ブレイククラッカーズ   作:silofuku

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クラッカー・リダイブ - 03

フランチェスカフィールドはポケットの中の戦争に登場した観光地のコロニーを模したフィールドである。

劇中ではその様子が描写される事はなく、初めて訪れた者はその景観に驚くものも少なくない。

見渡せば寛ぎながら浜辺を歩いたりビーチバレーや海水浴を楽しむアバター達。

ブレイクデカールとは無縁とも思える雰囲気にピックラックは拍子抜けした。

 

「平和そのものって感じだけどねぇ…。」

 

照りつける日差しに寄せて返す波の音、フィールドに体を委ねれば、力も抜けて自分のやる気も波に流されていくようだ。

 

「…とりあえず聞き込みでもしてみるかな。」

 

まずはアバター用のアロハシャツとサングラスを購入し、場所に合わせた身支度を整え情報収集を開始する。

 

 

「えー、私達観光に来ただけだからわかんない。ねー。」

 

「ねー。」

 

「今日はここでフォース対抗イベントあるから来たんだよ。あんたもそうじゃないの?」

 

「ここはいつも誰かがビーチバレーしてるから水着のアバターのスクショ取り放題なんだよ!!」

 

 

「…ダメだなこれ。」

 

ピックラックは顔をしかめると頭を掻き毟った。

 

ここいらを通るのは殆ど観光目的の旅行者でブレイクデカールの事情に詳しそうな奴がいない。

近況を知るんだったらこのフィールドをホームにして活動してる奴を探さないと話にならない。

 

ユーザーメニューからフランチェスカに拠点を構えるフォースを検索する。

フォースネストと呼ばれるフォース用の建築物まで所有してる大規模なフォースなら何らかの情報を持っているだろう。

 

検索の結果ヒットした一番規模の大きなフォースは「サンセットビーチ」。

フランチェスカの中で活動するフォースのまとめ役もやっていてユーザーイベントの主催や後援もしているようだ。

メールを送って聞くような話でもないし直接コンタクトを取った方がいいだろう。ネストに行って適当なメンバーを捕まえるとしよう。

 

サンセットビーチのフォースネストは崖の上建てられたまさに避暑地のコテージといった装いである。

その崖の下はちょっとしたプライベートビーチになっていた。

フランチェスカフィールドに拠を置くフォースらしい佇まいだ。

大規模なフォースだしネストに常時数人はたむろしているだろうとタカをくくっていたのが、見る限り誰の姿もない。

 

「おかしいな。流石に誰もってのはな…。」

 

あまり近づいて目立ちたくは無かったが意を決してネストの入口へと向かう。

 

「すいませーん、誰かいらっしゃいませんかー?」

 

チャイムを押すと音声メッセージが流れた。

 

「こちらサンセットビーチです。本日はフォース対抗イベント参加のためにメンバーは全員浜辺の会場へ集合となっております。

 御用の方はお手数ですが日を改めるか、メール等で連絡をお願いいたします。急ぎでしたら会場までお願いします。

 あ、これ聞いてるメンバー!ログインしてるならサボらず参加よろしくー!」

 

そういえばさっきイベントやってるなんて話聞いたな。接触するかどうかはともかく顔出してみるか。

時間を確認すると開催までまだ一時間程時間がある。何はともあれ会場へ向かうことにした。

 

 

 

会場の浜辺ではイベントに参加するらしいアバターが受付に列を成している。

 

「フォース対抗MSビーチバレー当日受付はこちらになりまーす!

 間もなく受付を終了しますので参加希望の方は最後尾のスタッフに声をかけてくださーい!」

 

列を誘導しているアバターや受付アバターの頭上にはスタッフアイコンが点滅している。

彼らがサンセットビーチメンバーで間違いないだろう。が、皆てんてこまいでどうにもイベント外の話を聞ける雰囲気ではない。

この様子だとイベントが終わってもそんなに話を聞ける感じでもないだろう。

 

「どうしたもんかね…。」

 

周りを見回すと受付の横にもう一つテントがあるのに気づいた。テントには「当日ボランティアスタッフ受付」とある。

 

「…これしかないかなぁ。」

 

────────────────────────────

 

 

「はい、じゃあ今日一緒にイベントを手伝ってくれるスタッフさんです!自己紹介お願いしまーす!!」

 

「こんにちわ!ピックラックといいまーす!前々からフランチェスカでやってるイベントに興味があって~、

 自分も一回イベント準備する側になってみたいなぁ~って思ってスタッフやらせてもらう事になりました!よろしくお願いしまーす!」

 

んなワケないだろ。という心の声を押し殺し、場の雰囲気に合わせたキャラで周りに溶け込もうとする。

暖かい拍手と「よろしくー。」「楽しくやろうぜ!」といった激励をくれるスタッフのやる気に圧倒される。熱い人達だ。

ここまで来たらもう勢いで乗り切るしかないだろう。乗り切るしかないんだろうな。まあこれはこれでもう割り切って楽しもう。うん。

 

「じゃあピックラックさんは会場警備お願いしたいんですけどいいですか?

