ブレイククラッカーズ   作:silofuku

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アンタはブレイクデカールって知ってる?
簡単に言えばゲームのチートツール。
なんだかんでコイツとは因縁がある。
離れたはずなのに気づいたら俺の傍にいるのさ。
俺が近づいて行ったのか、それともあっちが近づいてくるのか…。

次回 ブレイククラッカーズ#01

クラッカー・リダイブ

これも合縁奇縁何かの縁…ってね。








#01
クラッカー・リダイブ - 01


部屋の中でPCの画面を眺める男が一人。

左手で頬杖をつき、右手はマウスで画面をスクロールさせながらあるコミュニティの話題を流し見していた。

最近の話題はいつも同じネタで持ちきりだった。どうせ昨日と変わりなく、頭ではなんとなく分かってはいながらも指は画面を下へと走らせる。

見ているコミュニティはGBNに関するコミュニティだ。

 

GBN-ガンプラバトルネクストオンライン───現実のガンプラを電脳仮想空間「ディメンジョン」へスキャニングし、

自分のプレイング機体としてゲームやイベントを楽しめるホビーコンテンツである。

ガンプラだけでなくそれに登場する自分のアバターを設定、様々な遊び方が可能な今人気の体感型MIXヴァーチャルアトラクションである。

 

「ブレイクデカール、ブレイクデカール…相変わらずこいつの話題で持ちきりだねえ。」

 

そう考えている間も指は意識と関係なく画面を下へ進めていく。

 

ブレイクデカール…今GBN中で急速に普及が広まっている非公式の外部ツールプログラムである。

作成者は不明、原理も不明だが使用する事でゲーム内での自分のガンプラのパラメータ設定を改竄し、強化するパッチである。

ゲーム内での自分の機体が弱くて悩むもの、周りの皆と合わせた強さが欲しいもの、

理由は様々だが使用しても証拠が残らず手軽に戦力の強化が行えるという事で使用者は増加の一途を辿っていた。

証拠は残らずともゲーム内でのブレイクデカール使用者の報告は続々と上がってきており大きな問題になっている。

 

「やっぱ目新しい情報は無し…か。」

 

一通り確認をしてため息をつく。

ふいにPCから確認音が鳴った。ポップアップウィンドウに小さくテキストが表示される。

 

「今出られるか?いつもの場所で。駄目なら時間を。」

 

「OK。」

 

簡易返信で素早く返事してやるとヘッドホンのマイクを口元へ寄せ、ブラウザを別のサイトに切り替える。

そこは不特定多数の人がボイスチャットが可能なサイトであった。

チャットルームのタイトルを探すと既に先方は部屋を立てていた。

パスワードを入れて入室をすると真っ白なスペースと参加者が表示された画面になる。

ここは画面に参加者同士が絵を描くことも出来るコミュニケーションルームだ。

 

「来たか。急な呼び出しですまないね。」

 

「気にしないで下さい。特に用もありませんので。それで今回は…」

 

真っ白な画面に黒ペンカーソルで「J」の文字を描く。

 

「ああ。GBNの話をしたくてね。」

 

男は眉をひそめ画面にさらに文字を描いた。

 

「BD」

 

瞬間画面がまた真っ白になった。相手がペイント画面のクリアボタンを押したようだ。

まるでそれを画面に描くことが憚られると言わんばかりの早さだった。

 

「皆気になってそわそわしてるようでね。」

 

「今あそこはその話ばっかりですよ。」

 

「まあ細かいことは後でまた。さて、コーヒーでも飲むとするか。」

 

相手が退室し一人取り残される。男は少し考えた後に続いて退室した。

 

「ブレイクデカール絡みのお仕事…か。どんな仕事やら。」

 

JはJOBのJ。仕事の依頼を意味していた。相手がBDの文字に反応していた所を見るとブレイクデカール絡みでほぼ間違いない。

ブラウザで画像アップローダーサイトを開く。直近の投稿画像を探すとコーヒーチェーン店の画像を見つけた。

画像をダウンロードしてアプリケーションを通してテキストファイルに変換、展開する。

 

「ブレイクデカール絡みの仕事を頼みたい。知っての通り近年不正なツールとして広まりを見せてGBN内で問題となっている。

 依頼内容はブレイクデカールの入手とプログラムの解析、そして改竄だ。

 ブレイクデカールには大きな問題がある。

 主に叫ばれるゲームバランスの崩壊などは些細な事だ。重要なのはゲームシステムに干渉してバグを引き起こす事にある。

 ブレイクデカール使用者のガンプラがステータスの変化だけでなく形状の変化やサイズの変化、

 果てはワールドに影響を及ぼしてそのデータを破壊する。クライアントはこの点を大きく憂慮している。」

 

