けいおん! 最高のプレゼント   作:熊さん

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「澪と紬の内緒の話」

 

 翌日、火曜日。

 昨日の雨はすっかり上がって、透き通るような青空である。

 しかし、道路を駆け抜ける風は、痛いくらい冷たい。

 

 朝の登校時間である。

 昨日は、平沢唯と琴吹紬は自分の用事のために先に学校へ登校したのだが、普段はみんな、それぞれに決めた場所に待ち合わせて、一緒に登校している。

 

 田井中律といつも待ち合わせている場所で、秋山澪は、赤いマフラーに顔を埋めるようにして、右手に一時間目のテスト科目である国語の漢字単語帳を持って、田井中律が現れるのを待っていた。

 

 「ふーっ、今日も寒いなぁ。手がかじかんでしまう」

 

 秋山澪は自分の手に息を吹きかけて、手を温めている。

 そうしていると、目の前の道路の向こう側に、田井中律が現れた。

 

 「おはよう。澪!」

 「おはよう。律!」

 

 田井中律は、左右を見て車が来ていないことを確認すると、道路を渡って秋山澪の傍にやってきた。

 

 「おおっ。秋山さん、頑張っていますねぇ」

 

 田井中律は、秋山澪の右手にある単語帳をみて、半分皮肉っぽく話した。

 

 「おい、律。お前、本当に試験のほうは、大丈夫なのか?」

 「大丈夫、大丈夫。昨日も言ったとおり、赤点取らないようにすればいいんだろ。つまり、全部の問題のうち、半分あえばいいってことだよ」

 「……時々、私は律の半分でもいいから『その楽観主義ってものをもらいたいな』って、つくづく思うよ」

 「澪もそれくらいの気持ちでいいんじゃない。あくまでも校内模試だぜ。大学受験とは違うんだしさ」

 

 

 2人は並んで、学校までの道のりを歩き出した。

 田井中律と秋山澪は、性格が真反対といってもいいくらい違っている。

 もともと社交的なのは田井中律で、内向的な性格の秋山澪は、彼女と知り合ってから、ずいぶん明るい性格になったのだ。

 お互い性格がこれだけ違うから、惹かれあった部分もあったのだろう。

 

 

 「澪。あのさ、昨日部活の帰り際に、むぎから、何かお願いされていたよなぁ?」

 「えっ……そ、そんなこと……ないぞ」

 

 田井中律は、昨日の部活の時、お茶のセットを片付けている秋山澪に、琴吹紬が近寄って来て、紬から何かを相談されお願いポーズまでされている彼女をちゃんと見ていたのだ。

 

 「やい、副部長! 部長に話せない隠し事があるのか?」

 「いや、そんなことはないけど、多分その事は、むぎの口からちゃんと話があると思うよ」

 「そうかぁ、なんだろうな……。まさか、澪『おめでとうライブ』ができなくなったとか?」

 

 ちょっと心配そうな顔つきなった田井中律を見て、即座に秋山澪は否定した。

 

 「違う、違うよ。そんなことじゃない」

 「じゃぁ、一体何だよ。むぎの相談は……」

 「多分、むぎは、テスト明けたら言うんじゃないかな?」

 

 秋山澪は、案外口が固かった。

 

 

 話をしながら、2人で登校している途中で、第二の待ち合わせ場所についた。

 ここで、いつも待ち合わせるのは、琴吹紬である。

 

 「律ちゃん、澪ちゃん、おはよう!」

 「おはよう、むぎ!」

 「むぎ、おはよう」

 

 琴吹紬は、制服の上からコートをはおり、暖かそうな同じピンク色で統一されたマフラーと手袋で防寒していた。

 今度は3人並んで、学校への道を歩き始めた。

 

 しばらくすると、琴吹紬は、秋山澪の方に顔だけ向けて話し始めた。

 

 「澪ちゃん。昨日はごめんね。無理を言って……」

 「いや、全然気にしてないから。でも、やっぱりむぎが最初作るべきだよ。もちろん、私も手伝うけどさ」

 「でも、私にできるかな?」

 「できるよ。だって、むぎの気持ちが大切なんだから」

 

 秋山澪と琴吹紬は、どうも昨日の話の続きをしているようである。

 田井中律は話をなんの気なしに聞いていたのだが、さっぱりわからない。

 何の話をしているのか気になるが、さっき秋山澪が『テスト明けには、話すんじゃないかな』といったので、それまでは聞かずにいることにした。

 

