11
晩餐会の開始まであと少しか。
客間の壁に掛けられた振り子時計に時刻を確かめた時だった。
懐に忍ばせた通信端末がいつもと違う着信音を鳴らした。
緊急事態の時のみに使用される秘匿回線への着信。
御馳走を食べられるとはしゃいでいたミラの端末も同様の着信音を発し、二人して緊張した眼を交わしたアヤは、端末を取り出してメッセージを確認した。
『教主との契約は破棄。現在長官の息子を連れて逃走中。アヤとミラはこちらに合流。ポールは艦載機を発進させ輸送艦及びセカンドターストのモビルスーツを無力化した後、ホワイトホエールで街に上陸されたし』
ホライズンからだった。あの暴れん坊はまた何かやらかしたらしい。
毎回後始末をやらされるこっちの身にもなって欲しいもんだわ。呆れたアヤは、添付された位置情報を開きながら溜息を漏らした。
恐らく街の逆探知装置にサーチされるのを警戒して、主要都市で使用されている通常の周波数帯を避けて、別周波数帯に設定されている秘匿回線を使用したのだろう。
この街に逆探知装置があるのは夕方の一件で判明していたから、回線の切り替えは当然の判断だと思ったが、問題はモビルスーツでセカンドターストを無力化せよとの一文だった。
我慢の限界を超えたみたいね。
教王との会談を終え客間に戻ってきたホライズンから、ワルターをニューポートロイヤルに連れて行く契約の話を聞かされた時は二人して驚いたものだった。
契約内容自体は、権力の亡者が更に強力な権力を欲しがったというさもありなんな話で、特に驚嘆すべきものではなかった。アヤとミラを驚かせたのは、あのホライズンが大人しく教王の提案を受けたことだった。
彼は大人達の策謀渦巻くニューポートロイヤルにおいて、組織の傘下に入らず、委託の仕事請負人の地位を確立してきた。
常に自分達のポリシーを守り、時に"奴"ともぶつかりながらギリギリのラインでチームの自由を確保してきたのだった。
そのホライズンが、大人達の論理と教王との契約を受け入れたことに驚いたのだ。
が、二人はその訳を聞いて納得もした。
要約すると、自由を手にする為には大なり小なり権力が必要な事。そして、その権力こそがホライズンの妹を守るのに最大の力になるという話だった。
ガンボーイフリーダムはホライズンの理念に賛同して集まったチームだ。
自由を手にする事、そして世界に災厄をもたらさない為に彼の妹を守る事。
その理念を通す為にホライズンが教王の提案を受け入れたというなら、自分達は彼をサポートするだけだ。
が、ここに来て任務を受けて以来無理に抑え込んでいた心が限界を超えたらしい。
何が起きたのかは分からないけど、我慢弱いあんたらしいわね。でも、やっぱりあんたは誰かの手先になるなんて似合わないわ。
内心に呟き、苦笑したアヤは、瞬時に緊迫した表情を取り戻しミラに言った。
「ミラ、通常回線はシャットアウト。いいわね?」
事態が急変した事を察知したミラは、いつでも動けるように端末を懐に入れながら答えた。
「うん、もうやったよ。それよりポール達、大丈夫かな?」
ミラは扉の前に行くと、耳をつけて扉の向こうの音を聞くようにした。
「輸送艦にはモビルスーツは無いし、セカンドターストにも旧式の〈ロダン〉が何機かいただけだから、きっと問題無いわ。それより、私達はどうやって脱出する?」
アヤはどうやって聖堂から抜け出すか思案した。ここは二階だから窓から飛び降りる訳にはいかなそうだ。
「まだ外に動きは無さそうだから、ここの人達にはまだ連絡は来てないみたい。トイレに行くって言って部屋から出ても大丈夫だと思う」
アヤがコクリと頷く。ミラが外に立っていた連絡係兼歩哨に話しかけるべく、取っ手に手をかけた瞬間だった。
外から扉がノックされ、タースト教の祭服を着た男がこちらの返事を待たずに扉を開いていた。
「あの、どちらへ?」
「どうなさいました?」
祭服の男が尋ね、室内の様子を見に覗きこんだ歩哨が戸口を塞ぐ格好になった。
「あのお手洗いに行きたいんだけど・・・・・・」
ミラが上目遣いでもじもじと身体を捩り、恥じらいながら言う。大した役者だ。普段の大雑把で恥じらいの欠片もないミラを知っているアヤは、緊張感を押し退けて込み上げる笑いを必死に堪えた。
「ば、晩餐会のある大広間に、お二人をお連れするように言われております。」
祭服の男が、ミラの上目遣いと身のこなしにしどろもどろになる。
「でも、我慢出来ないよぉ」
すっぴんはお世辞には可愛いとは言えないミラだが、バッチリとメイクを施した今の顔は、女のアヤから見ても溜息が出るほど可愛かった。
素顔を知らない男達の眼から見れば、可憐な少女が潤んだ瞳で自分を見上げてくるこのシチュエーションは、秘めたるエロスを刺激して、中々そそるものがあるだろう。
「わかった。でもすぐに戻りなさい」
「教王様をお待たせしてはいけないからね」
そう言った二人の声が芝居掛かった作り声だったのは気のせいではないだろう。余りの覿面さに、アヤは密かにミラの造顔技術に戦慄した。
「はぁーい!」
