男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた!   作:ネコ文屋

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ナガナガ


14_環境を支配する者、旋律で打ち破れ

 

巨大樹の内部はまるで別世界のようだった。外の砂漠とは対照的に、幹の内側には青白いマナの光が脈動し、空間全体がかすかに揺らいでいる。壁に広がる紋様は発光し、時折それが波紋のように広がっていた。

 

「やべぇな…。ここ、本当に木の中なのか?」

サイバーファングが息をのむ。

 

フリューレが剣の柄を握り直し、端末を確認する。

「マナ濃度が異常に高い。ここはもはや、グランド・マナ・スプライトによって作り変えられた魔法空間だな。」

 

その時、空気が震えた。

 

「──■■■……■■■■■……」

 

不可思議な音が空間を満たし、脳に直接響いてくるような感覚が襲う。

 

「くっ…これは…?」

 

私は耳を塞ぐが、音は皮膚の奥まで浸透するかのように響き続ける。

 

「マナ・スプライトの共鳴音だ!」

 

フリューレが叫ぶ。

 

その瞬間、霧のようなマナが渦巻き、空間の中心に収束していく。そして、それは一体の蒼白い人型の姿へと変わった。

 

《グランド・マナ・スプライト》

 

それは人のような形をしているが、実体があるのかないのかわからない。顔の部分は霧に包まれ、両腕は浮遊しながら空間に波紋を生じさせている。胸の奥には、脈動する巨大なコアが埋め込まれていた。

 

「あれがコアか…!」

 

アイアンティーポットがスティックを構える。

 

「討伐開始!」

 

フリューレの号令とともに、戦闘が始まった。

 

 

「まずは牽制だ!」

 

私はギターを構え、弦を強く弾いた。

 

《幻奏術・衝撃のリフ》

 

重低音の波動が空間を駆け抜け、マナ・スプライトの霧状の身体にぶつかる。しかし、音が吸収されるように霧が揺れるだけで、ほとんどダメージを与えられていない。

 

「音が通じない?」

 

ハルぽんが驚いた声を上げる。

 

その間に、マナ・スプライトが手をかざすと、空間が歪み始める。

 

《幻覚の歌声》

 

「っ! 視界が歪む…!」

ルーチェがふらつく。

 

突如、周囲の景色が変わった。メンバー全員がそれぞれ異なる空間に引きずり込まれ、まるで孤立したような感覚に襲われる。

 

「これは…幻覚か!」

 

私はギターの音を響かせることで意識を保とうとする。

 

「ハルぽん、音で相殺できるか?」

「やってみるなの!」

 

ハルぽんがマイクを構え、力強く歌い始めた。

 

「光の音よ、真実を導け!」

 

《幻奏術・浄化のアルペジオ》

 

彼女の歌声が空間に浸透し、幻覚の揺らぎを打ち消していく。

 

「今だ、攻撃を集中させるぞ!」

フリューレが剣を構える。

 

アイアンティーポットがスティックを振り下ろし、ドラムのリズムを強化する。

 

《リズムアサルト》

 

ドラムのビートが空間を震わせ、マナ・スプライトの身体が僅かに揺らぐ。

 

「よし、音の波で押し込めるぞ!」

 

サイバーファングが低音のベースを轟かせ、マナ・スプライトの身体を圧迫する。しかし、それでも決定打には至らない。

 

 

 

「■■■■──!!」

 

グランド・マナ・スプライトが高周波の共鳴音を響かせた瞬間、巨大樹の内部が激しく震えた。幹の内側に刻まれた魔法紋様が一斉に光を帯び、まるで生き物のように脈動し始める。

 

 

スプライトの腕が広がると、虚空から無数の触手が伸びた。黒く揺らめくそれらは意思を持つかのように宙を滑り、まるで見えない筆で複雑な魔法陣を描いていく。

 

「……何をしている?」

フリューレが警戒する。

 

しかし、その答えが導き出されるよりも早く——

 

ズズズ……!

