こちらを目視すると急接近するガブスレイ。
ピックラックは確かに距離を縮めたかったが、周りに何も障害物の無いここではこちらの不利にしかならない。
上空をガブスレイに抑えられた状態で近づかれれば動きに翻弄されて落とされるだけだ。
ブレイクデカールで強化されているなら尚更である。
「悪いがここでやりあう気はないんだよ!」
ガブスレイへ機体正面を向けながらジェノアスはバックダッシュで崖へ向かう。
まだ射程距離よりずいぶん遠いが、構わずガブスレイへ肩キャノンを一発撃ちこんだ。
即座にキャノンを爆発させて手前に弾幕を貼る。
最初からガブスレイに当てるつもりはない。
崖にたどり着くまでに少しでもその行動を阻害できれば良かった。
一発目のキャノンの爆発を迂回したガブスレイを確認して、もう一発キャノンを撃ちこむ。
しかし、それに反応したガブスレイはそのままキャノンに突っ込み接近する。
「終わりだ!」
「…!速い!」
キャノンを爆発させるも、強化されたガブスレイが飛び交う散弾のスピードを上回る。
反応しきれないジェノアスに向かって脚のクローが飛びかかった。
何とか右腕のビームシールドを前面へ展開するジェノアス。
だが勢いのついたクローはビームシールドへその刃を食いこませ、ビームユニット基部まで達した。
…はずだった。
「刺さりが浅い!?」
カイレーがジェノアスを見るとその違和感の正体が分かった。
ピックラックはガブスレイのクローがヒットする直前にブーストを噴かせて空中へ飛んんでいたのだ。
ジェノアスはそのまま後方へ下がりつつクローの威力と衝撃を受け流していた。
「最後の抵抗か!」
だがそれでも圧倒的なスピード差は衝撃の相殺を許さない。
二体は空中でもつれ合い、移動していく。
徐々にガブスレイのクローがジェノアスのビームユニットへ沈み込んでいった。
カイレーは追撃の手を緩めることなくメガ粒子砲を合わせて撃ちこむ。
シールドごとジェノアスの耐久力を削り取るつもりだ。
ピックラックの顔に焦りが滲む。最早この状況から抜け出す策は見受けられなかった。
「そのまま…潰れろ!!」
だがそれでもピックラックの目は諦めていなかった。
ディスプレイに映るガブスレイを睨み付けながらカウントを呟く。
「…3、…2、…1!」
突然機体の下の大地が開けた。平地を抜け、峡谷地帯の崖に達したのだ。
「間に合った!!」
ジェノアスはクローが刺さったまま腕を振り回すとガブスレイの上に乗り、強く押さえつけた。
「なんだと!?」
「腕一本はくれてやる!だがその代わりに最後まで…付き合ってもらうぜ!」
ピックラックはビームシールドを解除しビームユニットをクローへ深く押し込む。
ジェノアスの右腕がビームユニットと共に爆発する。地面へ向かって弾き飛ばされるジェノアスとガブスレイ。
2体のガンプラはそのまま峡谷の底へと姿を消した。
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アントンとスレードの戦いは長期戦の様相を見せていた。
今までであればスレードがアントンの接近戦に応じ、お互い守りなしの消耗戦へとなだれ込むのが常だった。
だが今回のスレードは動きが違った。
アントンの近接攻撃を回避と防御でいなしつつライフルやバズーカで確実にダメージを与えに来る。
ピックラックという協力者を得て、カイレーを分断している安心感からか、スレードは普段よりも冷静に戦局を見ていた。
「改めて見りゃあ、動きに穴が多い。」
気づけばイフリートの弱点を探しながらその攻撃に対応できる程になっていた。
しかし、いくら相方を分断できたと言ってもピックラックがずっとカイレーを抑えられるとはスレードも思っていない。
カイレーがデカールを使った場合、その力は未知数だからだ。
それでもデカールを知っていてなお共闘を持ちかけてきたピックラック。
時間稼ぎにならなくても、あいつに任せてみようかという気持ちが生まれていた。
久方ぶりのタッグバトルという事もあり、気分が高揚していたのもあるだろう。
博打に身をゆだねるギャンブラーの心持ちとも言えようか、スレードはこの状況に昂ぶりを覚えていた。
逆にアントンの焦りは時間と共に肥大していく。いつもと明らかに違う流れ、傍にいない相棒。
そして良くない方向に進むバトルの流れ、アントンは無意識に忍び寄る危機を感じとっていた。
「クソッ!どうしてこうなる!ふざけんなよ!!」
アントンはその原因を考えるが答えには行きつかない。
まさか自分が引っ掛けたピックラックが罠を張っていたとは思わない。
