今回は戦闘はありません。仮面舞踏会=S2の裏側です。
楽しんでいただえたら幸いです。
「どういうつもりなんですか…?」
ことが終わった後、彼は少し離れた位置からさっきの槍のような視線を向けてくる。
「少しからかっただけじゃないか、そんなに怒らないでくれよ。それに傷は私の方が深い…」
「………からかいで済む話ですか?」
治りかけの私の腕を見て彼は少し控えめに言った。
「私はね、隻眼の梟と言われる喰種なんだよ」
唐突にそう告げた私に対して彼はあからさまに動揺していた。
「あ、その様子だと知ってるみたいだね」
「7年前に大暴れしてたっていうあの…?」
彼は警戒しながら恐る恐る聞いてきた。
「そう私は最凶最悪の喰種、君は親切なおねーさんぐらいにしか思ってないんだろうけど、その実態は度し難い外道なのさ」
そう言った私はずっと彼の表情を見ていたんだ。思えばその時からもう私は彼に何か期待していたのかもしれない。けど悲しいことに彼は表情を変えなかった。いや、変えないでくれたというべきか…
「けど君の方もなかなかに刺激的な性格してるね」
私がそうにやけながら言うと、彼は目を伏せていった。
「本能みたいなものですよ。食人衝動の代わりです…でも一応、殺す殺さないのコントロールはできます」
「そっか…私と同じ化け物なんだ…」
「…そう、なんですか?」
予想外の返答だった。ただ、その声音はこちらの方を試しているようだった。
「何で疑問形なんだい?思ってたリアクションとちがうなぁ」
そこは貴女みたいなの一緒にしないでくださいって否定するところだろうに。
「僕が化け物だっていうことはたしかにそうですが、僕にとって貴女が化け物と呼ぶべきものかどうかは正直まだ測りかねてますから」
最初は彼が何を考えているのか分からなかった。でも今思えば簡単な事だ。彼は誰よりも客観的に物事を考えていたんだ。
「おいおい、割とあっさり認めるね。それにさっきの私の姿を見てまだそんなこと言っているのかい?明らかに怪物だろう…」
彼は当然そうだという顔をしながら答えた。
「だから聞いているんです。貴女が本当にアマゾンを脅かす存在なら、僕は、貴女を……貴女と戦います…。でも貴女にはたくさん助けてもらった。それは事実だ、敵だとは思いたくない。だから…」
そこにあった彼の変な戸惑いのようなものに私は気づいていた。でもそれ以上に気になることがあった。
「ま、別に君たちの規模じゃ脅威とも呼べないから敵対しようとは思ってないよ。でもさ君が化け物だというのなら私はいったい何だい?」
この見るからに、慈愛に生きてそうな男が化け物で私がそうでないのなら私は魔王か何かだろうか。
「そうじゃありません、僕は喰種を普通の生き物だと思っているだけです。同じ人喰いでも『いるはずのなかった』僕たちとは違います」
納得だったよ。彼らは造られた者たちだ、だから己のもつ不条理を人間のせいにできた。だから己をあるがまま受け入れやすかったんだろう。彼らは喰種にすら当たり前の生き物だと憧憬を抱いていた。
「それで、なんでこんなことを?」
彼は脱線した話を一気に引き戻した。
「ああ、規模が小さいと言っても個々の能力は分からなかったからね。私も一様、組織の長だ、少し試させてもらった。君が、アマゾン最強だと思っていいのかい?」
ま、本当は9割方彼目当てだったけど、一様私の言い分に納得したのか、彼は少しあきれたような顔をしつつも答えた。
「僕は…みんなとは造られ方が違うのと、このベルトがあるから確かに僕がとびぬけて強いんです。他のみんなは一般的な喰種とそう変わらないと思います」
こちらをうかがいながらしかし、少し寂しそうに彼は答えた。
「造られ方が違うだって?」
私が興味津々に聞くと、彼はだから嫌なんだとでもいうような顔をした。
「…気持ちのいい話ではありませ「聞きたい、聞かせろ」
ええ…、って顔してた。
「…あなたがどんな人か分かってきました。でも、誰かに話してみるのもいいかもしれません…」
後に分かったことだが彼、かなり自分のことで悩んでいたらしい。仕方のないことだ、彼の出自は業が深すぎる。
彼は、アマゾン細胞を培養しただけの実験体、彼の仲間たちとは大きく違った。彼は『合成獣(キメラ)』だ。
彼の細胞には人間の遺伝子そのものが組み込まれていた。あくまで形質だけを再現した実験体とは違う、私や君と同じく半分人間だった いや、我々以上に中途半端だ。
彼はアマゾンが必要とする人のタンパク質を自分で生成できた、つまりそもそも食人なんて必要ないんだ。でも細胞からくる強烈で満たされない空腹感、常にくすぶる戦闘衝動、強靭すぎる身体と再生力、異常なほど完成された精神と知性、人間と呼ぶにはあまりにも
異常だった。いや、生物として完成されすぎていた。
