男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた! 作:ネコ文屋
ピギャーー
「こんにちわ~!村山さんお届け物です!」
明くる次の週の土曜日の朝、9時頃、俺の手元にはシャンフロのソフトとVR機器一式があった。あの後そのままのテンションでポチポチと衝動買いをしてしまった。平日は時間通りに帰れないことも多いから、今日の受け取りを指定していたのだ。家族に秘密で買ってしまったが、へそくりの口座から出したのでなんとかごまかせるだろう。
正直、うきうきわくわくしている。
最近は健康に気を使い酒も飲まなくなった。しかし、体力が衰えて運動もできない。さらに言えば、脂肪もついてしまった。これでも、昔はスポーツマンだったのだが。だが、VRゲームなら、家の中で旅行気分が味わえるし、色々な体験ができるなら一石三鳥くらいは堅い。
早速VR関係のネット設備を整える。マンションのアンテナがVRに十分耐えられる通信速度を持っていることは水曜あたりに確認済みだ。Wifiルーターと筐体を接続し、筐体に電源を入れる。筐体と同梱されていたヘッドギアとタブレット型の端末を取り出し、スイッチをonにする。そうすると、筐体から勝手に無線で充電されるらしい。
自動セットアップを待つ間、トイレで用を足す。エアコンのスイッチを適温に調節して、台所の蛇口から直接水を少し飲む。ペットボトルに水を汲んでおきベッドの脇に置いておく。これらをやっておかないと熱中症の恐れがあるそうだ。
ベッド兼ソファー(両方にできるタイプのやつ)でごろりと横になり、端末を見ると、ある程度の充電と自動セットアップが終わったようだ。
説明書を読んで端末を弄ってID登録、ユーザー登録、パスワード設定、アカウント設定、ヘッドギア設定、端末設定、PCとの連携などの環境設定を終えた後、ヘッドギアを被り端末の指示に従って動作テストを行う。
動作テストは問題なかったので、VR機器の設定が完了した。筐体にディスクを入れる。端末にシャンフロのおしゃれなロゴが表示された。
今度はシャンフロの説明書を手に取る。痛覚設定、接触設定、グロ描写設定があったがデフォルトで。知り合いのID入力はいないから飛ばす。キャラクリを複数人でやるか一人かは、一人で。音量もデフォルトで。アラーム設定は今はいいや。クレカ設定は月額の料金以外、課金をする予定がないから余分な機能をつけるのを止めておこう。もっともガチャ要素はないようなので安心だ。それどころか課金機能をできるだけ排除したゲームらしい。健全だなぁ。
準備ができたので、ベッドに横になり、ヘッドギアをかぶる。
端末でシャンフロのスタートボタンを押すと、60秒のカウントダウンと停止ボタンが表示されたので、机の上に置き目を閉じる。
キャラクリだが、当初考えていたプレイングは「演奏、ペットのひも、回復薬」の3つで構成されていたが、ネットで情報を漁ると、ペットのひもは難しそうな気配がある。魅力というパラメータはないようだし、今のところテイムできるのは犬と猫しか例がないのだ。これでは無理だろう。最低でも少女くらいはペットにできなければ...じゃあ回復薬もいらなくねということで演奏しか残らない。
よろしい(渋い声)。一旦、ひもプレイは諦めようではないか。だが演奏は捨てない。
【Now Loading...】
シャングリラフロンティアのロゴが表示された後、真っ黒な空間に照明が灯り、木の椅子に座っている自分がいることに気が付く。ぱっと見、窓と扉のない個室になっているようだ。そこに青色で半透明のウィンドウが浮いている。ここで、キャラクリをしろということなんだろうな。広さがあまりないのは余分なことをせずに早くでていけということなんだろうか。
しばらくかかりそうだな。
ひもプレイを辞めるとなるとバブみが足りなくなるほかに自分の戦闘力をある程度高める必要がある。STR型だとDEFかAGIを同時に上げる必要があるがINT型だと一つで済む分、他にステータスを割くことができそうな気がする。これが鍛冶師だとSTRが必要になってくるかもしれないが、楽器を演奏するのにSTRは多分必要ないだろう。
しかし、様々な楽器を細やかに操作するためにはDEX(器用さ)とTEC(技量)があった方がよいだろう。STM(スタミナ)は演奏に関係があるのか?と思うが例えば息を吐くときに補正がかかったりしそうだ。長時間の演奏には必須だろう。
もしかしたらDEXやTEC当たりはINT型にもフィードバックがありそうだしな。
INT型を使う初期職業は僧侶と魔術師があるらしい。僧侶でもよいが毎日ログインできるわけもないし、ヒーラーとして固定パーティに入るのはまずもって無理。辻ヒーラーを気取るのもありといえばありだが非常に面倒そうだ。よって、魔術師一択。盗賊の方が演奏には補正がありそうなイメージだが最近反射神経も鈍ってきて運動するのが億劫な年ごろなので、やめておこう。まあ、高度な柔軟性を維持しながら臨機応変に魔術師で進めていくのがよいだろうな。
まあ、INT型といってもこのゲームにはINTがなくMPしかない。とりあえずそこに振り分ける感じで行こう。
演奏の方は対応する情報がないが、何やら異次元に高度な人工知能を積んでるとかで世界の方が対応してくれるとやらの噂もある。これに関しては期待しない。リアルスキルというやつだ。
【ロードが完了しました。】
【キャラクタークリエイトを始めますか】
はいを押す。
【ボディメイクをしてください】
ボディが作れるのは確かオンラインゲームならではの仕様かな。とりあえず髪はふさふさにしておこう。年齢はそのままでいいや。顔は会社にばれるとなんか嫌だから変えておこう。種族は人間だけだ。ロボとかバッタとかなくてちょっと残念だ。
「うん、うんんん?顔いじるの大変だわコリャ。気持ち悪い顔しかできない件について。」
鼻が異常に尖ったり、顎が尖ったり。自分の特徴を崩そうと思うとなかなかうまくいかない。
すると空間に声が響き渡った。
『レコメンド機能を使いますか?』
こりゃAIですな。ほいほい。俺が困っているのを見て...
