部下S:あれ唯単に巻き込まれてるだけでは
L様:そこがいいんじゃない!これよこれ、こういうの待ってたの!
部下S:・・・・・・(強く生きろ・・・・・・)
ヨシオ:本人を目の前にして言わんでくれませんかねぇ
「はじめまして!ぐれいしあ=うる=なーが=せいるーんです!」
キラキラとした光沢を放つ仕立てのいいドレスを着た幼女が、そう言ってペコリと頭を下げる。
グレイシア=ウル=ナーガ=セイルーン。山賊さんことフィリオネル王子の一人娘で、御年2歳のお姫様だ。
外見は完全に母親のアリシア様に寄っていて王子様の遺伝子はミリも見えない。
「おお!おお素晴らしいぞグレイシア!」
「もうすっかり挨拶が上手になったわね!」
デレデレした表情の両親に囲まれて照れたようにはにかむ幼女。天使かな?
幸せそうな家族の様子に思わず頬が緩んじまうぜ!
「はじめまして、グレイシア姫様。私はエリシエル=ヴルムグン。旅の魔道士です。こちらは旅の仲間の戦士ヨシオと騎士ロディマス。よろしくお願いします」
膝をついて目線を合わせ、柔らかい表情でエリスが話しかける。
てかエリスって本名エリシエルって言うんだ。一緒に旅して一年以上経つのに初めて聞いたよ。名字はたまに呼ばれてたから知ってたけどね・・・
「えりしえるさまと、よしょさまと、ろでぃますさまですね。よろしくおねがいします!」
「ヨシオです」
「よしぇおさま?」
「あ、はいヨショで良いです」
舌足らずな疑問符に自分が間違っているような気持ちになる。ヤバい、荒んだ心が癒やされてまう。
エリス、必死に笑いを堪えてるけどバレバレだからな。
「家庭教師ですか?私が?」
王宮内のフィリオネル夫妻の部屋に招かれた俺達はそこで彼等の相談を受ける事になった。
それは、期限付きでの王女の護衛兼家庭教師になって欲しいというものだ。
といってもこれはエリスに対してだけの物で俺達は本来関係がないんだが・・・
「ヨシオは中々見所がある!聞けばセレンティアの寺院で数学を教えていたと言うし、是非一緒に雇いたい!」
「それは大変光栄なんですが身に余りすぎるのでノーテもがもが」
「不肖の弟子がお役に立てるのでしたら喜んで」
途中で馬車を引くのを代わり、死にものぐるいで王宮まで辿り着いた事で、フィリオネル王子がどうも俺の事をかなり気に入ってくれたらしい。
しかしあんまりにも恐れ多いので断わろうとしたら、ロディマス師匠に口を塞がれて勝手に了承されてしまった。
後で聞くと王族の教育係なんて名誉な仕事を、しかも王族の私室に招かれて頼まれたなんて場面で断るとか、下手な相手なら打首にされかねないらしい。師匠にもエリスにもめちゃめちゃ怒られました。
まぁそんな形で始まった教師としての生活ですが、姫様が可愛い過ぎて生きるのが辛い。
「姫様、このリンゴとこのブドウはいくつありますか?」
「たくさんですわ!」
「うーん惜しい!せめて指折り数えましょうね!」
「さんすうってむずかしいわ。よしょ、りんごをたべましょう!」
「アラホラサッサー」
リンゴを一つとり、タマちゃんを使って空中でバラバラに切り刻む。グレイシア姫がキャッキャと喜んでくれるのでついついこんな曲芸を身につけちまったぜ!
「さぁ、姫様。今度は食べる数を数えましょうか。ひとーつ」
「ひとーつ!あむあむ」
どこかの国では算数を学ぶ際、最初に式を書く時にハチミツで問題を書かせて、問題が解けたらそれを舐めさせるらしい。子供に学問は甘い物だって思わせるためにするそうだが、これ結構大事だと思うんだよね。
誰だって辛い思い出や苦い思い出しかない物は苦手意識を持つものだ。特に子供の内は。
学ぶ事の面白さを知る前に苦手意識を持たせるなんて勿体無い事をするより、遊びながら知識を深めて、そこから学ぶ楽しみを覚えた方が良い。
「という方針なんですが大丈夫です?」
「素晴らしい!」
最初の授業で殆ど遊んでるようにしか見えなかったのか、どういった内容なのかを尋ねられたので答えると王子様にベアハッグを食らった。死ぬかと思った。
「何も考えないで遊んでるだけだと思ってたわ」
「これでも真剣に考えてます。それ以上に楽しんでるけどね!」
「潔いのか馬鹿なのか」
俺の返事にエリスは苦笑いを浮かべる。グレイシア姫は覚えたばかりの数字を自慢するようにアリシア妃様に話している。
そんなグレイシア姫を、エリスはじっと見ている。これは何ぞあったかねぇ?