ミラが部屋の外に駆け出し、二人が鼻の下を伸ばしてその後ろ姿を見送った時がチャンスだった。
アヤは素早く背後に忍び寄ると、二人のうなじに膂力を総動員した手刀を打ち込んだ。
気を失った男達が床に倒れて音を立てるのを、アヤが支えて防ぐ。
ミラもこちらに引き返し、二人を部屋に引きずり込むのを手伝ってくれた。
「あー、二人して見つめてきちゃってさ、気持ち悪かった。あたしは面食いなのよ。ま、こいつらがスケベで助かったわ」
仏頂面のミラが、歩哨を引っ張りながら言う。
「あんた他の街で男と知り合った時、いつもこんな感じなわけ?そりゃ勘違いされるわよ」
アヤは祭服の男を引っ張りながら突っ込んでおいた。
「別にいいじゃん、向こうが勝手に惚れてるだけだし。アヤこそ、もう少ししっかりメイクしたら?そんな地味な化粧じゃ彼氏できないよ」
ふざけた事を言いながらも、ミラは手早く二人の両手両足を縛り上げた。
「地味って言うな!あたしのはナチュラルメイクなの!」
あまりな言いようにカチンときたが、ミラが縛り上げたのを確認したアヤは、扉から顔を出して左右の通路に誰もいないか見渡した。
「冗談はここまで。行くわよ」
アヤが短く伝えると、「了解」と応じたミラが部屋から飛び出して行った。
今日は、遠征隊の勝利を祈る為に押し寄せる信者達に対応すべく、聖堂の一階は終日解放されているらしい。
下に降りれば祈りを捧げに来た信者の群れに紛れこめるだろう。
外に出てしまえば、パレードの余韻に浸る住民達が其処此処で酒盛りに興じているはずで、ごった返す人混みも手伝えば容易に追跡はできない筈。
そう結論したアヤは、ミラを追って階段に続く廊下を走り出した。
12
艦橋の通信士席に座ってウトウトしていたポールは、急に鳴り響いた秘匿回線の着信音に飛び起きた。
眠い目を擦りながらのそのそとコンソール脇に置いてあった通信端末に手をのばし、メッセージを呼び出した。
『教主との契約は破棄。現在長官の息子を連れて逃走中。アヤとミラはこちらに合流。ポールは艦載機を発進させ輸送艦及びセカンドターストのモビルスーツを無力化した後、ホワイトホエールで街に上陸されたし』
寝起きの頭ではイマイチ内容が理解出来ず、糖質が足りないからだと思い至ったポールは、シート下の収納スペースにたっぷりと備蓄しておいたチョコレートコーティングのエネルギーバーを一本取り出し封を切った。
歯にくっつく甘いヌガーを噛みしめるうちに、意識がはっきりとしてきて、もう一度メッセージを読もうと思った時だった。
「ポール!これ!」
モビルスーツパイロットの一人、ケインが艦橋に飛び込むなり端末に表示させたメッセージを見せてきた。
「うん、こっちにも届いたよ。僕らは何したらいいって?」
相変わらずののんびりさにケインは呆れた様子だったが、生まれつきの性格だから仕方ない。 ポールは構わずにチョコレートバーを齧る。
「モビルスーツを出して輸送艦と警備のモビルスーツを破壊して脱出、その後ターストシティに艦ごと来いって」
色黒のケインは、顔に少し汗をかいて言う。
その汗を見て、多分モビルスーツデッキから走って来たなと思った。
「了解、ホライズンの身に何かあったらしいね。ケインとステイシーはモビルスーツのスタンバイ、五分でよろしく。僕はホワイトホエールを動かす準備にかかる」
ここからは食事をしてる暇は無いかもしれない。ケインにエネルギーバーを二本渡しながら言う。
「俺とステイシーは晩飯食ったけど、ありがたくいただいておくぜ。それで、輸送艦はどうする?」
ケインはエネルギーバーを受け取り、指示を仰いできた。
「輸送艦は艦橋と動力部を破壊して足止め。二隻共、クルーはセカンドタースト内の宿泊施設に泊まってるから、気にせずに破壊してよ。〈ロダン〉が出てきたら、撃破するしかない。なるべくパイロットは殺さないでほしいけど、そこは臨機応変で」
糖質を補給した脳が活動を始め、矢継ぎ早にケインに指示を出す。
「了解した!では五分後に俺たちは出る。ハッチを開けといてくれ!」
ケインは言い残すと走り去って行った。
「晩飯の後は普通夜食がいるだろう?」
ぼそりと言いながらポールも作業に取り掛かるべく、いつもはアヤが立っている操舵装置の前に移動し、艦のメインエンジンに火を入れるスイッチをオンにした。
数秒の間を置いて、重低音を轟かせ鳴動する機関が艦を微震させ始め、巡洋艦ホワイトホエールが目を覚ました事をクルー全員に伝えた。
「艦内各員へ、ホライズンからのメッセージは受け取ったはずだ。これよりホワイトホエールは、セカンドターストを制圧し、ターストシティへ移動する。総員、第一戦闘配置へ」
操舵輪脇のマイクを掴み上げ、ポールが吹き込む。
艦内各所から配置完了の報せが入る中、ポールはカタパルトに通じるモビルスーツデッキのハッチを開けるスイッチを操作した。
ゆっくりと開くハッチが開き切ったタイミングで、発進スタンバイが終わった艦載モビルスーツ--〈ガンボーイキャノン〉と〈ガンボーイタンク〉からの通信が、艦橋のモニターに入る。