 

足元の地面が蠢き始めた。周囲の光景がまるで水に溶けるように変質する。

 

「環境変化……来るぞ!」

 

アイアンティーポットが叫ぶ。

 

 

《概念魔法: 氷雪の降臨》

 

 

空間が凍りついた。

 

「……っ!」

 

フリューレが剣を構えた時には、すでに手遅れだった。

 

氷の冷気が霧のように広がり、周囲の温度が急激に低下する。視界が白く染まり、足元から氷の結晶が這い上がってくる。

 

「これは……!」

 

その直後——

 

ゴゴゴゴゴ……!!

 

天井が裂けた。

 

空間の彼方から、無数の巨大な氷塊が降り注いでくる。

 

「避けろ!!」

 

フリューレが叫ぶ。

 

しかし、その瞬間、ハルぽんがすかさず動いた。

 

「ハルぽん、援護するの!」

 

《ショックウェーブガン:反発障壁》

 

ハルぽんが腕を振るうと、青白い波動が発生し、空中に衝撃波の壁を生じさせる。

 

ドンッ!!

 

落下してきた氷塊が波動壁に激突し、弾き返される。氷の破片が宙を舞い、周囲に降り注ぐが、直撃の脅威は防げた。

 

「よし……!」

 

しかし、まだ終わりではなかった。

 

グランド・マナ・スプライトは空間を歪ませながら、さらに魔法陣を展開していく。

 

——今度は、重力すら歪んでいた。

 

「っ!? 体が……重い……!」

 

フリューレが膝をつきかける。

 

それを見たもう一体の征服人形が即座に反応した。

 

「ここは任せろ……!」

 

《ショックウェーブガン:重力制御》

 

征服人形の一体が銀色の弾丸を放つと、空間が微かに揺らぎ、局所的な重力が変化する。

 

ズシン……!

 

フリューレの足元にかかっていた重圧が一瞬で消えた。

 

「助かった!」

 

だが、敵はそれを許さない。

 

スプライトの触手が新たに魔法陣を描き、空間全体を覆い尽くす。

 

「次の攻撃が来るぞ!」

 

——ズバァァンッ!!

 

突如、砕け散った氷の破片が、弾丸のように高速で飛んできた。

 

「くっ、これだけの弾幕を……!」

 

無数の氷弾が飛び交う中、征服人形たちは即座に反応する。

 

《ショックウェーブガン:音響衝撃波》

 

青白い波動が前方へ放たれると、飛来する氷弾の軌道がずれ、次々と弾かれていく。

 

「このまま押し返す……!」

 

フリューレが剣を構え、氷雪の嵐の中を駆ける。

 

ハルぽんと征服人形たちのサポートがあれば、この領域すら突破できる——!

 

「——反撃開始だ!」

 

 

 

ハルぽんが前に出て、マイクを握りしめる。

 

「音よ、空間を貫け!」

 

《幻奏術・衝撃のアリア》

 

ギターの伴奏に合わせて彼女の声が空気を震わせ、落下する氷塊の軌道をずらす。

 

その隙に、アイアンティーポットが力強くスティックを振り下ろした。

 

《リズム・ブレイク》

 

強烈なビートが空間を打ち砕き、マナ・スプライトの防御を崩す。

 

「よし…一気に攻めるぞ!」

 

私たちは一斉にスプライトに向かって突撃した。

 

 

《概念魔法: 熱波の審判》

 

突撃した攻撃は幾つか当たったが、再びグランド・マナ・スプライトの触手が虚空に軌跡を描く。その動きはまるで燃え盛る太陽の軌道を再現するかのようだった。

 

——ズズゥゥゥン……!

