仮面ライダーW&ドライブ Eの復活/ライダー捜査線   作:ラズベアー

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第一章 黒い処刑人
第1話


今日も風都には良い風が吹いている。

 

風都。読んで字の如く、風の都である。

日本の首都である東京にも劣らない経済力を誇り、原子力に代わって、この街のシンボルである風都タワーから生み出される風力によって街は成り立っている。

街の至るところに風車のオブジェがあり、風の街であることをアピールしている。もちろん、この街のマスコットも風車由来だ。

大都市故に都民も不自由なく暮らしているが、一方で犯罪も起こってしまう。大都市には犯罪はつきもの。それはどの国においても当てはまることだ。それを裏付けるように、連日報道されている。

やれ人質だ、やれ強盗だ、やれ人殺しだ…。全く、人間てのはつまらないことで犯罪を起こしやがる。

 

ただ、この街で起こる犯罪というものは、他のものと毛色が違う。

 

この街で起こる犯罪。その大部分はガイアメモリによって生まれる怪人・ドーパントによるもの。

こいつはガイアメモリ所有者がその力に溺れてしまうことで起きてしまう。怪人故に、風都警察でも太刀打ち出来ないくらいだ。

だからこそ、この街には必要なんだ。

 

"仮面ライダー"というヒーローが。

 

俺の名は左翔太郎。鳴海探偵事務所に籍を置く、風都の私立探偵だ。

子供から老人まで、小さな悩みから大きな事件まで。

風都民のためなら、何だって引き受ける。それが俺のポリシーだ。

いや、俺"達"の、か。

しかし、それは一般での顔でしかない。

ドーパントが絡んだ事件の時、俺達はその姿を変えて事件に臨む。

そう、仮面ライダーWとして。

 

ん?さっきから何で俺"達"か、だって?

悪い。紹介してなかったな。

俺には、かけがえのない大切な相棒がいる。名はフィリップ。本名は園咲来人だが、俺にとってフィリップはフィリップだ。勿論、日本人だ。

色々あって、かつて事務所の先代所長だった俺のおやっさん・鳴海荘吉がフィリップという名を与えたんだ。

俺と相棒のフィリップ。二人で一人の仮面ライダーだ。

 

この事務所には色んなやつが訪れる。

鳴海亜樹子。おやっさんの娘で、"一応"ここの所長だ。自意識過剰でスリッパを振り回す危なっかしい女だが、俺達のことをいつもサポートしてくれる俺達の大事な仲間だ。

実は、結婚して今の姓は照井で、一児の母だが、事務所にいる間は鳴海を名乗っている。

 

照井竜。風都警察のエリート警察官。そして、この街のもう一人の仮面ライダー、アクセルだ。立場は違うが、この街のために、俺達は力を合わせて事件を解決させてきた。名字の通り、亜樹子の旦那だ。口癖は「俺に質問するな。」

お陰で何も質問できねぇ。

 

クイーンとエリザベス。

ウォッチャマン。

サンタちゃん。

風都イレギュラーズと呼ぶ彼は、風都の情報元で積極的に協力してくれる、家族みたいなやつらさ。

 

探偵業だからこそ、無論警察からも捜査協力を依頼される。

その時に決まって訪れるのが、刃野警部補、通称ジンさん。人当たりのいい、俺にとってのもう一人のおやっさんみたいな存在だ。時折、警察官としてそれでいいのか。なんてツッコミたくなることもあるが、そのお陰で俺達も捜査に関われるから文句はないさ。

あ、真倉もいたな。あいつは…、ジンさんのお付きみたいなもんか。

 

ジンさんからの依頼で大方の事件に携わることになるんだが、今回ジンさんが持ち込んだ案件。

これがまさか、とんでもない大事件になるとは、この時は誰も想像だにしてなかったんだ。

 

今日もいつものように亜樹子が事務所に連れてきた娘・春菜をあやしている時だった。

 