彼は、人間という基礎設計図があるが故、圧倒的な再生力を持ち、アマゾン細胞の力を最大発揮するためのタンパク質を通常の肉から生成できる。周りの環境から自らの性質を変化させていく自己進化ともいえる能力、単一の生物としては究極ともいえる。
まぁ、それは置いておこう重要なのは彼の動向だ。彼は最初人間としてアマゾン狩りに参加していた。
今の君のようにね。
彼は出会った、鷹山仁に。
その男はアマゾンを造った研究者の一人だった。でも8年前に起こった実験体脱走事故に際しそいつは野座間を出奔した。アマゾンを狩るために…
そいつはアマゾンを殺すためにアマゾンになった。
ああ、そうだ君の子供たちとおなじさ。
でももちろん違う。
奴はアマゾンが憎くて狩るんじゃない、愛しているから狩るんだ。自分の研究の成果として子供のように愛していた。だから他の奴に任せるのが忍びなかったんだろう…
奴は命について独自の美学を持っていた。
それは悠に影響を与え、弱肉強食の世界を理解させ彼を自立させた。アマゾンを勝手に作り勝手に殺す。その横暴さに彼は憤った。さらにただ穏やかに生きたいと願うアマゾンと出会い、それに共感した悠はアマゾンの生き残りを率いて人間の前から姿を消した。
それで私と出会ったんだ。
「なんか、ありがとうございました。話してなんとなくすっきりしました」
やっぱり彼は自分の話を誰かに聞いてもらいたがっていたんだ彼は違うから。
「ふーん、じゃお返しにわたしの話も聞いてくれるかい?」
「…?ええ、分かりました」
彼の反応が知りたくて、私の親のことを私がハーフであることを…闘争の日々を…目の前の喰種の秘めた狂気を。
「大変だったんですね」
あのマセ餓鬼は平然と言って見せた。
「おう、他人事かよ」
「他人事ですから」
彼は、自分が死んでほしくないと思うから不殺を貫いているのであって、人間は殺してはいけないとかそんな正義感のために戦う者じゃなかった。だからは私が殺戮者でも咎める資格もする気もないと言っていた。生きるためにはそうせざる負えないこともあると、この一年で実感したからと…
その淡泊さは、心地よかったんだ。
「私たち案外似てるね」
「ええ、そうですね」
そして思った彼ならぴったりだと、
「なぁ悠、私の友達にならないか?協力関係じゃなくてただの友達」
「…???」
彼は目を丸くした、やっぱり可愛かった。
「いやさー、喰種では組織のリーダー人間では天才作家、なかなか気の置けない友達いないんだよ、ノロさんしゃべんないし。だから事情が分かるけど、立場とか関係ない話相手欲しかったんだよ」
「………」
かれはしばらくぼーっとしてたでもそのうち微笑んだ。
「そんなこと言われたの久しぶりだ…」
彼は私以上に戦いばかりの毎日みたいでね、すごく感慨深そうな顔だった。
「分かりました。こんな僕で良ければぜひ」
「そうか、愛支と呼んでくれ」
我々は友人になった。
会う頻度も増えた。くだらない話をしたり、本を紹介したり…本はすごいね少ない金額でほぼ無限に楽しめる。彼の仲間も喜んでいたらしい。私の本は不評だったけど…ああ、あと欲動処理に付き合ったり…いやーすぐに私の全力に追いついてきてね~末恐ろしいよ。
うんでも紛れもない友人だった。…え、カップル?照れるな~
「言ってない。にやけ顔やめろ」
目の前の青年は固く閉ざしていた口を急に開いた。
「続けて」
いちいち射殺すような眼をするなよ。
「分かってるよ。ジョークさ」
それから一年半ぐらいたったある日、彼から呼び出しがかかった。彼からが呼ぶことそれまではほぼなかった。
「殺せなかったぁ~?」
待ち合わせ場所はいつもの廃工場。
会った時彼はボロボロで顔はとても思い詰めていた。
彼は鷹山仁と戦い、追い詰めたが殺さなかった殺せなかった。彼らはそれまでも幾度も幾度も戦い、その度に痛み分けで手を引いた。鷹山仁は妄執と毒に侵され、正気を失っていた。理性を持つ鷹山仁は悠にとって討伐対象ではなかった。しかし完全に人格崩壊した奴はアマゾンだけをひたすらにアマゾンを狩る化け物になり果てていた。もはや悠にとっても討伐対象だった。しかし、悠は殺せなかった。憐れみと自分に生きることを教えてもらった恩義からね。
「殺すべきだとは思ってるんだ?」
「はい…それが仁さん自身のためにもなると思います…」
彼は隣で壁に寄り掛かって、ハンバーガーを頬ばっていた。怪我には食べるのが一番いいらしい。
「じゃぁ、それは君の弱さだ。仲間を守りたいならやるべきだ」
「……そう、ですよね…」
彼は顔を上げ眼の色を変えた。
「ありがとうございました、愛支さん。気持ちの整理がつきました。次はやれます」
その瞳は確かな決意を帯びていた。
えっ、追及しないのかって?
