ブレイククラッカーズ   作:silofuku

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トレジャー・ハント - 02

ある日の夜、相も変わらず人でごった返すGBNフロント。

そこには通路に立ち、ぼんやりと外を眺めるスレードの姿があった。

 

「よっ、久しぶり。」

 

後ろから声をかけられ振り返ると、ピックラックが手を振りながら近づいてきた。

 

「よう、そっちも元気そうだな。」

 

「お蔭さんでね。」

 

「連絡入れてもあんまり素っ気なかったからほったらかされたのかと思ったぜ。」

 

「こっちはこっちで色々忙しいのよ。情報収集もしないといけないしな。」

 

「俺を呼んだって事は何か始めるのか?」

 

「ご名答、と言ってもここで話すのもなんだから場所を…」

 

「あっら~、ピックラック君じゃない!」

 

二人の会話を遮る特徴的な声が響く。

ピックラックはその声に聞き覚えがあった。

 

「あー…えっと、スミカ!…さん?どうも御無沙汰です。」

 

「なーにそんな他人行儀しちゃって!ハグしてくれてもいいのよっ。」

 

そう言い終わるが早いや否やスミカはピックラックを抱きしめる。

ピックラックは力なく笑っていたが、目はどこか虚空を見つめていた。

その状況を見て唖然とするスレードにスミカが話しかける。

 

「こちらのお兄さんは初対面ね。初めまして、私はスミカ、よろしくね。

 あなたもハグする?」

 

「いいえ結構です!」

 

激しく首を振るスレード。

スミカは本当に残念そうに体をすぼめてみせる。

 

「ピックラック…こちらの…スミカさんはお前の知り合い?」

 

「…うん、まあ。一度顔を合わせたくらいだけど。」

 

「んもう、水臭いわねぇ。一度会えば皆友達よ。気軽に何でも相談してね。」

 

「スミカさんはアダムの林檎の人で、フロントの見回りとかもしてんだよ。」

 

「アダムの林檎!?あの上位ランクフォースの!?」

 

スレードの目が輝く。

スミカを見る目がバトルの相手を見る目に変わった。

 

「俺はスレードといいます。スミカさん、よければ俺とバトルしませんか?

 アダムの林檎メンバー、自分の腕が通用するのか試してみたいんです。」

 

「あっらぁ、情熱的ね!私そういうの嫌いじゃないわよ。」

 

「はいはーい、ストップストップ。

 スレード、お前今日の目的速攻ぶん投げんじゃないよ。」

 

前のめりのスレードをピックラックが静止する。

それを見たスミカが笑った。

 

「二人とも仲がいいのね。長い友達なのかしら?」

 

「いやピックラックとはこの前知り合ったばっかりで。

 今日会うのも久しぶりだよな。」

 

「まあそんな感じです。」

 

「二人はどこで知り合ったの?フリーバトルエリアかしら?」

 

「会ったのはフランチェスカの…ぐえっ!」

 

ピックラックからのひじ打ちがスレードの脇腹にモロに入る。

痛みは無いが話の腰を折られるスレード。

 

「フランチェスカでMSビーチバレー見てる時にですね!

 偶然知り合ってウマが合ったといいますか!

 その流れでバトルやなんややって仲良くなったってワケです。なっ!」

 

ピックラックは口を挟む暇も無く早口で説明してみせる。

同意を求めるその目は笑っていた。

だがそれ以上に強い圧力(プレッシャー)がスレードへ向けられていた。

 

「はい!そういったワケです!」

 

「そうなの~、いいわねぇ~。

 そういえばピックラック君、フランチェスカに行くってあの時言ってたものねぇ。

 でも大丈夫だった?最近あそこでフィールドに高負荷がかかって一部地域が封鎖されてたじゃない?

 巻き込まれなかった?」

 

「はい、大丈夫でしたよ。

 浜辺から街頭モニターでコイツと一緒に様子見てました。なっ!」

 

「そうそう、そうです!見てました!」

 

コクコクと頷くスレード。

 

「でもあれ以来フランチェスカフィールドの動作が安定したみたいよ。

 運営も本腰入れてメンテナンスしたのかしらね。

 なにはともあれ平和になっていい事ねぇ~。」

 

「そうですね…本当に。」

 

感慨深そうにスレードは言葉を吐いた。

それを見たピックラックも軽く微笑む。

 

「んじゃそろそろ行こうぜスレード。スミカさん、またその内会いましょう。」

 

「ああ、それじゃ今度是非バトルお願いしますね、スミカさん。」

 

「は~い、二人ともまたね~。」

 

距離が離れても大きく手を振るスミカを見ながら二人はGBNフロントを後にする。

 

「それでどこに行くんだピックラック?」

 

「ああ、今回行くのは…」

 

フィールドガイドシステムの前に立ち、パネルを操作するピックラック。

目的地を見つけるとモニター画面に映しだした。

 

「アラスカフィールドだ。」

 

 

────────────────────────────────────────

 

 