 

宙に刻まれた魔法陣が灼熱の赤と黄金に染まり、空間そのものが揺らぎ始める。

 

「……やばいな、これは。」

 

私はギターを構えながら舌打ちする。

 

「熱波が……来るぞ!」

 

突如として、空間全体が赤熱化し、地面にひびが走る。

 

次の瞬間——

 

ゴオォォォォッ!!!

 

空から降り注ぐ超高温の火球。地面から突き上がる灼熱の噴流。

 

 

周囲はまるで地獄の業火に包まれたような有様だ。

 

「ちっ……! このままじゃ蒸発するぞ!」

 

 

 

「サイバーファング、アイアンティーポット!」

「おう、乗ったぜ!」

「ドラムでリズム作る!」

 

**——《幻奏術: 砂塵のビート》

 

アイアンティーポットが重低音のビートを刻む。

 

ドラムの振動が地面に伝わり、火柱を巻き上げる熱風の流れをわずかに乱す。

 

「まだ足りねぇ……!」

 

サイバーファングがベースを構え、ゴリゴリの低音リフを叩き込む。

 

——《幻奏術: 大地のグルーヴ》

 

轟くベースの波動が熱風をかき乱し、火球の軌道を微妙にずらす。

 

「よし、ここで俺が乗せる!」

 

私はギターをかき鳴らし、リズムを一気に加速させる。

 

 

 

《幻奏術: 灼熱のカウンターリフ》

 

ギターのフレーズを刻むと、音の波動が熱波に干渉し、空気を震わせる。

 

「熱が伝わるのは空気の波動だ……なら、音で打ち消せるはず!」

 

サイバーファングとアイアンティーポットも呼応し、さらに演奏を加速。

 

「なら、乗せるしかねぇ!」

 

「ビート、全開!」

 

セッションが極まり、熱波の振動に干渉するカウンターリフが炸裂する。

 

 

 

《幻奏術: 熱波のカットオフ》

 

音の波が連なり、熱の波動を相殺していく。

 

炎が燃え上がる前に消え、火球の軌道がさらに狂う。

 

ドォォォォォンッ!!

 

スプライトが生み出した火柱が相殺され、戦場の温度が急速に下がる。

 

「……決まったな。」

 

私たちのセッションが、スプライトの《熱波の審判》を完全に打ち消した瞬間だった。

 

 

 

 

《概念魔法: 砂嵐の咆哮》

 

「■■■■■■■……!」

 

グランド・マナ・スプライトが触手を振りかざすと、虚空に刻まれた魔法陣が猛々しく回転し始めた。

 

次の瞬間——

 

ゴゴゴゴゴッ!!

 

地面が震え、空間がねじれる。足元の砂が浮かび上がり、巨大な竜巻が荒れ狂う。

 

「やばい……この規模の砂嵐はまずいぞ!」

フリューレが警戒の声を上げる。

 

視界は瞬く間に砂塵に覆われ、音すら掻き消す暴風が戦場を支配する。

 

「くそっ……これじゃ攻撃どころか、お互いの位置もわからねぇ!」

 

サイバーファングが顔を覆いながら叫ぶ。

 

——しかし、その中で唯一、風を切り裂く声が響いた。

 

 

 

「大丈夫なの! 風には、音を乗せることができるの!」

 

ハルぽんが砂嵐の中心へ一歩踏み出し、深く息を吸い込む。

 

「響け——風に乗る旋律!」

 

彼女の声が、嵐の中で美しく響く。

 

 

 

《幻奏術: 風のアリア》

 

私がギターを構え、ハルぽんの旋律に合わせて弦をかき鳴らす。

 

アイアンティーポットがドラムのスティックを振り下ろし、リズムが嵐の乱流に干渉する。

 

「乗せるぜ……!」

 

サイバーファングが低音を刻み、風のうねりをコントロールし始める。

 

《幻奏術: 風のアリア》発動——!

