誤字報告を適用。クオーレっと様、ありがとうございました!
王宮にヨシオを連れてきた事は後悔していない。
クォルト様よりの密かな頼みを聞き入れ、俺は最近弟子として扱っているヨシオを連れて王宮に足を踏み入れた。
勝手知ったるというか、昨年まで仕えていたこの城の中はそれほど変わっていなかったが、人々の活気がまるでなくなっている。
やはり、損害は大きかったか。俺がもっとお諌めしていれば・・・
自責の念を覚えながら案内された客間に通されると、クォルト王子がすでに長椅子に座って待たれていた。慌てて膝を突くと、ヨシオも俺に習って膝を突いた。
礼儀作法を教えた甲斐があったか、見事な動作だ。こいつはまるで何も知らない子供をそのまま青年まで育てたような所があり、吸収力も学習意欲も高い。
その分、自己が薄いような所があるから、何くれと世話をしてしまう。その結果教えた礼儀作法がこのような場所で役に立つとは、世の中わからないものだな。
「ロディマス、久しいな・・・・・・今日は、よく来てくれた」
「クォルト殿下・・・この度は・・・」
「よい。止めきれなんだ私にも責がある・・・・・・お前の進言を受け入れていればと、後悔しなかった日はない」
まだまだ30を過ぎたばかりの殿下はすっかり老け込んだ様子で悔いるようにそう言った。
カタートに進発した軍は全滅。誰一人として生きて帰るものは居なかったと言う。我らが陛下も。
と、表では言われている。
「それで、その子が?」
「はい。私の弟子のヨシオでございます。強力な呪いの槍を操る槍戦士です」
「おぉ、そうか君が。城下にすさまじい業物を操る黒髪の戦士が居るとは聞いていた。ロディマスの弟子であるなら信用も出来る。是非、君に頼みがある」
「・・・はぁ。頼みでご、ざいますか?」
「これヨシオ」
「構わん。ロディマス、こちらが頼むのだ」
敬語を言い難そうに話すヨシオにもう少し言葉遣いをしっかり教え込むべきだったか、と思うが流石に時間がなかったか。
少し苦言を言おうとした俺を殿下が遮った。
「まず、これから、この王国の秘中の秘を君に見せる。決して外に漏らさないと約束して欲しい」
「わかりました。お約束します」
殿下の言葉にヨシオが返すと、殿下はヨシオの目を見ながら頷いた。
そして席を立ち、「こちらに。ついてきて欲しい」と言われて部屋を出る。慌てて追いかけると、殿下はどんどんと王宮の奥深く、それこそ王族と一部の上級臣下以外は入ることの出来ない区画まで歩き続ける。
そして、奥に行けば行くほど。風切り音のような耳障りな音が耳を打つ。
まさか。あの噂は本当だったのか。顔色の悪い殿下の姿に嫌な予感を覚えながら足を進める。
そして、ある部屋の前に着くと、殿下は足を止めた。
『光と地と風の力よ 魔の呪文を今こそ破らん!崩魔陣!(フロウブレイク!)』
部屋の中から呪文の詠唱と発光。そして、落胆するような声と・・・耳鳴りのような悲鳴が木霊する。
ふるふると震える手を押さえて、殿下はドアを開けた。
そこには肉塊を中心に覆う魔法陣とそれを囲む騎士、幾人かの魔法使い・・・中にヨシオが最近よくつるむエリスちゃんも居る・・・が交互に呪文を唱えている。
俺が知っている魔法や知らない魔法が次々と肉塊にぶつけられるが、肉塊は悲鳴を上げるだけで削れた場所もどんどんと再生していく。
これは。この声はやはり・・・
「へ、陛下・・・」
間違いない。悲鳴を上げるこの声は、長年聞き続けてきた陛下の声だった。
がくり、と膝を突く。勘気を賜り罷免されたとはいえ、長く忠誠を誓ってきた相手の無残な姿に、俺は体のバランスを保つことが出来なかった。
「魔族の見せしめであろう。父はこのような姿で城の前に捨て置かれていたのだ・・・頼む、呪いの魔槍の使い手よ。父の呪いを解けないだろうか。もしくは・・・・・・いっそ、楽にしてやってはくれないだろうか」
「はい・・・あの人たちは?」
「彼らも努力はしてくれているが・・・・・・父の苦しみを和らげる事も出来ないのだ。出来なかったらどうなる、という事はない。口外さえしなければ」
「わかりました。やるだけ、やってみます」
そう言って、ヨシオは「タマちゃん」と槍に一声かける。すると、槍の先端部分が黒い光を放ち、周囲に怖気を催すほどの瘴気を撒き散らし始める。
