をよじって狙おうとするも腰まで縛り付けられているために可動域が狭すぎるだと...仕方ないですね...見逃してやりましょう。と、言うとでも思ったか!

 

 

 

 一人で脳内問答をしつつ、背を仰け反らせて後ろをぐいっと見る。視界の上の地面を牛が駆けてくる。

 

 

 

「ふははは...これぞ天地無用の術!くらえい、ファイアーボール!ちょっ...このままの姿勢は...あかん...ぐあああ...」

 

 

 

 気持ち悪さを押さえつつファイアーボールを放つと、牛が突進を諦め横合いに逃げた。そして、そんなことも確認している余裕もなく、そのままの状態(だらんと仰け反り)でお代わりの回転技に突入したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ひぃー...ひぃー...ひどい目にあった...」

 

 

 終わった...終わったよ...ほんと死ぬかと。ジェットコースターというか、絶対に事故らないと言い張るスピード狂の車の助手席に乗った時の気分や...まぁ...まぁ...まぁね...

 

 

「ヌハハハ!ギター殿、げっそりしておられるようで!某は牛の背中で逆立ちができて大満足である。また新たな逆立ち道の1ページが刻まれましたわ!」

 

 

「ああ!あれは、見事でしたっスよ。絶技っす!」

「うんうん...かなりクレイジーだった。走ってる牛に飛び乗りながら逆立ちするというかなりの高得点芸術...さすがカポエイラマスターと言ったところか...」

「確かに、あれはすごかったね。意味はないと思うけれども。」

 

 

「ヌッハッハ!照れますな!」

 

 

 

 難敵を倒した喜びで沸く一同の傍ら、俺は宿敵を倒した安堵とこれから来るご褒美で頭がいっぱいだった。これだけ倒したら角は間違いなくドロップしているだろう。分配の時になくても交渉すればいい。くく...角笛まであとほんの少しだ...ふは...フハハハハ......アッハッハハハ......




Tips.群れと捕食関係
モンスターには群れを作る習性があるものがいる。被捕食者は群れを作ることが多い。小型~中型の捕食者は狩りの効率化のために群れをつくる。一方、大型の捕食者や縄張り意識の強い種は群れを作らない傾向にある。
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