 

音の波が風に乗り、旋律が竜巻の流れを変えていく。

 

嵐を巻き起こす風が音と共鳴し、砂嵐のうねりがリズムに合わせて揺らぐ。

 

「すごい……風が歌を運んでる!」

 

フリューレが驚きの声を上げる。

 

 

 

《幻奏術: 風音の解放》

 

「これで——吹き飛ばす!」

 

ハルぽんの歌声が最高潮に達し、私たちの演奏が嵐の核心へと突き刺さる。

 

「風よ、砂塵を打ち払え!」

 

音の波動が風と共鳴し、竜巻の流れを根底から書き換える。

 

——ドォォォォォンッ!!

 

砂嵐が一瞬で霧散し、視界が開ける。

 

「やった……!」

 

フリューレが息を整えながら前を見る。

 

スプライトが僅かに後ずさりし、砂嵐を完全に制御できなくなっていた。

 

 

 

 

 

《概念魔法: 森林の深淵》

 

「■■■■■■■……」

 

グランド・マナ・スプライトの虚無の触手が宙をなぞると、漆黒の魔法陣が展開される。

 

ズズズズ……ッ!

 

大地が震え、戦場全体が暗緑色の靄に包まれた。

 

——森が生まれる。

 

突如として、空間の裂け目から黒々とした樹木が次々と生え、巨大な森林が瞬時に形成される。

 

「なんだ……!? さっきまで砂漠だったのに!」

サイバーファングが驚きの声を上げる。

 

だが、ただの森ではない。

 

木々の幹には無数の瞳が蠢き、根は獲物を求めて地を這い、空には影のような不定形の生命体が飛び交っている。

 

「これは……“異界の森”か……!」

フリューレの顔が険しくなる。

 

《森林の深淵》——それは単なる植物の魔法ではなく、異界の生命体と融合した魔性の森だった。

 

 

 

「このままじゃ戦えない。……殲滅する。」

征服人形の一体が冷静に判断し、腰のホルスターから起源弾を取り出した。

 

「起源弾、装填。」

 

カチリ、と金属音が響く。

 

《起源弾・浄界》発射!

 

——ズガァァァァン!!!

 

銃口から放たれた弾丸が**純白の光の軌跡を描きながら樹木に命中する。

 

すると、衝撃波とともに命中点を中心に森そのものが消滅した。

 

「……効く!」

 

征服人形たちは即座に起源弾の連射を開始し、異界の森を一点突破するように破壊していく。

 

 

 

しかし——

 

「■■■■■……■■■」

 

スプライトが手をかざすと、無数の樹木が再び生え始めた。

 

「自己再生能力か……!」

 

フリューレが歯を食いしばる。

 

「だったら、まとめて吹き飛ばす!」

 

もう一体の征服人形が、円筒形の装置を取り出した。

 

高エネルギー手榴弾——起動。

 

「投擲——」

 

カチッ

 

ピピピ……

 

——投擲!

 

ボォォォォンッ!!!

 

投げ込まれた手榴弾が炸裂し、光のドームが一瞬広がる。

 

爆発の余波で周囲の黒い木々が根こそぎ吹き飛び、影の生命体も悲鳴のような音を上げながら消滅していった。

 

「よし、一時的に押さえた!」

 

 

 

「だが、森の再生が止まらない……!」

フリューレが戦場を見回す。

 

「なら、こっちも環境を書き換えてやる!」

私はギターを構え、サイバーファングとアイアンティーポットに目配せする。

 

「やるぞ!」

 

「おう!」

「合わせるぜ!」

 

 

 

《幻奏術: 生命の旋律》

 

私はギターの弦を強く弾く。

 

アイアンティーポットのドラムが激しく鳴り響き、サイバーファングのベースが大地の脈動を刻む。

 

——ズゥゥゥン……!

 

「大地の鼓動よ、偽りの森を貫け!」

 

音の波動が大気に共鳴し、異界の森の木々を震わせる。

 

すると、森の根がまるで苦しむように蠢き始めた。

 

「偽りの生命は、真の音には耐えられないってことか……!」

 

バキバキバキィッ!