 そのあとは、試験の暗記問題をお互いに問題を出し合い、答えながら登校していった。

 次は、第三の待ち合わせ場所である。

 最後のこの場所で待ち合わせるのは、平沢唯である。

 普段は先に3人が着いて、平沢唯の到着を待つのであるが、今日は違っていた。

 妹の憂からもらった手袋にちょっと長めのマフラーをした平沢唯が待っており、単語帳を見ているのである。

 平沢唯は熱心に暗記をしており、3人の到着に気づいていない。

 

 「唯! おはよう」

 「唯ちゃん。おはよう」

 「おはよう。唯!」

 

 3人に声をかけられて、ハッと顔を上げると平沢唯は、満面の笑顔で挨拶を返した。

 

 「律ちゃん、澪ちゃん、むぎちゃん! みんな、おはよう!」

 

 田井中律は、そんな平沢唯の顔を見て、密かに思った。

 

 (『自信を持って試験に望む事』って、こんなに人間を変えるのか……)

 

 

 

 4人で学校へ向かう間、とても明るい平沢唯であった。

 

 「唯、なんだか、いつもの試験当日のお前じゃないな」

 

 秋山澪も試験前のいつもの雰囲気と全く違う平沢唯に、少々驚いている。

 

 「うん、不思議だね。そんなに単語とか覚えられたわけじゃないんだけど、とにかく一度目を通したってだけで、こんなに違うものなのかな」

 「うん。唯は今回は頑張ったもんな……。でも、唯。油断大敵だぞ!」

 「わかっているよ、澪ちゃん。試験の始まるギリギリまで頑張るからね」

 

 平沢唯と話を終えた秋山澪は、今度は隣を歩く田井中律に顔を向けた。

 

 「律。今回の軽音部最下位は、もしかしたら律になるかもな」

 

 秋山澪は、意地悪そうな声で田井中律に脅しをかけた。

 

 「ふーんだ。絶対に軽音部ブービーの座は、唯には渡さないもんねぇ!」

 「……おい。ブービーの座って……。言ってて悲しくないのか」

 

 秋山澪は、ここまできても緊張感のない発言をする田井中律が、逆に怖くなった。

 

 「おっと間違った。軽音部3位の座だった」

 「……同じことなのに、なんだか言い方変えると、すごくいいことのように聞こえるな」

 

 秋山澪は、ため息をつきながら田井中律の方を見た。

 すると琴吹紬は、今の秋山澪の発言に何かインスピレーションが浮かんだようだ。

 いきなり、秋山澪の手を握って、こう言ったのである。

 

 「……そうよ、そうなんだわ。澪ちゃん、ありがとう!……私、こだわりすぎたのかも。別の表現を考えればいいんだわ」

 

 琴吹紬のいきなりの発言に3人ともキョトンとしたが、秋山澪だけは言っている意味がわかったらしい。

 

 「うん、そうだよ。色々表現できるからな。それを探すのが大変だけど、楽しみでもあるんだ」

 

 田井中律と平沢唯はお互いの顔を見て首をかしげたが、それ以上何も言わなかった。

 

 

 

 2日間の試験の間は部活も禁止なので、皆、試験が終わると一斉に下校することになる。

 

 軽音部の4人と真鍋和を加えた5人は、一緒に途中まで下校したが、先に平沢唯と真鍋和が別れて3人になった。

 田井中律は今回の試験の自己分析が、思った以上に芳しくないようである。

 少し落ち込んだ風で、秋山澪に助けを求めた。

 

 「澪……。これからうちに来て、明日の試験勉強しないか?」

 

 秋山澪は、すこし困ったふうな顔になった。

 

 「今から、ちょっと用事があるんだ。今日は無理だ」

 「えっ……、なんの用事だよ?」

 

 そこへ、琴吹紬が助け舟を出した。

 

 「ごめんね、律ちゃん。私が、ちょっと澪ちゃんにお願いしてることがあるの」

 「そうなんだ、律。すまない! この通りだ」

 

 そう言うと、田井中律の目の前で、手を合わせて頭を下げた。

 

 「どうしても明日までにめどをつけなくちゃいけないんだ」

 「そうなのか……それじゃ仕方がないなぁ。でも『めどをつける』って、なんのことだ?」

 

 田井中律は、秋山澪と琴吹紬の2人の顔を見ながら訊ねた。

 

 「明日、部活の時に話すわ。みんなの前でね!」

 

