ブレイククラッカーズ   作:silofuku

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#03
トレジャー・ハント - 01


…以上が現在まで判明したブレイクデカールの特性、及び使用者拡大の理由である。

引き続き調査を続け、次第は追って報告する。

 

報告書を書き終えてピックラックはモニタに映した映像を見た。

そこにはジェノアスクラッカーと戦うガブスレイカスタムの姿があった。

ジェノアスの腕にガブスレイのクローが刺さっている場面、だがガブスレイにブレイクデカールの炎は確認できない。

一旦その映像を止めると、別の映像ファイルを開く。

こちらも同じくジェノアスとガブスレイの戦闘記録であえる。

ただ先程の映像と異なるのは、こちらの映像にはブレイクデカールの影響がキッチリ映り込んでいる事である。

ビームの太さ、威力、動き、どれもが実際ピックラックが体験した通りの記録だった。

 

(勘は当たったわけだ。)

 

前者の映像はGBNの戦闘記録の映像を保存したものである。

そして後者の映像はピックラックがGBNの戦闘を「外部の映像記録アプリケーションで保存したもの」である。

 

カイレーと戦闘を始める直前、ピックラックはGBNの映像をバイザーだけでなく、別の機器へと出力し録画するようにセットした。

二つの映像が何故違うのか、それは映像ファイルの構造の違いにある。

 

前者の映像はGBNで録画されたものだが、これは厳密には録画ではない。

戦闘ログと画像データからその戦いを再構築し、再生したデータを映像ファイルとしてコンバートしたものだ。

GBN内でも確認できる戦闘映像は、容量の関係もあってあくまでゲーム内データで再構築したものをシミュレートしたものに過ぎない。

対して後者の映像は、その時バイザーに出力される映像をそのまま録画したものである。

 

目撃証言があるのに映像に残らない。

映像には誰かが改竄、または補正が入った形跡がある。

だが、自分で録画してすぐに確認した映像にも同様の形跡が見られた。

 

この事からピックラックは、この現象は恐らく第三者の改竄ではなくGBNの仕様による物ではないか、との仮説に行きついた。

それを実証するためにアントンとカイレーとのバトルに臨んだのだ。

 

(思わぬ成果もあった。)

 

映像を早送りするピックラック。そこにはモンスター化したイフリートが映っている。

GBNの記録映像に切り替える。

こちらではイフリートは怪獣化せず、何か特殊な強化モードを発動させたように見える。

動きはかなり激しいが、あくまで仕様の範囲内に見えた。

ジェノアス、ジェムズガン、ガブスレイの動き、位置ももう一つの戦闘映像とはズレがある。

実際のイフリートはモンスター化してサイズが一回り大きくなっている分、攻撃のヒットした場所が本来と異なっている。

もちろんプログラマが設定すれば実際の当たり判定個所はいじれるが、今回は見た目度通りの当たり判定になっていた。

 

(こうしてみるとハッキリわかるな。)

 

二つの映像のは細部は異なるものの、流れは全く同じである。

最後の決め手もマルチランサーで一刺しだ。

 

(補正がかけられているのはなんとなく分かっていたが、その理由も分かったのはラッキーだった。)

 

後者の映像を巻き戻す。

イフリートが咆哮を上げるとその体のテクスチャとサイズが変化し、フィールドが更に異常を発する。

 

この変化が補正のかかった原因である。実際には起こるはずの無い、ログに痕跡の残らない変化。

これをGBNはシミュレートできなかった。

そのためにGBNにあるデータでその異常を補って構築したものが前者の映像である。

この事を裏付けたのが、二つの映像の天候は全く同じという事実。

天候が大荒れになったのは異常であるが、その天候データ自体はGBN内のデータとして存在してるものだ。

故に天候自体に映像の差異は無い。

 

(だがそれなら…)

 

イフリートを変化させたプログラム、本来は存在しない変化した骨格データ、その他諸々はどこから呼び出されていたのか。

恐らく同時に天候を悪化させるプログラムも実行されていたはずだ。

だがGBNがそのデータを呼び出せないとするなら、どこかGBNが参照できない領域にデータが存在しているはずだ。

 

(運営が把握できないデータ保存領域なんて存在しているのか?)

 

疑念はそれだけではない。

別にガンプラを強化するだけならあれだけの事をする必要は全くない。

攻撃力と防御力の参考値をいじるだけでいい。

変身なんてあんな趣味的な手の込んだ事をする必要は無いのだ。

だがピックラックはその答えも何となく見当が付いていた。

 

(嫌悪感を駆り立てるため、それはプレイヤーに対する悪意だ。)

 

イフリートが変化してからフリーバトルモードになって全域に無差別攻撃するようになった事。

ログアウトが不可能になった事。

 

「アバター状態でガンプラに踏みつぶされでもすれば強制ログアウトされるかもな。

 だがそんなのも御免だろ。」

 

「ああ、気分がいいもんじゃないな。」

 

あの時のカイレーとの会話を思い出す。

 

(そう、気分がいいもんじゃない。)

 

アバターだから実際に踏みつぶされても痛みは感じない。

だがある程度現実感のある仮想現実では死に対する危機感は嫌でも想起される。

踏みつぶされれば心のどこかで死に対するトラウマは蓄積するものだ。

それはそのままGBNでの嫌な思い出としてプレイヤーに記憶される。

 

