男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた! 作:ネコ文屋
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※本SSでは午後十字軍の闇の企業戦士たちに配慮して昼夜4交代制を導入しております。
ちょっと悔しさで頭がかっとなってしまったが、もう冷静である。冷静である...やっぱり、めっちゃ悔しい。
なんや...あれ、急に使ってきやがって...最後の最後によぉ...
思い出して地団駄を踏んでしまいそうになる...が思いとどまる。冷静に考えてみると最後の最後にしか使えなかったともとれるな...
そもそも、あのコヨーテが魔法を使ったのは、どのタイミングだ。
最初に接近した時、長杖で突いたが空中で避けられた。空中で地面を蹴ったように見えたが...あれが魔法だったのかもしれないな...そういえば、突風が吹いて砂が顔にかかったのも、そうか...風の魔法だな。確信めいたものを感じる。
風の魔法を使うコヨーテだとすると、最後の砂嵐は風で砂を巻き上げて起こしたということだな。違いは...遠吠えか。近接の補助として用いていた時に鳴き声はなかった。
人間の魔法が呪文をトリガーにしていることを考えると、あの遠吠えがトリガーになったと考えるのが自然な考えだ。遠吠えをした方が風の威力が高まるのだろう。
だが、亀裂にわざわざ入っていたことには疑問が残る。
自分を追い詰める行為だ。袋小路の方が気合が入る...?どう考えても不自然だ。戦っている最中は亀裂の先に抜け穴があるだろうと思って慌てて追いかけたが、その先はどう見ても逃げ場がなかった。
そうすると...あそこがコヨーテの切り札であったと考えられる。あの場所で遠吠えをするのが最も生存可能性を高める、そういう選択だった...
脳裏にコヨーテの遠吠えがリフレインする。
あっ?!...反響か!
広いとは言えない亀裂の壁に跳ね返されて何度も何度も遠吠えが聞こえていた。風魔法が何重にもなって行使され、あの亀裂の中を吹き荒れていた...のか?
ゴクリ
唾を飲み込むのと同時に、得も知れぬ悔しさの溜飲が飲み込めたようだった。
「完敗だ...」
最近取得したスキル『
白っぽい緑色の色をした沼のほとりには長草が生い茂っている。沼地のモンスターにも興味があるのだが、さすがに対策せずに水場に突っ込むのは怖い…ワニでもいるかもしれない。そしたら引きずりこまれてお陀仏だ。というか、水の中にいるモンスターに有効な魔法って今持ってないな。手持ちは水、火、土、風。火は水には弱いだろ多分。水棲の生物に水与えても喜ぶだけ。風は水を巻き上げるほどの威力は今のところない。土は、まあ無理だよな。
兎にも角にも苦戦しか予想できない水棲モンスターを警戒して沼からできるだけ離れて歩くように...しよう。特に何も舗装されていないとは言え、馬車2台分くらいの大きな道の沼側じゃない反対側の隅っこを警戒しつつ歩く。
しばらくして、右手の沼は遠ざかり、今度は切り立った崖と見間違うほどの巨大な岩が見えてきた。道はこの巨大な岩を真っ二つにしたかのような切通しに続いている。少し遠くにプレイヤーが2、3人切り通しの先を走っていくのが見える。巨大な岩の形は綺麗な一枚岩ではなくいびつな尖りや亀裂をそこらかしこにあり、長年の風や水の流れを感じさせる。
すぐに付け根へとたどり着いた。岩本体自体は場所を選べば登れなくもないくらいの勾配と、高低差だ。
岩の上には植物も生えており、白い岩肌をところどころにぎやかしている。
ふと耳を澄ませると甲高い金属音が聞こえた。
一度だけではなく何度も聞こえる。
誰かが戦闘しているのかな...?と初めは思ったが、定期的にリズミカルに聞こえるので、どうやら違うなと思う......となるとこれはツルハシの音か?
ほとんど聞き慣れない音なので...断言はできないが、きっとそうだろう。採取・採掘はアイテム制作ができるタイプのゲームだったらまあまあの頻度で出てくるものだった気がする。気になるな金策的に...