彼とはおもちゃとして付き合ってたわけじゃない。
それに彼が自分の愚かさを自覚してるから必要ないんだ。彼は自己中心的で自分が良かったらそれでいいのさ。そしてその生き方を彼は自ら選択した。社会的道徳ではなく自らの倫理観に生きるって。だから失敗してもちゃんと自分のせいだと受け止められる。むしろ環境がどうとかうじうじ考えないだけ楽だよ。
その意味でも私と似ていた。
でもその時だけは本当に一時の感情に流されていたんだ。そのことがあんなことになるなんて、ね。
「子供ォ~?」
数か月後また彼に呼び出された。事態は思わぬ方向へ進んだ。鷹山仁は正気を取り戻していた。それだけじゃない狂っていた間に付き添っていた恋人に身籠らせた。子供ができていた。
「とりあえず彼は君の討伐対象から外れたわけだ」
「はい、安心してしまった自分がいて少し悔しいんですけど」
私が彼の甘さを追求しない理由のもう一つはね、彼が誰よりも残酷だからだ。自分で決めたラインで周りを振り回すことをいとわない。私との違いはそれが優しさってベクトルを向いていることだろう。
「仁さんは生まれてくる子を十中八九殺す気です」
「そうか。君はどうする?」
「あなたはどうしてほしかったんですか?」
それを聞きたくて、呼び出いてきたらしい。
「それは禁句だ。ここで私が何を言っても赤子に対する呪縛にしかならない」
「…っ、そうですか。ええ、確かにそうですね」
彼は納得できたようだった。
「すまないね、助言できなくて」
「いえ、こちらこそ。それに話を聞いてもらえただけで十分です。愛支さんにはお世話になりっぱなしだな…」
「ああ、ならいつか君たちについての本を書かせてくれ」
アマゾン、最高に私好みの題材だ。
「そうですね、いつか、いつか僕たちが…」
さすがにその先を言いきる勇気は彼にはなかったらしい。
「いえ、何でもありません…でも機会があればお願いします」
「ああ、よろしく頼むよ」
分かれる間際私はバイクにまたがる彼をずっと見ていた。
「がんばれ、悠」
私は無意識に呟いていた。
問題は他にもある、4Cだ。その頃にできた進まないアマゾン討伐にしびれを切らした政府が創設した対アマゾン組織。
ねぇ、なんでCCGに任され無かったと思う?
うん、まぁ情報漏洩を野座間が嫌ったのもあるけどそれ以上に4Cの切り札を和修が嫌ったからなんだよね…しかしこの話はあとでするとしよう。
4Cの登場によってアマゾン側は数を大きく減らしていくことになる。しかし悠は防衛戦はしても攻勢には出なかった。仕方がないとはいえ、アマゾン達は不満を持ち、彼の人望はなくなっていった。
そして、呪いの子は生まれた。
「目を潰した、か。君にしてはよくやったんじゃないか?」
「あとはあの子が望むように生きれるかです」
私が寝かせた膝の上で彼は呟いた。
彼は生まれたその子を追ってきた鷹山の目を潰し、その子と母親を逃がした。
あ、君にとってはトラウマかな。
そんな、うまいことじゃなかった。彼は腹を刺させて固定して潰した。
腹に大穴開けてふらふらで会いに来たから面食らったよ。肉食べたから大丈夫とは言ってったけどやっぱりふらついてたから近くのベンチで嫌がる彼を無理やり、膝枕させた。
膝の上で寝てしまった彼の頭を撫でていたらさ、母親ってこんな気持ちなのかって思った。もう彼をめちゃくちゃにしようなんて思ってなかった。彼が安らかであってほしいって願いが私に生まれた。だってさ、彼そのころ5歳だよ。完成された知性の奥にやっぱり幼さがあった。でも現実はそんなこと許さない、でも、自分の側でだけはそれでいいって、彼が穏やかであれる居場所でいたいって思ったんだ。
何が私をそうさせたんだろう?私にもよくわからない。
そんな彼と私の願いをよそに悲劇の輪廻は始まる。
そう、溶原性細胞によるアマゾンの大量発生だ。それは実験体アマゾン達がアマゾンを生む溶原性細胞のオリジナルを用いて独断で起こした事件だ。
収束の過程で悠を除く実験体アマゾンは全滅、そしてオリジナルだと判明した鷹山仁の子を悠と仁が殺した。彼は全てを失った。守りたかった者すべてだ。
「終わったのかい?」
全てが終わった後、彼は私に会いに来た。
「………」
彼は無言で頷いた。口を固く結んで感情をそれでも押しとどめて…
「なんて、顔してんだい。…ほら胸かすから泣きなマセガキ」