「幸いイフリートは鈍重な見た目に合わせてあまり回避をしないようになってる。

…ムカつくがな。」

 

嫌な思い出。

ピックラックは自分が吐き捨てた台詞を思い出す。

そう、イフリートは見た目に合わせて回避を行わなかった。

現実ならともかくこれはゲームだ。

設定次第で機体速度なんていくらでもいじれたはずだ。

ゲーム内の最高難度のCPUといっても、実際はプレイヤーが倒せるレベルまで調整されたものだ。

本来であれば、人間の反応速度を超えた動きをするCPUだって設定数値次第で簡単に作れる。

何故それが実装されないのかと言えばこれがゲームだからだ。

絶対に倒せない敵なんてイベント戦闘でもなければただの障害にしかならない。

今GBN内で実装されているのは、耐久力を無限に設定されたGPDガードカスタムくらいのはずだ。

本当に勝てないCPUを相手にするなんて事になれば、プレイヤー達はこぞって匙を投げだしてしまう。

今回のイフリートだってそうだ。

本当に相手を倒すだけなら目に見えないスピードで動き回り、こちらを一撃で破壊する武器を持たせればそれで済む。

そうすればプレイヤーも一気に興を削がれてゲームをやめるだろう。

どうしてそうしなかったのか。

恐らくはプレイヤーがこいつは倒せるかもしれないという希望を持たせるためだ。

 

今回イフリートになんとか勝てたのはカイレーのガブスレイが味方になっていた事が大きい。

ブレイクデカール持ちの味方がいなかったら、あの装甲を貫いて勝てていたかというとまず無理だろう。

十中八九、重装甲重火力のイフリートに嬲り殺されていたに違いない。

 

こちらの攻撃を当てても当てても倒れない怪獣のようなイフリート。

奴は叫び声をあげながらゆっくりと確実にこちらに近づいてくる。

更にログアウト出来ないというストレス環境下での強制戦闘。

これらは全てプレイヤーにトラウマを与えるためのものに思えてならない。

 

「俺もわからねえよ。

 テメエとやり合って負けそうになったらモニターに選択肢が出て…。」

 

アントンはイフリートの変化の原因をそう語っていた。

負けそうになると現れる選択肢。

ブレイクデカールに手を出す人間が最も忌避する事、それは負ける事だ。

つまりこの選択肢もわざとそんな状況下で出現するように設定されていたと見ていい。

だがその誘いに乗った先にあるのは自機の暴走。フィールド全体への高負荷。

運営にもプレイヤーにもフィールドにも被害を与え、周りの全てが自分の敵になる。

行きつく先は破滅だ。

 

(ブレイクデカールはGBNで無双するためのチートツールじゃない。

 そう見せかけて騙したプレイヤーをGBNで苦しめるためのトラップなんだ。

 そしてそれだけじゃない。)

 

ピックラックの目の前で変化したイフリート。

その時スレードが言った事。

 

「イフリートが今の姿になった時と同じだ!

 あいつあの時もこうやってデカくなりやがった!」

 

補足をすれば、デカールを使用した時点で不明なデータの呼び出しは発生していた。

謎の領域からデータを呼び出し、サイズと見た目を変更し、天候も変える。

そしてそれを定期的に行う。

 

ゲームにおいてシステムに一番負荷をかけるのは一体何であろうか。

それは画面への描画の部分だ。デカールの製作者はそれをよく分かってる。

デカールの仕様で機体の周りに発生するエフェクトだって本来はわざわざ描画する必要は無い。

 

デカール発生時のラグの正体は一時的な描画負荷によるものだ。

更にデカールを発生させると天候をめちゃくちゃにして、フィールド全体の描画にも影響を及ぼす。

そうしてどんどん負荷を上げる事で、サーバーにデータを詰まらせて最終的にシステムダウンさせる。

つまりこれはGBNに対する明確な攻撃行為なのだ。

 

(プレイヤーだけじゃない。デカールを作った奴はGBNそのものを憎んでる。)

 

ここまでは推測出来た。だがその理由はデカール作成者本人でもなければ分かるわけもない。

 

「ひとまずはここいらが限界かな。」

 

ピックラックは動画を閉じ、椅子に背を持たれた。

 

今回、この推論とデカールを映した動画は報告書へ加えなかった。

まず何かの拍子に動画が流出するのを抑えたかったという狙いがある。

それにクライアント相手でも必要以上の情報はなるべく伏せて手元に残しておきたい。

 

そしてもう一つは、この推論を誰かに言いたくなかったというのが理由だった。

現状ではあくまでただの妄想。言う事に特に問題があるわけでもない。

だがそれを口に出すと、何かが起こりそうな予感がしていた。

 

そう、見えない悪意が形を成して自分に襲い掛かってくる…そんな予感だ。

 

「それじゃあとりあえず次にやれる事は…」

 

腕組みをして考えるピックラック。

 

「デカールの入手、ついでに売人とルートの確認かな。」

 

自分に確認させるように呟くと、ピックラックは必要な情報を漁り始めるのだった。

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