ブレイククラッカーズ   作:silofuku

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クラッカー・リダイブ - 02

見渡す限りのアバターの群れ。ゲートを抜けると見覚えのあるいつものGBNフロントだった。

いざこの統一感の無いアバター達が闊歩する場所に立つと、本当にGBNに来たんだなという実感がある。

 

「ようこそGBNへ!お久しぶりですピックラックさん。

 一か月以上ログインが無かったようですが更新履歴を確認なさいますか?」

 

受付NPCがお決まりのガイダンスプログラムを始める。

 

「ああいや大丈夫。ありがとう。」

 

ピックラックとは自分のGBNネームである。名前はガンダムAGEのウッドビットからもじって、

格好もガンダムAGE後期のロディ・マッドーナスタイル。青い作業着にジャンパーを羽織る。

なんでその恰好を選んだのかと言われると少し考えてしまうが、

どうしても目的上あまり目立たないアバターを選びたいという心理があるのだろうか。

それでもなんだかんだ長く同じアバターを使っていると愛着が沸いてくるもので、今ではこの格好が一番しっくりくる。

 

さてとりあえずは機体のコンディションチェックをして目的地にでかけるとしよう。

箱にしまっておいたから特に問題は無いと思うがついでに必要なスキルの編集もしておきたい。

共用ハンガーへ移動しようとした所で子供姿のアバターに不意に声をかけられた。

 

「ちょっとちょっとお兄さん、いい話があるんだけど少し時間あるかい?」

 

随分お決まりの誘い文句だ。こういう所は仮想でも現実でも変わりはない。

久しぶりのGBNフロントだから調子に乗って周りを見過ぎていたからか、初心者にでも見られたのだろうか。

 

「へえ?いい話ってのは一体どんないい話だい。」

 

それでもあえて話に乗るのは今回の目的のものがブレイクデカールという規約違反に抵触するものだからだ。

蛇の道は蛇。いきなり当たりが掴めるとも思えないが何かしらの手掛かりになるかもしれない。

 

「お兄さんGBNは初めてかい。分からない事があればオイラが色々教えるよ?」

 

「いや、実は最近ログインしてなかっただけで久しぶりに遊びに来たのさ。お気遣いどうも。」

 

「なぁんだ、じゃあ話は早いや。久しぶりのGBNだ。何をするにもポイントが物入りだろ?

 どうだい、気軽に稼げる方法知りたくないかい?」

 

「アカBANされるチートは御免だよ。ポイント稼げてもアカ消えたら意味無いからね。」

 

少年が歯を出して屈託なく笑う。

 

「大丈夫大丈夫。稼ぐのはもちろんお兄さんが自分で稼ぐのさ。ただそのサポートになるものがあるんだ。」

 

「…まさかブレイクデカール?」

 

「知ってるって事は興味あり、かな?運がいいよお兄さん。丁度今新しいの手に入ったところでね。

 どう?試してみたくない?今じゃみんなこれ使ってポイント荒稼ぎしてるよ。」

 

脈あり。こんなにトントン拍子で進むとは思わなかったがあちらから来てくれるならありがたい。

しかしこんなに人が多いGBNでフロントでも大っぴらに取引を持ちかけてくるとは。

ブレイクデカールも相当普及しているという事なんだろうか。

 

「是非欲しいね!いっぺん使ってみたかったんだよねブレイクデカール!!」

 

こちらも相手が食いつくように大げさに興味を示してみせる。

 

「おっと、でもタダじゃあ渡せないな。こいつにも元手がかかってるんだ。」

 

「なんだよ稼ぎをサポートしてくれるんじゃないの?」

 

「先行投資って奴さ。こいつを一度手に入れれば後は稼ぎ放題だぜ?

 そのためにちょっとコイン払うくらい安いもんだろ?」

 

「ちなみにいくらで譲ってくれるのさ。」

 

「10万ポイント。これでも相場よりは随分お得なんだぜ?」

 

「あー、ちょっと手持ち足りないな。今日稼いで払うからさ。フレンドリスト登録してくれない?頼むよ。」

 

10万ポイントは確かに手頃な値段だ。初心者だってちょっと頑張れば何とか稼げる額ではある。

実は手持ちには80万ポイント程あるのだが、せっかく寄ってきた魚だ。このまま終わらせるのはもったいない。

上手くすればもっとブレイクデカールの情報が得られるかも。どこまで引き出せるかわからないが逃がす手は無い。

 

「なんだよシケてんなー。手持ちいくらあんの?ちょっとくらいまけてあげてもいいよ。」

 

流石にそう上手くはいかないか。しょうがない、とりあえず現物だけでも確認しておこう。

 

「そこまでよっ!」

 

そんな事を考えていると突然大きな声が響き渡った。声の先にいたのは麗しきお姉さん。

…ではなくガタイのいい屈強なお兄さんだった。

 

「チッ!せっかくいい所だったのによ!」

 

「コラッ待ちなさい!あぁんもう!」

 

子供のアバターが即座にログアウトして目の前から消え失せた。慣れているのか決断が速い。

 

「あっらーもうアナタ大丈夫?ヘンな事されてなぁい?」

 

お兄さんが内股でこちらに走り寄り体を触り始める。

 

「あーハイ大丈夫です大丈夫。本当に大丈夫ですから。しかし何なんです?」

 