「よぉ、翔太郎。お、皆揃ってんなぁ。んん?春菜ちゃんまでいるのか。いやぁ、亜樹子ちゃんに似て可愛いねぇ。」

ジンさんは事務所を訪れると、早速春菜をあやしに行った。

「もう、ジンさんったら~。うふ♥️」

亜樹子も何故かまんざらでもない様子だ。

「確かに、このまま育てば、あきちゃんそっくりになるかもねぇ。」

フィリップも興味深そうに春菜を見ていた。

「そうじゃねぇだろ。ジンさん。」

俺はジンさんに訪れた理由を聞いた。

「あぁ。翔太郎、お前に捜査協力を頼みたくてなぁ。」

ジンさんが言った。

「ここに来るということは、ドーパント絡みか?」

俺はジンさんに尋ねた。

「まぁ、そう言うことなんだが。」

概ね予想通りの返事だったが、照井がいる以上、俺が出る必要があるのか疑問を感じた。

「俺が言う立場じゃねぇが、ドーパント絡みなら、照井で何とかなるんじゃないのか?」

「んん?亜樹子ちゃんから聞いてないのか?」

ジンさんが亜樹子を見て言った。

「え?」

「あぁ。竜くんなら今東京に行ってるの。」

「え、そうなの?」

俺は照井が東京にいることを知らなかった。

「何だ、知らなかったのか。今、照井警視は別の事件の捜査で東京に出向いているんだ。」

ジンさんは言った。

なるほど、俺達を頼る理由がわかった。

「それで、俺達の出番って訳か。」

「照井警視がいれば、お前らみたいな探偵に頼らなくて済むんだがな!」

ジンさんの後ろから声が聞こえた。

「あん?何だ、マッキーか。相変わらず影が薄いな。」

俺は真倉ことマッキーを鼻で笑いながら言った。

「影薄くないわ!それにマッキーて呼ぶんじゃねぇ!」

マッキーが喚いていたが、無視した。

「任せな、ジンさん。」

「それで、事の概要は?」

フィリップも続けて言った。

「引き受けてくれると信じてたぜ、翔太郎。」

「既に被害者3人、身元不明なんだが、これがまた妙なんだ。」

ジンさんは手に持った茶封筒から被害者と思われる男女3人の写真を出した。

「妙?」

フィリップが尋ねた。

「これら被害者の共通点、どうやらガイアメモリ所有者らしいんだ。」

そう言うと、ジンさんはさらに彼らの身体の一部を撮った写真を出した。

そこにはガイアメモリのコネクト痕が印されていた。

「どういうことだ…。」

俺は不審に思った。

「それと、被害者の側にもガイアメモリがあったんだが…。」

ジンさんはさらにガイアメモリの写真を出したが、それをみたフィリップが言った。

「メモリが…、破壊されている?」

「初めは、お前らが戦ってこうなったと思っていたが、お前らが殺しまでするはずはないと思ってな。そうだろう?」

確かに、俺達が変身する仮面ライダーWにはメモリ使用者を殺さずメモリのみを破壊することが出来る。戦いの中で死んだ者もいなかった訳ではないが、それはメモリの負荷に耐えられなかったことが原因であり、直接的な原因ではない。