震える足を叱咤し、立ち上がる。ヨシオが槍を使う所は何度か見ているが、周囲に大きな影響を撒き散らすほど槍の力を解放したのは始めてみる。
庇うように殿下の前に立ち、ヨシオに声をかける。
「ヨシオ、その槍は、大丈夫なのか?」
「はい。機嫌が良いみたいです。こういうのが嫌いらしいんで張り切ってるみたいですね」
そう言って、ヨシオは場に不釣合いなにこやかな笑みを浮かべ、肉塊・・・ディルス王の前に立つ。
「殿下。申し訳ありませんがこの方はもう亡くなられています。ただ、呪法により魂を縛られて責め苦に遭わされているようです」
「なんと、そのように惨い・・・死の安寧すらも与えられないとは!」
ヨシオの言葉に騎士達の1人、コードウェル卿が声を荒げる。
魔族のやり口はいくつか聞いた事があるが・・・なんと邪悪な。奴らを危険視していた陛下は決して間違ってはいなかったのだ。
ただ、奴らが強大すぎる存在であっただけで・・・・・・
「・・・・・・魔槍の担い手殿。父を、解放することはできるだろうか」
「殿下!?」
「言うな!私とて助けられるなら助けたい!だが、これ以上父が責め狂わされるのを見たくないのだ・・・・・・」
涙を流しながら叫ぶ殿下の姿に、騎士達の顔が悲痛にゆがむ。恐らく、俺も涙を流しているのだろう。
殿下の叫びを受けたヨシオはいつもの笑顔を珍しく引っ込めて頷くと、肉塊に話しかけた。
「国王様。今から少し痛むかもしれないけど、楽にしてあげます。貴方はこれから皆が帰る場所に帰ることが出来るんです。そうタマちゃんが言ってます。だから、気を楽にして、受け入れてください」
そう言ってヨシオが槍を肉塊に差し込む。
ギシャアアアアア!
蛇がのたうちながら悲鳴を上げヨシオに襲い掛かるが、ヨシオに触れる前に金色の光に阻まれるように弾かれ、消えていく。
「こ、金色の魔王・・・・・・」
ぼそりと殿下がそう呟くが意味はわからなかった。赤目の魔王ではないのか?あの槍は魔族によるものなのか?
金色の光が周囲を覆いつくし、そしてそれが晴れた時、肉塊のある場所には裸の老人とそれを支えるヨシオの姿があった。
その光景を目にした殿下は「父上!?」と叫び、老人に駆け寄る。
「父上!父上!」
「・・・・・・クォルト、クォルトなのか。もう目が見えん」
「父上、クォルトです!ここに居りますぞ!」
「ああ・・・・・・まさかお前に最後に会えるとは・・・ぐふっ・・・ディルスを・・・た、のむ・・・」
そう言って陛下はクォルト殿下の胸の中で目を閉じた。
ヨシオは殿下に陛下を託すと、静かに傍から離れて俺の元にやってくる。
目線でこれで良かったのかと訪ねられた気がして、俺は一つ涙を流しながら頷いた。
そして今。俺達は旅の身空にいる。
前を歩くヨシオがこの旅の同行者になったエリスと軽口を叩きあい、それに神官殿が合いの手を入れる。和気洋々とした雰囲気である。
だが、実態は国外追放に等しい扱いだ。俺は思わず苦虫を噛み潰したような表情を浮かべてしまう。
クォルト様より褒美として大金(幾らかは宝石として換金してある)や魔法の武具などを渡された。そしてその場で、申し訳無さそうにかのお方はこういった。
「騎士達が、ヨシオ殿を良く思っていない」と。
そんな馬鹿な話があるのか。自分達が出来ない事をやった、しかも前王陛下に対する返しきれないほどの恩義を受けてその仕打ち。
元同僚ながらそんな連中だとは思わなかった。憤慨する私に、傍に居たコードウェル卿が頻りと頷き、
「儂の方でも引き締めを行うつもりだ。暫くすればヨシオ殿にはしかるべき名誉を授けさせてもらいたい」と言ってくれた。
その言葉を信じて、その日が来るまでヨシオは俺が守ると王陛下になられたクォルト様に告げる。
クォルト様は頷いて、何事かあればディルスの名を出してもいい、と言い、俺にディルス王家の家紋が刻まれた短剣を渡してくれた。
短剣は今もこの肌身離さず持ち歩いている。少なくともディルス近隣の国でなら効果を発揮するはずだ。
いつかヨシオを連れてディルスに戻るその時を夢見て、俺は街道を歩いていく。
この身に代えてでも必ず守ると心に秘めながら。
クォルト殿下:後のディルス三世陛下。このお話しではこの後登場するかはわかりません。
コードウェル卿:後のコードウェル将軍。この人も後に(ry