 

森が急激に崩壊し始め、スプライトの魔力が不安定になる。

 

「いまだ、征服人形!」

 

「了解。起源弾、全弾発射。」

 

——ズガガガガガガ!!

 

起源弾の弾幕が、完全に弱体化した異界の森を撃ち抜いていく。

 

 

 

スプライトはわずかに後ずさり、空間が再び正常に戻り始めた。

 

「よし……《森林の深淵》は完全に打ち消した!」

 

征服人形たちは静かに武器を下ろし、私たちは次なる攻撃に備えて身構えた——。

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■……」

 

グランド・マナ・スプライトが触手で宙に魔法陣を描く。

 

《概念魔法: 時空の歪曲》

 

ゴゴゴゴゴ……

 

空間が揺れ、重力の方向が乱れ始めた。

 

「これは……?」

 

フリューレが異変を察知する。

 

——歪んでいる。

 

遠近感が崩壊し、視界に映る景色が水面に映る像のように揺らぎ始める。

 

その歪みの中から、ゆらり、と“何か”が生まれた。

 

-

 

「……あれは?」

 

視界の端に、かすかな揺らぎが見える。

 

熱気に揺らめく陽炎のようだが、それは確かに形を持ち、意思を持って動いている。

 

「誰だ?」

 

サイバーファングが身構える。

 

しかし、それは誰でもない。

 

「いや……“誰でもない”からこそ、正体がない……?」

 

私は混乱しながらも、直感的に理解した。

 

それは存在しない。

だが、確かにここにいる。

 

「……!!」

 

気づいたときには遅かった。

 

ズシィッ……!

 

次の瞬間、身体が沈み込むような重圧が襲いかかる。

 

「ぐっ……!」

「こ、これ……重力が……!」

 

まるで見えない鎖に縛られたかのように、全員の動きが鈍くなる。

 

「おい、なんでだ!? 攻撃すらしてないのに、負けたみたいな感覚が来る!」

 

「……敗北を強制されている?」

 

フリューレの声がかすれる。

 

“誰でもない陽炎”がそこにいるだけで、私たちは「敗北した」という結果を押し付けられる。

 

 

 

「……ッ!!」

 

力を振り絞って動こうとするが——

 

ズゥゥゥン……!!

 

地面が突然、異常な重力に押し潰されるように沈み込む。

 

「くそっ……身体が動かねぇ……!!」

サイバーファングが呻く。

 

足元の地面は砕け、亀裂が走る。

 

征服人形たちも異常を察知し、ショックウェーブガンを放つが——

 

シュゥゥ……

 

「……消えた?」

 

ショックウェーブの衝撃波は、“誰でもない陽炎”に届く前に消滅した。

 

「……攻撃が、成立しない?」

 

フリューレが呟く。

 

それが現れた時点で、私たちはすでに敗北している。

だから、攻撃は成立しない。

 

「……なら、どうすれば?」

 

 

 

 

「くそ……何か、何か方法があるはずだ……!」

 

動けないまま、私は思考を巡らせる。

 

そして、ふと気づく。

 

この感覚——敗北を押し付けられる感覚。

 

それはまるで、歴史に埋もれた名もなき魂の嘆きのようだ。

 

「……そうか。そういうことか。」

 

私はギターを握りしめ、震える指で弦を鳴らす。

 

「……フリューレ、ハルぽん……この曲を知ってるか?」

 

静かに、古い旋律を奏でる。

 

それは、失われた時代の鎮魂歌。

 

 

 

「……ああ、それは……」

 

フリューレが目を見開く。

 

ハルぽんの口から、自然と歌がこぼれる。

 

——死者のためのレクイエム。

 

「ハルぽん、頼む……!」

 

「……うん。」

 

ハルぽんが声を震わせながらも、鎮魂の歌を歌い始める。

 