 妨害目的のユーザーとか見かけたら本部に連絡くれるだけでいいんでスタッフアイコンつけて会場の見回りお願いしますー。

 スタッフアイコンつけると他にも迷子やフリマ探す人に色々聞かれると思いますけど、

 細かい対応こっちでしますんで基本全部グループチャットで連絡してくれればいーですよー。」

 

「わかりましたー。あ、そういえば要注意人物とかいます?常習犯的な。」

 

「いるいる。いつも邪魔する暇な連中とかいるから困っちゃうよねー。ブラックリストと会場の地図データそっちに送るから確認しといてねー。」

 

切り込むタイミングは今しかないな。そう思い核心に触れてみることにした。

 

「そういえば聞きましたよ。ここらへんで最近ブレイクデカール被害結構出てるって。どうなんです?」

 

「あー、知ってるんだ。そうなんだよね。ウチらは被害受けたのいないんだけどイベントに来たユーザーとか結構やられてて困ってるんだよ。

 ウチのフォースの本拠地でそういう事されるとさー。」

 

「おっかないですねー。外から来た人だけ狙うってどんなやり口なんです?自分も狙われるのアレだし聞きたいですよー。」

 

「それがねー…」

 

 

────────────────────────────────

 

 

 

会場の砂浜とその周辺はイベント参加者だけでなく見物客も含めてアバターでごった返していた。

砂浜から見える沖の小島ではMS達がビーチバレーで熱戦を繰り広げている。

どんな攻撃にもダメージを受けない頑丈なボールを用いて繰り広げられる手も、足も、武装も解禁されたビーチバレー。

選手への攻撃は反則負けだが、ボールに対して全ての火器の使用が認められるなんでもありのバトルに会場は熱狂していた。

 

ウィングガンダムがバスターライフルで空高く打ち上げたボールを真流星胡蝶剣で相手コートへ叩き付けるドラゴンガンダム。

アシュタロンハーミットクラブがハサミでうまくそれをいなすとガンダムグシオンがハンマーでホームランをかます。

 

実にいいバレー…バレー?の試合が繰り広げられていた。

 

自コートへ飛んできたボールにウィングがマシンキャノンを当て速度を削ぐと空へ飛び上がりビームサーベルで相手コートへ叩き返す構えを取った。

が、そんなウィングにボールは逆に頭上の180mmキャノン砲を叩き付け大地へと突き落す。

 

会場が大きな歓声に包まれた。

そう、ボールはボールでもこの競技に使われるボールはMSのボールである。

自分から移動はしないが選手を攻撃するように設定されており、時折発生するアクシデントによる珍プレー好プレーがこのイベントの大きな目玉であった。

プレー再開時にボールはリセットされ、時折ハロやオッゴやサイコロガンダムなども登場している。その度に会場からは笑いが起こっていた。

 

「見応えあるなぁ。」

 

会場を練り歩き客に対応しつつもやはり試合の方に目が行ってしまう。

 

普段見れないMSバトルに自分もそんな気は無くてもついつい楽しくなってきた。こりゃ飲み物とツマミが欲しくなるな。

だがもちろんただ普通に会場警備をしているわけではない。試合を見ながらも目線は時々観客の方へと向けていた。

探しているのは怪しい奴ら。特に試合でなく観客を物色しているような連中だ。

 

「すいませーん、フリーマーケット会場探してるんですけど。」

 

「あっ、はいちょっとお待ちください。…こちらB2地区ピックラック。フリマのお客様5名誘導願いまーす。」

 

「はいこちらC1フリマのシャールです。ピックラックさんの所に飛んでお客様送迎しまーす。」

 

もちろん人探しだけしているわけでもなく、こんな感じでスタッフとしての仕事もちゃんとこなしている。

スタッフはグループを組んでいてお互いの位置を確認できるようになっていた。

グループ機能は便利なもので他にもメンバーの所に一瞬でテレポートしたりメンバー内だけに見たり聞いたりできるチャットが使える。

 

話が逸れた。探している奴らとははもちろんブレイクデカール使用容疑者だ。

先程スタッフに聞いたブレイクデカール絡みの話を纏めると以下のようになる。

 

 

・フランチェスカに詳しくない観光客を狙ってバトルを仕掛けてポイントを稼ぐ二人組がいる。

・最初はただのフリーバトルを仕掛けた後にポイントの賭けたバトルを提案してくる。

・勝てそうになると相手の機体の動きが急に変わって強くなる。

・少額のポイントを賭けてバトルをしたはずなのに、バトルが終わると大量のポイントが減っている。

・ログを調べても最初から大量のポイントをかけた事になっている。

・相手に問いただしてもいちゃもんをつけるなと突っぱねられ逆に運営に通報されたりする。

・運営の調査でも相手からは不正をしたという証拠は見つからないらしい。

・最近三人組になったという噂がある。

 

 