『こちら〈ガンボーイキャノン〉、ケインだ。いつでも行ける!』
コクピットからの映像が映し出され、ケインが発進準備完了の報告をした。
〈ガンボーイキャノン〉は肩に二門の240ミリキャノンを備え、分厚い装甲に覆われた真紅のモビルスーツで、中長距離戦闘を得意としていた。 無論、人型であるが故に格闘戦も可能であったが、今はマニピュレーターに100ミリマシンガンを一丁装備していた。
『こちら〈ガンボーイタンク〉、ステイシーよ。こっちも問題無いわ!』
〈ガンボーイタンク〉は、脚の代わりに無限軌道を備えた異様な外見の機体だ。
青を基調としたボディ部の肩に、〈ガンボーイキャノン〉同様二門の砲台を有してはいるが、こちらは120ミリ低反動キャノンで、口径の関係から威力こそ劣るものの、飛距離に関しては〈ガンボーイキャノン〉のそれを上回る性能だった。
そのロングレンジのメイン武装が示す通り、遠距離戦闘に特化している事は、両腕の先端部、マニピュレーターが存在すべき箇所が40ミリ4連装ポップアップミサイルランチャーと化している事からも窺い知れた。
いわば近距離戦、中長距離戦を行うモビルスーツの支援機として位置付けられるのが、〈ガンボーイタンク〉という機体だった。
その頭部にあるコクピットからも、映像が入り、ステイシーが発進準備が完了した事を告げた。
「了解した。〈ガンボーイキャノン〉〈ガンボーイタンク〉、発進!」
ポールの一声を合図に、二機のモビルスーツがホワイトホエールから発進する。
セカンドターストの港は、本格的なドッグがあるわけではなく、艦艇を停泊させているだけのだだっ広いスペースがあるだけだった。
無限軌道で外に出た〈ガンボーイタンク〉は、先ずは500メートル程先から近づいて来ていた〈ロダン〉に狙いを定めたようだ。
恐らくホワイトホエールの機関始動に気が付いて、確認の為に接近しようとしたのだろうが、通信を入れずに接近してきたのが間違いだった。
通信無しの接近を敵対行動と見做した〈ガンボーイタンク〉の120ミリ低反動キャノンが問答無用で火を噴き、〈ロダン〉の右膝辺りに着弾した。
しかし最大射程260キロメートルを誇るキャノン砲にとって、500メートルは至近距離に等しく、激しい衝撃が左脚のみならず、下半身全体を巻き込みコクピットの真下辺りまでを吹き飛ばしていた。
射撃の轟音が一帯に鳴り響き、異変に気がついた港湾職員とパイロットが対応に出てくるのは時間の問題となった。
それは輸送艦のクルーも同様だろう。乗り込まれては面倒だと思い、ポールが数十メートル先に停泊している輸送艦に眼を転じると、既に取り付いていた〈ガンボーイキャノン〉が100ミリマシンガンを艦橋に撃ち込んでいるところだった。
艦の後部に位置するメインエンジンには既にマシンガンが撃ち込まれた形跡があり、艦内から爆発の煙が上がっていた。
これで一隻片付いたか。安堵して〈ガンボーイキャノン〉がもう一隻に向かうのを見ていると、破壊した輸送艦の陰から〈ロダン〉が現れた。
ケインは気が付かない様子で機体をもう一隻に向かわせている。
ポールが通信を入れようとマイクを手にする間に〈ロダン〉はメイン火器の120ミリマシンガンを構えたが、その銃口が火を噴く事はなかった。
〈ガンボーイタンク〉の左腕のポップアップミサイルランチャーから放たれたミサイルがその頭部を吹き飛ばしていたからだ。
『ケイン、後ろに注意しなさい!』
『すまん、助かった!』
パイロット同士のやり取りが続く中、〈ガンボーイキャノン〉がもう一隻の輸送艦を無力化する。
少し遅れて〈ガンボーイタンク〉が残り一機の〈ロダン〉を破壊したのを確認したポールは、マイクに吹き込んだ。
「モビルスーツはホワイトホエールに帰還せよ、パイロットはコクピットで待機!これより本艦はターストシティに向けて移動を開始する!」
13
パレードの後の街は、明日の遠征隊出発を祝う宴会がいたるところで行われており、人混みに紛れて追っ手を撒くには好都合だった。
環状道路に出たところで馬車を強奪し、中央市街を抜けウエストブロックまで一気に走らせる。
ウエストブロックの歓楽街の光が遠くに見え始めた辺りで髭の男が馬車を止め、徒歩で人気の少ないエリアに入る。
十分程歩いたところで、髭の男は一軒の民家の前で立ち止まった。
「さっきは助けてくれて感謝する。お前さんは、異端者か?」
髭の男は改めて聞いてきた。
「俺は異端者じゃない、外から来た者だ。信じるかはあんた次第だが」
互いに追われる身になってしまった以上、最早隠しても仕方ないと思ったホライズンは、正直に言った。
「あんたもか。俺も元々はこの街の住人だが、三十年ぶりに帰ってきた。明日の取り引きを妨害する為にな」
意外な返答だった。ホライズンは、今の今まで髭の男が異端者で、長官の暗殺目的で司令本部に潜入したと思っていたからだ。
「俺はグライス。とりあえずお前さんのおかげで親友と刺し違えずに済んだ。礼を言う」
グライスと名乗った男が握手を求めながら言う。ホライズンも握手に応じる為、名前は忘れたが、長官の息子とか言っていた少年の手首を掴んでいない右腕を挙げた。
