男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた!   作:ネコ文屋

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ヒサヒサ


17_名を呼ぶ声が、空を揺らす

 

 鳴り止まない歓声の中、最後のコードの余韻がゆっくりと夜空へ溶けていく。

 

 ステージを包んでいた白い光が静かに薄れ、観客たちの熱気だけがその場に残されていた。

 

 笹原エイトは軽く息を整えながら、マイクを握り直す。

 

 

 

「──ありがとう!!」

 

 

 

 その一言に、再び大きな歓声が返ってきた。

 

 ハルぽんが両手をぶんぶん振りながら、ぴょんと前に飛び出す。

 

 

 

「みんなーっ!! 来てくれてありがとー!! なのーっ!!」

 

 

 

 観客席から一斉に手が振り返される。

 サイリウムの光が波のように揺れ、スカルアヅチ城の黒い城壁に反射して、幻想的な光景を作り出していた。

 

 

 

 俺──ギター熊は、その少し後ろでギターを肩に掛けたまま、その光景を見ていた。

 

 ……すごい。

 

 何度ステージに立っても、この瞬間だけは慣れない。

 

 音が届いた実感。

 ちゃんと、届いたんだっていう確信。

 

 それが胸の奥をじんわり熱くする。

 

 

 

「いやぁ、すげぇな」

 

 

 

 思わず口にすると、エイトがこちらを見て笑った。

 

 

 

「でしょ? まだ始まったばっかりだよ、ギター熊」

 

 

 

「始まったばっかりでこれかよ。最後どうなっちまうんだ」

 

 

 

「ドラゴンが出てきちゃうかもしれないの!」

 

 

 

 ハルぽんがきらきらした目でそう言って、客席から笑いが起きる。

 

 

 

「そう、その話!」

 

 

 

 エイトが指を鳴らして前へ出る。

 

 

 

「今日の『ドラゴン・フェスタ』。ただのライブイベントじゃないってのは、もうみんな知ってると思う」

 

 

 

 会場の空気が少しだけ引き締まる。

 

 

 

「私たちが目指してるのは、“音楽ドラゴン”の孵化だ」

 

 

 

 その言葉に、観客のざわめきが広がった。

 

 

 

「もちろん、いきなり空からドーン!って出てくるわけじゃない」

 

 

 

「出てきたらちょっと怖いの!」

 

 

 

 ハルぽんのツッコミにまた笑いが起きる。

 

 

 

 エイトは笑いながら頷く。

 

 

 

「そう。大事なのは、ここにいる全員の“音”と“気持ち”なんだ。演奏する側も、聴く側も、楽しむ側も。全部ひっくるめて、このフェスそのものが一つの物語になる」

 

 

 

 俺はマイクを受け取って、一歩前に出た。

 

 

 

「……難しい話に聞こえるかもしれないけど、要するに」

 

 

 

 一度、観客席を見渡す。

 

 期待に満ちた目。

 笑ってるやつ、叫んでるやつ、もう泣きそうなやつまでいる。

 

 

 

「今日は、全力で楽しんでくれってことだ」

 

 

 

 歓声。

 

 

 

「音楽ってのはさ、理屈じゃなくて、ちゃんと届くもんだろ」

 

 

 

 ギターを軽く叩く。

 

 

 

「だから、俺たちは全力で鳴らす。みんなは全力で受け取ってくれ。それで十分だ」

 

 

 

 一瞬、静かになったあと──

 

 会場いっぱいに、大きな拍手が広がった。

 

 歓声というよりも、それは確かな共感の音だった。

 

 

 

「いいぞー!!」

 

 

 

「最高のフェスにしようぜー!!」

 

 

 

「ドラゴン、絶対見せてくれー!!」

 

 

 

 客席のあちこちから、そんな声が飛ぶ。

 

 誰かの叫びに、また別の誰かが応えるように手を振り、光が揺れる。

 

 

 

 ハルぽんはその様子を見て、胸の前でぎゅっと拳を握った。

 

 

 

「すごいの……! みんな、もう一緒に冒険してるみたいなの!」

 

 

 

 エイトも、少しだけ目を細めて頷いた。

 

 

 

「うん。こういう空気が欲しかったんだよ」

 

 

 

 ステージの上から見える景色は、ただの観客席じゃない。

 

 そこにいる全員が、このフェスを作る“仲間”だった。

 

 

 

 俺は少し照れくさくなって、視線を逸らしながらギターのストラップを直す。

 

 

 

「……まあ、そういうことだ。せっかくここまで来たんだ。最後まで付き合えよ」

 

 

 

 それに対して返ってきたのは、今までで一番大きな歓声だった。

 

 

 

 エイトが笑いながら、俺の肩を軽く叩く。

 

 

 

「うん、それで十分」

 

 

 

「充分なの!」

 

 

 

 ハルぽんも元気よく頷いて、ぴょんと跳ねた。

 

 

 

 笑いが広がる。

 

 その空気が、何より心地よかった。

 

 

 

 エイトは改めてマイクを握り、力強く叫ぶ。

 

 

 

「それじゃあ、ドラゴン・フェスタ第一部──開幕だ!!」

 

 

 

 轟く歓声。

 

 ステージの照明が再び点灯し、次のバンドの準備が始まる。

 

 

 

 音は、まだ始まったばかりだ。

 

 そしてきっと、この夜の終わりには。

 

 誰も見たことのない景色が、そこにある。

 

 

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