フランチェスカフィールド、雨上りの森林地帯に次々と転送されるガンプラ。
それは運営の機体であるGBN-ガードフレームであった。
基本的に特定の誰かが操縦するわけでもなく指示に従って動くNPCのガンプラで、
有事があればフィールドの統制や鎮圧に当たる機体だ。
その一個小隊の前に現れるSDガンダムタイプのアバターが一人。
見た目は実弾装備で固めた黄土色のZZガンダム、G-ARMSのガンパンツァーZZであった。
「ガードフレームは近隣の封鎖と警護を。近づく者がいたらIDを収集しろ。」
ガードフレームの頭部バイザーが数回点滅すると、それぞれの持ち場へと移動を始めた。
ZZが本部へ通信を入れる。
「ログの解析はどうか?」
「はい、天候の局地的な異常の他に怪しい所は特にありません。」
「私はその天候の異常の理由が聞きたいんだがね。」
「申し訳ありません。現状ではまだ…。」
「件の二人がバトルしていたのは間違いないんだろう。デカール使用の痕跡は?」
「すみません…それもいつも通りです。ログに異常は認められません。」
「…分かった。引き続き調査を頼む。天候異常と合わせて関連性を探ってくれ。」
「分かりました。」
ZZは溜息をつく。
「異常は認められないだと?そんなはずはないだろう。」
そう呟くと木々から滴る水滴を浚う。
「奴らがバトルをした時には天候異常が散発している。
今回の高負荷は初めてのパターンだが、必ず関連性があるはずだ。」
強く手を握るとマニュピレーターの隙間から水しぶきが弾け飛んだ。
「絶対に尻尾を掴んで見せる。」
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「あっちゃぁ、こりゃ近づけないですねぇ。」
森林フィールドの外れから双眼鏡で運営の動きを見つめる細目の猫の獣人が一人。
「もしもし?もう運営が来ちゃってますね。
アントンとカイレーも既にフィールドから離脱しているみたいで、戦闘は終わってます。」
「デカールの停止はこっちでも確認してる。モンスター化相手だったはずだが。
相方もデカール持ちだからな。仲間同士でやりあえば無い事は無いか。」
通信機から男の声が聞こえてくる。
「一緒に戦ってた相手も見たかったんですが。これじゃ無理ですねぇ。」
「二人がいないんだ。そいつらももう離脱してるだろ。
もういい、運営と接触する前に撤退しろ。」
「わっかりました~。」
「とりあえずモンスター化のいいデータ取りにはなったな。
コントロールを微調整すればもう最初から変化させられる。
後は感染者をもっと増やせば…。」
「もう大分広まってますよ?
マスダイバーなんてネット上の呼び名もGBNで定着してきたみたいですしね。」
「それでキザキ達はどうしてんだ。もうGBNに来てるんだろ。」
「今はトレーニング中ですよ。操作の勝手が違いますからね~。
もうちょっとすれば普通以上には動けるようになるでしょ。」
「祭りの開催には間に合わせるように言っとけ。思ったよりも早まりそうだ。」
「はいはい、わかりましたよ…シバ。」
そう言うと獣人はフィールドからログアウトして姿を消した。
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フランチェスカの浜辺ではアバター達が街頭モニターで森林地帯の定点カメラを眺めていた。
運営が出張してフィールドを確認する異常事態なんてそうそう無い。
一体何が起こっているのか。プレイヤー達の好奇心の恰好の的になっていた。
先程まで森林地帯でバトルをしていた四人もそこにいた。
モニターから少し離れた海岸前の道路にあるテーブルに座りながらざわめくアバター達を見つめる。
冷えた缶ジュースを飲み干すとカイレーが口を開いた。
「間一髪だったな。」
「もうあんなのはゴメンだぜ。」
アントンはテーブルに突っ伏す。
そんなアントンにスレードがせっついた。
「結局あのイフリートの変化は何だったんだ。そこんトコ詳しく聞かせろよ。」
「俺もわからねえよ。テメエとやり合って負けそうになったらモニターに選択肢が出て…。」
「選択肢?」
「ああ。更なる強さと勝利を望むかってな。
状況が状況だし迷わずYESのボタンを押した。そしたら…」
「あんなに大きく育ちました、と。」
相変わらず場を茶化しに行くピックラック。
カイレーもそこに口を挟む。