——ザワァ……

 

空間が静まり、“誰でもない陽炎”がわずかに揺らぐ。

 

「効いてる……?」

 

私はさらにギターの音を重ね、サイバーファングとアイアンティーポットもセッションを始める。

 

ドラムが鼓動を刻み、ベースが大地を震わせる。

 

「さぁ、鎮まれ……!!」

 

 

 

 

音が重なり、鎮魂の旋律が時空の歪みそのものと共鳴する。

 

「■■■■■……」

 

“誰でもない陽炎”が、ゆっくりと形を失い始めた。

 

——最初からいなかったかのように。

 

空間の歪みがほどけ、重力の圧迫が消える。

 

「……ハァ、ハァ……」

 

全員がその場に膝をついた。

 

「……終わったのか?」

 

私はギターを静かに下ろし、辺りを見渡す。

 

“誰でもない陽炎”は消えた。

そして——

 

《概念魔法: 時空の歪曲》は、解除されていた。

 

 

「……こんなの、二度とやりたくねぇな。」

 

サイバーファングが苦笑しながら立ち上がる。

 

「でも、倒せた。」

 

フリューレが静かに言う。

 

「いや、倒したんじゃない。鎮めたんだ。」

 

私はギターを抱えたまま、虚空を見上げる。

 

“誰でもない陽炎”——それはもしかしたら、忘れ去られた何かの亡霊だったのかもしれない。

 

 

「コアを狙わないと埒が明かない!なら、狙うしかないな。」

 

私はギターを担ぎ直し、短剣を抜く。

 

「爆殺符付きクナイ、行くぞ!」

 

私は印を結び、炎の術式を込めたクナイを投擲した。

 

《幻奏術・火の舞》

 

炎を纏ったクナイがマナ・スプライトのコアへと一直線に飛んでいく。しかし、その瞬間、スプライトの体が霧散し、コアが周囲に拡散した。

 

「分裂した! どれが本物だ?」

 

ノワールが冷静に観察する。

 

「音の波紋を感じる…コアは…そこ!」

 

ノワールの指示を受け、フリューレが瞬時に剣を振り抜いた。

 

「仕留める!」

 

その一撃がコアに直撃し、マナ・スプライトが悲鳴のような音を響かせる。

 

私は最後の攻撃に備え、ギターを再び構えた。

 

「とどめを刺すぞ、ハルぽん!」

 

「了解なの!」

 

ハルぽんが最後の高音を響かせる。

 

「燃え上がれ、魂の歌!」

 

私はギターの弦を一気にかき鳴らし、音の爆発を生み出す。

 

《幻奏術・終焉のフィナーレ》

 

轟音が空間を満たし、コアが砕ける。マナ・スプライトは光の粒となり、ゆっくりと消えていった。

 

静寂が訪れる。砂漠の風が樹内に吹き込み、先ほどまでの戦闘の余韻をかき消していく。

 

「討伐成功…か?」

 

サイバーファングが肩で息をしながら呟く。

 

フリューレは剣を収め、マナ・スプライトの砕けたコアに歩み寄る。

 

「コアの損傷は軽微。回収可能だ。」

 

ルーチェとノワールが即座に動き、専用のケースを取り出してコアを慎重に収納する。

 

「ふぅ…これで、ミッション完了なの?」

 

ハルぽんが息を整えながら言う。

 

「いや、まだだ。」

 

私は周囲の異変に気づいていた。

 

巨大樹全体が、軋むような音を立てて揺れていたのだ。

 

 

 

「!! 巨大樹が崩れるぞ!」

 

アイアンティーポットが叫んだ瞬間、天井の根が裂け、崩落が始まる。

 

「くそっ、戦闘の影響か!?」

 

サイバーファングが素早く回避するが、砂嵐のようなマナの暴風が吹き荒れ、視界がほとんど利かない。

 

「急いで脱出しろ!」

 

フリューレが的確な指示を飛ばし、全員が出口へと駆け出す。

 

ノワールがショックウェーブガンを撃ち、崩れかけた壁を吹き飛ばし、ルートを確保する。

 

「ハルぽん、ついてこい!」

 

私は彼女の手を引きながら、落石を避けつつ駆け抜ける。

 

「なの!」

 

ドゴォォォン!!

