ARMOREDCORE compensation   作:天武@テム

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これが夢であったら、どんなによかっただろうか。
夢だったら、泣きじゃくりながらお母さんに抱きしめてもらいたかった。


chapter1-8 # 「これがただの悪夢だったら」

 

 

小さい頃は明日は必ず来て、戦争なんてテレビの向こう側だけの話で僕にはなんも関係がない話だって思ってた。

ただ、いつも通りに過ごして大人になったらお父さんの仕事を継ぐものだって思ってた。

 

 

…………………………アイツが来るまでは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お母さん見て見て!ほら、お庭のさくら描けたよ!!」

「あら、とっても綺麗かけてるわね。ジンはお父さんと似て絵が上手ね」

「お父さんは絵が上手だったの?」

「そうよ〜お父さん絵が上手でね、あなた達が産まれる前まではよく描いてたの」

「そうなんだ、でもどうしてぼくたちがうまれてから描かなくなったの?」

「お仕事が忙しくなってよく出張するようになっちゃってね、絵を描く暇がなくなったの」

「そっか〜、お父さんが描いてる絵見たかったなぁ」

「お父さんが帰ってきたら今度お願いしてみたら?きっと描いてくれるわよ」

「ほんと!はやく帰ってこないかな〜」

「そうね、向こう側の戦争が終わったらきっとお父さんも武も帰ってくるわ」

 

僕のお母さん凪=叢雲はふふっと笑うと、頬を撫でてくれた。その日は寒かったから、お母さんの手は冷たかった。

僕のお父さんは旧カナダ領地に位置するレイレナードの技術者で、家にいないことが多かった。兄さんは高いAMS適正があったらしく、レイレナードの史上最年少のテストパイロットになった。兄さんのメールに書かれている通りだったら、向こう側で大きな戦争が起こってて帰る暇もないらしい。

だから今は、お母さんと僕と2人だけで旧日本 有澤コロニーにある家で暮らしている。2人っていうのは少し寂しかったりはするけど、いつも通りに過ごしてる。こんな日が続いて、暫くしたらお父さんや兄さんが帰ってきてまたみんなで過ごせるんだって思ってた━━

 

 

 

 

 

 

━━リーダー、ほんとにオーメルの依頼なんて受けて良かったんですか?1つのコロニーを破壊する為だけなのにあんな馬鹿でかい報酬金……怪しくないですか?

 

━━企業は依頼をこなせばどんな奴でも報酬金は必ず支払う、それが罠でもな

 

 

 

 

 

 

 

夜も更ける頃、人々が寝静まった頃にその時は来た。

過激派武装組織「リリアナ」の部隊が僕らが住んでいる場所にやって来た。部隊のノーマルAC一機が持っていたバズーカが発射され、町の護衛をしていた一機のMTが被弾し、住宅街を犠牲にしながら倒れていく。

ノーマルACの破壊活動でコロニーは炎に包まれた。人々の恐怖の悲鳴が響き始め、何処かへ逃げ惑う姿が見え始める。

 

『ここは只の居住区だから襲撃されないんじゃないのか!』

 

『防衛部隊はまだなのか…!?早く来てくれよぉ…!!』

 

『誰か、誰かうちの息子を助けて!あの瓦礫の下敷きなの!このままじゃ息子が死んでしまいます!』

 

『怖い……怖いよぉ母ちゃん…』

 

 

 

 

 

 

 

━━━ ここまでは順調ですね、後はあの家系の人間を殺ればいいですね?

 

━━ ああ、そうだ。それが終わればさっさとずらかるぞ

 

 

リリアナの部隊は町が炎に包まれたのを確認すると先へと進んでいく。その先には僕の家があった ━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ…!?はぁ……はぁ…な、なに…?どうしたの…!?」

ノーマルACによる破壊活動の轟音で僕は起きた。窓を開けて見ると遠くからカメラアイの光が段々大きくなってるのがわかる。

  ノーマルACが着実に近づいてる

 

「なに…これ…?夢…じゃないの?」

 

夢と信じたがったが、辺りの建物が燃える匂い、足がすくんでいる感覚からして到底夢とは思えなかった。

 