「お前さん、この時期に外から来たとなると、取り引きか?何故俺を助けた」
ホライズンの手を握ったグライスの瞳が一瞬鋭くなる。
「その予定で来たが、自分を騙すくらいなら大人になんてなりたくないってあんたの言葉を聞いて気が変わった。そもそもこの任務自体俺は嫌だったんでね。これより俺と仲間達でこの街を解放する」
いきなりこんな事言っても信じられないだろう。だが、ホライズンがジョージの執務室前に辿り着いた時に聞こえた言葉が、きっかけになったのは事実だ。
他人を騙し、自分にもそれが大人の処世術だと嘯く。それはワルターとの会談でホライズン自身が自らにした事そのものだった。これで本当に良かったのだろうか。その思いを抱えて司令本部の廊下で逡巡していたのだった。
騒ぎが起きた時、最初はウィンストン長官を助ける為にホライズンも二階に向かったのだ。長官が異端者に殺されては取り引き自体に影響が出ると考えたからだ。
だが、執務室に到着した時に聞こえた言葉が銃口を向けられ死に直面しながらも、グライスはそんな大人になんてなりたくないと言った。異端者であれ何であれ、自分の心に嘘はつかないと宣言したグライスのその言葉が、ホライズンの心に巣食った重い霧を吹き散らしてくれたのだ。
同時に、この男を死なせてはならないと直感が閃き、ホライズンは廊下にあった灰皿を無我夢中で投げたのだった。
そんな事は知る由もないグライスの瞳が探る光を放ち、こちらの眼を凝視する。ホライズンもグッと眼に力を入れそのまま睨み合う数秒が過ぎたが、ふっとグライスの瞳が柔らかくなり、握手していた手を離した。
「昔、ジョージもお前さんみたいな真っ直ぐな眼をしていた。信じるよ」
グライスの言葉にホライズンも表情を緩めた。
「信じてくれて助かる。仲間にメッセージを送る、ちょっと待ってくれ」
懐から通信機を取り出し、メンバーへの指示を打ち込む。
『教主との契約は破棄。現在長官の息子を連れて逃走中。アヤとミラはこちらに合流。ポールは艦載機を発進させ輸送艦及びセカンドターストのモビルスーツを無力化した後、ホワイトホエールで街に上陸されたし』
書き終えたメッセージは、通常回線では逆探知されるので、秘匿回線に切り替えて送信した。
「これで俺の仲間と艦がこの街に集まる。艦載モビルスーツは中長距離用と遠距離用が二機ずつ。どっちもこの街の〈ロダン〉より高性能だから、数では劣るが問題ないはずだ。周辺への被害を最小限に抑えつつ、聖堂を制圧する。あんたも協力してくれるか?」
通信機を戻しながらグライスに聞くと、「もちろんだ。こちらも四機程モビルスーツを用意してある」と彼は大きく頷き、民家の扉をリズミカルにノックした。
ノックが符丁になっているらしく、内側から扉が開き、グライスが中に招き入れてくれた。
「あの!」
少年の腕を引いて中に入ろうとすると、今まで石のように黙っていた少年が唐突に口を開いた。
「何だ?悪いが俺達が今からやろうとしている事を知った以上、解放はしてやれないぞ。事態が終息するまで俺の艦で大人しくしていてもらう」
ホライズンはちらりと振り返って言った。
成り行き上人質にしてしまったこいつには悪いが、これから起こす事態を知られたからには、機密保持の為にももう暫くは一緒にいてもらう他ない。
どのみちこれから街が戦場になる可能性がある以上、安全の為にもホワイトホエールにいた方が良いというものだった。
こいつには引き継がせちゃならない。この街の負の歴史を。大人達が今までしてきた事の結果を。
「違います。俺、この眼で見たいんです、街の真実を。貴方達が外から来たなんて正直信じられない。けど、貴方達が嘘を言っているとも俺には思えない。だから俺を作戦に参加させて下さい!自分の眼で真実を確かめたいんです!」
ジッとホライズンの眼を凝視して少年が言い放つ。
「今朝、遠征隊として出発する予定の先輩が学校に来たんです。敬虔な信者で、街の為にサイクロプスと戦うっていつも言っていた先輩なんです。でも今日学校に来た先輩は少し様子がおかしかった。俺と友達は先輩を異端者にしない為に、タースト教の魂の解放の話をして先輩を送り出したんです。貴方達の話が本当なら、俺は先輩に酷いことをした事になる。真実を知り、貴方達が本当の事を言っていると確かめられたなら、俺は先輩を救わなきゃいけない。これは俺が背負った責任なんです!」
堰を切ったように少年が言う。こいつはこいつでつけなければならないケジメがあるようだ。
「良いじゃないか。自分の眼で見て自分の頭で考える、流石ジョージの息子だな。多分その先輩は死ぬのが恐ろしくなったのさ。サイクロプスと戦って帰って来た奴はいないからな。まぁ、それは街の上層部が奴隷販売を隠す為に言っている方便だが、明日死ぬと分かってて平常心でいられる奴の方がどうかしてる。魂を解放してくれる神なんていやしない。いるのは善良な人の信仰心を食い物にする悪魔だけさ。洗脳教育ここに極まれりだな。それを容認しているジョージだって、家族のため、街の大多数の住民の為になるんだと自分を誤魔化してる。俺は親友として奴をその苦しみから解放してやりたい。お前の親父とその先輩を救うために、お前の力を貸してくれ」