観光客を狙うのは顔の割れていない相手をカモにするためだろう。それとフランチェスカをホームにする連中に隠れてバトルするため。

情報を調べているユーザーならともかく、遊びにここに来た一見ならそんな詐欺をしているなんて知らないから簡単に引っかかる。

機体の強さが変動するのは演技でなければ恐らくそれがブレイクデカール。ポイントの変動や不正が見つからないのもそうだろう。

相手のネームとID自体は情報を調べて割れたが、真正面から問い正した所で煙にまかれるだけだ。

真偽を確かめるなら自分で直接確認するしかない。

 

容疑者のユーザーネームはアントンにカイレー。アバター自体は変更可能だから見た目の情報はアテにならない。実際に姿は変えているようだ。

ネームも変更可能だが変更制限があるし、それで制限を無視して頻繁に変えたりしていたら自分が不正者だと運営にバラしてるようなものだ。

直近の二か月で変更した形跡はなく、よっぽどの事が無ければネーム変更は無いと見ていい。

使用ガンプラはアントンがイフリート、カイレーがガブスレイ。

そして情報の少ない三人目。名前とIDは分からないが最近見かけられるようになり度々ジェムズガンでバトルに乱入する事があるらしい。

 

目の前に外部デバイスの画面を表示させる。画面には「NO HIT」の表示。

サーチボタンを押すとピコーンという電子音の後、画面が更新された。表示は変わらず「NO HIT」。

これは自作のプログラムでソナーアプリだ。周囲の一定範囲のユーザーのIDを検索し、設定したIDを発見すると反応する仕組みだ。

5分間隔で自動更新するように設定しているが、今の所ソナーに目標の反応は無い。

 

ちなみにGBNにおいてユーザーインターフェイスのカスタムは一部認められているが、外部デバイスやツールの仕様は原則禁止である。

このソナーアプリもバレればもちろん運営から何かしらの措置が取られるだろう。

 

と、スタッフ用グループチャットに通信が入った。

 

「こちらA3地区バジェッフ。ブラックリストユーザーを発見するも見失った。警戒されたし。

 繰り返すこちらA3地区バジェッフ。ブラックリストユーザーを発見。ユーザーネームはアントンにカイレー。

 見た目はヒューマン男、特徴は───」

 

ビンゴ。最初はどうなるかと思ったが人探しは人海戦術がやはり強い。

頭上の目立つスタッフアイコンを消すとアバターの見た目をワーウルフに変更した。

現在グループ状態のスタッフの位置をMAPで確認し、A3地区スタッフの位置へ自分をグループ機能で転送。

すかさず人ごみに紛れスタッフから隠れるとソナーアプリを起動させた。

ピコーン…。電子音の後に画面に表示されたのは「FISH」。当たりだ。

連動してMAPに対象IDの位置が表示される。

 

「間に合えよ…!」

 

ソナー画面を更新しつつ相手が範囲から離脱する前に距離を詰める。いた!

目視でユーザーネームを確認するとGBN内の缶ジュースアイテムを装備して素知らぬ顔で相手にぶつかった。

 

「おっと、何だ?」

 

「あっ、すいませんぶつかっちゃいました。」

 

ぶつかった方がガタイのいい方…アントンだな。

 

「気を付けなよー。会場混んでるからね。」

 

こっちのちょっと細身の男の方はカイレー。情報通りだ、間違いない。

 

「本当すいませんね。お詫びと言っちゃなんですけどこのジュースどうぞ。さっき大量に買ったんで。」

 

「そんな気にしなくていいよ。」

 

「いやぁこれも何かの縁ですから。」

 

半ば強引にジュースを押し付けると二人と別れた。

ログでアイテム取引の成立を確認する。今後ジュースをどう扱うにしても二人は一度あのアイテムを所持したことになる。

 

アバターを元に戻すと自分の警備担当B2地区へと転送で戻り、素知らぬ顔でスタッフアイコンを再点灯する。

この間10分弱だろうか。特にグループで異常だと感付いたスタッフもいなかったようで、確認や連絡の催促も無いようでほっと胸をなで下ろす。

外部デバイス画面を開いて別のアプリを確認する。2つのユーザーIDと現在の位置、ログイン状態が表示された。

 

あのジュースはビーコンだ。実はアイテムにはステルスプログラムが仕込んである。

ユーザーが受け取るとアイテムから切り離されそのユーザーIDの情報を収集し、確認できるようになるプログラムだ。

深い情報まで確認できるようになると運営に見つかる確率が高くなるが、

位置情報とログイン情報を見るくらいならユーザー権限で使用できるグループやフォースシステムの応用だ。

よっぽどの異常が無いと運営が捜査に乗り出す事はしないだろう。

 

「ゲームセット!」

 

会場から歓声が上がった。どうやらビーチバレーの試合は勝負がついたようだ。

デバイス画面を閉じ誰へともなく呟く。

 

 

 

「いいや、ゲームスタートさ。ここからな。」

 

 

 

 

 

 




全部遊びだよ。人生は暇つぶし。
でもね、一番面白いのもその遊びなんだよね。
だから全力で馬鹿をやるのさ。みんなそうだろ?

次回 ブレイククラッカーズ #02 

ファイターズ・ウォークライ

何だって楽しんだもん勝ちさ。
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