頭の中に響くアラート音が僕に逃げろと警告をしてくる。でも、足がすくんで動けない。

 

  助けて、誰か助けて……

 

 

「ジン君!なにしてるの!?早く逃げるわよ!?」

 

後ろを振り返るとお母さんではなく、義理の姉であるノアの母のアリアおばさん僕を担いで部屋を出ていく。

 

「アリアおばさん!?な、なんでここにいるの!?お母さんは!?」

「凪ちゃんは防衛部隊として駆り出されたの!ノーマル部隊が足りないからってさ!」

「お母さんは帰ってくる!?無事に帰ってくる!?」

「きっとね、でも、今はそんな場合じゃないでしょ!あなたのお母さんは大丈夫よ!悪い奴をやっつけて帰ってるわ!」

 

隠し扉を開け、地下階段を降りた先には装甲車両があり、それに乗り込む。

アリアがアクセルを踏み込むと装甲車両は一気に加速し走り出す。装甲車両は通路のハッチを破壊して無理やり脱出する。町は焼け野原になり逃げ惑う人々が僕の恐怖を煽り立てた。

迎撃しに来た防衛部隊は襲いかかってきたリリアナの部隊を迎撃する。しかし、MTだけの防衛部隊ではリリアナの部隊を壊滅することは出来ず焼け石に水だった。そんな中、突如としてリリアナ部隊の後ろから、流線型のシルエットで紅色の機動型ハイエンドノーマルACがやって来て左に持っていたレーザーブレードでリリアナ側のノーマルACのコクピットを貫通させる。お母さんの機体がやってきたんだとわかった。

 

「増援だと!?こんな早くかよ!?」

「なんだあの機体……どこの企業のACだよ!」

「落ち着け、たかが一機だ、こっちの方が数が上なんだ。冷静に対処するぞ」

 

リリアナ部隊は紅色のハイエンドノーマルACに向けてバズーカを撃つが、コクピットを刺したリリアナ部隊のノーマルACを盾にして攻撃を防ぐと今度は右手に持っていたレーザーライフルを構え、敵ノーマルの一機のバズーカの砲身を溶かし、攻撃手段を減らす。

 

「相手の動きが鈍い……この程度なら皆が逃げ切る前に行けるかもしれない……!」

 

紅色のハイエンドノーマルACのパイロットである凪=叢雲は、逃げ惑う人々を確認しながらもリリアナ部隊をレーザーライフルで引きながら撃ち続ける。レーザーライフルの光線は的確に相手のコクピットを貫き、これなら勝てると確信した瞬間━━

 

「型遅れのノーマルになに手こずってるんだお前ら」

 

上空からノーマルACより大きな逆関節の草色のネクストACが人々に銃弾の雨を浴びせながら降りてくる。人々は一瞬で肉塊と化し、生き残った者は発狂しまさに地獄絵図だった。ネクストACの背部武装はローゼンタール社標準型のマイクロミサイルが敷き詰まった散布型ミサイルとマシンガンよりも大口径で弾を連射するチェーンガンの試作品。ノーマル一機相手には充分過ぎる火力だが、それに加えて腕部武装にアルゼブラ社の標準ショットガンとマシンガンを装備している。

 

「り、リーダー……ですが、相手も手強くて…」

「お前らは先に撤退してろ、後処理は任せろ」

「了解です…!!」

 

残ったリリアナのノーマル部隊は撤退し始め、紅色ハイエンドノーマルと逆間接の草色のネクストの一騎打ちの環境となった。

 

「なんてことを……アンタは、罪のない人の命無駄にして…!それでもリンクスなの!!」

 

凪は今まで仲良くしてきたコロニーの人々の命を一瞬で奪った逆関節のリンクスに怒りをぶつける。ただの虐殺をしたお前にリンクスとしての誇りがないのかと問いたかった。

 

「所詮命は消えるもんだ、早かろうが遅かろうがどうせ時間が経てば消えていくんだ。選んで殺すのがそんなに上等かね?」

「そういう事じゃないわ!あの人達は関係なかったでしょ!!皆これからの生活があった!それをアンタが奪ったんだよ!」

「知らねえな、そんなのはこれからがなんだろうが俺には関係ない」

 

