男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた!   作:ネコ文屋

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ビビビビ


16_火はまだ見えずとも

 

 スカルアヅチ城──

 

 漆黒の外壁と、禍々しくも荘厳なその姿は、空に向かってそびえる巨大な竜の骸のようにすら見えた。けれど今日、その城の前に広がる広場は、まったく異なる熱気に包まれていた。

 

 無数のプレイヤーたちが集まり、色とりどりの衣装や楽器、旗やサイリウムで埋め尽くされたその光景は、まるで異世界のカーニバル。宙に浮かぶ案内ホログラムには、イベントのロゴと共にこう書かれている。

 

 

 

 「DRAGON FESTA - 音で孵化する、真なる竜へ」

 

 

 

 ステージに設置された《音響核(オートフォノス)》が、まだ始動していないにも関わらず、じんわりと青白い光を放ち続けている。その周囲には、警備のスタッフたちが目を光らせ、観客の誘導をしていた。

 

 

 

 「これ……ほんとにドラゴン、出てくるのかな」

 

 「いやいや、ライブラリが協賛しているんだぜ? なんか起きるに決まってるだろ!」

 

 

 

 観客席では、期待と興奮が入り混じった声が飛び交う。

 

 ベンチに座って弁当を広げる者、楽器体験コーナーでギターを抱えながらセッションを始める即興バンド、光線で応援メッセージを空中に描く者たち。全員が、「何かが起きる」ことを信じて、今この瞬間を共有していた。

 

 

 

 ステージ裏、重厚な幕の向こうで、スタッフが小走りに機材の最終チェックをしている。ワンダラースのベーシスト、サイバーファングが静かに弦を鳴らし、ハルぽんは深呼吸してから衣装の裾を整えた。

 

 

 

 その視線の先、スカルアヅチ城の塔の一つに、演出用の音響灯がゆっくりと点灯する。

 

 それはまるで、今にも孵ろうとする「何か」を見守る、産声の予兆のようだった。

 

 

 

 あと五分。

 

 

 

 会場の誰もが息をのむ。静寂が、かえって熱を帯びていく。まるで全員が、巨大な心臓の鼓動の一部になったかのように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 夜の帳が下りたスカルアヅチ城。その威容を背にした広場には、無数の光が瞬き、人々のざわめきが星のざわめきと溶け合っていた。

 そこに生まれようとしているものは、まだ誰にも知られていない。

 

 司会のアナウンスもまだない。

 ただ、観客たちは知っていた。

 

 何かが起きる。

 

 

 

 突如、すべての照明がふっと落ちた。

 

 深い闇。

 

 その静寂を破るように、ひとつの音が、底の方から湧き上がった。

 ベースが鳴る。ドラムが加わる。ステージから吹き出すスモークが光に染まり、シルエットが現れる。

 

 ギター熊のリフが切り裂くように走り──ワンダラースの音が動き出す。

 

 中央に浮かび上がったのは現実世界のアイドル、笹原エイト。

 その隣には、にこやかに手を振るハルぽんの姿があった。

 

 

『夜の空に響くメロディー

 まるで龍が目を覚ますように

 Flames are rising, beats igniting

 この鼓動は止まらない』

 

 ──まだ“それ”は現れていない。

 けれど、観客の心の奥に、小さな火が灯り始める。

 その火は、歌とともに広がっていく。

 

 

 

『燃え上がれ Fire, take me higher

 奏でるたびに強くなる

 Wings of music, set me free

 この世界を塗り替えて』

 

 ハルぽんの動きに合わせてステージの床が光を帯びる。

 笹原エイトの声が空へと突き抜け、音がまるで風のように会場を巡っていく。

 

 客席では、誰もが気づかぬうちにリズムに身を預けていた。

 ただ、その熱に巻き込まれていく。

 

 

 

『Music Dragon breathed fire, oh

 光のリズムで踊れ

 Music Dragon roars higher, oh

 響け、この空の彼方まで』

 

 ──その名前は呼ばれた。

 だが、まだ姿はない。

 観客の誰もが、その「ドラゴン」が音楽の中にだけ存在していることを、直感で知っていた。

 

 

 

 

『街のノイズに埋もれた夢

 でも心の中 Burning bright

 I hear the sound, it's calling me

 目を閉じて飛び立とう』

 

 夢と雑音の間を、音楽がすり抜けてくる。

 この歌は、導入であり、予兆。

 まだ“それ”を呼び覚ますには早すぎる。

 

 

 

 

『灰の中から Rise again

 何度でも甦る

 With the fire in my soul

 今、翼を広げる』

 

 ステージの上空に、赤い光の帯が一瞬走った。

 誰かが「あっ」と小さく声を上げる。

 だが、それはただの光の演出──まだ、何も起きていない。

 

 

 

『Music Dragon breathed fire, oh

 光のリズムで踊れ

 Music Dragon roars higher, oh

 響け、この空の彼方まで』

 

 その名を歌に乗せて呼びかけながら、笹原エイトとハルぽんは、ただ観客の心を揺さぶっていく。

 ステージは燃えている──音で、光で、気配で。

 

 

 

 

『燃え尽きるまで Let it burn

 音の炎で照らせ

 Music never fades away

 この世界に刻む』

 

 最後のコードが鳴った瞬間、ステージが一気に真白な光で包まれた。

 その余韻の中、ざわめきが戻る。

 

 

 

 ──ドラゴンは、まだ目覚めていない。

 

 けれど、確かに気配はあった。

 

 「何かが始まった」

 会場全体が、そんな確信に包まれていた。

 

 

 

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