戸口に立って話を聞いていたグライスは、腕組みしながら少年を見下ろす。
グライスに視線を向けた少年は、コクリと頷いた。
「分かった。ではお前にはモビルスーツ、いや『巨神』の操縦を頼もう。ただし、邪魔をしたら容赦はしないからな」
そう言いながらも、ホライズンはそうはならないだろうと思った。こいつの眼は本気だ。真実を知り、己の行動の結果を受け入れた上で結末を変えようと決心した眼。
どうやらコイツも俺達の同類らしいと理解したホライズンは、掴んでいた少年の右腕を放してやった。
「決まりだな。おい、ジョージの倅、名前は?」
ニヤリと笑ってグライスが尋ねる。
「カイン・・・・・・。カイン・ウィンストンです」
少年--カインは、一度眼を閉じひと息つくと、覚悟を決めたように眼を開き、二人に名を告げた。
14
晩餐会の開始時間はとっくに過ぎていたが、聖堂の大広間は出入りするサルベイション隊員や審問会の警察部隊の者達と、彼等に指示を出し報告を受ける上層部のやり取りの喧騒に包まれており、最早晩餐会どころではなかった。
事態が急変したのは、ガンボーイフリーダムのメンバーを迎えに行った者が戻って来ず、不審に思ったワルターの部下が客間に確認しに行ったところ、昏倒した歩哨と司祭を発見してからだった。
客間にいた二名の女性メンバーの行方は杳として分からず、先ずは聖堂内を探すよう指示を出した時、別の司祭が大広間に飛び込んで来たのだった。
「サルベイション司令本部に賊が侵入しました。長官の御子息を人質に逃走した模様です。ガンボーイフリーダムのリーダーも同行しているとか」
確かにウィンストン長官は予定時刻に来ていなかった。息子を晩餐会に参加させたいとの申し出をパレードの前に受けていた。あの律儀な長官の事だ。息子に街の真実を話すのに時間を取られているのだろうと軽く考えていたが、まさかそのような事態になっていたとは。
司祭がワルターに耳打ちしていると、大広間の電話がベルを鳴らす。嫌な予感がしたワルターは、自ら受話器を取った。
『セカンドターストの〈ロダン〉小隊が壊滅しました!取り引きに来ていた巡洋艦の艦載機が輸送艦とモビルスーツを破壊して、艦が港を出ました!恐らくそちらに向かうと思われます!』
港湾職員の叫び声が耳をつんざき、嫌な予感が的中した事を伝えた。
「分かった。こちらで対処する」
それだけ港湾職員に告げると、ワルターは静かに受話器を置いた。
ワルターの様子に只事ではない事が起こっているのを察知したキース審問会長官が、固唾を飲んでこちらを伺う。
「直ぐにウィンストン長官をここに呼びなさい。それからキース長官、晩餐会は無しだ。君も即刻部隊を編成してシティ内の警戒にあたりなさい。今よりこの部屋を総司令本部とする」
静かな怒りを込めたワルターの声にキースが、「かしこまりました」と答えたが、言葉が少し震えていた。 ワルターが発散する怒りに気がつき、周囲にいた近衛兵と司祭までも恐ろしさのあまり直立不動になる。
「『巨神』部隊は全機展開、遠征隊の機体も廻してよい、敵『巨神』の進行を許すな!サルベイション、審問会は協力して白兵戦に備えよ!街にどれだけ被害が出ようが構わぬ。秘密を知っている奴らを野放しには出来ぬ、ガンボーイフリーダムを全滅させよ!」
ワルターの叫びが大広間に響き、集まっていた十名程の人間が一斉に動き出した。
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グライスとその仲間四人が隠れ家にしていたのは、異端者狩りで検挙され、住む者が居なくなって久しい民家だった。
グライスの仲間は、カイン達が来てすぐに地下に潜りどこかに行ったようで、今は三人だけで一息ついているところだった。
この辺り一帯で、四十数年前に大きな異端者のグループが形成され、審問会の警察部隊が大規模な異端者狩りを行ったと、以前授業で習った事があった。
それ以来、街の住民は、ここら一帯をザ・クに魅入られた忌まわしきエリアとして嫌悪した。 結果この一ブロック丸ごとが人々の居住対象から外れてしまい、都市内に空白地帯を生む事になった。
「あの日、このエリアにザ・クがいるなら倒してやるって、俺は一人でやって来たのさ。そしたらなんて事はない。人っ子ひとりいないただの無人の民家があるだけじゃないか。俺は退屈して、そこらの民家を探検してみる事にしたのさ。」
行方不明になったあの日のことをグライスが語る。
「二軒目か三件目だったかな?俺はこの家に入った。そいで一階と二階を見て回り、最後に地下室に行ったんだ。面白いものでもあるかと思ったんだが、何もなくてな。引き返そうとした時、本棚が少しズレてるのに気がついたんだ」
カインとホライズンは黙って続きを促した。