「俺とピックラックが戦った時は出なかったぞ。」
「多分デカールを使ってから体力が一定以下まで減る事が条件なんだろ。
俺は最後不意打ちで一気にガブスレイ削ったからな。出る前に勝負がついた。」
改まって神妙な顔になるアントン。
「俺達あんなヤバいものを使ってたんだな…。」
「スレードみたいな奴もいるしデカール使ってればどんどん強い相手と戦う事になる。
遅かれ早かれいつかはあの化け物に行きつくわけだ。良く出来てるよ。」
そう言うとピックラックはジュースに口を付ける。
「クソッ!何もデメリットは無いとかあの野郎フカしやがって!」
アントンが吐き捨てるとピックラックが食いついた。
「あの野郎ってお前らデカール誰かから貰ったのか。誰だよ。」
「それは…言えない。」
「つれない事言うなよ。散々やりあった上に運営に捕まる前に助けてやったんだぜ?」
「そんな事知ってどうするってんだよ。」
「決まってんだろ。俺もブレイクデカール欲しいんだよ。それでアンタらに近づいたんだから。
…って思ったけどさっきのアレを見るとなぁ。やっぱいらねえな。
でもどんな形で配ってるのかは興味あるからな。聞かせてくれよ。」
それでもアントンは話すのを渋っていたが、カイレーが助け船を出した。
「まあそれくらいなら話してもいいんじゃねえか?
…俺とアントンは前にフォース入ってたんだけどランク戦で負けが込んでてな。
そんな時フォースにやってきた奴がいる。
どうもリーダーが勝つために引き入れた奴らしいが。」
「そいつがデカールを配った?」
「ああ。それで実際フォースは強くなった。
デカール使って戦えば連戦連勝さ。だが…」
アントンが当時を思い出したのか苦い顔になる。
「結局フォースは解散した。」
スレードはジュースから口を離すと疑問を投げかけた。
「なんでだ?勝ちまくってたんだろ。」
「勝てば勝つほど俺達の強さはおかしい、チートしてるって噂も大きくなっていった。
ネットじゃ誹謗中傷は当たり前。GBNでもフォース宛てに罵詈雑言の嵐。
皆そんな状況が嫌になってフォース内の空気は最悪。
毎日言い争いが絶えなくなってな、最後はリーダーが勝手にフォースを解散さ。」
「なるほどね。
そんでお前らは二人でタッグを組んでそのまま小銭稼ぎしてたわけだ。」
「悪評が広まっててどこでも雇ってくれねえしな。」
「そんなん自業自得だろ。でもまあこれでもう懲りたんじゃねえか?」
「ああ。こんなヤバいもん使うのはもうヤメだ。
これからどうするかのアテはないが、程々に遊ぶさ。」
「アテは無いとかいうけどよ、俺との勝負うやむやで終わったじゃねえか。
決着ついてないからモヤモヤすんだよ。
とりあえずデカール無しでもっぺんやろうぜ?」
「もうそんな気力ねえよ。それに…、分かってるんだ。今の俺じゃお前に勝てない。」
「アントン…。」
「だから今度は俺が鍛えてお前に挑む。次は自分の力でお前に勝ってやるさ。」
鼻息を荒くするアントンを見てカイレーが笑う。
「とりあえずお前の動きは雑すぎるんだよ。そこ直さねえとな。」
「厳しいなカイレー。まあこれからもよろしく頼むぜ。」
二人は微笑みあうとガッチリと手を交わした。
スレードは若干呆れながらそのやり取りを見つめていた。
「何かいい感じになってるけど結局俺は勝ち逃げされた気しかしねえんだけどよ…。」
ま、なんであれまた挑んでくるってんなら大歓迎だ。
今度はキッチリ決着付けようぜ。」
カイレーはピックラックに向き直るとぺこりと頭を下げた。
「今回は本当に世話になった。仕掛けといて言うのもなんだが…ありがとうな。」
「気にしなさんな。こっちも狙って受けたんだしな。
それにデカールもバグが相当報告されてんだ、所持金やアイテムがまるっとロストするとかな。
あんたらもそうなってたかもしれない、使わなくて正解だよ。」
「まあなんだ…ありがとよ。」
アントンもバツが悪そうに軽く謝る。
ピックラックはお互い様さ、とケラケラ笑って見せた。
「そんじゃ俺らはもう行くぜ。首洗って待ってろよスレード。」
「ああ、さっさと来ないと俺GBNやめてるかもしれねえからな。早くしろよ。」
「ピックラック、俺はお前に負けてるからな、次やる時は勝つ。」
「もう武装のネタ割れてるからアンタにゃ勝てねえだろうよカイレー。白旗だ。」
カイレーは笑った。
「いいや、お前本当はそんな事少しも思ってねえだろ?