音がする方の岩の方へ岩に沿って回り込む。切通しから少し入ったところに上りやすそうな場所があったので、手も使いながら登っていく。平らな場所も多く、次に上に行けそうな足場や勾配の緩やかなところを歩いて探す。
前に崖でクライミングをした時に、スタミナが切れてしまって落下死してしまったから、急斜面を無理して登ろうとしてまた死ぬのは避けたい。人知れず死ぬのって悲しい...せめて、モンスターでもいいから目撃していて欲しいものだ...
のんびりと登っているうちに音の発生源にたどり着いた。一人のプレイヤーがツルハシを一心不乱に岩壁に打ち付けている。
振るわれたツルハシは岩壁に衝突し独特な高い音を辺りに響かせる。砕かれた岩の破片は飛び散り、その足元へ乱雑に積もっていく。
声を掛けるのもはばかれるほど熱中しており、邪魔したら怒られそうな雰囲気がある。
よっこらせ...
地べたに腰を下ろしてからあぐらをかき、インベントリからブレンドティーが入った木のボトルを取り出しコップへと注ぐ。
ゆっくり待つとするか。
金属音が鳴り響く中、高所から見る青空の広さと下界のミニチュアっぽいかわいさを感じながら、のんびりと景色を眺める。
おぉ、ハイキング日和だな。素晴らしい。
ブレンドされた柑橘系の果実の香りを楽しみながら、遠方の街や沼、岩、川を見る。時折、飛んでいる鳥が空中に円を書いているのが面白い。いつまでも見ていられそうだ。
「ふぅっ......休憩しよ...って?!」
金属音が止んだので景色を見るのを止めて後ろを振り返ると、大きな伸びをして振り返るプレイヤーさんと顔が合う。
「あっ...どうも。」
「どっ...どうも。」
思わず会釈をすると相手も会釈を返してきた。ものすごく気まずい...
「あー...そのですね......下を歩いてたら、カキンカキンと音が聞こえてきたので何をやられてるんだろうなと...思いまして、来たら一生懸命やられているんで邪魔したらいけないなとお茶を飲みながら待っていたんですよ。」
「そうなんですか...」
あまり弾まない会話。バッドコンタクト。
「そうだ、あなたもお茶でもどうですかな。」
返事を待つ前に机と椅子を二脚インベントリから取り出し、青のテーブルクロスを掛けてセッティング。木のコップをもう一つ置き、ボトルからお茶を注ぐ。
トゥクトゥク
「オレンジフレーバー紅茶みたいな味ですからミルク無しでも飲めますよ。ささ、冷めない内にどうぞ。」
自分のコップにも足してからちょびっと飲む。
プレイヤーさんは最初驚いた顔をしていたが、小さく返事をしてから、恐る恐る近づいて来て椅子に座った。
「あっ...美味しい...」
「農業系クランのツテがあって、そこから譲ってもらったんだよ。仮想現実とは言えど侮れないねぇ...」
種苗クラン『輝ける種』との植物の情報をゆるく売り買いする関係は、シャンフロ内でのQOLの向上に物凄く貢献していた。情報提供のついでにちょっとお願いすれば、関係先や取引先から品物を安く入手してきてくれたりするのだ。全く素晴らしいクランだ...
「ところで、そこでやっていたのは採掘なのかい?」
石ころが積み上がっている壁の方を指差す。彼女はそちらを見てからお茶を再びすすり、落ち着いた様子で話し出した。
「採掘...といえば採掘ですね...」
「うん...?採掘でないかのような...」
「採掘ですよ。ただ、採掘する時に...壁に像を彫っているんです...」
「掘っている...?ああ、彫っているね......像を?!」
「まだざっくりと削っている段階ですが...はい...」
そう...像を彫ってるのか。なんで......???