丁重にお触りをお引き取り願うと相手の公開パーソナルデータを確認する。

フォースアダムの林檎所属のスミカとあった。

 

アダムの林檎はGBNの中にある集団、通称フォースの中でもかなり有名なフォースだ。

バトルランキングでも上位のフォースだが、有名な理由はそこではない。

その名を一躍広めている理由、それは構成員がみんなそっち系の人で固められている事である。

そういえば初心者のサポートと治安の改善も兼ねてフォース全体でGBNフロントの自警団的な事もやっていたのを思い出した。

 

「アナタと話してたダイバーね、ここいらじゃ有名な詐欺の常習犯なのよぉ。

 あんまりゲームに詳しくないダイバーにあの手この手で吹っかけて小銭巻き上げてるのよねぇ。

 お兄さん何か変な話持ちかけられられなかった?」

 

「ブレイクデカール買わないかって言われましたよ。10万ポイントで。」

 

「あらヤダッ!ヤダわもー!それがまさに常套手段なのよぉ!

 違法性のあるブレイクデカールをちらつかせてポイントをだまし取ってそのままトンズラするのっ!

 被害者は規約違反のものを買ってるわけだから誰にも相談できず泣き寝入りするって寸法なのよぉ!

 もしかしてお金払っちゃった!?払っちゃったの!?」

 

「大丈夫ですよ。払う前にえーと…スミカさんが来てくれたので。」

 

「あらそう、なら良かったわぁ。間一髪だったわねぇ。でもまさかお兄さんブレイクデカール欲しいの?」

 

「いやー、どんなものか興味はありますよね。誰でも簡単に強くなるってどうゆう仕組みなんでしょう?」

 

軽く返してやるとスミカさんの顔がみるみる悲しそうになる。

 

「バカッ!ブレイクデカールになんか手を出しちゃダメよっ!

 私の知り合いにもそういう子がいたわ。あんまりバトルが強くないからってデカールに手を出して…。

 結局それがフレンド達にバレて…チーターと一緒に思われたくないってみんなその子から離れていったわ。

 いーい!?安易な気持ちでクスリに手を出すのは一瞬でも後悔は一生なのよ!

 零れ落ちたものはその手に戻ってくる事はないのよぉ!!」

 

「いやクスリて。というかブレイクデカールってそんな広まってるんですか?ここらでも頻繁に取引が?」

 

「いーえ。ここいらで取引されてるってのは聞いた事ないわね。私達も頻繁に見回りしてるけど見た事ないわ。」

 

あいつ本当にただの詐欺か。まあそんな美味い話もないか。

 

「でもブレイクデカール使用者が増えているのは本当よ、悲しいことにね。

 私達もデカール撲滅のために動いてるの。お兄さんももし情報あったら教えてちょうだいね?

 手に入れても使おうなんか思っちゃダメよ!機体がおかしくなるバグもあるなんていうし…。」

 

「わかりました。何かあれば連絡しますよ。」

 

情報が欲しいのはこっちの方なんだけど、と思いつとりあえず話を合わせる。

 

「ところでアナタ初心者なの?何か私に手伝えることあるかしら?」

 

「いえ、最近ログインしてなかっただけで経験者です。久しぶりに復帰したんですよ。」

 

「そうなの。それなら大丈夫ね。これからどこへ?」

 

「とりあえずフランチェスカフィールドへ行こうと思ってます。」

 

「フランチェスカフィールド!あそこはいい所よね~。皆で遊びに行くのはいい所じゃない。

 でも今はちょっとやめておいた方がいいかも。」

 

「何か問題でも?」

 

「最近まさにブレイクデカール使用者がポイント稼ぎにあそこを荒らしてるって話があってね。

 フランチェスカに行く人はそんなにバトル重視じゃないからまぁ小遣い稼ぎくらいの感覚なんでしょうけど嫌ぁねぇ。

 相手を騙して軽くバトルしようって言いながら始まった途端デカール使ってボコボコにするんですって。」

 

「へぇ…。そんなこすい連中もいるんですね。」

 

「止めはしないけどバトル持ちかけられたら注意してね。それと最近ちょっとフランチェスカフィールドの動作が不安定だって話もあるから。」

 

「ありがとうございます。危なくなったら即逃げしてきますよ。」

 

スミカと別れ、ハンガーで機体のチェックを行う。燃料の補給を待ちながらさっきの話を思案していた。

入ってすぐブレイクデカール絡みの話が2件。想像以上に普及は進んでいるようだ。案外現物の入手も簡単かもしれない。

燃料の補給終了のアラートが鳴った。

 

「とりあえず行ってみようかね。」

 

久しぶりの愛機の乗り心地を楽しみながら発進シークエンスを進めていく。

 

「ジェノアスクラッカー、GO!」

 

一面の青空へ向かってジェノアスが飛び立つ。機体が陽光を反射し気持ちよさそうに手足を伸ばす。

ふと依頼を忘れ、この世界を満喫する自分に気づいてピックラックは微笑んだ。

そしてそのまま機体を加速させると、挙動のチェックをし急降下からのバレルロール。

彼は童心に返ったように愛機の操縦を楽しんだ。

 

フランチェスカフィールドでピックラックを待つのは吉か凶か。その答えはもう目前に迫ってきていた。

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