緑亜の君へ   作:タナト

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 大変お待たせしました。
この度5話構成に変更したため前話の予告も編集しております。ご了承下さい。


時雨—RAINY DAY

 

僕は道を歩きながら手渡された五円玉を眺め、それを渡された時を思い出しその意味を思索する。

 

 

 

「で、どうだい?」

 

「どうだいって、何がです?」

 

ガラス越しの彼女は長い話を終え、ふと息をつく。

 

「彼の話どう思ったよ」

 

「確かに興味深い話ではありました…ただ対岸の出来事すぎて仮に事実だったとしても現実感がないというべきか…」

 

確かに僕にとって参考になるかもしれない話だった。ここは真剣に受け応えるべきと思い率直な感触を述べると、彼女はふむと鼻を鳴らしそれも当然かとつぶやいた。

 

「よし、まぁこれはほぼ禁じ手だが…しょうがないか…」

 

「……?」

 

彼女は少し間をあけてはつらつと言った。

 

「青年!その五円玉を持って水澤美月という女性に会ってきたまえ」

 

 

 

と言われてきたのだが、あまりに唐突だし、普段なら彼女の言うことなんて絶対に聞かないがこうして来ているあたり、自分自身も彼のことが知りたいのだなと思う。

 そうこうしているうちに目的のマンションに着いてしまった。高槻先生の言ってた女性が住むというマンションだ。準特等の権限は強い、職権乱用だとは思うが調べさせてもらった。幸いにもその人は僕と同じ狩る側の人間だった。上層部からの変な勘繰りなどはないだろう。事前に調べた情報によれば水澤美月は野座間の重役の娘で現在は4Cに所属しているらしい。水澤の姓から彼に関係はあるのだろうが高槻先生は何も言ってくれなかった。

 

 

「さて、居るかどうか…」

 

4Cはオリジナル討伐から急速に鎮静化していったアマゾンの発生に合わせて非常時では駆除班は自宅待機の時期が増えたらしい、鎮静化が当時の予測より早いらしいが水澤悠と

〝もう一人〟が狩りを続けているんだろうか。己の犯した拭いきれぬ罪と向き合い続けて、血を血で洗う果てなき殺戮を…

 

そんな物騒なことを考えながらインターホンを押す。シンプルな音声と共にスピーカーから声がする。

 

『はい、どなたですか』

 

「CCGのものです。あなたが水澤美月さんですね?アマゾン関連のことについてお話を伺いたいのですが…」

 

『………っ⁉』

 

息をのむ声が聞こえ、ドアが開く。

出てきたのは20代前半の綺麗な女性だった。

 

「何故CCGの方が?アマゾンのことは4Cに一任されているはずですが…」

 

さすがこちら側の人間だ、話が早そうだ。

 

「僕は、CCG準特等捜査官佐々木排世と言います。CCGの名を出しておいてなんですが今日はあくまで個人的に伺いました」

 

「個人的…どういうことですか?」

 

彼女は鋭くこちらを見つめる。

 

「はい、喰種捜査とは関係なく僕個人でここに来ました。これに見覚えはありますか?」

 

紐のついた五円玉を彼女に見せた。

 

「…!」

 

いきなり彼女に肩を掴まれ、廊下の壁まで押された。

 

「は、悠に何かあったんですかっ⁉」

 

すごい圧だった。よっぽど水澤悠が気になるのか…

 

「落ち着いてください、CCGが彼に接触したことはありません」

 

彼女の瞳はなおも揺れていた。

 

「ある喰種から水澤悠について聞きいて、もっと知りたいならあなたに会えと言われました。そして僕としても興味があったのでお伺いしました」

 

「…え、あ…失礼しました。喰種…あの、その五円玉は?」

 

落ち着いてきたのか僕から手を放した彼女はおそるおそるといったふうに、聞いてきた。

 

「これはその喰種が彼からもらったと言っていました。良ければお話を聞いてもらえませんか?」

 

少し迷った後、彼女は了承し僕を部屋に入れた。部屋は水槽が置いてあり、女性の部屋としては大人しい印象を受けるシンプルな部屋だった。

 

僕はリビングのテーブルに座らされる。

 

「コーヒーでよろしいですか?」

 

もとから入れてあったのか、かなり素早い手際でそれは運ばれ、どうぞと目の前に置かれる。そして彼女はテーブルをはさんで座った。

 