しかし、被害者の様子を見るに彼らは外傷が見られる。明らかにそれが死因と言えるだろう。

「あぁ、ジンさんの言う通り、これは俺達の仕業じゃねぇ。」

俺は言った。

「そうよ!翔太郎くんが殺しまでするはずないわ!」

亜樹子もフォローした。

「だよなぁ。」

ジンさんも納得してくれた。

「もしかして、彼らは使用する前に殺害された?」

フィリップが呟いた。

「その通りだ。」

「けど、この殺傷痕は…。」

明らかに人の手によるものでは無かった。

「翔太郎、これは恐らくドーパントによるものだ。」

フィリップも同じことを考えていたようだ。

「つまり、どこの誰かが俺達の真似事をしてるってことか。」

俺は嫌悪感を覚えた。

仮面ライダーは風都を守るヒーローだ。風都を守るということは、街に住む人達のこと。つまり、どんな悪人でも正しく裁かれるべきであって決して殺してはならない。

それを無視したものが正義などと、到底認められるはずがない。少なくとも、俺は認めたくなかった。

「気にいらねぇな。俺達の真似事なんて。」

「違うよ、翔太郎。」

「こんなもの、ただの犯罪さ。」

フィリップが訂正した。その表情は涼しくしていたが、それでも憤りを感じていただろう。

「ただ、これだけだと情報が少なすぎる。もっと調査をしないと。」

共通点がガイアメモリ所有者でどれも殺害、犯人はドーパント、そして身元不明。これだけでは、条件が広すぎるため、捜査の為にキーワードを集める必要があった。

「…あぁ。ジンさん。この依頼、引き受けたぜ。」

「頼む、翔太郎。こっちも何か分かったら連絡する。」

ジンさんはそう言うと事務所を後にした。

 

恐らく、次のターゲットもガイアメモリ所有者。しかし、誰が所有しているか分からない以上、調査は困難だろう。

「フィリップ、現時点でガイアメモリの数がいくつあるか分かるか?」

「全てとなると、僕でも分からない。けど、この場合で言えば恐らく、23本。」

フィリップは答えた。

「その根拠は?」

「さっきの写真を思い出してくれ。破壊されたメモリは全てT2(タイプツー)に酷似していた。」

フィリップは言った。

「だが、T2は全て破壊したはず。」

俺はあの時の事を思い出して言った。

「そうだね。だから、恐らくT2メモリの複製品だろう。もしこれが全てそうだとしたら、全部で26本。」

「そして破壊された3本を除いて23本か…。」

「犯人がドーパントならそれを使用している分を除けば22本。つまり、もし犯人の狙いがメモリの破壊なら次のターゲットは22人いるということさ。」

フィリップは言った。

22人。条件が少ない中でこの人数は決して少ない訳ではなかった。

ましてや、メモリ所有者を見分けるなんて、いくら探偵の俺でも容易ではなかった。

「責めて、犯人が何のメモリを使っているかさえ分かれば…。」

「とにかく調査だ、相棒!」

「…だね。」

 

俺達は風都イレギュラーズにも協力を仰いだ。すると、ウォッチャマンから興味深い話を聞くことができた。

「たまたま、殺害現場を見た人がいたみたいだよ。」

「そいつがどんな姿だったか見たのか?」

俺はウォッチャマンに尋ねた。

「それがさ、翔ちゃん。犯人の姿わからなかったんだって。」

ウォッチャマンが答えた。

「どういうことだ?」

「どうやら人が化け物になった後に襲いかかったらしくて。そいつが目にも止まらぬ速さでボコボコにしたらしく、人の姿に戻った瞬間に殺したらしい。」

やはり、ドーパントを狙った犯行のようだ。しかし、目的は何だ?

「他に何か言ってなかったか?」

ウォッチャマンにさらに尋ねた。

「そういえば…。すばやい動きで殺害したから、まるで"忍者"みたいだ。って言ってたな。」

 

俺は、ウォッチャマンに聞いた事をすぐにフィリップに伝えた。

「忍者のようなドーパント、ねぇ。」

フィリップは頭を悩ませていた。

「忍者ということは、忍者の記憶を持つメモリ。Nのメモリか?」

俺はフィリップに言ったが、

「いや。」

とだけ言われてしまった。

「"忍者"というのは目撃者の比喩表現であって真実である確証はない。」

「素早いだけならば、速さの記憶のメモリ。もしくは速さに関わる何かのメモリかもしれない。」

フィリップは淡々と説明した。

「犯行の手口が分かった所で、手がかり無し、か…。」

「だけど、犯人はドーパントに変身した後に犯行に及んでいる。ということは、犯人も誰がメモリ所有者か見分けがついてないってことだけは確かになった。」

フィリップは言った。

 

次の被害が出る前に何とかしないと。




時間軸は、仮面ライダービルド平成ジェネレーションズFINALより少し後の設定です。

また、作風としては、本作主人公である左翔太郎が作成した事件後のレポートであるため、基本的には翔太郎視点で語られます。故に、全編通して翔太郎のことは"俺"と表しています。

前作以上に多くのライダーが登場します。
お楽しみください(^^)

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