「俺は本棚をどけた。驚いたよ。その後ろには、恐らく昔住んでた異端者が作ったと思われる隠し部屋があったんだ。興奮してその部屋を探索してると、土が剥き出しになっている壁に亀裂が入ってたんだ。同じような隠し部屋があると思った俺は夢中でその壁を壊した。ま、今思えば亀裂はただの経年と浸水によるものだったんだろうな。とにかく、俺は壊した壁の先に見つけたんだ。外に通じる地下道を」
長々と語り終えたグライスがコーヒーを啜る。
「昔ここに住んでた異端者も気の毒だな。自分達が作った部屋の壁一枚向こうに、自由への道が隠されてたなんて」
ホライズンがマグカップを片手に呟いた。
「この地区はザ・クの生み出した悪魔が潜む場所って言われてますから、普通のサルベイション隊員や審問会警察部隊も近づいたりしませんからね。グライスさんが行方不明になった時も、ここは捜索箇所から漏れていたんでしょう」
カインはコーヒーと一緒に出されたクッキーを齧って言った。
優しい甘さが口一杯に広がり、今日一日だけで一生分の衝撃に見舞われ、疲れきった心身を癒してくれるようだった。
「今、俺の仲間が街の外に隠していたモビルスーツを取りに行っている。俺がいなくなって三十年間、この地下道が見つからなかったおかげで、トレーラーごと街まで運び込める。こればかりはザ・クに感謝だな」
グライスが笑いながら言った時だった。
机の上に置かれたマグカップのコーヒーが微かに波打ち始め、次いで、建物全体を揺るがす振動と轟音が襲って来た。
地震か?カインは咄嗟に机の下に隠れようとしたが、轟音の中に、「来たか」と言ったホライズンの声が混じり、ホライズンの仲間がやって来たのだと理解した。
「おっきな、鯨?」
ガタガタと音を立てて振動する窓から外を見たカインは、月明かりを浴びながら、空中をゆっくりとした速度でこちらに向かって来る巨大な影に驚いた。
その影の輪郭は、子供の頃読んだ絵本に登場する、鯨という巨大な海洋生物にそっくりだった。
「そうだ。あれが俺の母艦、白い鯨、巡洋艦ホワイトホエールだ」
隣にやって来たホライズンがニヤリと笑いカインに言う。
あれが船?あんな巨大な空飛ぶ物体見た事がない。あんな物が外の世界には存在する。カインの中で、今まで教えられた教義や常識が音を立てて崩れ去っていった。
呆然とするカインをよそに、グライスとホライズンが外に出る支度を始める。
「行くぞ、カイン」
準備を整えたグライスが言うと、外に通じる扉に向かう。
「はい・・・・・・!」
気後れしながらカインは二人の背中について行った。
外に出ると、強い熱風が吹き散らし、上空から『巨神』--外の世界では一般的にモビルスーツと呼ばれているらしい、巨大な人型がカイン達の前に降りて来た。
『サルベイション側もちらほらモビルスーツを展開し始めたみたいだ!アヤとミラはステイシーが回収した!とにかく三人とも、手に乗れ!』
外部スピーカーを通して操縦士の男の声が響き渡り、ホライズンとグライスが躊躇いなく差し出されたマニピュレーターに飛び乗る。
両肩に大砲の様な物を担いだ巨体を見上げていると、「カイン!こっちだ!」と ホライズンが轟音に負けないよう叫び、こちらに手を差し出す。
見た事も無い空飛ぶ船、そして見た事も無いモビルスーツ。最早彼らの話を疑いようもなくなったカインは、もう後戻りは出来ないという思いを胸に、ホライズンの手をしっかり掴み、マニピュレーターに飛び乗った。
立ち上がった巨体が、安全確認もそこそこに、三人を載せて鯨に向かって跳躍していった。
カインは、そのマニピュレーターの上から、もう見る事が出来ないかも知れない、平穏な街の灯りを見下ろした。
スラスターから噴射される熱い風が、少し冷え始めた夜の空気を騒がせて過ぎていった。
16
街の住民達は、突如空に現れた巨大な物体に恐れおののき、パニックを起こしていた。
「アレはサイクロプスの移動要塞か!?」
ざわつく空気の中、誰かが叫ぶ。
するとあちこちで悲鳴が上がり、サイクロプスの移動要塞が来たという憶測が口から口へと伝播していく。そのまことしやかな話を真に受けた人々がめちゃくちゃな方向に逃げ惑い、街の混乱を徐々に拡大していった。
そこにサルベイションの〈ロダン〉が複数現れ、建造物も人も無視した移動を開始したので、更に状況は悲惨なものになっていった。
『こちらケイン。〈ロダン〉との交戦に入った。あいつら、住民も建物も関係ないって感じだな。めちゃくちゃだぜ』
カイン達をホワイトホエールに届けた後、直ぐに出撃していったモビルスーツ--〈ガンボーイキャノン〉と言うらしい--の操縦士から発信される無線が、今座っている予備の〈ガンボーイキャノン〉の操縦席にあるスピーカーを震わせ、カインはハッとした。
「取り引きを反故にした俺達を殲滅しようってか。いや、街の被害も顧みないやり方は、プライドが傷つけて憤懣やるかたないってとこか。いかにもあの権力の亡者らしいぜ」
カインに操縦方法を説明する為に操縦席のハッチの所にいたホライズンが呟いた。
あの広い心と民を愛する優しさを持った教王様が、街の住民を巻き込んででもこの艦を落とそうとしている?
