豪雨の中、森林地帯入口へと戻ったピックラックとカイレー。
だがここからではスレードとアントンの姿を確認することはできなかった。
「とりあえずもう一回スレードに通信を入れてみる。」
「ああ、俺もアントンに呼びかけてみよう。」
その時遠くから何かの叫び声が聞こえる。
二人が今まで聞いた事のない得体の知れないものの声であった。
「何だあの声は。」
「俺達以外ここにダイバーは来ていないはずだが…!?見ろ!!」
「メニュー画面がバグってる?」
「設定が変更されてる…どうなってやがる。」
ピックラックはもう一度通信を試みる。
「おいスレード!聞こえるかスレード!今どこにいる!」
「ピックラックか!お前無事か!?」
「こっちの台詞だっての!今森林フィールド全体がおかしくなってる!
バトル設定が固定されて変更できない!」
「分かってる!ログアウトも出来なくなってんぞ!原因は今目の前にいる!!」
「どういう事だ!?」
言い終わるが早いか否か、通信先から先程の叫び声とガトリング音が聞こえてきた。
「アントン!そっちの状況はどうなってる!」
「カイレー!頼む助けてくれ!!」
「落ち着けアントン!何があった!」
「俺のイフリートが言う事を聞かねえんだ!手当たり次第に攻撃を…うわぁ!」
通信に大きなノイズが入った。思わず目をすぼめるカイレー。
遠くから大きな爆発音と煙が上がった。どうやら二人がいる場所はそこらしい。
「取りあえずそっちへ向かう!ちょっと待ってろ!」
「頼む!俺じゃどうにも…止めてくれ!!」
互いに通信を終了し、顔を見合わせるピックラックとカイレー。
「どうやらロクでもねえ事になってるのは確定だな。」
ピックラックは大きくため息をついて見せる。
カイレーはアゴに手を添え状況を考え始めた。
「しかしイフリートが制御不能ってのはどういう事だ。」
「そりゃお前考え付く原因なんてデカールしかないだろ。」
「さっきも言ったけど今まで使っててこんな事はなかったぞ。」
「デカい事故が起こったときは皆そう言うっての…アンタ、リペアチャージはあるな?」
「もちろんだ。」
リペアチャージとは自分のガンプラの修理を早めるアイテムである。
通常であればガンプラをハンガーへ格納すると自然回復が始まり修復される。
だが、同じガンプラを連続使用してバトルを行いたい場合は、リペアチャージを使用して強制回復するのが通例だ。
このアイテムはログインボーナスやイベント報酬として広く入手手段のあるアイテムである。
もちろん課金で購入することも可能だ。
「急にフィールド全体にフリーバトルが適用された。設定変更も不可だ。
理由はともかく俺らはここに閉じ込められたって事だ。」
反応しないログアウトボタンを指先で叩きながらピクラックは続ける。
「アバター状態でガンプラに踏みつぶされでもすれば強制ログアウトされるかもな。
だがそんなのも御免だろ。」
「ああ、気分がいいもんじゃないな。」
リペアチャージを使用してガブスレイの修復を進めるカイレー。
「気分が良くない…ね。そうだよな。」
ピックラックはカイレーの何気ない一言が妙に引っかかった。
修理が完了し、ジェノアスとガブスレイが森林地帯に転送される。
「ぼうっとしてるなよ。アントンが心配だ、先に行くぞ。」
ガブスレイはMAに変形して飛び立とうとする。
「待てよ、お前一人でどうにか出来るかわかんねえだろ?俺も連れてけよ。」
「かといってお前が役に立つかどうかもわからねえが…わかった、乗りな。」
「頼むぜ運転手さん。」
「飛ばすぞ、振り落とされるなよ!」
ガブスレイの上へと飛び乗るジェノアス。
二機は空中へ飛びあがると、爆発のあった場所へと急行するのだった。
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スレードのジェムズガンは得体の知れない相手に攻めあぐねていた。
今まで戦っていたアントンのイフリートとは戦法が全く違う。
うかつに飛び込むわけにもいかず、牽制を続ける。
相手はミサイルを手当たり次第にばらまきながらバズーカとガトリングをこちらに撃ちこんでくる。
元のイフリートより鈍重で機動戦は仕掛けてこない。
ただ先程よりも装甲は分厚くなっているようで、ビ-ムライフルだろうがビームバズーカだろうが直撃を受けてもひるむ様子すらない。
(ここまで固いと手持ちで効果がありそうなのはマルチランサーの直接攻撃のみか…だが。)
弾幕が激しすぎる。
相手は絶え間なく弾幕を展開しているのに、隙になるリロードタイムが見当たらない。