ズズズ
「あー...えーっと......何の像を?」
「聖女ちゃん像です!!!」
「聖女...ちゃん...?」
回答は食い気味に被せられた。聖女ちゃん......あれ?頭の隅になんかそのワード存在するような気がする。
「聖女ちゃんは本当にかわいくて優しくて慈愛に満ちあふれていて聖女ちゃんマジ聖女ちゃんなんですよ。聖女ちゃんの為にこの世界があると言っても言いすぎではないんです。
わたしが培ってきた彫刻の技術と石工のスキルはぁ聖女ちゃんという神様が作った奇跡の美を少しでも多く広めるためにあるんだと、聖女ちゃん見た瞬間にビビビーっときたんですよ。聖女ちゃんかわいい。聖女ちゃんマジ天使。聖女ちゃんマジ聖女ちゃん。
ふぅ......聖女ちゃんはシャンフロのメイン宗教である三神教の聖女なんですよ!めちゃくちゃかわいいです!」
.........おぅ。やばい人や。聖女ちゃんとやらに首ったけということは怖いほどに分かった。
「なるほど..................それで聖女ちゃん像を彫ってるんだね......」
なぜこの岩壁に彫っているのか、聖女ちゃんに首ったけになったきっかけとか、聖女ちゃん像彫ったら偶像崇拝になって三神教から怒られないかとか、フィールドのオブジェクト好き勝手加工していいのか、とか色々と疑問が駆けめぐったがやぶ蛇を突っつきそうな気がしたので飲み込んだ。でも、なんだか面白そうだ。
「素晴らしい!そうだな...是非とも...かわいい聖女ちゃん像の完成した姿がみたいのだけど、ここで見学させてもらっても...いいかい?」
「そんな...そんなの...大歓迎ですよ!いいに決まっているじゃないですか...?!一人でも多くの聖女ちゃんラヴァーを増やすために私はここにいるんです。聖女ちゃんのかわいさは世界の壁を超えて信仰されるべきなんです!聖女ちゃん語録の192P目にも、『みなさんが幸せに過ごせること、それが私の幸せです。今日もお勤めありがとうございます。にこっ...(尊すぎる笑顔)』と記されています!ああっ?!かわ尊い......」
「おぅふ......いいんだね...?ここで座って見ているよ?」
「もちのロン!やったぁ、聖女ちゃんのためなら、やる気100万倍です!どぅるるるるるるる~ああ~我らの聖女ちゃんっ。やりますよおおお!」
やっぱり判断を間違えちゃったかなぁ......
~数時間後~
「ちょっと君、鳥が襲ってきたぞ!ハゲワシみたいな奴が3羽くらい!」
「まかせまああああぁぁーーーーす!ぐへっへへへ......聖女ちゃんのおみ足の曲線美削るのたまんねぇっすわぁ......ふへっ......ふへっ......」
ひえぇ......段々酷いテンションになってんなこの
~更に数時間後~
「日が暮れるなぁ...もう眠くなってきたよ...もう12時か...まあ明日は土曜日だから徹夜も悪くないが...ビール飲も...そう言えば星空を肴にするのも悪くない。むしろ最高かもしれないな......」
「聖女ちゃん......いやっっっ!まだ聖女ちゃん足りない。聖女ちゃんぱわぁああがこの像にはまだ宿ってにゃいのおおおお!ふああああぁぁ?!何で!何で!ナンデエエエエエエエエウェエ!う"ぇ"ぇ"ぇ"ぇ"え"っ”......ごほっ......ごほっ......
あれ......暗くなってきた?灯りつけますね...
太古から残りし聖なる光よ...