さらに突発的に乱入してきたスレードの存在がその思考へ至る道を完全に遮断していた。
そんな状態でこの二人が共闘体制を敷いているなどとどうして想像できただろう。
アントンの困惑は操作へと滲み、イフリートの動きを鈍らせる。
ヒートソードを薙いだ後、ニュートラル状態へ戻るその刹那。
何千回と繰り返したいつものムーブ、普段ならブーストでキャンセルをかけるその動きの間に生じた操作の遅れ。
何度叩き潰されながらもイフリートと戦い続けたスレードはその隙を見逃さなかった。
「見せたな!」
攻撃を避けたジェムズガンは左手で腰のビームサーベルを抜くとヒートソードを弾き飛ばす。
「はあ!?」
これまでで初めての事態にアントンの頭の中は真っ白になる。
連動するようにイフリートの動きが完全に固まった。
「長かったぜ!!」
ジェムズガンはバックパックにマウントしたランサーを外し、そのままイフリートの無防備な右脇腹へと突き刺す。
「言ったよな!俺が…勝つってな!!」
ランサーの穂先が電磁誘導で加速し、撃ち出される。
イフリートの装甲がひしゃげ、爆発が起こった。
視界が奪われ距離を取るスレード。ディスプレイに勝利の文字は出ない。
まだ戦いは終わっていなかった。
「…しぶとい!デカールの強化ってのはここまで…!」
臨戦態勢を解かないジェムズガン。
だが、攻撃を受けたイフリートは茫然自失で立ち尽くしていた。
「ありえねえ…。デカールを使って普通のガンプラに負けるなんてあるはずがねえ…。」
「アントン!!」
「ひっ!」
通信から響く怒号に反射的に後退するイフリート。それはアントンの本能が敗北を認めた証だった。
はっとしたアントンは目の前の相手へ怒りと憎しみを滲ませる。
例え本能が敗北を認めても、今まで積み上げてきたプライドは敗北を認めない。
今まで勝ち続けてきた相手への敗北を認めるわけにはいかない。
「負けねえ…俺は負けてねえ!!お前なんかに俺が負けるはずはねえ!!」
その瞬間、フィールドにラグが走った。
「デカールの反応か!?」
スレードは即座にイフリートから離れる。
だが、イフリートは動かない。見た目の変化も無い。
そこに聞こえてきたのは逆に困惑したアントンの呟きだった。
「まさかカイレー…お前も使ったのか…デカールを…」
2回目のラグ、それは2度目のブレイクデカール発動を意味する。
その事に一番衝撃を受けたのはアントンであった。
今のラグは、カイレーがブレイクデカールを発動せざるを得ない状況に追い込まれたという事。
それも「あの」ピックラックにだ。いつものカモでしかない雑魚ダイバーに劣勢になったという事だ。
スレードも遅れて事態を察する。
「あいつ、やるじゃねえか!カイレーの野郎に使わせたかよ!」
ピックラックは約束を守った。ならばこちらもそれに応えなければならない。
スレードはマルチランサーを両手で構えるとイフリートに狙いを定める。
「今度こそ終わりにする!アントン!!」
「終わり?…終わりじゃねえ!俺は…俺は負けねえ!!」
救援は絶望的だ。
それでもアントンは脳裏に浮かぶ敗北のビジョンを振り払うようにジェムズガンへ突貫する。
その動きは最早戦略も何もない破れかぶれなものだ。
スレードの集中力も極限まで達していた。
だが、恐怖に支配されたアントンの動きを見ているせいか、スレードの頭の一部はどこまでも冷静だった。
勝てる。
力むでもなく、油断するでもなく、スレードはまるで導かれるようにイフリートへとランサーを突き出した。
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機体とモニター画面が激しく揺れ、転がり、何かに激突した感覚。
カイレーは一旦目をを閉じ視覚情報と思考をリセットする。
改めて辺りを見回すと、そこは切り立った岩壁に囲まれた道であった。
前後に道はどこまでも続いているが左右には機体5機分の余裕も無さそうな一本道である。
上を見上げれば壁の上には曇天が覗き、大粒の雨を降らせていた。
地形と雨のせいか地面はぬかるみ、機体の足へとへばりつく。
三次元機動戦が得意なガブスレイにとって最も不利なフィールドであった。
操るカイレーもまたその事を瞬時に理解する。
「ハメられたか…だが…」
前方で同じく起き上がるジェノアスを見る。
右腕は吹き飛び、ダメージも大きい。
ブレイクデカールによる強化でダメージを抑えたガブスレイとの体力差は明らかだった。
「地形的に不利になったところでこちらの優位は変わらない。」
「…だろうな。」
「閉所で正面から撃ちあえば勝てると思ったか?