「あ、どうもすいません」

 

コーヒーなら問題ないし、長話になることは間違いないのでありがたい。

 

「それで、お話とは何ですか?悠に何か関係が?」

 

かなり張り詰めた声音で彼女は聞いてくる。踏み込んだ話をせざるを得ない。僕は意を決して口を開く。

 

「はい、まず前提に今日ここで話すことは口外しないでいただきたいのです。もちろん、こちらも誰にも話しません」

 

「………何故ですか?」

 

「僕は、貴女にとって水澤悠という人物がどのようなものだったか、それを聞きたいからです」

 

 高槻先生が唯一話してくれたのは、水澤美月が敵となる立場だったにもかかわらず、彼にとって最優先で守る存在だったという。彼女自身も単なる討伐対象だとは思っていないはずだ。

 

「どうして、そんなこと…」

 

 当然の疑問だった、下手をすれば彼女自身の立場すら危うくする話題だ。

それを聞き出そうというのだ、相応のカードを切らねばなるまい。

 

「クインクスという名前を知っていますか?」

 

「………耳にしたことはあります。喰種の能力を使う捜査官がいると…まさかっ…」

 

クインクスを知っているなら話が早い。

 

「ええ、僕は喰種の力を持つ捜査官それも通常の食事ができるクインクスとは違う、クインクスのモデルケースとなった、通常の食事ができない半喰種です」

 

「………それって…」

 

彼女は息をのみ、身構える。想定していた反応ではあるがやはり気持ちのいいものではない。しかし、さすがに落ち着いている。一般人ならもっと取り乱すところだろう。

 

「安心してください、CCGから専用の食事が与えられています。まぁ、貴女にしてみれば気が気でないでしょうが…」

 

「………CCGはそんなことまで…」

 

彼女は絞り出したような声で言った。

 

「いえ、僕は喰種側にこの体にされたんです。その後CCGに保護されて今の地位にいます。でも僕は人間からそうでなくなって、喰種の視点で考えたりするんです。だから、人喰いと人間の間にいた彼の話を聞いてとても興味が湧いたんです。僕は彼がどのように考え戦っていたのかその内面の部分を…」

 

さすがに金木研としては話せず、佐々木排世としての話に止めておく。

 

「こんな事、僕のような立場の者がしちゃいけないのは重々分かってます。それでも、どうしても彼のことが知りたいんです」

 

僕はここしばらく出していなかった熱のこもった声を出した。ヒナミちゃんは助けたい。がその後どうするべきかはまだ分からない。彼はそのことを決めるためのヒントにきっとなると思ったから。

 

「………その喰種、悠とはどんな仲だったんですか?」

 

僕が言葉を終えたあと数瞬沈黙していた彼女が口を開く。

 

「ええ、それなりに親密だったようですよ。彼と同じように組織を率いていた喰種でしたし」

 

 エトさんは自分が僕にこのことを美月さんのことを教えたと話すなと言っていた、話すと彼に殺されるからと。

彼がそれほどまでに巻き込みたくない相手なのだろう。

 ここで下手なことを言うべきではないか…

 

「…その人があなたをここによこしたわけがなんとなくわかる気がします」

 

「……っ?」

 

「あなた、どことなく悠に似てるから…」

 

「…っ⁉」

 

似ているのだろうか、彼はこの地獄のような狭間で何を感じて何を選び取ったのか…

 

「わかりました…お話しましょう。悠のことはどこまで?」

 

彼女は落ち着いた目で、芯のある声を出した。

 

「いいんですか?」

 

僕は何が彼女を納得させたのかが分からなかった。

 

「私が悠のためにしてあげられること、何があったかを誰かに伝えて同じことを繰り返さないようにすることだって思ったんです」

 

『彼のため』か…

 

「ありがとうございます!早速ですが、…6年前人間から離反した後のことは聞きました。でも貴女と彼がどんな関係課は実はまだ聞いていません」

 

「そうですか。じゃあ、悠の出自については?」

 

「はい、人間とアマゾンの合成獣だとだけ」

 

「合成獣…言いえて妙ですね。…まず悠の基になった人間の遺伝子は私の実の母のものです」

 

なるほど、それで水澤の姓か。彼女の母が野座間の重役であることを考えると研究に携わっていても不思議はない。

 

「だから、私と悠はある意味で姉弟なんです」

 

そうして彼女は自分と彼の物語を語り始めた。

 