人命を無視した〈ロダン〉部隊の進撃は、ホライズン、グライス両名の話を裏付ける証拠になって、カインの心に突き刺さった。
「これ以上やらせてたまるか。カイン、さっきの説明で理解したか?」
一つ舌打ちをしたホライズンが、コンソールパネル越しにカインに問う。
「基本の操縦方法は〈ロダン〉と変わらないので、やれます!」
性能差と武装の違いを除けば、モビルスーツは基本的に二本のレバーと二つのペダルで動かせるものらしい。
説明の中にちんぷんかんぷんな単語も多少あったが、その点は同じだった。
初めて外の世界の機械に触ったカインだが、〈ロダン〉の操縦席と構造にさほど違いのない〈ガンボーイキャノン〉の操縦席の様子に少し安堵した。
「俺も〈ガンボーイジム〉で出撃する。お前は俺の援護につけ。相手が撃ってきたら躊躇わず撃破しろ」
言うや、ホライズンは操縦席の高さに渡されたキャットウォークを走り、〈ガンボーイキャノン〉の前に対面して佇立する〈ガンボーイジム〉なるモビルスーツの操縦席に乗り込んでいった。
『えーっと、カイン君?聞こえる?』
メインモニターの端にウィンドウが開き、赤い髪の少女が現れた。
「はい、聞こえます」
カインが言う間に、外に通じる出口に向けて動き出した〈ガンボーイジム〉が、出口の床にあった体重計の様な機械に足を乗せ、踏ん張る姿勢になる。
『あたしはホワイトホエールの操舵手アヤ。よろしくね。グライスさんが他の地区から出てくる部隊を止める為にモビルスーツを出撃させてくれるみたい。こっちは聖堂に進路を取るから、ホライズンが出たら続いてカタパルトに進んで』
グライスは、艦に着いた後仲間と連絡を取る為に艦橋に上がっていた。
地下から持ち込んだモビルスーツを出して、各方面から中央に押し寄せてくると予想される〈ロダン〉部隊を足止めしようという算段らしい。
かたぱると?また謎の単語が出て来て、カインは首を傾げた。
『そっか、カタパルト分からないのよね。モビルスーツを射出する装置の事よ、ホライズンが先にやって見せてくれるから、同じ様にやってみて。着地の際は逆噴射と姿勢制御を忘れずに』
「は、はい!」
射出だって?今更ながらに嫌な予感が湧き上がり、本当に出来るのか?と自問したが、時すでに遅く、『行くぞ、カイン!〈ガンボーイジム〉、ホライズン。出る!』とがなったスピーカーからの声と同時に〈ガンボーイジム〉があり得ない速さで前方に向かって移動していった。
艦の先端まで到達した機体が、体重計を残して飛び出して行く。どうやらあの体重計が機体を遠くまで飛ばす装置をカタパルトと言うらしい。
『続いてカイン機、どうぞ』
アヤに促されたカインは、唾を飲み込み、機体を体重計の上に載せる。
『発艦タイミングは貴方の出撃コールに合わせるわ』
体重計が〈ガンボーイキャノン〉の足を固定する音とアヤの声が無慈悲に響き、引き返す道を断たれたカインは、諦めてホライズンが言っていたように叫びを上げた。
「〈ガンボーイキャノン〉、カイン。行きます!」
瞬間、凄まじい衝撃が前からかかり、カインの身体をシートに押し付ける。
出し抜けに足元の装甲板が見えなくなり、機体が空中に投げ出されたのを認識した時には、自由落下のなんとも言えない不快な浮遊感が股間から全身を駆け抜けた。
「うおあああ!」
世にも情けない叫びを上げながらも、先に着地していた〈ガンボーイジム〉を視認したカインは、逆噴射をかけ勢いを殺し、這々の体で何とか着地した。
『初めてにしては上出来だ。だが休んでる暇はない、これより聖堂に向かう。いいか?もう一度言う。今の〈ロダン〉はお前にとって敵だ。破壊するのを躊躇うな』
肩で息をしながら、ホライズンの言葉を聞く。
そうだ。この機体に乗っている以上、向こうからは敵として認識される。
いくら事情を説明しても、敬虔な信者に教王様が民を騙していたなんて話を信じてもらえる道理は無い。
今はとにかく聖堂にたどり着く事。
それだけを心に決めたカインは、他の一切を思考から追い出した。
17
地下道に運び込まれた合計四台のトレーラーの荷台には、それぞれ仰向けにされたモビルスーツ〈シャラック〉が搭載されており、そのコクピットでは、グライスの部下が出撃の合図を待っていた。