「お、反応してくれるとは!えー、レコメンド機能とはどのようなものですか?」
『キャラクタークリエイトにおいて、プレイヤーの希望に沿うようにボディメイク、キャラメイクの補助を行う機能です。理解度に合わせて適切な構成の提案を行います。』
「じゃあ、それ、お願いしとこうかな。」
『かしこまりました。』
なんという気の利いたAIだ。わが社のサポートAIにも見習っていただきたい。
『ボディメイクについてのご要望をお聞かせください。』
「背はこのままで。」
「年齢は同じでいいや。」
「腹は引っ込めて。」
「それで髪はふさふさ。」
「顔は身バレしないくらい違った方がいいかな。」
『少々お待ちください。生成が完了しました。』
普通の日本人顔で少々つまらないが、まあ自分だとばれない顔に仕上がった。
「うーん?ちょっとつまらないかな?」
なんか、同僚にいそうな雰囲気を醸し出している。なんというか、ちょっとインパクトにかけるよな。よし、角でも生やしとこう。角の種類はいろいろあるが、適当にデビルっぽい短めのを選んで黒色でいいだろう。
やっぱり似合わない。まるで、地獄のうだつが上がらない獄卒リーマンだ。却下。髪をいじることにしよう。
「髪の毛を緑色にして似合うようにしてくれ。」
『かしこまりました。こちらでどうですか。』
「お、いいんじゃないか。それでお願いします。』
深緑色というのだろうか。上手くおっさん顔にも似合うような感じになった。ワカメ色とか昆布色とかも連想させる色だ。光合成がはかどる。
【ボディメイクが完了しました。】
【キャラメイクをしてください。】
「次はキャラメイクか。とりあえずジョブは先に決めておいた通り魔術師だな。」
魔術師は最初は火の魔法を覚えているようだ。
出身はいくつかあるな。まあ、この中なら、DEX(器用)とAGI(速度)に中程度の上昇補正がかかり、LUC(幸運)に下方補正がかかる家無し子を選択しておこう。本当を言えばAGIよりDEXとTEC、スタミナに補正を掛けたいのだがないのでしかたない。装備は普通のものより貧弱なものになるけど許容範囲だ。
【キャラメイクが終了しました。】
【プレイヤーネームを設定してください。】
プレイヤーネームか。全く決めていなかったな。
「すみません、プレイヤーネームおすすめしてください。」
『プレイヤーネームについてのご要望を教えてください。』
「面白い感じで。」
「年齢にも気を使ってキラキラネームはやめてほしい。」
「演奏っぽいワードをできれば使ってほしいかな。」
「魔術師ぽさもありだ。」
『かしこまりました。こちらがおすすめです。』
【和亀、緑茶マン、演奏おじさん、笛風、エアー、アッポロん、音無し草】
うんんん?なんか悪意を感じるラインナップなんだが。見た目、演奏、魔術師、年齢で自動生成したということかな。微妙な名前ばかりだ。名前くらい自分で決めろということかな。
そうだなぁ。しばし手を当てて沈思黙考にふけるとするか。名前というのは顔なわけだ。インパクトがありつつかっこいい名前がよいだろうな。いやいや、自分でハードルを上げてどうする?そんな名前なかなか思いつかないだろう。
まず、自分について振り返ろう。俺の名は村山
中年サラリーマン、シロクマ、ギター、...
これかな?
「ギター熊でお願いします。」
『かしこまりました。』
【ユーザー登録可能です。登録してもよろしいでしょうか。】
まあええでしょう。ポチりと。
空間の照明が消えた。いよいよシャンフロの世界か。
とりあえず楽器探すのが肝心か。いや、口笛もワンチャンありやな。いける気がしてきた。ノリが大事なんだ。いける絶対いける!
「やるぞコラァア!口笛でも裸踊りでもやったるでぇ!」
Tips.初期設定
プレイヤーはゲーム開始前にボディ、生まれ、JOB、プレイヤーネームを決める。性別は現実と逆のものを選ぶことができる。声質はそのままであるので、ネカマプレイは両性類でなければはかどらない。クターニッドの聖杯は声も変わる。