 

 

8年前の朝、朝食中母が唐突に言ったんです。

 

「美月、少し急な話だけどあなたに義兄ができたわ」

 

「えぇっ⁉」

 

本当に急に言われて驚きました。しかも…

 

「知り合いの子でね。今18歳なんだけど病気でずっと意識が無くて最近目覚めたの。長く寝込んでたせいか記憶喪失なのよ。しかも、両親が亡くなって引き取り手がいなくて可哀そうだったから、ほらそれに家ならいい医療ケアしてあげられるし」

 

「…ち、ちょっと待ってよ。お母さんそんな急に…」

 

 

 

「あなたには悪いけどもう決まったことなの。3日後に顔合わせがあるから」

 

「………あ、え…?」

 

有無を言わせずに母は話きり、じゃっ、そういうことだからとだけ言って母は仕事に行ってしまいました。おかげで、それからの3日間死ぬほどドキドキして、まだ見ぬ悠の事ばかり考えてました。今思えば当時から周囲から孤立して変化の乏しい毎日を送る中で急に訪れた波乱にワクワクしてたのかもしれません。

 

そして出会いの日…

 

私は母と共に野座間の研究所に向かい病室らしきところに案内されました。

 

「悠、母さんよ。入るわね」

 

母に促されて私は病室に入るとそこには奥にベッドが一つあって、

 

「あ、母さんこんにちは。今日はどうしたの?」

 

奥から穏やかな声がしたけど私は緊張でずっと母の後ろに隠れているしかなくてなかなか前に出られなかった。

 

「こんにちは、悠。今日はね、前から言ってたあなたの義妹を連れて来たわ。…ちょっと美月なに隠れてるの」

 

母に促され前に出てベッドに座る彼の顔を恐る恐る見ると…

 

「ああ、君がそうなんだ。初めましてえっと、僕は悠っていうんだけど君は?」

 

目が合うと、彼は微笑んで言いました。恥ずかしい話ほとんど一目惚れみたいものです。

 

「え、あ、私は美月と言います」

 

それが悠との出会いでした。

 それからしばらくして、悠は別荘に移り住んだんです。そこでは病気を理由に何もかもが管理されていて、外出も完全に禁止でほとんど監禁状態でした。もっとも彼はそれを何とも思ってなかったようですが。

 母は私に悠には負担になるからあまり会いに来るなと言われていましたがほとんど毎日行くようになって。周りに娯楽のない悠のために本や漫画を持って行ったり、勉強に付き合ってあげたり。兄というよりは弟みたいな感じ接して、私たちはいつしか名前で呼び合うようになりとても仲良くなりました。

悠は当時の私にとって唯一私を見てくれる存在でした。どこにも居場所が見つけられなかった私を会いに行くたびに暖かく迎えてくれた悠に、私は依存していたんでしょうね。

 そんな日々の中で悠が特に興味を持ったものがあって、それがアクアリウムなんですけど。ああ、そこにある水槽、悠が使ってたものなんです。悠は水槽の中を一つの調和された世界だと言っていました。それを見ていると自分もその世界に入り込んだような気がして落ち着くからと…今聞いたらなんていうんでしょうか…。

 本当に幸せな日々だった。学校でいじめられてもどんなに家庭が冷たくても、悠の穏やかな笑顔一つで私の世界は華やいで見えたんです。

 

ですが初めて悠と会ってから2年後、ことは始まりました。悠がある日勝手に外に出たんです。数日後変なバイクに乗って帰って来たのですがその時にはもう彼の中の何かが変わっていた。そしてすぐにまた出ていってしまいました。私は心配でたまらなくなって、研究所に話を聞きに向かいました。

その道の途中でした。実験体アマゾンに襲われたんです。何が何だか分からなかったのですがタクシーの運転手は喰べられてしまって、もう怖くて駄目だと思いました。その時、悠が助けに来てくれた。そして見てしまった、悠がアマゾンに、怪物になるところを…悠は圧倒的な力で敵を倒しました。混乱して、もうなにも分からなくなって後日、母を問いただして、悠がアマゾンであることを聞きました。でもそんなこと正直どうでもよかった。私はただ悠にそばにいてほしかった。私にはもう、悠しかいなかったから。