黒を基調としたカラーリングが全身に施され、地下道の闇に溶け込んでいる。頭部にモノアイを備えた機体は細身で、その見た目通りスピードを活かした近距離戦を得意とするモビルスーツだった。
「隊長の故郷だ。必ず作戦を成功させるぞ」
〈シャラック〉一番機に乗ったジョセフが言った。
『わかってる。ターストシティの解放は隊長の悲願だからな』
三番機のパイロット、クラークが応じる。
『しかし、表立って動けないのは不便だなぁ』
そう言ったのは二番機のトミーだ。
『俺達の街は表向き中立都市ですからね、こればっかりは仕方がないですよ。この〈シャラック〉だって、敵の手に渡ってもどこで開発されたか判らないようになってるんですよ?』
四番機のタケルがトミーに返した。
『組み立て時の部品の選別も、世界に大量に出回ってるモビルスーツの部品を流用してるんだろ?確かに足はつかないな』
クラークも話に乗っかる。
「それより、問題はガンボーイフリーダムだ。彼等は元々、組織と繋がっているニューポートロイヤルから奴隷取り引きに来た使者だ。我々の所属を知られる訳にはいかない」
ジョセフは話を断ち切って言った。
今回の作戦は、組織によって搾取される人々を解放する為立案された。グライスたっての要望で第一回の解放目標には彼の故郷、ターストシティが選ばれた。
しかし自分達の街は、表面上他の都市に対して中立を表明している。
例え人道的な目的とはいえ、他の街へ干渉していると知られるのは、何としても防がなければならない事態だった。
連邦の再興を進める組織を何としても止めなければならない。再び人類が二つに分かれて争う愚を犯さぬために。
その議長の理念を実現する為にも、組織と繋がりのあるガンボーイフリーダムに我々の正体を知られる訳にはいかなかった。
『まぁ、完全に組織を裏切ったかどうかはわかんないっすもんね。とりあえず、作戦目的であるタースト教上層部の排除を達成したら隊長を回収してドロン』
トミーが軽い調子で言った。
『本当は戦闘で混乱した街が安定を取り戻すまで、我々が残ってサポートしてあげなきゃいけないんでしょうが・・・・・・』
タケルは少し後ろめたそうに呟いた。
「秘密裏の作戦だからな。頭がいなくなれば洗脳が解けるなんて簡単な話じゃないだろうが、実行部隊である俺達の仕事はそこまでだ。後は議会のお偉いさん達が、救援部隊の派遣をやってくれるはずさ」
タケルはこの中でも最年少で、人一倍優しい気質を持っている。だが、我々実行部隊は存在を知られてはならない。宥めるようにジョセフが言い終わった時、丁度グライスからの通信が入った。
『各員、地上でガンボーイフリーダムとターストサルベイションが戦闘に入っている。地下通路の天井を突き崩して上がってこい。地上に出た後は各々東西南北のサルベイション支部から中央に向かう〈ロダン〉部隊を食い止めろ』
『待ってました!遂に出撃だぜ!』
トミーがグライスの言葉に乗っかり叫ぶ。
『一人で複数を相手しに行くんですか!?』
クラークが驚いた声を上げる。
『そのモビルスーツの性能なら旧型の〈ロダン〉なぞ目じゃないはずだ、やってみせろ』
グライスがクラークの弱気を諌める。
そうだ、現行機の部品の寄せ集めとはいえ、現状最新鋭機と言える〈シャラック〉と、遥か昔から運用されている〈ロダン〉とでは性能差が歴然だ。
「安心しろ、クラーク。120ミリマシンガン程度では、〈シャラック〉は簡単に倒せはせん」
仲間を安心させる為にジョセフも言ってやった。
「おしゃべりはここまでにして、行くぞ」
ジョセフは右のレバーを押し込んだ。
〈シャラック〉の右腕が上がり、手にした90ミリサブマシンガンを地下道の天井に向けた。
他の機体も同じようにサブマシンガンを天井に向けたのを確認したジョセフは、「状況開始、撃ち方始め」と呟いてレバーに設置されたトリガーを押した。
四丁分のサブマシンガンの発砲音が地下道に轟き、空薬莢が地面にばら撒かれる。
直ぐに天井が崩れ始め、瓦礫にも地上にある建物を構築していた木片や家具の部品が混じってきた。
「撃ち方やめ。総員、地上に上がるぞ」
ジョセフの号令で四機の〈シャラック〉が立ち上がり、天井に空いた穴から地上に登っていった。