逆関節のネクストはマシンガンをハイエンドノーマルに向けて撃つと、すぐさま加速して避けるとレーザーライフルで反撃するが、飛び上がって避ける。

 

「俺はこの居住区の襲撃依頼を受けた、それ以上もそれ以下もない。お前だって殺してるだろ?」

「私は違う…!!あの子を守る為に戦ってるの…!人の命を奪ってなんとも思わないアンタとは違うわ…!!」

「へぇ……そうか、なら……」

 

上空にとどまり装甲車両を見つけると、そのままロックオンし散布型ミサイル発射する。

 

「っ……!?ジン…!!」

凪は思わず庇って放たれたマイクロミサイルから装甲車を守る。防ぎきれなかったミサイルは地面に着弾し、道路を破壊する。

 

「うわあああああ!!」

 

装甲車両はバランスを崩し転倒し、ジンは車内で頭を強打し意識を失ってしまう━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………ぁ……うぁ…」

 

ミサイルが道路に直撃した衝撃で装甲車は転覆した時、頭を打ちつけて意識を失っていたようだ。お陰で頭が痛い。運転していたマリアおばさんはエアバッグに包まれ、気絶していた。

呻き声を漏らしながらも、目を開ける。目を開けても暗くてどういう状況なのか分かりにくい。外はどういう状態なんだろう。シートベルトを外してドアを開けて様子を見てみる。

すると、想像の絶するものが目に入ってきた。

 

「なに…これ………?」

 

辺りに倒れているMTの残骸、街にそびえ立っていたビル群は燃え、工場があった場所はもはや原型をとどめておらず、なにかが燃えているぐらいとしか認識出来ない。挙げ句の果てに今立っている道路は、ひび割れたコンクリートとデコボコした道となり真っ直ぐ走れる状態ではなかった。建物や緑に溢れていた街は一瞬で焦げ色に変わり果てていた。

 

「お母さんは……?」

そう思って上を見上げると、お母さんが乗っていた桜色のノーマルがレーザーブレードを持っていた右手を失い、関節から火花を散らして、膝を着いていた。そして、その先には草色の逆関節ネクストがこっちを見ていた。

「ほう、まだ生き残りがいたんだな?」

逆関節のネクストから声が聞こえる。恐らくパイロットの声だ。

 

「お前が……お母さんを…」

「お母さん?あの型遅れノーマルのパイロットの事か」

「お前が……お母さんを……殺したのか…?」

「街の被害が大きけりゃ大きいほどたんまり報酬が貰えるからな。それに邪魔しに来たんだから、殺すしかないだろ?」

「嘘だ……嘘だ嘘だ嘘だ!!そんなの絶対に嘘だ!!これは夢なんだ……こんなの夢に決まってる!!」

「じゃあ…試してみるか?」

 

リンクスは鼻で笑いながらマシンガンの銃口を僕の方へ向けた。

僕は慌てて逃げ出そうとするけど、足が竦んで上手く走れず転んでしまう。

リンクスはマシンガンの引き金を引こうとした瞬間、桜色のノーマルが撃ったレーザーがマシンガンの銃身を溶かしていく。

 

「はぁ…っ…はぁっ…逃げなさいっ…!早く…急いでっ…」

「お母さん!!」

 

ズドンッと重い音が2回鳴ったと同時にぶらんとノーマルの腕が落ちる。よく見ればネクストのショットガンから煙が出ていた。子供ながらに分かってしまった。

 

━━あのネクストがお母さんを殺したんだ

 

「あ、ああ……あああっ…」

 

悲嘆の声を漏らしながら膝から落ちる。此方にショットガンを突きつけられると、ここで死ぬと思った。そんな時、西側から放たれたであろう太いレーザーが草色のネクストに直撃する。

 

「ちっ……増援か…ここが潮時だな」

 

草色のネクストは飛び上がり逃げていった。西側から放たれたレーザーの元を探ると、真っ白い細身のある二脚のネクストが立っていた━━

 

助かったんだと僕は安堵した。それと同時に、クソッタレな現実を知る事になった。




僕が知った世界は、酷く救いようがないものだった

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