 

背後で大規模な崩落が発生し、巨大な根が地面を貫く。地鳴りが響き、巨大樹そのものがゆっくりと傾き始めていた。

 

「外まであと少しだ!」

 

サイバーファングが先行し、開けた地上への出口を指差す。

 

しかし、その時——

 

「っ…!! 砂嵐が!」

 

突如、出口の先にマナの暴風が吹き荒れる。視界が完全に遮られ、出口までの距離がわからなくなる。

 

「このままじゃ、外に出られない!」

 

「なら、音で道を切り開く!」

 

私はギターを弾き、衝撃波を発生させる。

 

《幻奏術・導きの旋律》

 

音の波動が空間を震わせ、砂嵐を無理やり切り裂く。

 

「今だ、全員行け!」

 

フリューレが号令をかけ、全員が一気に出口へと駆け抜ける。

 

 

地上へと飛び出した瞬間、背後で轟音が響く。

 

ゴゴゴゴゴ……ドオォォォン!!!

 

巨大樹が完全に崩壊し、砂煙が空へと舞い上がった。

 

「……間に合った、のか?」

 

ハルぽんが息を切らしながら振り返る。

 

「ギリギリだったな…。」

 

私は額の汗を拭いながら、砂漠に腰を下ろした。

 

「任務は成功だ。」

 

フリューレがコアの入ったケースを掲げる。

 

ステラ・プリズムのメンバーがそれを確認し、全員が安堵の表情を浮かべた。

 

「おいおい、フェス前に死ぬとこだったぞ?」

サイバーファングが苦笑する。

 

「でも、無事に終わったなの!」

 

ハルぽんが笑顔で拳を突き出す。

 

私もそれに応じて、拳を合わせた。

 

「よし、帰るとするか。」

 

砂漠の風が吹き抜け、戦いの余韻を運んでいく。こうして、《グランド・マナ・スプライト討伐作戦》は幕を閉じたのだった。

 

アナウンスが響き渡ったのはその時だった。

 

『シャングリラ・フロンティアをプレイされている全てのプレイヤーの皆様にお知らせ致します。』

 

 

『現時刻を持ちまして、ユニークモンスター「冥響のオルケストラ」の撃破を確認いたしました。撃破者はプレイヤー名「ミレィ」の一名です。さらにユニークモンスターの撃破に伴い、ワールドクエスト「シャングリラ・フロンティア」の進行を報告させていただきます』

 

「ユニークモンスターがまたクリアされたのか。すげえな。オルケストラっていうのはどういうモンスターなんだ。」

 

アイアンティーポットは感心したように言った。

 

 

「冥響のオルケストラのことですか…アレは道標であり、呪いであり、妄執でありますが、ただ遺産として存在するのです。プロトコルという形で我々は根源的な影響を受けながら一定の距離を保ちつつ、アレの望む試練を受ける者を探していますが、とうとう試練を突破したものがでましたか。」

 

フリューレが淡々と、しかし、感慨深げに話しだす。

 

「なるほど、オルケストラは新大陸で征服人形が案内するということだったのか。ふむ、多少気になるところではあるけれども、そういえばバンド名を決めていなかったじゃないか。旅人という意味でワンダラーズというバンド名を考えたんだけどどうかな。」

 

アイアンティーポットとサイバーファングの異論がなかったのでドラゴンフェスタでのバンド名はワンダラーズに決定した。

 

いよいよ練習を重ねて本番に臨む必要がある。仕事もあるが、頑張っていこう。

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