「――我々は、歴史的な瞬間に立ち会えたのだろう」
ディルス王国国王ディルス三世の言葉に、彼と同じ円卓に座る面々は思い思いに頷きを返す。ゼフィーリアの
発起人であるディルス三世の居城にて開かれた会合は、結成2度目の集いにして結成理由の半ばを達成するという、望外な功績を上げることに成功した。
魔族による人類圏への浸透の排除、及び敵首魁冥王フィブリゾの撃破。
カルマート公国で起きた一連の事件は、肝心の冥王を取り逃がすという結末でこそあったが、降魔戦争からおおよそ千年のあいだ魔族の脅威にさらされてきた人類にとって、正に奇跡とも言える結果だった。
「カルマート公国に蔓延っていた魔族勢力の排絶。並びに円卓会議への加入により北の山脈と接する人類圏は一体となり、何よりも。あの冥王は滅びかける程のダメージを受け逃げ帰ったという。これは、神話の時代まで遡らなければ前例が出てこない程の快挙だろう」
「あの魔槍の一撃なら最低でも十年単位で身動きは取れないだろうさ。仮に動けたとしても弱体化は間違いなかろうよ」
魔族側の頭脳であり、人類にとって諸悪の根源とも言える存在、冥王フィブリゾの撃退、並びに弱体化。フィブリゾと同じ魔族であるガーヴの太鼓判に気色を示す各国の参加者にディルス三世はうん、と満足そうに頷きを返す。
仕留められなかったのは、痛恨である。フィブリゾはディルス二世を地獄へと落とした下手人であり、ディルス三世、いや。ディルス王国全てにとっての怨讐の相手でもある。
もっと支援を行えば、いや。伝え聞く状況を省みるにあれ以上を求める事は。だが、千載一遇の好機を。
後に悔いると書いて後悔と読む。その事実を噛み締めながら表面上は厳かに、ディルス三世はガーヴの言葉に頷きを反して、言葉を続ける。
「今回の快挙、諸国の協力による所というのは勿論だが、何よりも冥王フィブリゾを打倒した一人の戦士の存在が必要不可欠である事は、皆様方もご承知の通りだろう」
言葉とともに円卓を見回すように視線を送る。誰一人として反対意見を言うものが居ない――一人、ガーヴがニヤニヤと笑っているのが気がかりだが――事を確認したディルス三世は、一つ小さく頷いて口を開いた。
「彼、魔槍使いのヨシオを対魔同盟の勇者として――」
「あー、ディルスさんよ。実はその件で報告があるんだが」
任命する、という言葉を言い切る前に、ガーヴがヒョイっと手を上げて彼の言葉を遮る。
怪訝な表情を浮かべる周囲の視線を集めながらガーヴはニヤケ面を浮かべながら胸元に入れていた手紙を取り出し。
「ヨシオからの伝言だ。『しゅぎょうのたびにでます、さがさないでください』だとよ」
「…………………………はっ?」
ガーヴの放った一言はシン、と静まり返った会議室に響き渡り、円卓に居並ぶ面々はポカンと口を開けて彼を見る。
いや。ただ一人、フィリオネル王子だけはうんうんと頷いている辺り予想できていたのかも知れない。
そんな面々の表情――友と認めた人間の戦果に耐えきれず、魔竜王ガーヴはゲラゲラと笑い声を上げ始めた。
ガラガラと車輪の回る音。鳥の鳴き声。立て掛けたタマちゃんが揺れる音。風が運んでくる草の香りを楽しみながら、御者台の上に腰掛け手綱を握る。歩きの時とは違う景色の移り変わりを楽しみながら、手綱を操る。どうもこんにちは。そしてお久しぶりです、流離いの勇者(白目)ヨシオです。えっ、お前どこに居るのかって? ゼフィーリアとエルメキアを繋ぐ街道です。
ゼフィーリアの国境を越え、ゼフィーリア側のモンスターは気合入ってるのも多くて歯ごたえがあったんですが、国境を超えた辺りからモンスターも大分弱く。いや、むしろゼフィーリア側の連中がおかしかったんでしょうが、今はのんびりとした旅を満喫できています。
植生も少し変わった気がするのは錯覚でしょうか。生物全てに気合を求める国、それがゼフィーリアなんですね(違)
えっ、違う? 気合云々じゃなくお前なんでそこに居るのかって?