一回戦った今ならわかるよ。…それじゃあな。」
そう言って二人は街頭モニターを見つめる雑踏の中へと消えていった。
残ったジュースを飲み干すと、ピックラックは遠くのゴミ箱に空き缶を投げ捨てる。
カランと小気味良い音を立てて空き缶はゴミ箱へ吸い込まれていった。
「さて、と。それじゃあこっちも解散だな。
今回はお前さんのお蔭で助かったよ。ありがとうな、スレード。」
「こちらこそ。結局アントンの野郎と決着はつけ損ねたが…なんかスッキリしたよ。」
そういってスレードは笑った。険の取れたいい笑顔だった。
「そういやさっきデカールはもういらないとか言ってたけど、アンタこれからどうすんだ?」
「別にどうもしないさ。
趣味で追っかけてるだけだから今まで通りちょこちょこ調べるだけさ。
いらないってのは自分のガンプラにゃ使わないってだけの事だよ。
勝手に暴走されたんじゃたまったもんじゃない。」
「そうか。…なあピックラック、もしアンタがこれからもデカールを追うってんならさ…俺も混ぜてくれないか?」
「混ぜろって、スレードお前何すんだよ。」
「デカール調べるってんならその内絶対今回みたいなバトルになるだろ?
デカール使った相手の戦闘経験者だ。役に立つと思うぜ。」
「そうじゃねえよ。こんな事に関わったってお前にゃ何の得も無いって事。
どうして今まで散々バトルの邪魔されたデカールに関わろうってんだ?」
スレードはほんの少し真面目な表情になる。
「俺はアントンの野郎に負けた時はヘコんだよ、デカールなんて使われてボコボコにされてよ。
でも、諦めきれなかった。落ち込んでると負けた時のアントンの野郎の声が浮かんできてさ。
そいつを思い出すと絶対倒してやるって気持ちが湧き上がってくるんだ。
デカールを使ってようが使ってまいが関係ない。俺はあいつをぶっ倒してやるんだ!ってな。
それで今まであいつに突っかかってきたし、勝つためにずっと練習もしてきた。
でも今回あの変化したイフリートと戦って勝った時さ、熱いものを感じなかったんだよ。」
「熱いもの?」
「勝った時はそりゃ嬉しかったけど勝った喜びじゃないんだ。
これで終わったという安堵感とかそういう気持ちなんだよ。
そこで気づいたんだ。俺がやりたかった戦いはあんな暴走した化け物相手じゃない。
本当に求めてたのはプレイヤー同士の戦いだったんだって。
勝っても負けてもそこにやりあった奴ら同士の中で何かが生まれるんだ。
俺はそんなGBNのバトルが好きだったんだ。」
空き缶を握りつぶすスレード。
「デカールを使ったプレイヤーとのバトルなら俺は構わない。
負けたって勝てるまでやるだけだ。
でも俺と相手とのバトルを暴走で有耶無耶にするってんなら、俺はデカールを許せない。
だから俺も知りたいんだよ、デカールの事を。
見た感じアンタは勝敗にこだわるタイプでも人に嫌がらせがしたい奴でもない。
アンタに付いていけばデカールの正体に辿り着ける、そんな気がする。」
「人の事は言えないけどお前も相当へそ曲がりだね。」
「仲間にしてくれるか?」
「悪いけどパス。」
即答するピックラックにスレードは食い下がる。
「何でだよ!?」
「申し出はありがたいけどな、デカールに関わるって事は自分から面倒事に首突っ込むって事わかってるか?
