男が演奏している横に看板が立っている。あなたは看板を読んだ。...投げ銭歓迎!石は投げないでください... あなたは周囲を調べた。... ...何かが見つかりそうだ... 投げやすい小石を見つけた! 作:ネコ文屋
ウンウン
「倉庫に行くわ。ついてきなさい。次からはここの倉庫番に言えばいいから。」
マリーは立ち上がって受付台から降りた。後ろから見ると、紺色の布に植物の刺繍がほどこされた高そうなローブを着ている。廊下を通って敷地の奥の方の建物へ向かう。
しかし、警備が不安になるほどザルだ...これならこっそり入れば盗み放題じゃないだろうかも盗賊に鞍替えしようか。だが、警報装置や罠とかはありそうだ。まだ判断するには早いかな。
建物に入るとカウンターがあり、短髪の男が座っている。その男にマリーが声を掛けた。
「グラッセ村に納品予定のポーション30本もらえる?」
「よっこらせ。そろそろ来るかと思って用意しといたぞ。そいつは新人か?」
「ええ。できたてほやほやの新人だわ。」
「なら、歓迎しないとな。ハッハー。俺はここの倉庫番、兼、用心棒のディアール。力仕事と酒盛りは得意だ。よろしくなぁ!」
そういって、立ち上がると左手を差し出してくる。動きやすそうな服装が筋肉で張っている。魔術師ギルドには似つかわしくない暑苦しさを感じる。できれば握りたくない。
しかし、ここで心象を損ねてはいけないだろう。ポーカーフェースで左手で握り返す。
「よろしく、ディアール。俺はギター熊だ。奇遇だな。こちらも酒は好きだ。もっとも力仕事は苦手だがね。今度飲みにでも行こう。
これはもう、インベントリに入れてもよいのかい。」
「ああ、いいぞ。依頼が終わったら俺のお気に入りの酒場に連れて行ってやろう。」
ディアールはまさしく喜色満面という風で、手を強く握ってくる。普通にいたい。こういう時にヒートハンドをつかうんだろうか?手が暖かくなったらひるんだりして。そういえば、魔法の使い方知らないな。
手を握り終わったところで、俺は二人に向かって尋ねた。
「魔法はどうやって使うんだい。」
マリーが呆れた口調で言う。
「そんなの分かるでしょ。魔術書を読みなさい。何でも人に聞けばいいと思わないことね。お金をくれるなら考えないでもないけど。」
「もう1個聞きたいんだが、魔力切れの場合はどう対処すればいいんだい。魔力回復用のポーションをがぶ飲みすればいいのか。スキルとかあったら知りたいんだが。金は払う。」
フっと笑って、ディアールが口を挟む。
「瞑想すりゃいいのさ。動かずにじっとしていれば魔力は回復する。習得も楽なもんだ。起きている状態で目をつぶって動かずに休めばいいのさ。」
「ああ...教えなくてもいいのに。」
今度からはディアールに質問するようにしよう。
グラッセ村は北の方の森の端に近い場所にある村らしい。グラッセ村へ向かう前に北の大通りにある衛兵の詰め所に寄っていこう。衛兵の詰め所は各大通りにあるそうで、どこでも依頼の受け付けができるそうだ。
しかし、NPCもインベントリ知っているようだな。インベントリを持っているのか?そうすると、この大通りにもところどころNPCが歩いているが武器を隠し持っているということか...