アラスカフィールド…そこはガンダムSEEDにおいて、オペレーション・スピットブレイクが行われたアラスカ基地があるフィールドとして馴染み深い場所である。

現実においては氷河やそれによって形成された特殊な湾岸地形であるフィヨルド、オーロラが有名なアメリカ最北に位置する州である。

GBNでもそれらは再現されており、観光地として、また静かな場所、雪を好むダイバー達のフォースのネスト候補地として人気が高い。

 

ピックラックとスレードは、そんなアラスカを興味深げに散策する。

いつでもオーロラが見られるように常に夜間を維持するオーロラ特別区を訪れると、その壮大なスケールに圧倒される。

ピックラックもスレードも、開いた口が塞がらないまま空を見つめていた。

メインの観測スポットから離れた人のいない場所、静寂とオーロラだけがそこにあった。

 

「すげぇもんだな、オーロラってのは。」

 

「ああ、ゲームでこんだけのもの見れるんだからお得感あるよな。」

 

ずっと上を見ていた首の調子を戻すように左右と振ると、スレードはピックラックに向き直った。

 

「んで今回は何をする気なんだ。」

 

「それじゃ本題に移ろうか。」

 

ピックラックは氷原に腰を下ろすと手元に仮想モニタを表示させる。

続けてスレードも腰を下ろすと映し出された情報に目を通した。

 

「フォースランク表?」

 

映っていたのはフォースバトルで決定されるフォースランキング一覧であった。

上位ランクにはチャンピオンのクジョウ・キョウヤ率いるトップランクのAVALONから第七機甲師団を始め錚錚たる顔ぶれが並ぶ。

その中には先程出会ったスミカが所属するアダムの林檎の名もある。

 

「強い奴らが上にはうじゃうじゃいる、たまんねえな。

 一度お手合わせ願いたいもんだ。」

 

「やる気出すのはいいけど、俺らが見るのはこっち。」

 

ピックラックは画面をどんどん下にやるとランキング3~4桁代の画面を映す。

それは下位ランクから中位ランクの境目と言われるランク帯で、主にGBNに慣れてフォースを組んだ脱初心者達が切磋琢磨している層だ。

操縦技術も規模も上位ランクのフォースとは比べ物にならないが、彼らは希望を胸に更なる高みを目指している。

 

「ランク1000付近か、ここはいつ見てもフォースの顔ぶれ変わるから見てないんだよな。」

 

「普通そうだよな。当事者じゃなけりゃ、関係ない場所だし。

 だが今回はそれが大いに関係するわけだ。」

 

「デカール絡みか。」

 

頷くピックラック。話を続ける。

 

「この前のアントンとカイレーの話覚えてるか?

 フォースのランクマッチで負け続きの時にデカールを使ったって。」

 

「ああ、覚えてるよ。それがどうした?」

 

「当時アントンとカイレーが所属してたフォースってのを調べてみたんだが、最終ランク800台だった。

 推移を見てるとランク800台まではストレートで登ってきたが800から700への壁で躓いた。

 そこで長く燻ってた末に急な快進撃が始まってる。

 一度は600台に迫る勢いだったが、最後はゴタゴタがあって800台に戻った所でフォースを解散したらしい。」

 

「ゴタゴタってのはアレか。」

 

「間違いなくデカール使用疑惑によるイザコザだろうな。

 そんで気になってな、ここ半年に情報があったマスダイバー容疑者の素性を色々漁って分かった事がある。」

 

モニターに過去にタレコミのあった人物のリストが並ぶ。

そのデータを見てスレードも顔をしかめる。

 

「こいつは…成る程、お前の言いたい事分かったぜ。

 これはあからさまに怪しいな。」

 

「ああ。見ての通り、マスダイバー容疑者は圧倒的にそのランク帯のフォースメンバーが多いんだよ。」

 

「デカールを広めてる奴らは勝ちたい奴らの焦りを利用してるって、そう言いたいわけだな。」

 

「ああ。そもそも上位陣はデカールなんて使う必要を感じないガチ勢だけだし妥当と言えば妥当だな。

 ゲームにもそこまで慣れきってない頃のダイバーが多いだろうし、引っ掛けるにはうってつけだ。

 被害報告を漁ってる限りでは、今でもこのランク帯でデカールの頒布が行われてるみたいだ。」

 

「つまり今回のミッションはデカールを配ってる野郎を見つける事、だな。」

 

「そういう事。」

 

ピックラックは容疑者リストを閉じると他のファイルをいじり始める。

スレードは少し考えるとピックラックに問いかけた。

 

「そうなると、俺は今回何をすればいいんだ?」

 

ピックラックは何かのファイルを開くと、スレードの目の前にモニタを突き付けニヤリと笑う。

 

「傭兵。」

 

 

冷え切って澄んだ空気の中をオーロラは悠然とどこまでも輝く。

それはGBNに忍び寄る危機などどこ吹く風だ。

 

誰からも気に留められぬ氷原の上で今、二人のダイバーの新たなミッションが始まった。

 




更新が少し空くと思われます。
ご了承下さい。

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