「…え、でも…」
私が腕を広げてそう言うと彼はまたきょとんとした。かわいかったよチクショー。
「いいから、巷ではガキは女の腕の中で泣くもん…らしいよ…だからさ」
もうそこからは早かった、悠モデル体型なんだけどさ、マジでそれがガキみたいに飛んでくるんだよ。男ってのはやっぱ女がいないとだめらしい。
「う、ウう…僕はぁぁぁ…!みんなを…仁さんを千翼を…うっ、ううぁ、ううあああぁぁぁぁぁぁぁ…!」
彼があの1度鷹山仁にトドメを刺しておけば、起きることのなかった悲劇だ。
自業自得と分かっていてもそんな事実を平然と受け止められるわけがない。
それから泣き止むまで彼をずっと撫でてた。
「すみません…見苦しいところを、見せました」
「気にするなよ。ガキなんだからさ…」
彼、その後すぐにいつもの顔に戻った。
「これからどうする…?」
「生きます」
彼は最初に言いきった。
「溶原性細胞のキャリアは万単位でいます…狩りは続けないと…」
「そうかい」
「それに千翼は、最後まで生きました。僕だけが投げだせるはずがない…それに彼女にも生きろって言われましたから」
悟り開いたかのような、彼の顔が癪に触って少し小言を言ってやった。
「君はさ、時間を与えたんだ…」
「…?」
「彼らとその子に生きていきたいと思えるような時間をさ…」
彼の顔にほんの少し光が差した。
「本当に痛みだけの生なら彼らはとっくに命を絶っている。この先を見たいと思わせてくれる時間。最終的にそれを奪ったのは君だったのかもしれない。だがそれを与えたのが君だという事実は決して変わらない」
止まりかけていた彼の涙が再び流れ始めた。
「散々ろくでもない目に遭ってきた私が言うんだ間違いないさ」
また泣き出す彼の頭を撫でながら、私は続ける。
「ずっと、考えていたことの答えが出た」
「…え?」
唐突に言った私に彼は面食らったようだった。
「君はアマゾンじゃない…」
「…っ⁉」
「人間でもない…」
「………」
「君は水澤悠だ。それ以外の何者でもない」
彼の目が輝いた。
「私はそんなどっちつかずな君を愛おしく思うよ」
「…⁉⁉」
—私は彼にキスをした。
「な、何を⁉」
彼の赤面顔が見られたのは、とてつもない行幸だったね。
「だからさ、私には遠慮しなくていいよ。そういうのを吐き出してもらえるぐらい信頼されてるのは初めてで心地よかったから…」
「…僕も、あなたにあえてよかったって心から思えます。だから、僕も、僕もあなたのこと愛しています!」
しばらくしたら、彼も顔真っ赤にしながら言ってくれたよ。
それからしばらく見つめあっていたけど、彼が沈黙を破った。
「…ああ、そうだ。あなたに受け取ってほしいものがあるんです」
彼はそう言って首にかけたその五円玉を差し出した。
「これは、仲間想いなアマゾンが造った仲間との絆の証です。今の僕にこれを持つ資格はない、でもたくさんの仲間がいるあなたにはぴったりだと思います。…受けとってもらえますか?」
彼は誰かに覚えていてほしかったんだアマゾン達のことを…
「分かった、君の思いとともに受け取ろう」
私は受け取った。
「…愛支さん、本当にありがとうございました。あなたの言葉のおかげで生きる力がわいてきました」
私は頷いた。もう雑多な言葉はいらなかった。
「じゃあ僕、行きます」
私はまた頷いた。
そして、独特な駆動音のするバイクを見送った。
それが約1年前、あれから彼とは何となく会っていない。
ねぇ、彼なんでそこまでして戦うと思う?
仲間が好きだから?確かにそれもある。でもそれだけじゃない。
彼に一度だけ聞いたことがある。
そしたら彼、誰かと食べるハンバーガーがおいしいからだとさ。
彼の根幹は、『自分のために生きて、それが誰かのためになったらどんなにいいだろう』そんな生き方を体現することだ。
誰も傷つけず自分の手も汚さない、何の役にも立たないかもしれない。でもさ、それはとっても優しい生き方だったはずなんだ。
次回予告 (BGM DIE SET DOWN)
あなたが水澤美月さんですね?
彼は私の全てでした
私はもう救われていたのさ
さあ、君はどうする…?
NEXT MEMORY
時雨-RAINY DAY
感想評価・誤字報告待ってます。
※4/26話数構成の変更にともない次回予告を変更します。