世界は変わった。年寄りはよくそう語る。曰く、21世紀の初期に世の中を一変させる事件があったのだとか。
人によっては、あたかもそれが神話であるかの様に話す人もいる。それくらい凄いことなのだろうと、察することはできるが僕にはそれが限界だ。
なぜなら変わったといっても、それから50年しか経っていない現在。そこまで差異という差異も無いのだろうと、僕たち『新人類』は思う。
『キラ』。それは今現在この国でもっとも信じられている、神である。この神がこの国で十字に縛り付けられた聖人より神聖視されているのは、ある一点。そう、実際に存在が確定していることだ。
曰く、至高神。曰く、現人神。曰く、世界の支配者。
ーーーーーー曰く、新世界の神にして、新世界の創造主。
国民の7割がこの神の存在を信じているわけだが、その理由はこの神が持つ力によるところが大きいと、老人たちは言う。
悪人の断罪。かの神が行うことはそれだけだ。しかし、それがこの世界を変えたと『旧人類』は語る。だが、悪事を働けば即座に神の鉄槌が下るなんて僕たちにとっては、当たり前の常識である。
ーーーーーー悪いことをしたら死ぬ。それは別段おかしいことではない。死だなんて言葉のせいで大袈裟に聞こえるかもしれないが、これはさしたる問題ではない。死にたくなければ、悪いことをしなければ良いだけの話なのだから。
そう、とどのつまり『新世界』はキラ中心に回っているのである。
「はぁ〜、進路調査表がついに配布されちまったよ。一体なにを書けばいいんだよ。なあ大地、お前は将来のことは決まってるか?」
「いいや、志望大学を書くので限界だよ。それ以上はまだわからない。」
「志望校書けりゃ十分だろうがよ。ったくよ、こちとら華の高校生1年だぞ。まだ学園生活を楽しむ時間だってのによ。なんで教師達は先のことばっか気にしてんのか、俺にはさっぱりわからん。」
季節は夏も過ぎて秋。僕個人としては、サンマを初めとした魚類が美味しくなるのが嬉しい時期だ。
そんな中、どうにも進路に不安を持つクラスの隣人と進路について話しをしていた訳である。
「まったく、そんなこと言ってるとキラに裁かれるよ?」
「そうは言うけどな大地?今時、企業だってキラに殺されない様に必死なんだぜ?ちょーっと詐欺紛いのことをしたら、すぐこうだぜ?」
自分の首を親指で切るジェスチャーする隣人は、絶対に死なない職業に就きたいとボヤいていた。
「大丈夫さ。毎日堅実に、ゆっくりと生きていればキラに殺される心配もない。大事なのは人間どれだけ誠実であるかだよ。」
結局のところ、ズルをするからいけないのだ。ルールさえ守っていればなんの問題もない。キラが見通すこの世界は真面目な人にとっては生きやすい世界だ。人に酷いことをすれば裁かれる訳だから、正攻法が一番強い。だから僕にとってはそこまで生きにくい世界ではなかった。
「……お前、確かキラ教徒じゃなかったよな?」
「うん、別段信仰してる訳じゃないよ。」
「俺が思うに、お前、そんじょそこらの信徒よりよっぽどかキラに気に入られる生き方してるよ。」
馬鹿にすると言うよりは、飽きれた物言いで彼はそう言った。
「そうかな?」
それに対して僕ーーーー
だが、キラが支配するこの世の中。天国とはとても呼べない。夢を持てない若者はごまんといるし、毎日彼等は醜い争いをしている。それは大人もそうで、キラに裁かれない範囲で汚いやり取りをしている訳である。
そして、キラがいるからといって犯罪がなくなる訳じゃない。たしかに、かの神が降臨してから、日本の犯罪件数は半数どころか4分の1にまで減少きた。だが、それ以上は30年経っても減らせなかったのである。
例え死が待っていたとしても、人間は目先の利益や欲望に捕らわれ罪を犯す。また、衝動に任せた末に断罪される者もいる。結局のところ、人間は成長できていないのだ。
それでも、『旧人類』たちは世界は良くなったと言う。それが本当ならば、一体どれだけ『旧世界』は酷い有様だったのだろう。まさか、戦時中だったとでも言うのだろうか。
社会が抱える問題は、あのキラでさえ解決できていない。これをどう見るかは人によるだろう。
人間の業はそれ程までに大きいのか。
ーーーーーーキラは決して神なんかじゃないのか。
どちらにしろ、僕は今日を真面目に生きるだけだ。
反響が良ければ続き書くらしいよ(約:感想ちょうだい)
➡︎感想欄で意見をいただきまして、とりあえず短編として書こうと思います。
追記:数ヶ月かけて書いてはいるものの、未だ投稿できず。完結までの流れができても上手く書けないのじゃー。表現の稚拙さが、がががが。