その後悠はアマゾンを狩る駆除班に入って、戦い始めた。私は家に戻ってきてほしけどどうしようもなくて、途方に暮れていたところにアマゾンの事情を知る七羽さんという女性に出会いました。彼女には私が彼を求めるのは大きなお世話で私が悠を都合のいいペットとしか思っていないと、実際今考えてみるとその通りだと思います。とりあえず、駆除班の人に悠の様子を報告してもらいつつ、悶々と日々を過ごしていました。

 

 しばらくして、あの日がやってきたんです。あの日はひどい雨が降っていました。その日野座間のアマゾンの殲滅作戦が決行され、対アマゾンガスがまかれ街では次々とアマゾンが倒れていく。そんな日も悠は戦っていました。私は母からアマゾンの力を抑え込む薬の話を聞き、それを悠に届けて戻ってきてもらおうと考え、彼を探しに無我夢中で外に出た。雨の中、悠を探し出した時にもやはり彼は戦っていました。ちょうど理性を失い、覚醒したアマゾンが私に襲い掛かっていたんです。

そのアマゾンを止めて悠は言いました。

 

「そうなったら、もう助けられない…勝手で悪いけど僕はこれでいい!僕は、僕の声に従う!」

 

そうしてそのアマゾンを一瞬で切り裂いてしまった。

後に分かったことですが、その時にはもうアマゾン側に付くことを決めていたようです。すごいですよね、アマゾンの味方をすると決めながら理性を失ったアマゾンは狩る。そんな曖昧なラインで戦うことを悠は自分で決めたんです。『彼が守りたいものを守るために』。

 そのあと悠は同じく駆除班で戦っていたアマゾンのところにいました。

その時に悠がズブ濡れのままそのアマゾンに訴えたんです。

 

「喰べてもいいよ!だってそれがアマゾンでしょ⁉」

 

そのアマゾンはその時駆除班の仲間の腕を喰べてしまっっていたらしいです。

 

「それに人を喰べちゃいけない理由なんて僕にもわかんないよ!…生きるってことは!ほかの誰かの命を食べるってことだよ!」

 

それを聞いた時私と悠は決定的に違うんだなって分かってしまったんです。

でもそのあと二人はこうも話していました。

 

「でも、三崎くん食べたのは嫌だったよ…?」

 

「そうだね…、全ての答えはそこから見つかるのかもしれない…」

 

この言葉、あなたならどう感じますか…?

 

「とにかく、こんなところで死ぬのは絶対間違ってる!」

 

悠はそのアマゾンを連れていこうとしました。

 私は堪らずいかないでと泣きつきました。

 

「私分かんない…⁉人間を食べてもいいだなんて…!」

 

「当たり前だよ!美月は人間だから…!」

 

私がどんなにしがみついても、悠は揺らがない。

 

「でも…僕はっ!」

 

「アマゾン…?だからって…一緒にいられないの?」

 

私は懇願しました。強く強く強く。私の一番の宝物。私のすべて…

数瞬の沈黙の後、悠はこう言って私を突き放した。

 

「美月、僕が、アマゾンだって分かっても…変わらないでいてくれてありがとう」

 

そうして悠は霧の中に姿を消し、私は雨の中一人残された。土砂降りの雨は私の代わりに泣いてくれているようでもう涙すら出ませんでした。

でも少なくとも私と過ごした2年間は偽りのないものだったんだと思えました。

 

それから1カ月ほど後、アマゾンを率いているのが確認されたのを最後に悠は姿を消しました。

 

 私はそれからずっと考えていました。自分がどうしたいのか、どうするべきなのか。結論は簡単でした。今度こそ悠と向き合うこと。偽りの兄妹でもペットと飼い主でも、アマゾンと人間でもなく、悠と私として…悠は私に幸せをくれた一番大切なものだから。

だから私は4Cに入りました。

 

それから5年後溶原性細胞のアマゾンが現れたことで私は悠と再会しました。もし、悠が人間の敵なら私が殺すという覚悟で、それが悠と本当の意味で向き合う。唯一の手段に思えたから。

 

「僕を、殺すために…?」

 

私が殺す覚悟で来たことを伝えると、悠は銃を向ける私に少し驚いてはいましたが動揺はせず、むしろ微笑んでいました。

 

「いつか、それを使ってもらうことになる。けど今はまだ無理だ」

 

と言って悠は去っていきました。でも私には思いが伝わったことがどうしようもなくうれしくて…

 