ジェノアスが万全ならともかくそんな状態ではな。」
ガブスレイがゆっくりと強襲の構えを取る。
「いや、例え万全だとしても、デカールを使ったガブスレイには勝てんよ。
閉所でのパワープレイは望むところだ。今はな。」
ジェノアスはガブスレイの動きに呼応するように迎撃態勢に移行した。
「それでもこっちが勝てそうな目はもうこれしかなくてね。」
憎まれ口を叩くも武装のタネは割れ、既に満身創痍。
ジェノアスの打つ手は無いように思われた。
「お前はよくやったよピックラック。ここまで粘られたのは初めてかもな。
お蔭であっちの救援にも…」
はた、とカイレーの口が止まる。
猛烈な悪寒、今の自分の位置とアントン達がバトルしている位置を確認する。
気づけば相当な距離が開いていた。今から全速力で救援に向かっても多少の時間を要するだろう。
アントンはバトル中だからグループ機能を使ってのキャラ指定のテレポートも不可能。
今まで絶えずカイレーの脳裏にちらついていた違和感、ここに来てそれは明確な形を成す。
「…まさか最初からそれが目的か?
あの野郎をタイマンでアントンとやらせるために!」
「ご明察!あっちもデカール発動してんだろ?そろそろ勝負がつくだろうさ。
どっちが勝つかは分からねえが、賭けるかい?」
アントンとスレードの戦いをずっと傍で見てきたカイレーである。
今二人が戦えばどちらが勝つか、それはカイレー自身が一番分かっていた。
「最初からハメられてたってわけか。
こっちがデカール持ちなのも承知で挑んできた…大した奴だよ。」
ガブスレイに纏わりつく炎が一段と勢いを増す。
それはまるでカイレーの怒気をそのまま表しているようだ。
「だがそれは勝負の結果とは関係ない…こちらの掛け金はしっかり回収させて貰おうか!!」
プレッシャーを感じたジェノアスが一歩下がった瞬間、弾かれたようにガブスレイが前に出る。
「ぐっ…うおおお!!!」
ピックラックは肩のキャノン、腰のショットガン、左腕のビームショット全てを撃ちこむ。
散弾で前面に壁を作りガブスレイを押しとめるつもりだ。
だが同じ手は既に何度も食らっている。カイレーはその行動を読んでいた。
射程距離目前で空中へ飛びそのままMAへ変形、クローを構えジェノアスへと突っ込んでいく。
「上!!」
ジェノアスは残った左腕のビームユニットからビームシールドを展開し構える。
ふっ、とカイレーは嘲笑した。
シールド目前まで迫るとMS形体へ変形しそのまま着地しつつ旋回。
アームビームガンからサーベルを生成すると、背後から残ったジェノアスの左腕を斬り飛ばした。
「っ!!!」
「同じ手を何度も食うか!」
腰のショットガンをガブスレイへ向け回転させるジェノアス。
だが銃口がこちらを向くよりも早くガブスレイはジェノアスを蹴り飛ばした。
両腕を失ったジェノアスは受け身も取れずに岩壁へと激突。そのまま地面へ倒れ込む。
ガブスレイがフェダーインライフルの狙いをジェノアスへ定めた。
「俺の勝ちだなピックラック!!」
「いいや…さっき言ったこと忘れたのかよ?」
「ああ?」
「俺は勝ち目があるっていったんだぜ?」
「減らず口を…」
二人の会話を遮るようにガブスレイのコックピットにアラートが鳴る。
モニターには上部からのCAUTION表示。
反射的に上を見上げたカイレーは思わず固まった。
その目に映ったのは今まさに自分へ降り注ごうとする空一面のビーム弾の群れだった。
「なん…!?」
普段であればすぐに回避行動を取る場面だ。
だがデカールを使った安心感、勝利確定の油断、ありえないはずの攻撃、全ての要素がカイレーの思考をフリーズさせた。
「大盤振舞だカイレー、遠慮しないでたらふく食えよ。」
「!?てめっ…!!」
一瞬足を止めたガブスレイに容赦なくビームのシャワーが降り注いだ。
それは轟音と共にデカールの炎ごとその装甲を削り取る。
ひと時の後静寂と共に残されたのは無惨に食い散らかされたガブスレイの残骸のみだった。
BATTLE ENDED
ふぅーっ、とピックラックは大きく息を吐くと全身の力を抜いてコックピットへ体を沈めた。
「負けた…?あの体力から削りきられたのか…?」
状況を飲み込みきれずに呆然とするカイレー。だが、一つの答えが頭に浮かぶ。
「そうか…ピックラック!てめえも何かチートしてやがるな!!