北の大通りを歩いて10分くらいで詰め所についた。
衛兵の詰め所は2階建ての石造りの簡素な建物で、アイアンヘルムの意匠の紋章が描かれた木の看板が入り口の上に掛けられている。
「ウンっ、んん。魔術師殿、貴方に任せたい仕事は北側の門周辺で生い茂っている草の処理だ。
担当して欲しい場所はこちらで指定する。おおまかにいえば北側を12個の区画に分割している。草の増加具合を鑑みてそちら側に担当の区画を通達する。
担当する区画について、期間内に目標を達成してくれれば問題はない。
期間が終わればその都度、登録を更新する形式とする。目安だが、一つの区画に対しておおよそ1000マーニが支払われる。目標を達成できない場合は達成度合を見て報酬を再考する。
以上だ。何か質問はあるかね。」
「ありません。」
ふざけた質問をする雰囲気じゃないな。精悍な体つきで金色の髭を小奇麗に整えてある様を見ると、普段の自分が情けなく思えてくる。
「よろしい。では、契約書にサインをお願いしたい。目を通してくれ。」
先ほど述べられたようなことが書いてある。特筆すべきことはないな。サインをしよう。
「うむ。少し待っていてくれ。」
衛兵は契約書を受け取ると建物の奥へ入っていき、しばらくすると緑色のライン入りの小さな長方形の白い布を持って帰ってきた。
「簡易な記章だが登録情報、担当の区画の読み取りが可能だ。また、偽造防止、防炎処理が施されている。門兵に見せれば、担当の区画がどの範囲かを詳細に説明してくれる。
しかし、他人へ譲渡することは禁じられている。契約を完全に終了させる時には即時に返却して欲しい。」
ピンがあったのでローブに付ける。装備品には含まれないようだ。
「南側や西側でも仕事をしたい時は同様に登録するのですか?」
「仕事に不慣れなものが重複して登録することは認められていない。仕事に慣れ、実績が認められたならば登録することは可能だ。」
「ありがとうございます。」
「では、北門へ説明を受けに行ってくれ。」
金髪ちょび髭は真っすぐにこちらを無言で見つめてくる。得も知れない圧力に負けて会釈をしてそそくさと詰め所を出た。
あいつと仲良くするのは大変そうだ。
だが、懐柔する必要があるかもしれない。演奏をするなら広場使いたいが、ああいう場所って無許可で営業したらまずいよな?いや、まだ結論を出すのは早計だ。しばらくは様子を見よう。
東門に行くと槍を持った門兵が二人脇に直立不動で立っている。近づいて声を掛ける。
「こんにちは。お疲れ様です。
北の詰め所で北門周辺の草の処理の依頼を受けた魔術師ギルドの者なのですが、こちらで説明を受けることはできますか?」
すると、門兵の一人がローブに付けられた記章を見て微かに何かを呟いた後、頷いて言葉を発した。
「貴方が該当の依頼を受けたことを確認しました。範囲を教えます。ついて来てください。」
ザァァァッ...
門を出ると青々とした草原が広がっていた。人が2人分が通れるくらいの道を歩く。太陽の光に照らされて、暖かな陽気がそこら中から漂い、野の花々がかわいらしく咲いている。耳をすまし目を凝らせば、風が通る音が聞こえ、たなびく草の波が見える。
「草原だな...」
なんだろう。眺めてるだけで、いやされる気がする。しばらく歩いて門兵さんが立ち止まった。
「ここです。この道の両脇に杭が刺さっていますよね。同じような杭が道から離れた場所にもあります。道のどちら側もです。杭から城壁までで囲まれた範囲の草を満遍なく焼いてください。城壁にも赤線が引かれています。2週間以内に行えば大丈夫です。」
説明すると門兵さんはさっさと持ち場へと歩いて帰って行く。
俺はうーんと伸びをしたあと、5月くらいの涼しげな風を感じながら、おもむろにインベントリから若木の短杖と基本魔術書を取り出す。
「これから毎日、草を焼こうぜ。」
ボソッと呟いた。少し恥ずかしかった。
基本魔術教本を開く。前書きを飛ばして火魔法の最初の項を見る。
【ファイアーボール】
正式詠唱:飛べ、猛々しい火球よ。ファイアーボール。
短縮詠唱:ファイアーボール
代償:3MP
効果:手あるいは発動体から目標対象へ火球が直線的に飛び、燃え移った火は3分間燃え続ける。
【ヒートハンド】
正式詠唱:熱する我が双手。ヒートハンド。
短縮詠唱:ヒートハンド
代償:2MP
効果:5分間使用者の両手が高熱を帯びる。
なになに、杖を草に向けて...
