外をみれば街を歩く人々も普段より落ち着かない様子で浮き足立った雰囲気の今日は2月14日、俗に言う"煮干しの日"…ではなくバレンタインである。煮干しくん完全に忘れ去られてかわいそう。
1年に1度、この世の全ての空気がダダ甘になるであろうこの日に、しかし、「ラタトスク」は大忙しであった。
なにせ五河家横の精霊マンションで精霊達が
元がアイドルだった誘宵美九はなにかの番組で作ったことがあり、本条二亜も以前にはイベントで配るチョコを作った経験はあるらしい。
問題は
というか主に鳶一折紙。
栄養ドリンクを始めとした様々な前科を持っており、チョコともなれば何を仕込むかわかったものではない。
つい先程も職員から止められて危なそうな薬の隠し味を断念したところだ。
アレ本当に何の薬なんですかね…
なんだアレめちゃくちゃ美味そう…あ、食べた…食べた!?
思わず食べてしまったらしく、ガックリと背を落としてまた1から作り直すらしい。全部食べたのか…(困惑)
「よ、四糸乃っ!これ、チョコ、義理っていうか、その、と、とも…」
「…?は、はい、私からも、友チョコ、です」
「友チョコ…よ、良かったー!なにこの天使結婚したい」
「はぇ!?け、結婚…ですか…?」
他のカメラに目を向けると、
まーた百合百合してる…ええやん!
その後も鳶一が五河士道型のチョコの彫刻みたいなのを作ったり、鳶一が「ちょこにあうおいしいのみもの」を自作したり、鳶一が「プレゼントは自分だ」だのなんだの言ってダンボールに入ったりしてる内に、全員がチョコを作り終えたらしく、会はお開きとなった。
アイツもう出禁にしろ。
さて、このバレンタインの甘い波動は、しかし、我らがラタトスク開発部には届かない。
最近DEM社の顕現装置技術が著しく発展してきており、魔術師の数の差もあってラタトスクが押される事態が発生している。
よって顕現装置の開発は最優先の急務とされており、ここ開発部は「修羅の国」と化しているのである。
あと少し、本当にあと少しで次の段階にたどり着く…という所まで来ており、しかしそこで煮詰まってしまっていた。
そのためここ2、3週間近く残業残業アンド残業の日々を過ごす我々はもう
日付が変わる少し前にようやく家に帰り着く。
ん…?家の明かりが付いている…このパターンは…
「ただいまー」
「ふっ、よくぞ戻ったな我が第1の眷属よ!」
おお…"おかえりなさい"のひと言でここまで癒されるものなのか…
「悪い、大分遅くなっちまった、寒かったろ」
「別に寒くはなかったよ、叡斗待ってるの楽しかったし、いやホント、寒くないし」
そう言う耶倶矢の手は、指先が真っ赤になっていたが、それでも彼女が心から笑顔を浮かべていることも伝わったから、
「手、貸せ」返事も聞かずに両手で耶倶矢の手を握る。
「わ、あったか…ありがと…」
やり過ぎたかと一瞬不安になったが、気にしてはいなかったようだ。一歩前進…か?
「やば、日付変わっちゃう」
耶倶矢はそう言うと、ぱたぱたとリビングに早足で駆けていく。もちろん手を繋いだ俺も。
そして、
「はい、チョコ。えっと、その、本命っていうか、もう付き合ってるし、なんて言うんだろ」
照れているのか目線を右上に向けたままチョコを渡してきた。
瞬間、なにかが溢れてきた。
意図せずして、だからこそ止められないその熱はゆっくりと頬を伝い、スーツの黒をもう少しだけ黒くした。
「えっ!?泣くほど嬉しかった!?」
――ずっと、自分は心のどこかで「自分はクローンである」ということを強く意識してきたのだ。
だから、耶倶矢をデレさせて以降ずっと「
だから彼女に対して常に罪悪感、と呼ぶべき感情を抱いていたのだが、きっとそれは大きな過ちであったのだ。
俺が抱くべきだった思いは、そんな粘ついた理論武装ではなく「絶対に
そうして純粋な恋心だけで彼女を見て、圧倒された。
可愛さの暴力である。ここまで可愛かったか、と今になって気付かされる。
だから、今度こそ、ここから、
「頑張って作ったの、その、叡斗型チョコ!」
鳶一折紙ィィ!出てこォォイ!
鳶一折紙とかいうギャグとガチの両方をこなせるユーティリティープレイヤー使いやすくてすき
やっぱりクローンも色々大変なんやなって…(悲哀)