長い梯子の中程で器用にバンザイして広げられた両手から夕焼けからすっかり暗くなってきた闇を浸食するように、ジワリと光が宙に広がっていき、最後には自分たちと像の頭頂部から足元までスッポリと覆う。
「あっ...聖女ちゃんを呪文の間に入れると気持ち東京タワー分くらい神聖さが上がる気がするんですよ!オススメですっ!聖女ちゃんは聖女ちゃんゆえ神聖なんですね、うんうんわかりみぃ...!魔物除けで一石二鳥!ぶぃ!イエエエエェィ!ヒイイイイハアアアアアア!聖女ちゃんさいいっっっっこうううううううううう!!!!」
「星空が見にくくなった......肴が一つ消えて悲しみなんだよなぁ...グビグビ。仕方ない。秘蔵の自家製ビーフジャーキーで優勝していくしかないな........................ったく最近はよぉ......仕事がなぁ増えすぎ............家にぜんっっぜん帰れねぇよおお.........おいクソ上層部、東京に帰せよ......ぢぐしょう......う”っ......嫁と娘に会いでぇ......ガジガジ......」
~更に更に数時間後~
「.....................ふぅっ..................ふぅっ.........」
「...............ねみぃ......この栄養ドリンク飲んだら眠気冷めんのかな......?いや......流石にもったいねぇな......?」
夜が明けて(午前3時を回って)からは、聖女ちゃん大好き過ぎてヤバすぎる人は奇声を上げるのを止めて、像の細部のディテールを整え始めた。道具もなんか小さいものに持ち替えてる。夜の間もちょくちょく持ち替えていたが、完全に仕上げに入ったようだ。
時折、ぶつぶつと喋っている音が聞こえるけど、何言ってるか分からない......道具が光っているのを見るとエンチャントの詠唱かなんかか......?光らない時もあるから単に聖女ちゃんを礼拝しているだけなのかもしれん......
ヤバいな......寝落ちしそうだ......ここまで来て寝落ちとか.........ないわ!
ゴンっ
痛てええええええ!地面に向かって思いっきり頭ぶつけると流石に目が覚めるぅ!俺は聖女ちゃん像の完成を見届けるまで死なん!!!
~そして~
「たどりついた......りそうのせいじょちゃんに.........いや、またいっぽちかづいた......シャオオラアアアアアアア!!!聖女ちゃんシャオオラアアアアアアア!!!」
「はっ......寝落ちしてた?あー...頭いてぇ......って、おお?!」
いつの間にか突っ伏していた机から顔を上げると、そこには......純白の白い巨大な像が岩壁の
その像は全てが真っ白だが、造形は細かく衣服のシワや生地の厚みが再現されていたり、髪の美しさ、体の健康的な曲線美、聡明さを感じさせるがどことなく物憂げな表情、それらはその像のモデルとなったであろう少女の儚げだが神秘的で力強い美しさを見るものに感じさせる。恐らく、とても繊細で、少しでも何かが違ったら台無しになってしまう、そんな美しさだ。
「素晴らしい......とても美しい......」
「えへへ......褒められると頑張ったかいがありますねぇ!聖女ちゃん美しいし、かわいいし、尊いんですよ。」
「いや......本当に良いものを見せてもらった。素晴らしいアートだ。」
最初見たときはただの荒れ果てた岩壁にすぎなかった。そこから一晩でこのようなものができてしまうとは、途中経過を見ていたといってもどこか現実味のないことだった。ましてや、目の前にいる一人のプレイヤーから生み出されたとはにわかに信じがたい事実だった。しかし、目の前に聖女ちゃん像があり、その存在は否が応でも幻想が現実となっていることを突きつけている。
「ありがとありがとー!おじさんも聖女ちゃん教に入信しちゃいな。イエーッ!」
「それは遠慮しとこう。良いものを見せてくれてありがとう!そろそろ落ちるよ。」
長くインした割にはモンスターと全然戦えなかったが、今日はなんか楽しかったなぁ...意外な出会いがあったというか。
「ちょっっ...ちょっと待って!」
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ハイパー黒糖さんからフレンド申請が来ました。「聖女ちゃんは最高ですよねええ!」
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「ここであったのも何かのご縁。や!聖女ちゃんの導きですっ。フレンドになりましょ......どうです?」
「もちろん、いいとも。」
それほど多くないフレンド欄に一つ新たな名前が追加された。そして、またインしたときにハト便で連絡することを約束し、貴重な土曜日の朝を使って惰眠を