 そう言うと、琴吹紬はニッコリと笑った。

 そして、秋山澪の方を見て「澪ちゃん、宜しくお願いします」と言って頭を下げた。

 それを見た秋山澪は、琴吹紬の肩をポンと叩くと「なんとか、頑張ってみるよ」と言ったのである。

 

 

 

 翌日の水曜日。

 無事に2日間の実力模試は終了した。

 試験終了後お昼休みとなったので、軽音部の2年生のメンバーは音楽準備室に集まって、お昼ご飯を一緒に食べていた。

 

 

 午後の授業から、早速、実力模試の解答が戻ってくる。

 田井中律は、昼食が全然すすまない。

 やっと食事を済ませると、机に突っ伏している。

 逆に平沢唯は、妹の憂に愛する『ギー太』を学校まで運んでもらっていて、久しぶりの『ギー太』の感触を、鼻歌交じりに楽しんでいた。

 

 「ルンルン『ギー太』、ルンルン『ギー太』」

 

 秋山澪は、本当に嬉しそうな平沢唯をみて、片手で頬杖をついて喋り始めた。

 

 「どうだ? 唯、久しぶりの『ギー太』は……」

 「うん! 最高だね。やっぱり、私の『ギー太』だよ」

 

 とびっきりの笑顔の平沢唯である。

 琴吹紬は、そんな平沢唯をみて自分も笑顔になってくるのであった。

 そしてもう1人、さっきから机に突っ伏して微動だにしない、田井中律の方を見て、話しかけた。

 

 「律ちゃん……。大丈夫かな? お腹痛いの?」

 「むぎ、心配いらない。自業自得だ」

 

 秋山澪は、ズバっと切り捨てた。

 

 「まあ、赤点はとってはいないと思うけど、軽音部4位は決定だな!」

 「ちょっと、待てい!」

 

 ガバっと上半身を起こした田井中律は、秋山澪に猛然と抗議した。

 

 「まだ、結果は出ていないんだぞ。なぜ、そう決めつける!」

 「だって、律、自分で言ったじゃないか。『人事を尽くして、天天を待つ』って……。あのあと、唯は、ちゃんと言い直したから、神様も許してくれただろうけど、律は言い直してないだろう。そりゃ、神様だって怒るさ!」

 「おい!それは、関係あるのかよ!」

 「関係ない……と言えるのかな? 田井中律さん?」

 

 秋山澪のなんとも言えない微笑みに、グウの音もでない田井中律である。

 田井中律は、平沢唯の方をみて、恐る恐る尋ねてみた。

 

 「唯、何点ぐらい取ってそうなんだ?」

 「うん、多分だけど、赤点じゃないと思うよ」

 「今日の試験の分はまだわからないけど、昨日の分は、憂と答え合わしたら大丈夫だったからね」

 「じゃあ、赤点ギリギリセーフってことなのか?」

 「それも、わかんないけど、とにかく解答欄は全部埋めたから」

 

 田井中律はそれを聞いて、また机に突っ伏した。

 

 (そうか……。解答欄を埋めていれば、もしかして、先生によっては合っていなくても惜しい答えならば、三角をもらえるかもしれない)

 

  そうだ、その可能性があったのだ。

 

 (やっちまった……)

 

 田井中律は、どんどん落ち込んでいった。

 しかし、悔やんでも、もう後の祭りである。

 

 「さあ、今日の放課後から、音合わせして練習するぞ!」

 

 秋山澪は、田井中律のことは無視するように、みんなに話しかけた。

 

 「時間がないからな。土曜日は、むぎのレコーディング。日曜日は、むぎの家でライブだ!」

 「うん、こっちも頑張らないとね!」

 「みんなで、レコーディングとライブ、成功させるぞ! オー!」

 『オー!』

 秋山澪、平沢唯、琴吹紬の3人は、お互いの顔をみながら、笑顔で右手を握り締め、拳を天井に向かって突き出した。

 田井中律だけが、机に突っ伏したまま、右手を突き出した。

 

 

 

 後日談になるが『軽音部』の中で、今回の実力模試の順位は、1位が秋山澪。

 僅差の2位が、琴吹紬。

 大きく点差が開いて、田井中律と平沢唯は同点の3位だった。

 みんな、赤点は1教科も取っていない。

 もちろん、中野梓も大丈夫だった。

 メンバー全員、無事に第一関門を突破したのであった。

 

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