ブレイククラッカーズ   作:silofuku

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ファイターズ・ウォークライ - 06

「手間をかけさせやがる、なぁスレードさんよ。」

 

イフリートが纏った炎のようにゆらりと揺らぐ。

 

「何回ボコれば諦めて消えてくれるんだ?…なぁ!!」

 

瞬間イフリートが凄まじいスピードでジェムズガンへ接近する。

先程とは比べ物にならない速さだ。

だがスレードはブーストを少し噴かして歩幅一歩分後退すると、位置を調整しランサーでヒートソードを受け止めてみせた。

このやりとりももう何回目になるだろうか。

 

「もうわかってんだろ?俺の性格上テメエに勝つまでやめねえよ!!」

 

ジェムズガンは膝で蹴りを入れるとそのまま脚のビームライフルを撃ちこむ。

イフリートは全く怯む様子を見せない。スレードはお構いなしに攻撃を続けた。

舌打ちしたアントンは自分からイフリートを退かせる。

 

ブレイクデカールによって引き起こされる装甲の強化と衝撃耐性の強化。

スレードは過去の対戦でデカールの力をある程度理解している。

デカールを使ったイフリートには生半可な攻撃ではダメージを与えられなくなる。

さらにはバズーカなどによる衝撃の強い攻撃でも怯みにくくなる。

厄介な強化ではあるが、念頭に置いておけば対処はできる。

スレードは今までの戦闘経験からそれを可能にしていた。

デカールを使うとアントンは動きが雑になる。装甲強化にかまけて回避行動もろくに取らなくなる。

だが怯まなくても至近距離で攻撃され続ければ、蓄積ダメージを考慮して距離を取らざるを得ない。

そこから取るべき戦法は…

 

スレードはショットランラーをバックパックにマウントすると、脚にマウントしたライフルを右手に蹴り投げる。

バックパックにランサーとバズーカ、手持ちにはライフル。射撃戦の構えだった。

アントンは訝しげにジェムズガンを見る。

 

「どうした?いつもはこのままガンガン殴りあいする所だろうが。」

 

「言ったろ、決着付けようってな。今日は勝つぜ。」

 

「何企んでるか知らねえが、それで俺の攻撃を捌ききれると思ってんのか!」

 

またもイフリートがジェムズガンへ迫る。

肩のコールドクナイを投げつけると相手の真横へ急制動をかける。

 

「もらった!」

 

クナイとソードによる二面攻撃。アントンは勝利を確信し、ヒートソードを横に薙ぐ。

 

「効かねえよ!」

 

ジェムズガンは両腕のビームシールドを展開して両面の攻撃を防ぎきる。

そのままシールドの先端でイフリートを斬りつけた。

ついでにおまけと言わんばかりにビームライフルを接射する。

これにはたまらずイフリートもその場を退いた。

間髪入れずスレードはバックパックのランサーとバズーカで追撃する。

アントンは反応が遅れた。いや遅れていなくても防ぎきることは不可能な間合いの攻撃だった。

しかしデカールで強化されたイフリートは驚異的な瞬間加速で直撃を避けてみせる。

 

「テメエ…そんな亀みたいな戦法で俺に勝つつもりか!」

 

「今ので勝てりゃ楽だったんだがな。救われたなぁ、デカールによ!」

 

「…ぶっ殺してやる!」

 

 

──────────────────────────

 

 

(今のフィールド全体にかかったラグ、前にデカールの発動を見た時と一緒だ。)

 

ピックラックはスレード達のいる方を見やる。

 

(やったのかスレード?)

 

「よそ見してる余裕はねえぞ!」

 

ビームサイズを構えたガブスレイが突っ込んでくる。

ジェノアスはビームユニットからソードを形成して同じくガブスレイを迎え撃つ。

だがサイズが振り下ろされる前に、腰のショットガンを撃ちこみ間合いを外して距離を取った。

カイレーが幾度接近戦を挑んでもピックラックは鍔迫り合いには持ち込ませない。

 

「そのショットガン厄介だな!」

 

「お褒めにあずかりどうもってね!」

 

ピックラックはそのまま肩のキャノンを撃ちこんでガブスレイを引き剥がす。

 

カイレーはジェノアスを攻めあぐねていた。

平地に出れば完全にこちらが優位と踏んでいたのだが、実際に戦うと思いの他動きが良い。

今までジェノアスが森に潜んでいた分、その動きに目と感覚が慣れていないようだ。

思うようにアームビームガンの攻撃がジェノアスに当たらない。

逆に距離を取ろうとすれば、キッチリこちらに付いてきて変形のタイミングを与えてくれない。

隙を見せればキャノンを撃って体力を削りに来る。

かといって接近戦に持ち込もうとすると絶妙なタイミングのショットガンで間合いを外される。

カイレーの脳裏にある考えが浮かぶ。

 

(誘い込まれたのは俺の方なのか?…いや、そんなはずはない。)

 

この時、状況の変化にピックラックも多少焦っていた。

スレードに連絡を取りたいが、カイレーとの通信がオンになっていて不用意にオフにすると怪しまれかねない。

スレードからの連絡がくれば、受信だけして相手に悟られず状況が分かるが音沙汰がない。

デカール相手にこちらと喋る余裕がないのか、それともあちらも会話中でこちらに話しかけられないのか。

どちらにしろ現状では自分で判断して動くしかない。

 

(スレードはもうすぐだと言っていた。

 それにそろそろカイレーもこっちの動きに慣れてくるだろう。

 なら俺も出し惜しみしてる余裕はない。…あいつを信じるしかないな!)