大方予想通りの内容だ。プログラム作成で小遣い稼ぎをしている自分にする依頼なんてものは決まっている。

運営が手をこまねいて被害が拡大している現状、自分達でブレイクデカールに対する防衛手段を準備したい。そんな所だろう。

…ただブレイクデカールがステータス以外でもゲームワールドに影響を及ぼすバグを引き起こすというのは初耳だ。

運営も把握していないのか、それとも意図的に隠しているのか…。やはり又聞きだけじゃわからない事も多いものだ。

最近はGBN絡みのツール作成の仕事もブレイクデカールに取って代わられてあまりGBNにはログインしていなかったのもあるが。

しかしこのブレイクデカール、広く普及した割には随分雑なプログラムじゃないか。飯の種で稼ぎ場を潰しちゃ意味がないだろうに。

男はそのまま依頼を読み進めていたがはたと動きを止めた。

 

「…なんとまあこりゃ、面白そうじゃないかね。」

 

思わず口角が上がり言葉が出た。

 

「クライアントが望む仕様はワールドを破壊するバグの修正、ただしガンプラの異常変化については残す事。

 可能であれば人為的に変化を制御出来るようにすることが望ましい。

 理由としてクライアントはブレイクデカールによるユーザーのガンプラの強化自体は問題としていない。

 むしろ自分達も何かに使えるものとして新しい玩具の誕生を歓迎している。だがワールドのデータ破壊だけはいただけない。

 玩具は玩具。遊び場を壊すものではいけないという事だ。

 これはブレイクデカールの調査も含むために経過や調査報告にも一定の報酬が出る。

 GBN絡みの仕事を多くこなしてきた君にだから頼む仕事だ。いい返事を期待している。

 報酬の詳細だが───。」

 

純粋に遊んでいるプレイヤー達にとって、チートとはそれだけで忌むべきものであろう。

それはゲームのルールにのっとって遊んでこそ楽しいといった考えもあるだろうし、ただ盲目的にルールに従おうという人もいるだろう。

だがそんな事は関係なく自分だけ得を出来ればいいとチートに手を付けるプレイヤーもいる。

そしてさらにそのチートやチートプレイヤーをひっくるめて自分の玩具にして遊ぼうとするプレイヤーも…。

 

つい口から笑い声がこぼれた。

 

まさかブレイクデカールへのリカバリパッチでなく自分達がコントロールするための改造パッチがお望みとは思わなかった。

プレイヤー達は実に逞しい。彼らはブレイクデカールの作者の意図などどうでもいい。自分達が遊びやすいように乗っ取るつもりなのだ。

さてどうしようかと迷うそぶりをしてみても心の中では既に答えは決まっていた。

まあ実際BGN向けのツールのシェアを奪われてあまり面白くなかったというのもあるし、単純に報酬もかなりいい。

それに何よりやはりブレイクデカール自体のプログラムに興味がある。

ふてくされてそっぽを向いてみても、気づけばブレイクデカールの話題を探す自分がいるのは誤魔化せない事実なのだ。

難攻不落のGBNメインシステム。今まであのメインシステムに侵入できた奴の話なんて聞いたことはない。

だがブレイクデカールの動作を見るとプレイヤーのインターフェースから弄れる範囲を明らかに逸脱している。

ブレイクデカールの作者は侵入はともかくとしてGBNのメインシステムに何かしら干渉できる方法を知っているとしか思えないのだ。

 

相手先へ依頼受諾の手続きを済ますと男は棚の周りのダンボール箱を漁り始める。

少し距離を置いていたとはいえ薄く埃がかかったダイバーギアとGBN端末、そしてガンプラの箱を見つけるのにそう時間はかからなかった。

 

「久しぶりにGBNで遊んでみるとするかね。」

 

バイザーを装着し、ダイバーキアを端末にセット。電源を入れる。

鈍い機動音と共にギアが発する淡い緑色の光が下から男の顔を照らした。

 

ID date converted. Please scan your Gunpla.

 

機械音声のガイドがログインを催促する。

箱から取り出した愛機を久しぶりに手に取った。

まるで宇宙服のヘルメットのような顔の丸い機体。それはガンダムAGEに登場するジェノアスの改造機だった。

男は久方ぶりに握る愛機の感触を楽しみつつギアにセットする。

 

LogIn date convert Are you Ready?

 

「of course!」

 

音声承認でログインが成立する。

 

OK!Dive start now!

 

バイザー越しに世界が電脳空間に包まれた。

目の前の空間に大きく投影される Welcome to GBN の文字。

招かれざる客で悪いね。と男は思わず苦笑する。

表示される文字が切り替わった。

 

Are you Survie?

 

目の前が白く白く染められていく。この光の先にGBNの世界がある。

 

間を置いたログインというのもある。

それに今から始まる「お仕事」に対する期待感もあるのだろう。

自分でも驚くほどに新鮮な感情が心に広がるのを感じていた。

 

「面白い仕事になるといいけどね。」

 

他人事な口ぶりとは裏腹に男の目は輝きを増していた。

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