そうでなきゃあの場面で上からの攻撃があるわけがねえ!」
「いいや、あれは正真正銘仕様に沿った攻撃だぜカイレー。」
「嘘付け!今まであんな攻撃してこなかっただろうが!」
「お前だってブレイクデカールの事はギリギリまで隠してたろ?俺も一緒さ。」
ピックラックは肩のキャノンを空中へと放つ。
その玉は空中で弾けると爆発して散弾をまき散らした。
だが次の瞬間、散弾が地面の大岩へ向かって一斉に襲い掛かった。
「何だ!?」
「AGE3オービタル、知ってるか?ビームの機動を曲げられるのが特色の機体だ。
こいつにはその機能をスキルとして搭載してる。」
「じゃあさっきのビームは…」
先程の戦闘を思い出すカイレー。
最後の突進の際に全弾発射をしたジェノアスが脳裏に浮かぶ。
「アンタが突っ込んできたときに撃ったビームは全てオートロック曲射設定にしてぶち込んだ。」
「あの時か!…だがどうして最初から使ってこなかった。
それこそ初めて会った時から今までいくらでも機会はあっただろ。」
「奥の手は最後まで取っておくもんだろ?なんて格好つけてもあれだけどな。
一度見れば手品のタネは割れちまうからな。
最大限の効果を出せる場面まで温存する必要があったのさ。
それでもデカール使ったアンタに勝てるかどうかは完全に博打だったが…
運が良かったよ。」
「だからってあんな状況になるまで…」
カイレーは今までの事を思い出す。
この男は最初にあった時は間違いなく簡単に狩れるカモだった。
だがバトルを始めて見ると思いのほか粘られて決定打が出ない。
だがバトル中にジェノアスの武装は全て把握してブレイクデカールも使い、負ける要素は無かった。
相手の両腕も損壊し最早逆転の手なんて存在しないはずだった。
だが、だからこそか。だからこそ最後の攻撃が刺さったのだ。
しかし理屈では分かっていてもそこまで我慢できるものだろうか。
一歩間違えばジェノアスは何もできずにガブスレイに蹂躙されていたというのに。
…いや、そこまで耐えたからこそ完全に騙されたのだ。
「結局最後の最後までハメられてたってワケだ…。」
カイレーはため息を吐く。
「でもあのスレードって奴が来たのは本当に想定外だったけどな。
まぁ結果オーライってな。」
「そうだアントン!あっちはどうなってる。」
「そっちにも通信が入らないんならまだやりあってるんじゃないか?」
ピックラックがスレードに確認の通信を入れようと回線を開く。
「おーいスレード、そっちは…あれ?」
喋り出した時に何か違和感を感じてその正体を考える。答えは即座に出た。
そうだ、音だ。回線を開いた時の音がしない。通常なら一瞬SEが鳴るはずだ。
「何だ…チャットが死ん…」
瞬間画面が乱れた。
いや画面と言っていいのだろうか。視覚にノイズが走った。
一瞬様々なテクスチャが目の前を流れ去る。
視覚だけではなかった。コックピットのオブジェクト、ワールドマップ、その全てが見た事も無いものに変貌する。
まるで自分を見失ったように世界全体の形が崩れ、蠢いたような感覚。
突如スピーカーから様々な音がノイズの波となりなだれ込んでくる。
「ぐあっ!!」
強制的に視覚と聴覚に割り込まれる情報量にピックラックは思わず目をつぶる。
それはカイレーも同じようでスピーカーから彼のうめき声が聞こえた。
ブツッと音が途切れ静寂が訪れる。
恐る恐る目を開くと、まるで何もなかったかのように世界はその姿を取り戻していた。
「カイレー、アンタ今の見たか?」
「ああ、見た。なんだあれは。」
「何だって俺も知らねえよ。ブレイクデカールの影響じゃないのか。」
「今まで使ってあんな風になった事はねえよ。…だが、」
カイレーは空を見上げる。
雨雲は灰色からよりどす黒い暗雲へと姿を変えていた。
稲光が空を彩り、土砂降りの雨が大地を襲う。
ここまでの大荒れの天気は通常の設定では出ないはずだ。
本来ならイベントでのみ適用されるような局所的な荒天である。
それはまるでGBNの世界が己の異常を訴えているように思えた。
「嫌な予感がする…。アントンの所へ行かねえと。」
「俺も行く、どっちにしろあっちに合流しないと行けないしな。」
ピックラックはメニュー画面を開いて動作に問題が無いか確認する。
「いけそうだ。とりあえず機体はハンガーへ転送して森林入口へ一回戻ろう。」
「ああ、わかった。」
二人の胸の中に不安という靄がかかる。
彼らは分かっていた。その先にある物は杞憂ではないと。
雷雨はさらにその激しさを増していた。