そらもうゼフィーリアに居るのが恥ずかしすぎるからに決まってるじゃないですか。
知り合いの女の子に変身て。実年齢30越えたおっさんがやらかすには羞恥が過ぎるんだ。旅から帰った後ルナちゃんに再会した時、思わずその場で腹かっさばきそうになったよ。
「かっさばいたじゃない。『おいは恥ずかしかっ! 生きておられんごっ!』って」
「武士道って死ぬ事に通じてるんだよ」
「多分違うと思うわ?」
隣に座るエリスの軽口に応えると、残念なものを見るような視線を向けられる。ちゃうねん。
「別に良いじゃない、幼女変身趣味でも。私の愛は変わらないわよ?」
「色々含む所が見え隠れするんですが」
「当たり前じゃない。魔道士としても女としても研究者としても貴方を愛してるわよ?」
「そうかな。そうかも……」
「嬢ちゃんのソレはかなり特殊じゃぞ。お前はもう少し疑うことを覚えんか」
さも当然、と言わんばかりのエリスの態度に納得しかかった俺に、馬車の横合いから声がかかる。馬に騎乗し、馬車の横合いを並走する騎士、ロディマスだ。
「師匠、しかし嫁を疑うのは」
「嫁さんを疑うのじゃなく言葉の内容をもっとよう考えんか。姿かたちなんてものに意味がない事は、その嫁さんが証明しちまったじゃろうが」
「まぁ、そうなんですがねぇ」
「何かあった?」
「大丈夫、気にしないで」
クドクドとお怒りのロディマス師匠におっしゃるとおりでございます、とペコペコ頭を下げていると、何かトラブルでもあったのかとエリスが馬車から顔を出し、それに御者台に座るエリスが答える。
なにか変な状況に聞こえるかも知れないが、別に俺の頭がおかしくなっているわけでも幻覚を見ているわけでもない。
今、この馬車には俺と御者台のエリス、そして荷台の中には更にエリスが一人、機材の管理の為に乗り込んでいるのだ。
分裂の魔法とかそういうものではない。片方のエリスは厳密にはエリス本人ではなく、彼女が俺の死体を元に長年研究していた研究成果……言うならばクローンエリスと言うべき存在だ。
俺が現代日本に居た頃に得た知識、エリスが研究していた傀儡の術、そして死した後に魂を次の依代に移す俺という存在と、次の依代に移った後に残る俺の身体という名の素体。転生によって人と混ざりあった神魔……ガーヴとルナちゃんを間近で観察出来たのも大きかったと言っていたか。
エリスはクローンエリス達を魂の器として作ったと言っていた。俺の身体を素体とした個体のみ、魂の移乗を行うことができると。仮に今、隣に座る本物のエリスが倒れたとしても次に指定してあるクローンエリスが本体となるらしい。
「言ったでしょ。私、重い女だって。寿命で逃げようなんてさせないわよ?」
「あ、うん。アイシテルヨエリス」
あとは、どう考えてもマッドよりな彼女に惜しげもなく資金を供給するパトロンが居たことも大きいだろう。おかげでゼフィーリアの我が家はそこらの魔術協会じゃ真似できないレベルで設備が充実してるそうだし。勿論現在もクローンエリスの一人がそこは維持してあり、何かあった時の拠点としても活用できる。
「でも戻る気はないんでしょう?」
「暫くはねぇ。ルナちゃん達や姫様達を見守りたいとも思うけど、一番の脅威は暫く動けなさそうだし……そこまで過保護なのもどうかなって思ったんだ。御恩への奉公もしたしね」
「あと気恥ずかしいんですね」
「……エスパー?」
音もなくふわりと現れ、御者台に座るゼロスくんの言葉に肯定の頷きを返す。冥王の撃退によってルナちゃんの周囲は劇的に安全になった。動向の読めない覇王という不確定要素こそあるが、最も強大な腹心であるフィブリゾが敗北したという現状で軽々しく動くような事もしないだろう。
「……まぁ、今の所動きは無いですよ。確かに」
なにかを言いづらそうにするゼロスくんの様子が気がかりであるが、問題が起きればクローンエリス経由で連絡が届く手はずだ。少なくとも今、旅に出る事になんの不都合もない。
「で。向こうについたらどうするの?」
「まずは光の剣士の一族に接触する所かなぁ。後は色々見てみたいね。人類圏の東のはてとか見てみたいし」
「仇討ちとかされちゃわない?」
「そん時はそん時かな」
「音に聞く光の剣士の一族。腕が鳴るわい」
「敵対前提じゃないですよ、師匠? 師匠!?」
腰に刺した剣。ガウルンに託された光の剣の柄を触り、そうエリスの言葉に応える。
彼が託してくれと頼んだ甥っ子。たしかガウリイ、だったか。あれほどの剣士があげた名前への興味を言葉の端に滲ませながら前を見る。
エルメキア帝国に行った後はどうしようか。そのまま南下するように突っ切り海に出ても良い内陸は結構歩き回ったし、次は海沿いに歩くのも良いかも知れない。
見るものがなくなったら、結界の外も見てみたいものだ。立て掛けたタマちゃんがヴゥン、と音を立てて自己主張する。穴をあけるなら任せろ、という事だろう。
「楽しみだなぁ」
やがて見えてくる町並みを視界に収め、ぽつりと一つ呟き。
俺たちの旅はまた始まるのだった。
この度は御愛読頂きありがとうございました。
長らくおまたせしていたスレイヤーズリポップ、今回で完結となります。
もっと色々話を広げたり、むしろ原作まで頑張って、という気持ちもないではなかったのですが、諸事情ありましてこれ以上膨らませていくのは難しいと判断し、冥王戦後という区切りの良いタイミングでもあったのでここで〆とさせて頂きます。
皆様の一時の暇つぶしにこの作品が役立っていたなら、望外な喜びです。
まだ使いたいネタとかもあるにはあるのですが、その辺りは機会があれば番外編かボツネタとしてあげられたらな、と思います。
ここまで拙作を読んで頂きありがとうございました。 ぱちぱち