何ちゃって教師の俺と違ってエリスは文字の読み書きや礼儀作法、歴史の授業に魔法の基礎知識といった幅広い範囲を教えている。
しかもこれら全般に対して高いレベルの知識が無いといけないのだが、少なくともエリスなら出来るんじゃないかと思ってるんだけどね。王子様や王子妃様の評価も悪くないみたいだし。
「魔法の才能、凄いわあの子。私なんか比べ物にならないレベルね」
「ほーん?エリスがそこまで言うとはとんでもない才媛なんだな」
俺の視線に気づいたのかそう呟くエリスは、若干の嫉妬と、それ以上に喜ばしいと言った複雑そうな笑顔を浮かべていた。
うん。そこで嫉妬より喜ばしいと言った表情を浮かべられる時点ですっごい良い教師になれると思うよ。エリス自体も普通に考えれば天才って言われる位恵まれた才能を持っているから、尚更悔しいだろうに。
というか、基礎知識の時点でヤバイって分かる位の才能ってどんなんだろう。1を知って10を覚えたレベルかな?え、嘘マジでそうなの?ヤバくね?
「もう、体感的に精霊の違いや属性魔法についてを感じ取っている節があるの。このまま知識を深めていけば近いうちに得意な属性の魔法を一つ位は使えるようになるわね」
「あの、旅に出てから必死こいて勉強してまだリザレクションしか使えない人も居るんですが」
「あの子、天才。あんた、凡才。気にしないでいいわよ。普通、何年も修行してようやく炎の矢って人の方が多いから」
「あ、そっすか。頑張ります」
「頑張りなさい。少なくとも前よりはマシになってるわよ」
その慰めの言葉が身に染みるぜ。あ、さっきバラしたリンゴまだあるけど食べる?食べるか。ほらあーん。
グーで殴られました。女心は良く分からん。
さて、グレイシア姫への教育のほかにも俺にはやる事がある。
「いくぞー」
「うむ!」
上半身をシャツ一枚にした俺とフィリオネル王子が並んで街中を走る。季節はすでに秋。正直寒いけど寒くない!と気合を入れて耐え抜く。
街行く人々は俺達の姿を見るとやんやと騒ぎ立てて「今日も始まったぞー」と口々に周りへと伝えていく。
これは訓練だ。繰り返す。これは訓練だ。
フィリオネル王子になんか気に入られた俺は暇があれば首根っこを掴まれて街中へ繰り出すようになった。
目的は勿論、王子曰く俺のなっていない体を鍛えなおすことと。
「むむぅ!あちらで正義を求める声がする!行くぞヨショ!」
「あの、俺はヨシオ・・・アラホラサッサー!」
1mmも話を聞いてくれない雇い主に付き合って正義を執行することである。
「ああ!あんな所で馬車に轢かれてしまいそうな女の子が!」
「なんてこった!このままじゃあ真昼の惨劇が街中で起こってしまう!誰か!誰か居ないのか!」
「そこの女の子!逃げてくれ!」
『まてええええええい!うおおおおおおおおおお!!!!』
口々に叫ぶ野次馬達に思わず「お前らが助けろよ」と言いたいが、以前一度言った時に全員が口笛を吹いて目を逸らしていたのでもう俺が何かをいう事はない。
多分、街の人たちも慣れてしまってるのだろう。今俺の首根っこを掴んで、馬車に向かって放り投げるこの男の奇行に。
猛速で飛ぶ俺は走馬灯のようにゆっくりと流れる時間の中、馬車の窓を開けてこちらを凝視する小太りの中年男性と眼が合い、互いに苦笑いを浮かべる。
(大変ですね)
(そっちもな)
まぁお前が馬車暴走させてるのが悪いんだけどなとは思ったがそこまで伝えきる前に俺は馬車に激突。俺ごとぶっ飛ばされた馬車は見事女の子に当たらずに横合いの家の壁に突っ込んだ。
テイク27
金髪ねえちゃんが信じられない位爆笑してた。最近の死に方がバカすぎて退屈しないらしい。お礼にとさっき死んだ体にリポップさせてもらったよ。動けねぇ、リザレクションリザレクション。
「おお、すまぬヨショ!投げるものが無くてな!」
「いや、もう慣れたんで」
「うむ!これも訓練の賜物であるな!」
いや、普通に死んでたんですがね。最近、この王子の奇行に唯一付き合える人間として城勤めの人たちに物凄い化け物を見る目で見られてるんですが。
今までの人は1回目で死に掛けたりするんですね。成るほど。2回目以降が誰も居なくて死者が出なかったんだな。ははっ(乾いた笑い)
王子様も最初は遠慮があるのか手加減するしね。3回目位から今みたいに人間砲弾にされるけどね。
何だかんだでこの王子に付き合ってると自分がドンドン王子みたいな埒外の存在になってきている気がして怖いんですが。今のも当たり所が悪くなければ多分生きてたし・・・・・・
「よし、今日も正義を成した!城に凱旋して妻の手料理を食べなければな!」
「ご相伴に預かりますでげすげす」
「うむ!アリシアの飯は旨いからな!ガンガン食べてくれい!」
バシバシと肩を叩かれる。痛い。
そのまま帰りもパトロールがてら走って王城へと帰っていく。こんな日課を繰り返して、俺のセイルーンでの初めての季節は過ぎて行った。
グレイシア姫の魔法の才能については恐らくリナと同格かそれ以上だろうと言われているので、リナが始めて魔法を使う位の年齢には魔法を使っていたろうな、と思い描写。
今回の本編はむしろその後です。