 

覚悟を決めたピックラックはガブスレイにビームショットを撃ちこみながら突進する。

最早守りに入っている段階じゃない。こちらも出し惜しみはやめだ。

アントンがデカールを使ったのなら、ベストなのはアントンからカイレーへ呼び出しが来る前にケリを付けることだ。

 

(こっちのバトルがうやむやにされる前にガブスレイを削りきる!)

 

カイレーはビームショットを避けながら近接攻撃狙いで勝負をつけに前へ出る。

クロスレンジの瞬間、ジェノアスはまたも腰のショットガンで相手のリズムを崩しにかかった。

 

「そう何度も同じ手が通じるか!」

 

だが、それを読んだカイレーがジェノアスから時計回りに回り込むように外側に膨らんで回避する。

そのままお返しとばかりに拡散ビーム砲と頭部バルカンを撃ちこんだ。

ジェノアスはビームシールドを展開し猛攻を防ぐが、その隙を突かれ背後に回り込まれる。

 

「もらったぞ!」

 

「やべえ!」

 

ジェノアスを袈裟切りにしようとビームサイズが振り上げられる。

 

「背後からなら肩のキャノンも撃てないな!!」

 

「ところがどっこい!」

 

ジェノアスは背後に肘打ちするポーズを取るとビームユニットの反対側の射出口からビームソードを突き出す。

ガブスレイの無防備な胴体に深々とソードが突き刺さった。

 

「んなっ!」

 

「伊達にユニットにゃ穴は二つ開いてないんだぜ!」

 

虚を突かれたカイレーは茫然とその様を見るしかなかった。致命傷である。

 

「こいつで終わりだ!」

 

ジェノアスは腰にマウントしたショットガンを後方に回転させてガブスレイに撃ちこむ。

 

 

その瞬間、先程と同じ大きなラグが発生した。

 

 

ピックラックは即座に後ろを見た。強烈な危機感を感じたからだ。

そこにトドメを指したはずのガブスレイの姿は、無い。

 

「そんな馬鹿な!」

 

ピックラックは思わず呟いた。そして呟きつつも頭ではその理由を理解していた。

 

 

「…まさか俺までこいつを使う羽目になるとはな。」

 

 

カイレーから通信が入る。ぽつり、と呟く冷めた声だった。

その声色に先程までの高揚感は感じられない。

 

ピックラックはレーダーを確認する。

だが目視する前にロックオンの警告表示が画面に現れた。

ジェノアスはその場にしゃがんで両手のビームユニットからビームシールドを展開した。

そこに間髪入れずフェダーインライフルらしき攻撃が当たる。

らしき、と表現したのは威力がフェダーインライフルのそれではなかったからだ。

まるでレールガンでも叩き付けられたような衝撃がピックラックを襲う。

 

(今の衝撃、方向は左後方!まさか一瞬でそこまで移動したのか!?)

 

受けた衝撃を殺さずにブーストを入れてそのまま森へ飛び込むジェノアス。

レーダーを横目で見ると高速でレーダー範囲内から外へ消える光点が一瞬目に入った。

 

「それがアンタのブレイクデカールってわけか、カイレー!」

 

返信の代わりにメガ粒子砲が光点の消えた方向から飛んでくる。

まるで戦艦の主砲のようなそれは、木々を薙ぎ倒しジェノアスの姿をむき出しにした。

 

刹那、互いの機体の目線が交錯する。

 

MAに変形しているガブスレイ。イフリートと同じくその周りには煌々と黒炎が揺らめいていた。

その暗闇から光が煌めく。

ピックラックは舌打ちすると、弾かれるように残った林へ逃げ込む。

フェダーインライフルがジェノアスがいた地面を焼き払った。

 

(想像以上!こりゃまともにやりあったら殺される!)

 

カイレーは最早こちらの質問に答える気は無い。このまま勝負を決める気だ。

現状でなんとか可能な策を思い巡らせるピックラック。

しかし攻撃を避けながらの状況では思考もままならなかった。

 

と、モニターに水滴が付く。それはぽつぽつと数を増し、すぐに本降りの雨になった。

戦闘に夢中で気づかなかったが、いつの間にか天候は雨雲が空を覆う曇天になっている。

 

(雨?今日のフランチェスカで雨を降らせる予定は無かったはずだぞ。)

 

ピックラックは戦場のコンディションをチェックするために当日のフィールド天候予定をチェックしていた。

今日のフランチェスカは一日晴れ。しっかり確認した上で今回の勝負に臨んでいる。

 

空を覆う雨雲の色がどんどん黒くくすんでいく。

ゴロゴロ…と雷の音まで聞こえてきた。

 

(これもブレイクデカールの影響なのか?)

 

ジェノアスが空を見上げると、すぐ横をビームが掠めた。

ピックラックは慌てて場所を移動する。

 

(とりあえずこっちの対処が先か!)

 

何はともあれこちらの攻撃が当たる距離にガブスレイを連れ込まないと話にならない。

 

(身を隠せて、敵の動きと射線を制限出来る崖か峡谷!そこまで奴をおびき寄せる!)

 

以前下見したフィールドの地形を思い返すピックラック。

使えそうな近場の崖へ行くまでには、一度森を出て平地でその身を晒す必要があった。

 

(第一関門だな…!)

 

呼吸を整え平地へ飛び出すピックラック。

 

「出てきたなジェノアス!」

 

まるで獲物を見つけた鷹のようにガブスレイは空中からジェノアスに襲い掛かった。


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