そのあと悠とゆっくり話す機会があったんです。その時悠の本当の想いを知りました。

彼は人間だとかアマゾンだとかではなく自分の守りたいもののために戦ってきたのだと。結果的にこんな結末になってしまっても、自分の選択そのものに後悔は無いと

 

「先生に言われたんだ。『きっと後悔する。それでも私は人間でいたいと思うって』僕もそう思えた。散々な結末になるとしても、するべき事とかでなく、やりたいことをやるって。だから僕は後悔しない」

 

 彼にとっては人間もアマゾンも一緒だったと思うんです。どちらも等しく守りたかったから、彼のその思いはどうしようもなく強くて、どちらかを切り捨てる選択を持てなかったんだって。それはとても不幸で、でもある意味とても傲慢ですよね。どちらかを切り捨てることができればきっともう少し結末は変わっていったのに。でも、私にはそれがとても愛おしく思えた。

 

だから、全てが終わった後、私は悠に言いました。

 

「生きて…」

 

 

 

 話を聞き終わり僕はCCG本部へ向かう。

その道中、様々な思いと感情が渦まく。

彼は強い、どうしようもなく。そしてそれは彼の一番不幸な点であろう。彼がただの実験体の一人であったなら死ぬとしてもいくらかマシであろう。だがそれも彼自身が選んだことで誰のせいにもできず、自業自得なだけだ。しかし、どちらかを守る選択をしても彼は『守りたいもの』を失うことになる。だから彼はその双方をとる限界をせめて敗れたのだ。それはとても悲しいことだった。彼はこれまで僕が出会った誰とも違い、理性と優しさと確かな意思をもって狂気の淵に立った。

 そんな彼から僕はなにを学べるのだろう。あの満月の夜、あんていくを離れる僕に彼ほどの決意はなかった。ただ流されてきただけの僕には…

 僕の本当の願い…道理でも、保身でもない僕のやりたいこと…

 強かった彼、独りだった彼…

 孤独だった僕、つながりたい僕…

 

 そうか、そういうことか…

 

僕は踵を返し、コクリアへ向かった。

 

 

 

 

「やあ、青年。収穫はあったかい?」

 

部屋に入ると、エトさんは当然あったのだろうという笑みを浮かべていた。

 

「ええ、たしかに…」

 

僕も今回ばかりは素直に微笑んで応える。

 

「これ返します」

 

僕は特殊ガラスの小窓を開け、例の五円玉を差し出す。 

 エトさんはそれを受け取ると、愛おしそうにそれを撫でながら言った。

 

「礼を言うぞ青年。これで心残り無く下に行けるよ」

 

彼女はもうすぐ下に移管される。もう会うことは無いだろう。別れの言葉の一つでも言ってやろうと思っていた時、彼女が先に口を開いた。

 

「青年、今一度聞こう、彼のことをどう感じた?」

 

その声も瞳もこれまでで一番真摯に感じた。

 

「僕は、彼のように強くない、正しくない。僕は、彼のようにはなれない」

 

彼女は黙って続きを促す。

 

「でも…」

 

その正しさが何かを救う訳ではないと分かったから…

 

「そうなれないとした時、何を選び取ればいいのか、それを彼から学びました」

 

僕が言い終わると、彼女は満足げな笑みを浮かべ言った。

 

「君に彼のことを話したのは間違いじゃ無かったみたいだ」

 

「エトさん、彼のこと教えてくれてありがとうございました。じゃあ、僕行きますね」

 

僕がいすから立ち上がり、ドアノブに手をかけると、少し待ちたまえと言われ振り返る。

 

「最後にきまりが良くなるよう言っておこう。君は父から私を孤独から救うように頼まれたそうだが」

 

彼女はニヤリと笑い、

 

「私はもう救われているさ」

 

なんだ、やっぱり惚気話か…

 

「………幸運を…」

 

一抹の羨望を抱きながら僕は言った。

 

「君も何をしようとしているかは知らないが、せいぜい頑張りたまえよ、青年」

 

その言葉を精いっぱいの声援と受け取り、僕は部屋から出た。

 




 最終回予告 BGM EAT,KILL,ALL

 ボッチはカワイソ

 アマゾンッ!        
        アマゾン♪

 僕が選びとること…

 

 

 生きてください

 NEXT HUNT

 喰種-AMAZONZ



 と、予告したものの次回は悠と愛支の関係を掘り下げる番外編を予定しております。ご了承下さい。

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