「これだからチートって奴は!」
回避に比重を置かないとこの物量相手ではすぐにやられてしまう。接近戦を仕掛けるどころではない。
相手も積極的に接近戦は仕掛けてこない。だが…
「接近戦が不得手…なわけでもないんだろうな。」
頭と融合したショットガン、コールドクナイで出来た鱗と爪。
攻撃性を剥き出しにした様な武装を見ながらスレードは考える。
「今はどうしようもないな。この状況を変えるには…」
ジェムズガンに通信が入る。
「待たせたなスレード!まだ生きてるか!?」
レーダーに大きな光点が一つ。いや、正確には二つの光点が重なっていた。
空を見上げると、ガブスレイに乗ったジェノアスの姿が視認できる。
「やっぱ人手がいるな!」
イフリートも新たな乱入者の存在を感知する。
ガブスレイへ体を向けると武装の掃射を開始した。
「避けるぞ!飛び降りろピックラック!!」
「あいよ!」
空中で回避機動をとるガブスレイ。
合わせてジェノアスはミサイルを迎撃しつつその背中から飛び降りる。
そのまま二体はジェムズガンの傍へと着地した。
ジェノアス、ジェムズガン、ガブスレイ、三体のMSがイフリートと対峙する。
「…随分育ったな。こいつ成長期か?なんか周り光ってるしよ。」
一回り大きくなったイフリートを見ながらピックラックは冗談を言い捨てる。
「見ての通りグレちまったよ。親の言う事も聞かねえみたいでな。」
少しヤケクソ気味にスレードは返してみせた。
「来たぞアントン!無事か!」
「カイレー!ああ俺は無事だ!だがイフリートが…」
「今助けてやる!待ってろ!」
(だが…こんな化け物相手に有効打は存在するのか?)
助けると言ってはみたものの、暴れるイフリートを見てカイレーは舌打ちする。
イフリートは増えた獲物を品定めするように見渡すと、もう一度大きく吠えて見せた。
声の圧で大気が震える。振動はコックピット越しに三人へと伝わってきた。
その時、幾度か目の大きなラグが森林フィールドに発生した。
先程のようにイフリートのテクスチャと大きさが変化し始める。
それを見たピックラックは愕然とした。
「何だこりゃ…」
「イフリートが今の姿になった時と同じだ!
あいつあの時もこうやってデカくなりやがった!」
ピックラックはブレイクデカールの録画を見た時の事を思い出す。
撮影した時は確かに自分の目に見えていたデカールのエフェクト。
しかしガンカメラで録画したものには映らず、補正された映像が流れた理由。
「そうか…そういう事か!」
ピックラックの中でばらけていたヒントが実を結び、一つの答えとなる。
「やっぱりGBN自体からの補正が働いていたんだ!
ブレイクデカール使用時にラグが発生する理由もそれだ!
これなら辻褄が合う!!」
「ちょっと待て、何の話だ?」
スレードの問いを遮るようにイフリートが叫んだ。
その大きさは先程よりも一回り大きくなっていた。
それはさながら脱皮をした甲虫のようだ。
天気はさらに荒ぶり、強い風が雨を伴いピックラック達に襲い掛かる。
「話は後だ!多分こいつは早めに倒さないとヤバいぜ。
そうでなくてももっとデカくなったら手が付けられない。」
それにこのままじゃ一番厄介な事に巻き込まれそうだしな…」
「どういう事だ?」
今度はカイレーが疑問を投げかける。
「この暴風雨、どんどん酷くなってるだろ。これは間違いなくこいつと連動してる。
…いや正確にはブレイクデカールと、だな。
お前らがデカールを使ってから天気が変わった。
本来なら今日のフランチェスカフィールドに雨が降るはずは無いんだ。
しかもこの荒れ具合、複数の天候エフェクトが同時に発生してる。
ガンプラ一体の異常ならともかくフィールド全体の天候異常となればサーバーへの負荷も尋常じゃない。
今頃運営の方じゃエラーの警告が出てるはずだ。」
「それじゃあ…!」
「これ以上負荷が高まってサーバー落ちたなんていったら洗いざらいログ調べられるぞ。
運営にとっつかまって事情聴取だけで済めばいいけどな。
俺らはともかくお前ら最近派手にやってたからブラックリスト乗ってるだろ。」
「それは困る!何とかしてくれよ!!」
アントンから悲鳴が上がった。
「こっちとしても今面倒になるのはゴメンだね。運営と顔見知りになる気も無い。」
初手から躓いて全部ご破算じゃ意味が無い。
この仕事は始まったばかりなのだから。
「クソ面倒な話だけどな…ここは三人、力を合わせて戦うとしようぜ。」
頷くジェムズガンとガブスレイ。
目の前には未知数の敵。
終結すると思われたバトルは予想外の総力戦へとなだれ込んでいくのだった。