自分からチートツールを漁るって事は、運営から目を付けられてBANされる可能性もあるし、デカール関係者からの嫌がらせを受ける可能性もある。
どっちもそっちも敵になる可能性があるわけだ。
俺はその責任を負う気は無いし、最悪組んだせいで芋づる式に捕まって全滅するかも、だ。
お前を邪険にするわけじゃないけど俺には一人が性に合ってるんだよ。」
スレードの握りつぶした空き缶をひょいと取り上げると、さっきのようにゴミ箱に投げ捨てるピックラック。
「でも今回は本当に助かった、ありがとな。これは俺の気持ちだ、受け取ってくれ。」
そういうとピックラックはスレードに取引コマンドを送る。
取引内容を見てスレードは驚愕した。
「500万ポイント!?こんなポイントもらねえよ。行きずりで共闘しただけだぜ。」
「いいのいいの、気にすんなって。…それにこれ俺のポイントじゃないしな。」
「は?」
「いやいや何でもない、こっちの話。」
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「一からやり直しだなカイレー。」
「そろそろこの小遣い稼ぎも限界だったし丁度いいじゃねえかアントン。
きっと俺達には必要だったんだよ…もう一回負けるって事がな。」
「そうかもしれないな…。そういえばさっきのバトルの賭け金ってどうなったんだ?」
「そういや結局バトル途中で終わっちまったんだな。」
ステータス画面を開いてポイントを確認したカイレーが素っ頓狂な声を上げた。
「どうしたカイレー!?」
「ポイントが…無い。」
「何だって!?」
慌てて自分のポイントを確認するアントン。
そこに表示された0の数字を見て絶句した。
「…何で?」
「俺が知るかよ…」
先程のピックラックとの会話が頭をよぎる。
(それにデカールもバグが相当報告されてんだ、所持金やアイテムがまるっとロストするとかな。
あんたらもそうなってたかもしれない。)
「まさかデカールのバグってのはこれなのか?」
「そんな…今まで貯めたポイントが…」
がっくりとうなだれるアントン。それを見たカイレーは思わず噴き出した。
「まあ痛い勉強代だと思うしかねえよ。本当に一からのやり直しだ。」
カイレーは笑いながらもなんとなく、これはピックラックの仕業なんじゃないかという考えが浮かんでいた。
「バグなのか、それともまたしてやられたか…。
どっちにしろ、その内借りは返すぜ、ピックラック。」
照りつける太陽を見上げるカイレー。
無一文になってしまったにも関わらずその胸中は澄み切っていた。
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「さっきの賭けバトルでがっぽりカイレーから頂いたのさ。
おすそ分けって奴だ。お前の今までの負け分取り返せたかは知らないけどな。」
「それならまあ…ありがたくもらっておくとするか。」
「んじゃ本当にさよならだ。縁があったらまた会おうぜ。」
「待てよ。俺はまだ諦めてないぜ。」
「しつこいね~お前も。駄目だって言ってんだろ?」
「あーあ、それじゃあ俺は今日の事周りにベラベラ喋っちゃうかもしれねえなぁ。
デカール持ちに勝った武勇伝。話はあっという間に広まるだろうなぁ。」
「お前…!」
ニヤリと笑うスレード。ピックラックは諦めたようにため息を吐いた。
「まさか俺が脅される側になるとは…こりゃ引いたのは当たりじゃなくて大外れだな…。」
「まあまあそう言うなって!旅は道連れ世は情けって言うだろ?役に立つぜリーダー。」
「誰がリーダーだ。その呼び方やめろ、普通に名前で呼べ。」
「オーケー、ピックラック。これからもよろしくな!」
大きな声で笑うスレード。それは今日一番の盛大な笑顔であった。
対照的にピックラックはしかめっ面で今後の勘定を弾く。
偶然の出会いから出来た新たな仲間、そしてデカールを巡ってゆっくりと動き出すGBN。
本人の思いとは裏腹に、ピックラックの仕事は大きなうねりに巻き込まれていくのだった。
一攫千金を狙うってのは夢があるよな。
でも実際やってみるとそりゃあ過程は地味なもんさ。
案外ロマンチストってのが一番現実的なのかも知れないな。
次回 ブレイククラッカーズ #03
トレジャー・ハント
宝を見つけるまでが一番楽しい。
あいつら皆そう言うのさ。