「ファイアーボール!」
杖の先がほんのり暖かくなり、赤みがかったと思った次の瞬間、両手二つ分くらいの大きさでめらめらと燃える火の玉が杖から勢いよく飛び出し、杖が向ける先の草むらへと着弾した。
「おぉ!ほんとに出た。すっげえ...」
火の玉が当たった箇所の草むらで燃え残った部分から火がじわじわと広がっている。
依頼、思ったより簡単そうだな。今度は...
「飛べ!猛々しい火球よ!ファイアーボール!」
先ほどと同じような感じで、火の玉が飛んでいき草むらに着弾する。詠唱による違いはないのか?
「飛べ。弱々しい火球よ。ファイアーボール!」
杖がほんのり赤みを帯びたが発動しなかった。そういう仕様ではないのか...
今度は片膝立ちになって、アンダースローっぽく杖を構えて短縮詠唱の方を言う。
すると、草を焼却しながら火の玉が30メートルほど直進して消えた。結構射程はあるな。最後の5メートルくらいは減速が激しく大きさがどんどん小さくなっていった。
よし、次は寝転んで打ってみる。本はしまっておこう。半分地面にめり込むはずだが...
「うぼぉ?!あっつぅ!!」
目の前に炎が広がり、顔面に40度くらいのお湯をぶっかけられた感覚がした。潰れた半分が周囲へと押しつぶされるように広がったようだ。
火の玉はその後、縮小しながら半分が押しつぶされて広がった状態で進み10mくらいで止まった。
慌ててパネルを操作しステータスを見る。HPが2減って10に、MPが9減って21になっている。自分の魔法でダメージ受けるのか...燃えはしないようだが。
それよりも重要なことは、火の玉がおそらく回転していること、発生段階で地面にめり込ませればなんか違う魔法っぽく見えることだ。
ただ、何の役に立つのか分からない..後者は強いて言えば、草を徹底的に除去できるか?ダメージをくらうがな。
じゃあ、お次はもっとよく分からないヒートハンドいきますか。
「ヒートハンド。」
両手がじんわりと赤みを帯びる。よくわからないので顔を触ってみるがそれほど熱くない。そこで、草を摘まんでみると湯気を立てて水分が蒸発する音が聞こえてきた。もしやと思い、ローブを撫でてみるとシワがなくなりパリッとした仕上がりに。
「これ、水がないアイロンじゃん...」
アイロンをわざわざ実装するだろうか。いや、しない(反語)。そうや!分かったぞ...
両膝立ちで顔を最大限に背け、両手で杖を持ち、地面スレスレ平行に構える。
「ファイアーボォォオオル!」
燃え盛る火の玉が足元を嘗めるように広がり三角形の燃え跡が目の前の草むらにできた。少し熱かったが成功だ。体力は1しか減っていない。つまり、ヒートハンドは自爆プレイに有効ということだな。
アイロンにもなり、自爆プレイにもよし。ヒートハンド。なんて便利な魔法なんだ...
その後もファイアーボールとヒートハンドをいろいろと試してみようとする途中で、突如体がだるくなった。確かめると、MPが残り1になっている。
「おっと、もう魔力切れか。回復するには瞑想すれば良かったよな。」
焼けてない草むらの上であぐらをかき、目を閉じて手を剣道の黙想の形にする。
草原に吹く風を感じながら何も考えずにぼーっと座っていると、いつの間にかだるさがとれていた。MPが5程度まで回復していた。
この分だと30分ほどやっていれば全回復しそうだな。まあまあ長いが、どうせ忙しい社畜の身。たまには休みの日に草原で瞑想というのもなかなか乙なものだ。やっていこう。
俺は再び目を閉じ、ぼーっと風に耳を傾けた...
Tips.フィールド
街などの拠点以外の場所はフィールドと呼ぶ。フィールドにはモンスターがポップする。自然環境やその他の要因によってフィールドの特徴は異なっている。